席次表とメニュー表を式場で内製すると、仮の式場では年210万円浮く。ただし外注が1人300円台なら赤字で、決め手は作業時間と変更の締切だ
披露宴のペーパーアイテム、つまり席次表、メニュー表、席札は、外部の印刷会社に頼んでいる式場が多いと思います。1組あたりの金額は小さいのに、年間で足すと意外な額になります。「社内で刷れば安いのでは」と考えて、業務用プリンタの見積もりを取った経験がある方もいるはずです。
結論を先に書きます。年120組、1組60名の仮の式場で計算すると、外注が1人600円のとき、内製にすると年210万円浮きます。ところが外注の単価が1人300円台まで下がると、同じ設備投資が赤字に変わります。単価を見る前に、確かめることが2つあります。作業が誰の何時間になるかと、二人の変更を何日前まで受けられるかです。
なお、ここに出てくる金額はすべて僕が置いた前提で、実在の式場の実績ではありません。外注の単価や設備の価格は式場ごとに違うので、自分の見積書の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場の前提
計算の土台を先に並べます。
- 年間の披露宴は120組、1組の招待客は60名
- 作るのは席次表、メニュー表、席札の3点。いずれも1人に1部で、1組60部ずつ
- 外注の料金は、3点を合わせて1人あたり600円(1組3万6,000円)と置く
- 内製の材料費(用紙、インク、封入するパーツ)は、3点合わせて1人150円(1組9,000円)
- 内製の作業は1組3時間。データの流し込み、印刷、裁断、折り、検品までを含む
- 作業するスタッフの人件費は、社会保険などを含めて1時間2,000円
- 設備は業務用のカラープリンタと裁断機で、初期に90万円。3年で償却し、保守とリース関連の費用が年12万円
設備の固定費は、年30万円の償却と12万円の保守で、合計42万円になります。これは組数にかかわらず出ていくお金です。
1組あたりの浮く額
外注と内製を、1組ずつ並べます。
外注は3万6,000円です。内製は、材料費9,000円に作業3時間分の6,000円を足した1万5,000円になります。差し引き、1組あたり2万1,000円が浮きます。
年120組なら、2万1,000円×120組で252万円です。ここから設備の固定費42万円を引くと、年210万円が残ります。
損益分岐の組数は、固定費42万円を1組の差額2万1,000円で割った20組です。年間に20組以上あるなら、この前提では内製のほうが得になります。120組の式場なら、分岐の6倍の規模で、余裕があるように見えます。
ただ、この余裕は外注の単価が1人600円という前提の上に乗っています。
外注の単価で決まる分岐
外注の単価と作業時間を動かして、年間の純額を並べてみます。年120組、固定費42万円は共通です。
| 外注の単価(1人) | 作業3時間 | 作業5時間 | 作業8時間 |
|---|---|---|---|
| 300円 | 赤字(年6万円減) | 赤字(年54万円減) | 赤字(年126万円減) |
| 400円 | 年66万円の黒字 | 年18万円の黒字 | 赤字(年54万円減) |
| 500円 | 年138万円の黒字 | 年90万円の黒字 | 年18万円の黒字 |
| 600円 | 年210万円の黒字 | 年162万円の黒字 | 年90万円の黒字 |
| 800円 | 年354万円の黒字 | 年306万円の黒字 | 年234万円の黒字 |
見てほしいのは、外注の単価が低い側の列です。300円なら、作業が3時間でも赤字です。400円でも、作業が8時間かかると赤字になります。
内製が成り立つ外注単価の下限を、作業時間ごとに計算しました。年120組の場合です。作業が3時間なら1人308円、5時間なら375円、8時間なら475円です。外注の見積もりがこの線より上なら、内製には余地があります。下なら、設備を買った分だけ損をします。
組数でも線は動きます。作業3時間の場合、年60組なら外注が1人367円、年240組なら279円が下限です。組数が少ない式場ほど、固定費の42万円が重くなります。
僕がこの表で言いたいのは、内製の損得は「外注の見積もりがいくらか」でほぼ決まる、ということです。内製のほうが安いはずだ、という感覚で動くと、安く外注できている式場は失敗します。
作業時間の3時間は本当か
作業時間の置き方で、結論が大きく変わります。3時間が5時間になるだけで、600円の前提でも年48万円が消えます。
3時間の中身は、データの流し込みに30分、印刷に60分、裁断と折りに60分、検品に30分という想定です。これは、すべてが順調に進んだ場合の数字です。
ずれやすい箇所は3つあります。
1つ目は、二人の修正です。席次表は、確定後に「やっぱりこの2人は隣にしたい」と変わることがあります。外注なら再発注の費用と納期の問題になりますが、内製だと刷り直しの手間になります。1回の刷り直しで、印刷と裁断のやり直しが入り、30分から1時間は足されます。
2つ目は、印刷機の調子です。業務用でも、紙詰まりや色ムラは起こります。プリンタの前で待つ時間は、誰の作業にも記録されません。
3つ目は、作業が週の同じ日に集まることです。挙式日の前の週に、人数確定のあとで一斉に作業が来ます。土日に挙式が集まる式場なら、水曜と木曜に数組分が重なります。週に3組なら9時間です。この9時間が、通常の勤務時間のなかに収まるのか、残業になるのかで、前提の時給2,000円が変わります。残業の割増を入れて時給を2,500円で計算すると、作業3時間で1組あたり7,500円、差額は1万9,500円に下がります。年間で見ると約18万円の違いです。
