契約書に写真のSNS掲載の同意欄を入れると、仮の式場では1年分の投稿素材が揃う。外注すると年173万円で、同意欄が成約を年1.2組より多く奪わなければ得になる
式場のInstagramを動かすには、毎週のように新しい写真が要ります。ところが、その写真を二人にお願いするタイミングを、決めている式場は意外と少ないです。挙式が終わって、お見送りをして、写真が仕上がるころに「SNSに載せてもいいですか」と聞く。このやり方だと、聞く側も聞かれる側も、そのときが一番気まずいです。
結論から書きます。仮に、年120組の式場が月12本の投稿をするなら、年に576枚の写真が要ります。契約時の同意欄で8割の許諾を取れば、年96組、960枚の候補が手に入ります。挙式後のお願いで3割しか取れなければ、年36組、360枚で足りません。足りない分を撮影の外注で埋めると年173万円で、粗利140万円の式場なら、同意欄が成約を年1.2組より多く減らさない限り、契約時に取るほうが得です。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。投稿の本数も許諾の割合も、式場ごとにまったく違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、自分の式場の数字に替えれば答えが出る形で書きます。
前提を先に置きます
すべて仮置きで、実在の式場の実績ではありません。
- 年間の挙式は120組、来館は年400組、1組あたりの粗利は140万円(このメディアの計算で使ってきた置き方に揃えています)
- Instagramの投稿は月12本(週3本)、1投稿あたり写真4枚。年の必要枚数は12本×4枚×12か月で576枚
- 1組から使える写真は、同意があれば10枚
- 撮影を外注する場合は、1枚あたり3,000円
月12本という量は、運用の考え方で大きく変わります。週1本なら必要枚数は4分の1以下です。ここを自分の式場の数字に替えるのが、最初の作業になります。
必要な素材は、年576枚になる
計算は単純です。
- 週3本なら、年156本前後。月12本で数えると年144本
- 1投稿4枚なら、年576枚
- 1組から10枚使えるなら、576枚を賄うのに57.6組
つまり、年120組の式場が、半分弱の組から毎年違う写真を出せれば、素材は回ります。逆にいえば、許諾を取れる組が年58組を下回ると、同じ組の写真を使い回すか、外から素材を調達することになります。
ここで言う素材は、二人の顔が写った写真だけを指していません。後ろ姿、手元、装花、料理、会場の空間も入ります。顔が写る写真に限ると、使える枚数は10枚から減るので、あとで分けて計算します。
契約時に取る場合と、挙式後に頼む場合
許諾を取る時期は、大きく2つあります。
- 契約時:契約書や申込書に、写真の掲載についての同意欄を入れる。二人が会場を選んだ直後で、関係がいちばん温かい時期に聞く
- 挙式後:写真が仕上がった時点で、個別にお願いする。担当が連絡し、一組ずつ返事をもらう
許諾の割合は、僕の手元に統計がありません。仮に、契約時の同意欄で8割、挙式後のお願いで3割とします。8割は、「顔は出さない」などの選択肢を用意して、拒否しにくい聞き方を想定した置き方です。3割は、挙式後に連絡して返事がある割合を、かなり低めに見た置き方です。
- 契約時に8割なら、年96組、写真候補は960枚
- 挙式後に3割なら、年36組、写真候補は360枚
必要な576枚に対して、契約時は960枚あるので余裕が出ます。挙式後は360枚で、216枚足りません。足りない分は、年間の投稿の3分の1強に当たります。
足りない素材を外注で埋めると、年173万円になる
挙式後のお願いで足りない216枚を外注すると、1枚3,000円で64.8万円です。ただ、現実には、素材が足りないことが分かるのは月が進んでからで、外注の撮影は手配に手間も時間もかかります。ここでは、より単純に考えます。
もし許諾がまったく取れず、576枚をすべて外注するなら、576枚×3,000円で172.8万円です。この「全部を外注するとこの金額」が、素材の価値の上限の目安になります。
- 契約時の同意欄で8割:外注は不要。素材の価値は約173万円ぶん
- 挙式後のお願いで3割:外注は216枚ぶん、約65万円。素材の価値は約108万円ぶん
外注の写真は、実際の挙式の写真と同じ質のものではありません。モデルを使った撮影なら、きれいな写真にはなるけれど、「この会場でこういう結婚式ができる」という説得力は弱い。この差は金額にしていません。ただ、僕は、実際の二人の写真のほうが、見る側の二人には効くと考えています。
同意欄が成約を奪うなら、いくつまで許せるか
同意欄を契約書に入れる側の不安は、はっきりしています。契約書に項目が増えると、二人が構えて、決断が遅れたり、やめたりするのではないか。
この不安は、損益分岐で数えられます。素材の価値が約173万円で、粗利が140万円なら、同意欄がきっかけで契約をやめる二人が年1.2組いたら、価値は消えます。173万円÷140万円で1.23組です。
