来館・成約

親だけが見学に来たら、見積もりは出さず二人に渡す紙を作る

予約表に載っている名前が、新郎新婦ではなく「新婦の母」になっている日があります。二人は仕事で来られない。親が先に見ておきたいと言って、一人か夫婦で来館する。こういう見学を、担当者がふだんの見学と同じ流れで進めてしまう式場は少なくないと思います。

僕の考えは、二人が不在の見学は「説明の場」ではなく「持ち帰る材料を揃える場」にする、です。見積もりを出して決めてもらう日ではない。親が二人に伝えるときに、正確に、そして好意的に伝わる状態を作る日です。この記事は、その段取りを整理します。

先に断っておくと、二人抜きで親だけが来館する割合や、そのときの成約率を示す調査は、探しましたが見つかっていません。数字はすべて僕が置いた仮の前提で、実在の式場の数字ではありません。断定は「仕組みとしてこうなる」と言える範囲に留めます。

二人がいない見学で起きること

親だけが来る理由は、だいたい三つに分かれます。費用を出す予定で、自分の目で確かめたい。遠方に住んでいて、二人の都合と合わない日にたまたま来られた。二人が忙しいので、先に下見をして候補を絞ってあげたい。どれも善意で、二人のための行動です。

担当者の側で起きやすいのは、二つの逆の失敗です。

一つ目は、張り切りすぎることです。親は決裁者に見えます。しかも熱心に聞いてくれる。そこで普段の見学と同じ熱量で、見積もりまで出してしまう。親は「いい式場だった」と二人に伝えますが、見積もりの紙を見るのは二人で、その金額を決めた場に二人はいません。二人は、自分の知らないところで話が進んだという感覚を持ちます。親の評価が高いほど、かえって二人が距離を置くことがあります。

二つ目は、軽く扱うことです。「ご本人様がいらっしゃらないと、お話は難しいので」と、資料だけ渡して終える。誠実なようで、仕組みとしては損をしています。親は帰り道で二人に連絡します。そのとき手元にあるのが、パンフレットと、少し冷たかったという印象だけなら、二人に伝わる内容もそこまでです。

どちらの失敗も、見学の目的を取り違えています。この日の相手は親ですが、この日の結論を出すのは二人です。親は、二人に式場を伝える「橋」の役を担っています。橋が渡しやすい形になっているかどうかを、担当者は見学の間じゅう確かめることになります。

親の来館を二人に伝える連絡を先に入れる

最初に動くのは、見学の前です。予約を受けた時点で、予約者の名前が親になっているなら、二人の連絡先を聞けるかを確かめます。聞き方は、「当日のご案内や、ご都合のよい日にお二人でも来ていただけるよう、お二人の連絡先もお教えいただけますか」くらいで十分です。

ここで二人の連絡先が取れない場合もあります。それは無理に取らなくて構いません。ただ、取れた場合は、見学の前日に二人へ一通だけ連絡を入れます。「明日、お母様がご来館の予定です。当日の内容を、あとでお二人にもご共有します」。この一通で、二人は自分の知らないうちに話が進むという感覚を持たずに済みます。

連絡先を取れないときは、見学の最後に、親に二人の連絡先を聞くのではなく、二人に渡す紙を渡します。これは後の節で書きます。

当日の流れを三つに絞る

二人がいない見学で、時間を何に使うか。僕は三つに絞るのがよいと思っています。

一つ目は、親が気にしていることを聞くことです。冒頭で「今日は、どんなことを確かめたいと思って来られましたか」と聞きます。費用なのか、親族の人数なのか、会場の雰囲気なのか。ここで出てくる答えが、その日の見学の中心になります。普段の見学のように、会場の魅力を順番に説明していくのではなく、親が確かめたい順に案内を並べ替えます。

二つ目は、二人の希望を親から聞くことです。「お二人は、どんな結婚式を考えていらっしゃいますか」と聞きます。親が知っていることもあれば、知らないこともあります。知らないと言われたら、それ自体が情報です。まだ二人が親に話していない段階だと分かります。その場合、親に押しつけるように説明すると、二人が親から先に聞かされて身構えます。説明の温度を下げて、「お二人のご希望を聞いてから決めるのがよいと思います」と言うほうが、親にも二人にも受け取られやすくなります。

三つ目は、親が二人に伝えるときの言葉を、こちらから渡すことです。見学の終盤に、「今日のご感想を、お二人に伝えるとしたら、どんなふうにお話しされますか」と聞きます。親が言葉にしたものは、そのまま二人への伝言になります。親が言いよどんだ点は、説明が足りなかった点です。そこをその場で補います。

見積もりは出さず、条件の幅だけ伝える

二人がいない見学で、いちばん判断が分かれるのは見積もりです。僕は、出さないほうがよいと考えています。理由は二つあります。

一つ目は、見積もりは二人の希望人数、日取り、演出を前提に作るものだからです。二人の希望を知らない場で出した見積もりは、親が置いた仮の前提に乗っています。数字が親の頭に残り、二人が本当の希望で見積もりを取り直したときに、「親が聞いた金額と違う」という話になります。

二つ目は、見積もりを渡す相手が、決める人ではないからです。金額を最初に見るのが決める人でないと、金額の受け止め方がずれます。親が「思ったより高くない」と感じても、二人が「高い」と感じることはありますし、その逆もあります。

そのかわり、条件の幅は伝えます。たとえば「人数が60名だと、おおよそこの帯です。人数が10名増えると、これくらい動きます」と、変わる要素と動く幅を口頭か紙で伝える。具体的な総額は、二人の希望を聞いてから出すと伝える。これなら、親は二人に「だいたいこのくらいの規模感らしい」と伝えられますし、二人が見学に来たときに、金額が新しい情報として始まります。

