Instagram運用の人件費は、週5投稿で年174万円になる。粗利140万円の式場なら、追加で1.3組の成約が要る。ただし「どうせ来た人」が半分なら2.5組だ
式場のInstagram運用は、お金が出ていく感じがしません。広告のように請求書が来ないからです。担当者が撮って、編集して、投稿する。その時間は、給料の中に溶けていて、どこにも「SNS費」として載りません。
でも時間は、お金です。週5回の投稿を続けている式場なら、年間でおよそ170万円の人件費がかかっている計算になります。これは僕が置いた仮の前提での計算で、実際の式場の数字ではありません。ただ、前提を自分の式場の数字に入れ替えれば、そのまま使えます。
この記事は、SNS運用は効く、効かない、という話ではありません。運用にかかっている人件費を、成約に割り戻したら何組分になるのか。その組数を知っていると、続けるか、頻度を落とすか、やり方を変えるかを、気分ではなく数字で決められます。先に結論を書くと、損益分岐は思ったより低いです。ただし、その成約が「SNSのおかげ」と言えるかどうかが、もっと大きな問題になります。
運用の人件費を数える
仮の式場を置きます。ここで使う数字はすべて前提で、調査の数字ではありません。
- 週5回、Instagramに投稿する(フィード、リール、ストーリーズを合わせて週5本の「制作物」と数える)
- 1本の制作に、企画・撮影・編集・投稿・コメント返信まで合わせて2.5時間かかる
- 担当者の人件費は、給与・社会保険・間接費を含めて時給2,500円とみなす
- 編集アプリや撮影の小物などで、月1万円の経費がかかる
計算は単純です。週5本×2.5時間で、週12.5時間。1か月は約4.33週なので、月に約54時間です。これに時給2,500円をかけると月13.5万円、経費の1万円を足して月14.5万円。1年で約174万円になります。
時給2,500円は、月給25万円前後の担当者を想定した、かなり控えめな置き方です。社会保険や設備費、管理職の手間まで含めると、もっと高くなる式場が多いはずです。自社の数字を入れるときは、給与明細の額面ではなく、会社がその人に払っている総額を、働いている時間で割ってください。
投稿頻度と1本の工数を動かすと、年間の人件費は次のようになります(時給2,500円、経費月1万円)。
| 週の投稿 | 1本1.5時間 | 1本2.5時間 | 1本3.5時間 |
|---|---|---|---|
| 週3本 | 約70万円 | 約110万円 | 約148万円 |
| 週5本 | 約110万円 | 約174万円 | 約240万円 |
| 週7本 | 約148万円 | 約240万円 | 約330万円 |
同じ「毎日投稿」でも、1本に1.5時間で回している式場と、3.5時間かけている式場とでは、年間の費用が2倍以上違います。頻度は目に見えますが、1本あたりの工数は外から見えません。ここが、運用費の見積もりを狂わせる一番の場所です。
時給も同じように効きます。週5本・2.5時間のまま、時給を2,000円にすると年約142万円、3,500円にすると年約240万円です。費用の見え方は、担当者をどう見積もるかでかなり動きます。
成約に割り戻す
費用が出たら、次は「何組取れれば元が取れるか」です。1組あたりの粗利を置きます。
総額350万円の式場で、粗利率を40%とすると、1組の粗利は140万円です。この粗利率も前提です。式場の原価構成(料理、衣装、装花、人件費の配分)によって大きく変わるので、自社の数字に差し替えてください。
損益分岐は、費用÷粗利で出ます。
- 年110万円の運用 → 0.79組
- 年174万円の運用 → 1.24組
- 年240万円の運用 → 1.71組
週5本・2.5時間の運用なら、SNSをやったことで増えた成約が、年に1.24組あれば、人件費は取り返せます。年120組を扱う式場で、1組ちょっとです。この数字だけを見ると、SNS運用は「安い」と感じる人が多いと思います。
粗利を変えるとどうなるかも見ておきます。年174万円の運用で、1組の粗利が100万円なら1.74組、140万円なら1.24組、180万円なら0.97組です。粗利が低い式場ほど、同じ運用でも必要な組数が増えます。