来館が年400組なら、これは成約率で0.31ポイントです。
- 同意欄が成約を年1組減らす:140万円の損。素材の価値173万円のほうが大きい
- 年2組減らす:280万円の損。素材の価値を上回る
- 年3組減らす:420万円の損
ここで思い出したいのは、同意欄は必須項目にしないことです。必須にすれば、拒否した二人の契約に影響します。任意の選択式にして、「掲載しない」を選んでも契約に何も影響しないと書いておけば、同意欄で契約をやめる二人はほぼ出ないはずです。ほぼ、です。ここは、実際に導入して数えてみるまで分かりません。
3段階の選択肢を付けたときの素材
「載せていい」か「載せない」かの二択にするより、3段階にすると取りやすいと僕は考えています。
- 顔が分かる形で掲載してよい
- 顔が分からない形(後ろ姿、手元、遠景)なら掲載してよい
- 掲載しない
仮に、120組の内訳が、顔ありが5割(60組)、顔なしが3割(36組)、なしが2割(24組)としたとします。顔が分かる写真を使える組は60組で、顔なしを含めると96組です。さきほどの8割と同じ数字になります。
3段階にすると、顔ありの組が減る分、使える写真の種類は変わります。ただ、顔なしの写真はInstagramで案外よく使われます。後ろ姿の入場シーン、指輪の手元、バージンロードの遠景は、顔が写らなくても雰囲気が伝わります。顔なしの36組の写真を1組4枚として144枚、顔ありの60組を1組10枚として600枚、合わせて744枚。必要な576枚を上回ります。
写り込む人の同意は、二人の同意とは別の話
ここは、費用の話よりも先に決めておくべき点です。
二人が同意しても、写真にはゲストが写ります。親族、友人、子どもです。ゲストの顔が分かる写真を載せる場合、二人の同意だけでは足りない、という考え方があります。法的にどう扱うかは、僕が断定できる範囲を超えています。式場の顧問の弁護士や、運営会社の担当に、文面を確認してもらってください。
実務で守りやすい運用は、次のような線の引き方です。
- ゲストの顔が大きく分かる写真は、投稿に使わない(二人と親族の集合写真も、親族の同意が取れていなければ避ける)
- 子どもの顔が写る写真は、原則として使わない
- 二人が同意した内容と、載せた写真が対応するよう、同意の記録を担当と紐づけておく
- 載せたあとに削除の依頼が来たら、即座に取り下げる手順を決めておく
撤回の割合も数えておきます。仮に、同意した96組のうち2%が、あとから撤回を依頼するとします。年に約2組です。2組のために、投稿から取り下げる手順を決めておくのは手間ですが、決めておかなければ、そのときの担当者の判断で対応がばらつきます。
写真を使ってよい期間も、同意欄に書く
同意欄に書く内容は、「載せていいか」だけではありません。
- 掲載する場所:Instagramだけか、公式サイトや広告、パンフレットまで使うか
- 掲載する期間:期限なしか、3年か
- 撤回の方法:誰に、どの方法で伝えれば取り下げるか
- 二次利用:提携先の媒体や、外部の制作会社に渡すことがあるか
掲載場所を広げるほど、素材の使い道は増えますが、同意の割合は下がる可能性があります。場所を絞ってInstagramだけにすれば、取りやすくなる一方で、広告や公式サイトで使えません。最初はInstagramと公式サイトに絞るのが、僕は取りやすいと思います。
判断の分かれ目を、4つに絞る
会議で使える形に絞ります。
- 年の必要枚数を出す:月の投稿数×1投稿の枚数×12。この記事の仮置きなら576枚
- 1組から使える枚数で割る:必要な組数が出る。576枚÷10枚で、57.6組
- 許諾の割合で、年間に取れる組数を出す:契約時8割なら96組、挙式後3割なら36組。必要な組数を下回るなら、素材が足りない
- 足りない素材を外注したときの費用と、同意欄が奪う成約の損を比べる:外注の173万円は、成約年1.2組ぶんの粗利に等しい
3の組数が足りて、同意欄が成約を奪う心配が小さいなら、契約時の同意欄を入れる価値があります。足りないなら、まず挙式後のお願いの文面と連絡のタイミングを見直し、そのうえで、素材の足りない分をどう埋めるかを決めます。
まとめ
- 月12投稿、1投稿4枚なら、年576枚の写真が要る。1組から10枚使えるなら、年58組弱の許諾が要る
- 仮に、契約時の同意欄で8割(年96組)、挙式後のお願いで3割(年36組)とすると、前者は素材が余り、後者は足りない
- 素材をすべて外注すると、1枚3,000円で年173万円。粗利140万円なら、同意欄が成約を年1.2組(成約率で0.31ポイント)以上減らさなければ得になる
- 同意欄は任意の選択式にして、「掲載しない」を選んでも契約に影響しないと書く
- 3段階(顔あり・顔なし・掲載しない)にすると、顔なしの写真でも素材が足りる
- ゲストが写り込む写真は、二人の同意とは別の問題。法的な扱いは弁護士に確認し、顔が大きく写るゲストや子どもの写真は使わない運用が守りやすい
- この記事の数字は、すべて仮置きの前提による計算で、実在の式場の実績ではない