仮に、60名の披露宴で、人数が10名増えると料理と飲み物の分だけ総額が動く式場があるとします。この動く幅を口頭で伝えるのは、見積もりを出したことにはなりません。ただ、親は「人数が増えると、これくらい増える」という構造を持ち帰れます。構造は、二人に伝えるときにも歪みにくい情報です。数字より、仕組みのほうが、人づてで正確に伝わります。

二人に渡す紙を1枚作る

見学の最後に、親に渡す紙を1枚作っておきます。パンフレットとは別の紙です。内容は次のとおりです。

  • 今日、親に案内した会場と、気にされていた点
  • 二人の希望を聞いたら、次に何を出せるか(見積もり、試食、日取りの案内)
  • 二人が来館できる日程の候補(担当者の空き日)と、予約のリンク
  • 二人が来館するときに、聞かれたら便利な質問(人数のめど、希望の時期、予算の目安)

ポイントは、この紙を「二人宛て」にしておくことです。表題を「お二人へ」にして、親が持ち帰って、そのまま二人に見せられる文面にする。親が伝え方に悩まなくて済みます。

この紙があると、親は二人に伝えやすくなり、二人は次の行動(来館の予約)がはっきりします。紙が無いと、親の記憶の中の印象だけが、二人に伝わります。

紙は、毎回ゼロから書かなくてよいように、型を作っておきます。会場の説明の部分と、予約のリンクは固定で、「今日気にされていた点」の1行だけ、担当者が手書きかタイプで足します。ここだけは、その日の見学を聞いていないと書けません。型の中で、唯一の手作業です。

仮の数字で、この段取りの効き方を計算する

ここから先は、僕が置いた仮の前提で計算します。実在の式場の数字ではありません。

仮に、ある式場で、月に親だけの見学が6件あるとします。そのうち、二人が後日来館するのが2件、来ないのが4件だとします。二人が来館した2件のうち、成約するのが1件、というのがこの式場のいまの状態です。

段取りを入れて、二人が後日来館する件数が、2件から3件に増えたとします。成約率は変わらず、来館した二人の半分(1.5件ではなく、仮に50%)が成約するとすると、月の成約は1件から1.5件に増えます。年にすると、12件が18件。差は6件です。

仮に、この式場の1組あたりの粗利が120万円だとすると、6件で720万円です。1件増えるごとに見学の担当者の時間が1時間かかるとしても、この紙を作る手間と比べて、割に合うかどうかは、式場ごとの粗利と親だけの見学の件数で決まります。

この計算は、二つの前提に支えられています。一つは、親だけの見学が月に6件あること。もう一つは、段取りで二人の来館が1件増えること。どちらも仮です。親だけの見学がほとんど来ない式場なら、この段取りは不要です。まず、自社の予約表から、過去3か月の予約者名が親になっている件数を数えて、親だけの見学の件数を確かめるのが先です。

数えるのは来館に戻った件数

この段取りが効いているかどうかは、見積もりを出した件数では分かりません。見るべきは、親だけの見学のあと、二人が来館した件数です。

予約システムか、見学のメモに、「親のみ」の印を付けておきます。そして、その見学から30日以内に、同じ苗字の予約が入ったかを数える。入った件数を、親だけの見学の件数で割る。これが「戻り率」です。

仮に、段取りを入れる前の戻り率が33%(6件中2件)で、入れた後に50%(6件中3件)になったとします。この差が、紙と前日の連絡と、条件の幅だけを伝える運用の効果です。3か月ほど数えて差が出なければ、別の方法を考えます。

戻り率を数えるときは、二人が親の見学とは別の式場を選んだ場合も戻らない件数に含まれます。戻らなかった理由まで追えないことは、最初に知っておいたほうがよいです。理由を知りたいときは、二人の連絡先が取れた件に限り、「今回、別の会場を選ばれた理由を一つだけ教えてください」と聞きます。連絡先が取れていない件の理由は、分からないままで構いません。

やらないほうがいいこと

最後に、この段取りで避けたいことを三つ書きます。

一つ目は、親を通して二人に決断を急がせることです。「ご両親様から、お二人に早めの決断を勧めていただけませんか」という頼み方は、親に営業の代行をさせる形になります。親が二人に圧をかけると、二人は式場から距離を置きます。親は味方でも、営業担当ではありません。

二つ目は、二人の個人情報を親から聞き出しすぎることです。二人の勤務先や貯金の額、結婚の時期の事情まで、親が把握していても、二人が伝えていいと思っていないことがあります。聞くのは、二人が来館するときに役立つ情報(人数のめど、希望の時期)までに留めます。

三つ目は、親の機嫌のために、二人の希望より親の希望に合わせた提案をすることです。親が好む会場の使い方を、二人の希望のように紹介してしまうと、二人が来館したときに「それは違う」となります。二人の希望を知らないなら、知らないと言ったうえで、案内します。

まとめ

  • 二人が不在の見学は、説明の場ではなく、持ち帰る材料を揃える場にする。親は二人に伝える橋の役
  • 前日に二人へ一通だけ、親が来館することを伝える。連絡先が取れないときは取らなくてよい
  • 当日は三つに絞る:親が確かめたいこと、親が知っている二人の希望、二人に伝える言葉
  • 見積もりは出さず、人数や日取りで動く幅だけを伝える。総額は二人の希望を聞いてから出す
  • 「お二人へ」と書いた紙を1枚渡す。二人が来られる日程と、予約のリンクを入れる
  • 効果は、親だけの見学から30日以内に二人が来館した件数(戻り率)で数える。まず過去3か月の件数を数えてから、段取りを入れるか決める