来館に直すと、もう少し実感が湧きます。来館から成約までの率を30%と置くと、1.24組を取るには約4.1組の追加来館が必要です。月に直すと、毎月0.35組。つまり、「SNSを見たから来館した」という二人が、3か月に1組ずつ増えれば、元は取れる計算です。
この数字の読み方で気をつけたいのは、「追加の」成約という言葉です。SNSをやらなくても来ていた人は、数えてはいけません。次の章で、そこを見ます。
「どうせ来た人」を引く
SNSからの成約を数えるとき、たいてい行われるのは、アンケートの「どこで知りましたか」に「Instagram」と答えた人の数を数えることです。もしくは、予約フォームの流入元がInstagramになっている人を数えます。
ここに入っているのは、全員が「SNSがあったから来た人」ではありません。たとえば、ポータルサイトで見つけて、検討中に公式アカウントを覗いて、来館の前に「Instagramも見ました」と答えた二人もいます。SNSがなくても、その式場には来ていたかもしれません。
この割合を、仮に「どうせ来た人」の割合と呼びます。これは調査で確かめた数字ではなく、考え方のための変数です。この割合をp、費用の分岐点となる組数をNとすると、アンケートなどで「SNS経由」と見えている成約が何組必要かは、N÷(1−p)になります。N=1.24組のとき、
| 「どうせ来た人」の割合 | 見えている成約が必要な組数 | 来館に直すと(成約率30%) |
|---|---|---|
| 0% | 1.2組 | 4.1組 |
| 30% | 1.8組 | 5.9組 |
| 50% | 2.5組 | 8.3組 |
| 70% | 4.1組 | 13.8組 |
「どうせ来た人」が半分なら、年に2.5組、来館で8.3組が「SNS経由」と見えていないと、元は取れていません。7割がそうなら、4.1組が必要です。
逆から言うと、アンケートで「SNS経由」が年に3組出ている式場でも、その3組のうち半分がSNSなしでも来ていたのなら、追加で増えたのは1.5組です。損益分岐の1.24組は上回りますが、余裕はほとんどありません。もし7割が「どうせ来た人」なら、追加は0.9組で、損益分岐を下回ります。
では、この割合はどう見積もればいいのか。確かな方法はありません。ただ、考える材料は3つあります。
- 来館した二人が、SNSより先にポータルサイトや検索で式場を知っていたか。SNSは「知ったあと」に見る場所になっていることが多い
- 来館の予約を入れる前に、公式アカウントを見た割合。見る人が多くても、それが来館の理由とは限らない
- アカウントを一時止めたときに、来館や問い合わせが減ったか。ただし、止めた月の季節要因や広告の出し方で動くため、1回の比較では読めない
3つ目の「止める」は、いちばん強い確認方法ですが、リスクもあります。月30件規模の問い合わせだと、月ごとの揺れだけで2〜3割動くことがあり、止めた効果を読み取れません(この揺れの大きさは、別の記事の仮の式場で計算しています)。半年以上、同じ条件で止めたり戻したりして、ようやく見える差です。
工数は、ほかの仕事を押しのけている
もう1つ、人件費の計算で抜けやすいのが、その時間で本来できた仕事です。
週12.5時間は、1日あたり2.5時間です。1人で運用している式場なら、その時間は、フェアの準備、見学の後追い、リマインドの連絡、口コミへの返信と、取り合いになります。SNSの運用を担当している人が、成約に直結する仕事も担当しているなら、時間が足りなくなって、先に削られるのは、数字に出にくい仕事のほうです。
たとえば、月54時間は、1件の来館対応に1時間かけるとして、54件分の対応時間と同じです。仮に、この時間をフェア予約の前日リマインドや、見学後のフォローに回して、来館や成約が1組増えるなら、SNS運用の費用は、その「回さなかった分」も含めて評価する必要があります。
ここは、事実としての数字ではなく、考え方の話です。SNS運用の費用は、時給×時間だけではなく、「その人の時間に、ほかの使い道が何があるか」でも決まります。担当者の手が空いている式場と、手がいっぱいの式場では、同じ174万円でも、重さが違います。
頻度を落とすか、1本の工数を落とすか
損益分岐が高く感じたとき、手は2つあります。投稿の回数を減らす手と、1本あたりの工数を減らす手です。
週5本・2.5時間(年174万円)を基準にします。
- 週3本に減らす(1本は2.5時間のまま)→ 年110万円。損益分岐は0.79組。64万円浮く
