結婚式場の電話で総額を聞かれたら、帯で答えて上限を守る
電話に出て最初の一言が「結婚式の総額って、だいたいおいくらですか」だった。式場の受付をしていれば、一度や二度では済まない場面だと思います。
このとき返す言葉は、現場でだいたい三つに分かれます。「人数やお日にちで変わるので、一度お越しいただいて……」と答えを先送りする。聞かれた条件のいちばん安い金額を言う。三つ目は、少し幅を持たせた言い方をする。
結論から書きます。電話で総額を聞かれたら、条件を一つ添えた「帯」で答えます。そして、その帯の上限を、来館の日に出す見積もりが超えないようにします。答えないより答えたほうが来館につながりますが、答えた帯の上を行く見積もりを出すと、答えなかった場合より悪くなります。帯を言うことは、約束をすることだからです。
この記事の数字は、業界の平均ではなく、僕が置いた仮の数字です。月に価格を聞く電話が何本あるか、帯を聞いて離れる人がどのくらいか。ここは自分の会場の数字に置き換えて読んでください。出典のある統計は使っていません。仕組みとして、こうなる、という整理です。
電話で総額を聞く二人は、同じ人たちではない
最初に、「総額はいくらですか」という質問の中身を分けておきます。同じ言葉でも、聞いている目的が違います。
一つ目は、比べるために聞いている二人です。すでに何軒かの式場に同じ質問をしていて、返ってきた金額を表に書き込んでいます。この二人にとって、電話の答えは「候補に残すかどうか」を決める材料です。答えが返ってこなければ、その式場は表の空欄になります。空欄は、安いのか高いのか分からない状態ではなく、「聞いても教えてくれなかった式場」として並びます。
二つ目は、自分たちの予算に収まるかを知りたい二人です。上限が決まっていて、そこを超えそうなら見学にも行かない、と考えています。この二人には、帯の下側ではなく、上側の数字が効きます。
三つ目は、まだ何も決まっていなくて、相場の感覚をつかみたい二人です。「いくらくらいかかるものなのか」を聞いているだけで、その式場の金額を知りたいというより、結婚式の金額全体を知りたい。この二人は、人数や日取りの質問に答えられないことも多いです。
受付の側からは、この三つを声だけで見分けることができません。見分けがつかない質問に、一つの答え方で通すと、どれかの二人を取りこぼします。だからこそ、「帯」という答え方が使いやすくなります。
答えない、一つの金額を言う、帯で答える、を比べる
三つの答え方を、仮の数字で比べてみます。前提を置きます。
- 月に、価格を聞く電話が40本ある(仮)
- 答えない場合、そのうち30%が来館を予約する(仮)。つまり12組
- 来館した組の成約率は25%(仮)。つまり、答えない場合の成約は月3組
- 帯で答えた場合、聞いた時点で予算が合わずに離れる人が30%いる(仮)。残る70%のうち、50%が来館を予約する(仮)
計算すると、帯で答えた場合の来館予約は 40本 × 70% × 50% = 14組です。答えない場合の12組より2組多くなります。来館後の成約率が同じ25%なら、成約は3.5組。答えないときの3組を、0.5組上回ります。
ここで大事なのは、帯で答えたほうが、離れる人を増やしているのに来館が増えていることです。帯で答えると、予算の合わない30%は早い段階で抜けます。その代わりに、答えが返ってきて安心した残りの二人が、予約までの一歩を踏み出しやすくなります。答えない場合、同じ30%が予算外だったとしても、その人たちは電話の時点では抜けず、来館予約まで進んでしまうことがあります。そして、見積もりを見て初めて離れます。来館の枠と接客の時間を使ったうえでの離脱です。
もう一つ。来館の予約率が上がる理由の一つは、比べる二人にとって「答えてくれた式場」が表に残ることです。帯で答えると、比較の表に数字が入ります。ただし、これも仮の仕組みの話です。この差が実際にいくらになるかは、自分の会場の電話で数える必要があります。
一つの金額を言うのは、帯より悪くなりやすい
では、聞かれた条件のいちばん安い金額を一つ言うのはどうでしょうか。
たとえば、平日の少人数の最安プランの金額を答える。電話の時点では、来館予約は増えそうに見えます。離れる人が少ないからです。
ただし、その金額は二人にとって「基準」になります。一度聞いた数字は、見積もりを見るまで頭に残ります。来館の日に、二人の希望する日取りと人数で作った見積もりが、電話で聞いた金額の1.5倍だったら、二人は「話が違う」と感じます。説明に時間をかけても、最初の数字との差は消えません。
仮に、帯の上限を見積もりが超えた組の成約率が、20%下がるとします。もとの25%が20%の減で、20%になります。この場合の成約は、14組 × 20% = 2.8組です。答えない場合の3組を下回ります。超えた組が40%に増えると、成約率は15%になり、14組 × 15% = 2.1組まで落ちます。
つまり、金額を言ったことで来館は増えても、言った金額を守れなければ、答えなかったときよりも成約が減ることがあります。これが、この記事でいちばん伝えたいことです。電話の金額は、言うか言わないかより、言ったあとに守れるかで損得が決まります。
ここで置いた「超えた組の成約率が20%下がる」は、僕の仮定です。実際に下がる幅は会場によって違います。確かなのは、超えた組が増えるほど成約が減る、という向きだけです。
