来館・成約

ペットと挙式したい問い合わせには、可否より先に参加の範囲を返す

「愛犬と一緒に挙式できますか」という問い合わせが届いたとき、式場の返信は大きく2つに分かれます。「可能です」か「申し訳ございませんが、ペットはお断りしています」のどちらかです。

僕は、どちらの返信も二人の次の行動を止めてしまうと思っています。理由は、二人が聞いているのが「可否」ではなく「どこまで一緒にいられるか」だからです。この記事では、ペットの話を含む問い合わせに、可否より先に「参加の範囲」を返す形を整理します。出典になる統計は今回使っていません。判断の条件と段取りの話として読んでください。

「可能です」の一言が、二人を不安にさせる理由

まず「可能です」と返すケースから考えます。

二人は、愛犬が一緒にいる場面を頭の中で具体的に描いています。バージンロードを歩く場面かもしれませんし、集合写真に写る場面かもしれません。披露宴の間ずっと同じ会場にいる場面を考えている二人もいます。

ここに「可能です」と返すと、二人は自分が描いた場面がすべて可能だと受け取ります。ところが式場の側は、挙式の入場だけを想定しているかもしれません。見学に来て初めてそのズレが分かると、二人は「話が違う」と感じます。問い合わせの段階で良い印象だった分、落差も大きくなります。

「可能です」は親切な返事に見えますが、範囲を言わないので、後から期待を裏切る余地を残します。

「不可です」の一言が、見学の機会ごと消す

次に「お断りしています」の場合です。

多くの式場がペットを断る理由は、衛生面、アレルギーのあるゲストへの配慮、他のゲストの安全、スタッフの動線などです。どれも運営として筋の通った理由です。ここは否定しません。

ただ、二人が本当に望んでいたのが「披露宴の間ずっと同伴」ではなく、「挙式の入場だけ一緒に歩きたい」「前撮りのように写真だけ一緒に撮りたい」だった場合、「不可」の一言で見学の候補から外れてしまいます。実際は受けられる場面があるのに、それを伝える機会がなかったことになります。

つまり、「可」でも「不可」でも、二択で返すと範囲の情報が抜け落ちます。抜け落ちたところで、二人は判断を誤ります。

参加の範囲を4つの場面に分けて持っておく

そこで、返信の前に式場の側で「どの場面なら受けられるか」を整理しておきます。僕は次の4つの場面に分けるのがちょうどいいと考えています。

  1. 見学・打ち合わせへの同伴(キャリーやリードで館内のどこまで入れるか)
  2. 挙式への参加(入場のみ、挙式中の同席、退場まで)
  3. 披露宴の間の滞在(同じ会場、控室で待機、預かり先は別)
  4. 撮影のみの参加(挙式前後や庭での写真撮影だけ)

場面を分けると、ほとんどの式場は「全部不可」でも「全部可」でもなく、場面ごとに答えが違うことに気づきます。たとえば、見学には同伴できないが、撮影のみなら受けられる、といった形です。

整理するときに決めておきたいのは、次の点です。

  • どの場面で受けるか、受けないか
  • 受ける場合の条件(サイズ、ケージ・キャリーの有無、予防接種の証明、付き添う人の手配)
  • 受けない場合に、代わりにできること(預かり先の紹介、撮影用の別日の設定など)
  • 他のゲストに事前に伝える内容(アレルギーへの配慮の案内など)

この表を作っておけば、問い合わせが来るたびに担当者が悩まなくて済みますし、担当者によって答えが違う、という状況も防げます。

返信は「範囲 → 条件 → 次の一歩」の順にする

整理した表を使って、返信を組みます。順番は次のとおりです。

  1. どの場面で受けられるかを先に言う
  2. その場面の条件を短く添える
  3. 受けられない場面があれば、その理由と代わりの選択肢を言う
  4. 見学の候補日を出す

具体的な返信の形を、架空の例で書いてみます。

「愛犬とのご挙式のご相談、ありがとうございます。当会場では、挙式の入場から退場までと、挙式後の庭での撮影にご一緒いただけます。披露宴のお席での同席は難しく、その間は控室でお預かりする形になります。小型犬の場合はキャリー、または抱っこでの入場をお願いしています。見学の際も、キャリーに入れてのお越しは可能です。〇月〇日(土)と〇月〇日(日)でご都合のよい日はありますか。」

ポイントは、「できること」から書き始めることです。「できない場面」を先に書くと、読んでいる二人は断られた感覚を先に持ちます。同じ内容でも、並べる順番で受け取られ方が変わります。

ここで見学の同伴可否まで書いているのは、問い合わせの次の行動が「見学の予約」だからです。見学に連れて行けるかどうかが分からないと、二人は予約ボタンを押す前に迷います。