- 1本を1.5時間に減らす(週5本のまま)→ 年110万円。損益分岐は0.79組。同じく64万円浮く
どちらも同じ64万円が浮きますが、中身は違います。頻度を落とすと、見てもらう機会が減ります。工数を落とすと、1本ごとの出来が落ちる可能性があります。
どちらが痛いかは、投稿の「当たり方」で決まります。もし、反応が出ているのが一部の型の投稿(たとえば、会場の見学動画や、実際の打ち合わせの様子)に偏っているなら、反応が出ない型をやめて、型を絞ります。この場合、頻度は落ちますが、成果はほとんど落ちません。逆に、どの投稿も同じくらいの反応なら、数を減らすことは、そのまま機会を減らすことになります。
ここで確かめたいのは、投稿ごとの反応の差です。保存数、プロフィールへの移動、リンクのクリック、DMなど、来館に近い行動の数が、投稿によってどのくらい違うか。差が大きいなら、型を絞ることで、年110万円の運用で、174万円と同じ成果が出る可能性があります。差が小さいなら、頻度を落とす判断は慎重にします。
続ける、落とす、止めるの分かれ目
ここまでの話を、判断の順番に並べ直します。
- 自社の運用費を出す。週の投稿数×1本の工数×時給に、経費を足す。自社の勤怠から出せるなら、仮の時給より実際の数字を使う
- 損益分岐の組数を出す。年間の運用費÷1組の粗利。これが、SNSで増やさなければならない成約の最低ライン
- 「どうせ来た人」を見積もる。ポータルや検索が先にあった二人の割合を、来館時のアンケートで確かめる。わからないなら、半分と置いて計算する
- 見えている成約と比べる。アンケートや流入元で「SNS経由」と答えた成約が、N÷(1−p)を超えているか
- 超えていれば、続ける。超えていなければ、頻度を落とすか、型を絞る。それでも届かないなら、止めるのではなく、運用の目的を成約から「指名検索を増やす」など別の指標に置き換えて、そちらで見る
5番目の「別の指標」は、慎重に扱います。成約で割り戻せないものを、都合よく別の数字で守り始めると、運用費がいつまでも説明できなくなるからです。別の指標を置くなら、その指標が動いたときに、成約や来館が何割動くのかを、先に仮置きしておきます。
逆の見方もある
ここまでは「費用を回収できるか」を見てきましたが、損益分岐の低さそのものが、別の意味を持つことにも触れておきます。
1.24組という数字は、小さいです。年120組の式場で、1%ちょっとです。だから、SNS運用をやめるというのは、1%ちょっとの成約を、あきらめるかどうかの判断でもあります。SNSの効果が小さいと感じても、損益分岐が低いので、「やめた方が得」とは簡単に言えません。
一方で、同じ174万円を、ほかの打ち手に使ったらどうか、という比較もできます。たとえば、同じ時間をフェアの前日リマインドに回す。同じ時間を口コミへの返信に回す。これらも、別の記事で、仮の式場で成約への効果を前提つきで計算しています。SNS運用の損益分岐は低くても、ほかの打ち手の損益分岐のほうが、もっと低いことがあります。
つまり、SNS運用の評価は、「元が取れるか」だけでは決まりません。「同じ時間を別に使ったら、もっと取れるか」でも決まります。2つの問いに答えるのに必要なのは、運用費と、成約への割り戻しだけです。自社の数字で、一度だけ計算しておけば、あとは数字が動いたときだけ見直せば足ります。
まとめ
- 週5投稿×1本2.5時間×時給2,500円で、年約174万円の人件費になる(すべて仮の前提)。頻度より、1本あたりの工数が見積もりを狂わせる
- 1組の粗利が140万円なら、損益分岐は年1.24組。来館に直すと、成約率30%で約4.1組。月0.35組にあたる
- アンケートの「SNS経由」には「どうせ来た人」が混ざる。割合が50%なら、見えている成約が2.5組、70%なら4.1組必要になる
- 運用の工数は、フェア準備やフォローなど、ほかの仕事と取り合いになる。手が空いていない式場ほど、同じ費用でも重い
- 費用を下げるなら、頻度を落とす手と、1本の工数を落とす手がある。投稿ごとの反応の差が大きければ、型を絞るのが先
- 判断の順番は、運用費→損益分岐の組数→「どうせ来た人」の見積もり→見えている成約との比較。成約で割り戻せない運用は、別の指標を置く前に、その指標が成約をどれだけ動かすかを仮置きする