帯の作り方:条件を一つだけ添える
帯は、金額の幅だけでは足りません。「条件を一つ」添えます。
「平日のお昼で、50人くらいなら、総額で〇〇万円から〇〇万円の間に収まることが多いです」
この一文には三つの部品があります。
- 日取りと人数の条件: 二人に聞き返さなくても、答えが成立する形にする。人数が決まっていないなら「50人前後」と置く
- 下限と上限: 下限は最低保証人数に近い規模の金額、上限は条件の中で現実的に出る見積もりの高いほう
- 収まることが多い、という言い方: 全員がその範囲に入ると言い切らない
条件は一つに絞ります。人数も日取りも季節も衣装も、と並べると、聞いている側は覚えられません。電話で伝わるのは、数字ひとつと条件ひとつです。
上限の決め方がいちばん大事です。ここは、過去の見積もりで決めます。直近の見積もりを条件ごとに並べて、「この条件の見積もりの8割が収まる上限」を見ます。最安の見積もりや平均ではなく、八割がた収まる線です。この線を帯の上限にすると、来館の日に作る見積もりが、電話で伝えた上限を超える組は、おおむね二割以内に収まります。この「八割」という割合は、僕の置いた目安です。会場の見積もり件数が少ないうちは、十分な数が集まるまで、保守的に高めの線を置いてください。
条件を聞き返す順番
帯で答えるときに、先に聞き返したほうがいい場合もあります。ただし、質問を重ねると、尋問のように感じさせます。聞き返すのは一つだけにします。
おすすめは、人数です。日取りや季節は帯の中で表せますが、人数は金額を最も大きく動かします。「何名様くらいを考えていらっしゃいますか」と聞いて、決まっていなければ「まだ決まっていない方も多いですよ」と受けて、人数の代表的な帯を二つ並べます。
聞き返す前に、まず帯を一つ言っておく順番がいいと思います。先に質問ばかりされると、二人は「教えてもらえない」と感じます。「50人前後で〇〇万円から〇〇万円が多いです。人数はどのくらいを考えていらっしゃいますか」の順で、答えを先に出してから質問に移ります。
電話で言った帯を、来館の日に残す
帯を言うだけでは足りません。言った内容を、来館の日の接客まで残す必要があります。
電話を受けた人と、来館で見積もりを出す人は、別の人であることが多いはずです。電話の側が帯を言って、来館の担当は何も知らない。この状態が、上限を超える見積もりを出してしまう最大の原因になります。
残す方法は簡単です。予約の記録に、電話で伝えた帯と条件を一行で書きます。「平日昼・50人前後、〇〇〜〇〇万円と案内」。来館の前に担当がこの一行を読んで、見積もりの条件が違っていないか確かめる。
見積もりが帯の上限を超えそうなら、二つの選択があります。見積もりの条件を二人の希望から変えずに、超えることを来館の最初に伝える。または、二人の希望を聞いて、帯の中に収まる組み合わせを先に出す。どちらでも、見積もりを出した瞬間に初めて超えたことを知る状態は避けられます。
電話の帯と見積もりが一致しなかったとき、理由をその場で説明できることも大切です。「お電話で『平日昼』とお聞きしていましたが、ご希望が土曜になりましたので、この金額になります」。一言あるかないかで、二人の受け止め方は変わります。
帯の更新は月に一度でよい
帯は、一度作ったら終わりではありません。原材料や人件費、プランの改定で見積もりの水準は動きます。月に一度、直近の見積もりから上限の線を引き直します。
そのとき見るのは二つです。電話で伝えた上限を、来館後の見積もりが超えた組の割合。そして、帯を聞いたあとに来館を予約した割合。前者が二割を超えていたら、帯の上限が低すぎます。後者が下がっていたら、帯の下限や言い方を見直します。
件数が少ない月は、割合がぶれます。数組の増減で十分に動く数字ですから、一か月の結果で線を大きく動かさず、三か月ほどの合計で見るくらいがちょうどいいと思います。
やらないほうがいいこと
最後に、避けたい答え方を挙げておきます。
- 「お電話ではお答えできません」と断る。比べる二人の表で空欄になります
- 最安プランの金額を、条件を言わずに伝える。来館時の見積もりと必ず食い違います
- 帯を広く取りすぎる。「200万円から500万円です」は、答えていないのと同じです。幅が広いときは、条件を一つ足して二つの帯に分けます
- 電話で言った内容を記録に残さない。来館の担当は、二人が電話で何を聞いたのかを知らないまま見積もりを出すことになります
まとめ
- 電話で総額を聞く二人は、比べている二人、予算に収まるか知りたい二人、相場をつかみたい二人に分かれる。声だけでは見分けられない
- 答えない、一つの金額を言う、帯で答える、のうち、帯が最も来館につながりやすい(仮の前提で、月40本の電話から来館12組が14組になる)
- 一つの金額は、見積もりが超えたときに、答えなかった場合より悪くなることがある。言った金額を守れるかどうかが損得を決める
- 帯は、条件を一つ添え、上限は過去の見積もりの八割が収まる線に置く
- 聞き返すのは人数の一問だけ。帯を先に言い、そのあとに聞く
- 電話で伝えた帯は予約の記録に一行残し、来館の担当が見積もりの前に読む
- 帯の更新は月に一度。見るのは、上限を超えた見積もりの割合と、帯を聞いたあとの来館予約の割合