自社で数えるなら、最初の10組は実測してください。作業の開始と終了を記録して、平均を出します。それから外注の見積もりと並べても、遅くはありません。
変更の締切という見えない価値
お金の計算が合っても、内製と外注の差はもう1つあります。二人の変更を何日前まで受けられるか、という点です。
外注の場合、データを渡してから納品までに、たとえば5営業日かかるとします。式場への納品の余裕を見ると、データの確定は挙式の10日前あたりになります。内製なら、前日の午後まで直せます。
では、この差は価値になるのでしょうか。僕は、ここは二人の不安の大きさで決まると思っています。ゲストの欠席や追加は、直前まで動くことがあります。体調不良の欠席、家族の都合、最後に出す返信のはがき。外注の締切より後に出た変更を、式場がどう扱うかを確認してみてください。
- 手書きで直す
- 席札だけ当日に作り直す
- 席次表は変更なしで進め、案内係が口頭で対応する
こうした「直前の応急処置」が年に何回起きているかを数えると、締切が短くなる価値が見えます。仮に年に20回あり、1回の対応に30分かかるなら、10時間です。人件費に直すと2万円で、全体から見れば小さい額です。それでも、二人にとっては「当日の席札が間違っている」かどうかの差になります。
これは、以前に書いた人数確定日の話とつながります。確定日を14日前から7日前に縮められるのは、外注や発注の締切が詰められるときです。内製にすると、ペーパーアイテムの側の制約は外れます。ただし、料理や引き出物の発注の締切が残っているなら、確定日は動きません。内製にして、席次表の締切だけを短くしても、二人が実感できるほどの変化にならないことがあります。
品質と誤表記のリスク
内製に替えるとき、見落としやすいのが品質です。
外注の印刷会社は、紙の質、印刷の色、断裁の精度が一定です。内製は、機械と人の腕に依存します。席次表が数ミリずれる、メニュー表の金額がにじむ、席札の折り目が曲がる。ゲストは気づかなくても、二人は気づきます。
もう1つは誤表記です。氏名の漢字の間違いは、外注でも内製でも起こります。ただ、外注では印刷会社が「入稿データのとおり」に刷るので、責任の線が分かりやすい。内製では、すべてが式場の責任になります。名簿の表記確認を二人にしてもらう手間は別の記事で計算しましたが、内製にするなら、この確認の手順は外せません。
品質で見たときの現実的な線は、次の2つです。
- 席次表とメニュー表は、デザインの凝った有料のものを外注に残し、標準品だけを内製にする
- 席札と、直前に直す可能性が高い一部の紙だけを内製にする
全部を内製にするか、全部を外注に残すか、の二択にしなくて構いません。内製にするのは、直前に変わりやすい紙と、デザインが定型の紙だけにして、外注の単価の高い品目から手放すと、設備の償却が早く進みます。
二人に請求する金額の扱い
ここまでは式場の原価の話でした。二人に請求する金額の側にも、判断が1つあります。
式場が二人に請求する席次表やメニュー表の費用は、外注の原価に上乗せしてあるのが一般的でしょう。内製にして原価が下がったとき、請求額を下げるのか、据え置くのか。下げれば成約率が上がる可能性はありますが、計算が複雑になります。
僕は、据え置いて粗利を取るほうが素直だと思います。理由は、ペーパーアイテムの金額が、二人の総額の中ではごく小さい比率だからです。仮に総額が300万円で、ペーパーアイテムが3万6,000円なら、1.2%です。ここを2万円に下げても、二人の見積もりを比べる行動はほとんど変わらないはずです。
ただし、手作りを持ち込みたい二人への対応は別です。席次表を自分で作りたい、という二人は一定数います。持ち込みを認めるかどうかは、内製の設備を持ったあとも残る論点です。内製で原価が下がるほど、持ち込みを断ったときの失注の重さと、持ち込みを認めて粗利が削られる額が近づきます。
買う前に確かめる順番
設備を買う前に、僕なら次の順番で確かめます。
- 直近1年の外注の請求書から、1人あたりの単価と、組ごとの部数を出す。単価が300円台なら、ここで止めてよい
- 年間の組数で固定費の42万円を割り、1組あたりの上乗せ額を出す。年120組なら3,500円
- 作業の担当者を決める。誰の何曜日の何時間に入るかを、カレンダーで見る。残業になるなら時給を上げて計算し直す
- 最初の10組を実測して、作業時間の平均を出す。目安の3時間を超えるなら、品目を絞る
- 外注の締切より後に変更が出た回数を、1年分数える。年に何件あるかが、短い締切の価値になる
この順なら、設備を買うのは4番目まで進んだあとです。1と2で止まる式場が、一定数あるはずです。
リース契約なら、固定費の12万円や償却の30万円が違った形になります。その場合は、年間の総額に置き換えて、同じ式で計算してください。計算の形は変わりません。
まとめ
- 年120組、60名、外注が1人600円の仮の式場では、席次表・メニュー表・席札を内製にすると年210万円浮く。1組あたり2万1,000円で、損益分岐は年20組
- 外注の単価が1人300円台なら、作業3時間でも赤字。内製が成り立つ外注単価の下限は、作業3時間で308円、5時間で375円、8時間で475円
- 作業時間は、修正の刷り直し、機械のトラブル、挙式前の週への集中で、置いた3時間より延びやすい。最初の10組を実測する
- 内製の価値は、お金のほかに、二人の変更を前日まで受けられることにある。直前の応急処置の回数を数えると見える
- 品質と誤表記の責任は、内製では全部が式場に来る。直前に変わる紙だけを内製にする選び方もある
- 設備を買う順番は、請求書の単価の確認、固定費の割り戻し、担当者の確認、実測、変更の回数の集計。最初の2つで止まる式場もある
内製が得かどうかは、設備の性能でなく、いま払っている外注の1人あたりの単価で決まります。