「受けない」と決めた式場が、範囲だけ先に書く場合

ペットの同伴をまったく受けないと決めている式場もあります。その場合でも、返信で「お断りしています」だけにするかどうかは別の話です。

考えたいのは、断る場面と、断らない場面を分けられないかどうかです。たとえば次のような分け方が考えられます。

  • 館内の同伴は不可。ただし、屋外の庭での撮影ならペットと一緒に撮れる(ただし、庭の使用条件を整理しておく)
  • 館内の同伴は不可。ただし、提携しているペットホテルや撮影スタジオを紹介できる
  • 披露宴は不可。ただし、前撮りの日に別途時間を取ってペットと撮影できる

これらはすべて、式場の運営のルールを変えずにできる範囲の話です。ルールは守ったまま、二人の望みの核に近いものを返します。

ただし、紹介先を挙げるときは、紹介先の対応を式場が保証できないことも言っておく必要があります。「提携先ではなく、一般にあるサービスです」と書いたうえで、予約と費用は二人と直接やり取りしてもらう形にします。

仮の数字で、返信の取りこぼしを見る

範囲を先に返す意味を、仮の数字で確かめます。この計算は、実際の統計ではありません。構造を見るための想定です。

仮の前提を置きます。

  • ペット同伴の挙式についての問い合わせが、月に10件届く
  • 「可否だけ」を返す形では、見学の予約に進む割合が30%
  • 「範囲と条件」を返す形にすると、見学の予約に進む割合が50%になる(これも想定。実際は式場ごとに違うので、自社の数字で確かめる)

この前提で、月の見学予約は次のようになります。

  • 可否だけ返す形:10件 × 30% = 3件
  • 範囲と条件を返す形:10件 × 50% = 5件

差は月に2件です。さらに仮に、見学に来た二人の成約率を30%とすると、2件 × 30% = 0.6組。年にすると約7組です。式場の1組あたりの売上が仮に300万円だとすると、年に約2,000万円の差になります(300万円 × 7.2組)。

もちろん、これは想定した数字の掛け算で、実際にこうなると言っているわけではありません。確かめるには、自社の問い合わせの記録から、ペットの話を含む問い合わせを拾い、返信の形を変える前と後で、見学の予約に進んだ割合を比べるのが現実的です。

見るべきなのは次の3つです。

  • ペットの話を含む問い合わせの件数(月に何件あるか)
  • そのうち、見学の予約に進んだ割合
  • 見学に来た二人の成約率

件数が少なければ、差が見えるまでに時間がかかります。それでも、返信の文面を1本整えるだけなので、費用はほとんどかかりません。

公式サイトにも範囲を書いておく

問い合わせが届く前に、公式サイトで範囲が分かるようにしておくのも手です。

二人は、問い合わせの前に公式サイトの「よくある質問」や会場ページを見ています。ここに「ペット同伴について」という項目があり、4つの場面ごとに可否と条件が書かれていれば、そもそも問い合わせの前に判断ができます。

書き方のコツは、「できる/できない」の表にするより、場面ごとに一文で書くことです。

  • 見学:キャリーに入れてのご来館は可能です
  • 挙式:入場から退場まで、ご一緒いただけます
  • 披露宴:お席での同席はできません。控室でお預かりします
  • 撮影:挙式後、庭での撮影にご一緒いただけます

この項目があると、問い合わせの件数は減るかもしれません。ただ、減るのは「ここでは無理だと分かった二人」の問い合わせで、残るのは「この範囲なら大丈夫だ」と思った二人です。件数が減っても、見学の予約に進む割合は上がると考えられます。件数だけを見て評価しないのが大事なところです。

運用で決めておくことと、現場に任せること

最後に、運用面で決めておきたいことを整理します。

決めておくこと:

  • 4つの場面ごとの可否と条件(経営者・責任者が決める)
  • 受けられない場面の代わりの案(紹介先、撮影の別日など)
  • 返信のひな形(担当者が書き換える部分と、固定する部分を分ける)

現場に任せること:

  • 二人の愛犬の大きさや性格を聞いて、条件の当てはめ方を調整する
  • 見学で実際の動線を一緒に歩いて、できる場面を確認する

ひな形を固定する部分は、衛生や安全に関わる条件です。ここは担当者によって言い方が変わると、後で食い違いが出ます。

反対に、二人への共感の言葉や、愛犬の名前を使った書き出しなどは、担当者が自由に書いたほうが伝わります。愛犬の名前を聞いて、返信でその名前を呼ぶだけで、二人の受け取り方は変わります。

まとめ

  • 「可能です」「不可です」の二択で返すと、範囲の情報が抜け落ち、二人は判断を誤る
  • ペットの参加は「見学」「挙式」「披露宴」「撮影」の4つの場面に分けて、場面ごとに答えを持つ
  • 返信は「できる範囲 → 条件 → できない場面と代わりの案 → 見学の候補日」の順にする
  • 受けない式場でも、屋外撮影や前撮りの別日など、ルールを変えずに返せる範囲を探す
  • 返信の形を変える効果は、問い合わせから見学予約に進んだ割合で確かめる(仮の数字はあくまで構造を見るためのもの)
  • 公式サイトに場面ごとの一文を書くと、問い合わせの数は減っても、予約に進む割合は上がると考えられる
  • 二人が聞いているのは可否ではなく、どこまで一緒にいられるか