屋外挙式の熱中症対策は義務化済み|式場が先に決める中止の線
9月の最終土曜、ガーデンでの挙式。13時の気温は33度を超えていました。介添スタッフは黒のスーツで、日傘もない芝生の上に40分立っています。ゲストの祖母がハンカチで顔をあおぎはじめました。このとき、誰が「いったん屋内に入りましょう」と言えるのか。式場の側に、その権限を持つ人が決まっているでしょうか。
結論から書きます。屋外挙式を持つ式場は、熱中症について決めておくことが2つあります。1つは、働くスタッフを守る手順です。これは2025年6月から法令上の義務になりました。もう1つは、ゲストと二人を守る中止・屋内切替の線で、こちらは法律では決まっていません。式場が自分で引かない限り、当日の現場の判断に任されます。この記事では、前者の義務の中身を確かめたうえで、後者を決めるときの考え方を、仮の式場の数字で整理します。
この記事の費用の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。法令と環境省のガイドラインの内容だけが、調べた事実です。粗利や日数は、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
2025年6月に変わったこと
改正された労働安全衛生規則は、2025年6月1日に施行されました。熱中症で重くなる人を出さないために、事業者に次の3つを求めています。報道や自治体の案内を読むと、内容はこうです。
- 体制の整備: 熱中症の疑いがある人を見つけたとき、誰に報告するかを、事業場ごとに決めておく
- 手順の作成: 緊急連絡網、搬送先の病院、現場での応急処置の流れを書いておく
- 関係者への周知: 上の2つを、働く人全員に伝える
対象になる作業の目安は、暑さ指数(WBGT)が28以上、または気温が31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超えて行うと見込まれる作業です。罰則は、6か月以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金と報じられています。
ここで引っかかるのが、結婚式の現場がこの目安に当たるかどうかです。僕の読みでは、当たる日があります。介添は挙式前の準備から退場の見送りまで、屋外に立つ時間が長い。配膳スタッフが夏のガーデンパーティで飲み物を運び続ける日もあります。ただし、条文の適用を決めるのは労働基準監督署です。僕は「当たる日がある」と考えて段取りを組むほうが、損が小さいと考えています。詳細な判断が必要なときは、管轄の労働基準監督署に聞くのが確実です。
義務の3つを式場の言葉にすると
法令の言い方のままでは、現場の人は動けません。式場の言葉に直すと、こうなります。
報告体制
「具合が悪そうな人を見たら、誰に言うか」を1人の名前で決めます。役職名ではなく、その日の当番表に名前が出ている状態にします。ここで起きやすい失敗は、介添が自分の判断で動いて、ドリンクカウンターもプランナーもそのことを知らない、という状態です。報告先は、その日の挙式を仕切るプランナーか、支配人か、どちらかに寄せたほうが迷いません。
手順
搬送先の病院は、挙式会場から車で何分かを、一度は実際に確認しておきます。地図上の距離と、土曜午後の渋滞のなかでの時間は違います。応急処置の流れは、涼しい場所に移す、衣服をゆるめる、水分を取らせる、意識がおかしければ救急車、という程度の紙1枚で足ります。環境省の資料には、救護所の場所を決めておくこと、スタッフに対応を教えておくことが書かれています。
周知
紙を作っただけでは、周知したことになりません。夏の繁忙期の前に、全員が一度は読む機会を作ります。派遣やアルバイトのスタッフは、入った日の朝礼で1分だけ読み合わせをします。ここを省くと、いちばん屋外に立つ人が、手順を知らないという状態になります。
スタッフの熱中症は、式場の費用にどう出るか
では、仮の式場で計算します。前提を置きます。
- 屋外挙式を行う日が、年に40日ある(土日祝を中心に、春と秋を含む)
- そのうち、暑さ指数が28を超える時間帯に挙式や歓談がかかる日の割合は、仮に3割。40日の3割で、年に12日
- 暑い日に追加で用意するのは、日よけ(追加のタープ)、氷と飲料、交代要員の人件費。仮に1日あたり2万円
- 12日 × 2万円で、年に24万円
次に、事故のほうを仮置きします。ゲストか二人が熱中症で救急搬送され、式場が返金や値引きで収めたときの費用を、1件30万円と仮定します。この数字には、料理の返金、当日の再手配、スタッフの対応時間を含めた想定です。実際の金額は式場ごとに違いますが、大きく外れない範囲だと考えています。
24万円 ÷ 30万円で0.8。つまり、年に0.8件以上の搬送を防げるなら、備えのほうが安くなります。言い換えると、5年で4件、搬送が起こるかどうかです。仮の前提を変えてみても、結論はあまり動きません。暑い日の割合を2割にすると年8日で、備えは16万円。割合を4割にすると年16日で、備えは32万円です。32万円でも、年に1件の搬送を防げれば足ります。
この計算に入っていないのは、口コミです。搬送が起きた日の挙式は、二人にとって一生に一度の日です。その記憶と、見学前の二人が読む口コミの文章は、金額に直しにくい。だから、僕は「元が取れるかどうか」よりも「搬送が起きたとき、説明できる状態か」を基準にするほうが、実務に近いと考えています。
ゲストのための線を、法律は引いてくれない
ここからが本題です。スタッフの手順は、法令が枠を作ってくれました。ところが、ゲストと二人については、法令の枠がありません。環境省のイベント向けガイドラインは、次のような備えを勧めています。
- 暑さ指数の情報を、誰が、いつ見るかを決めておく
- 中止や変更の基準と、それを決める責任者を、あらかじめ明らかにしておく
- 屋外から屋内への変更など、リスクの低い場所への切替を検討する
- 日よけの下に待機場所を作り、冷たい飲み物と休める場所を用意する
- 高齢者、乳幼児、車椅子の利用者は、リスクが高いので注意を呼びかける
これを結婚式に当てはめると、決めるものは3つです。
誰が見るか
暑さ指数は、環境省の暑さ指数予測サイトで、地点ごとに確認できます。前日の夕方と当日の朝に、プランナーかその上の人が見る、と決めます。見る人が決まっていないと、全員が「誰かが見ているだろう」と思っています。
何を超えたら何をするか
線の引き方は、式場ごとに違ってかまいません。たとえば、次のような置き方です。
- 暑さ指数が28を超える見込み: ゲストの待機場所に日よけと飲料を足す。挙式の時間を短くする案を二人に出す
- 暑さ指数が31を超える見込み: 屋内切替を、二人に提案する。屋内会場が空いていなければ、挙式の時間帯を前倒しする
- 搬送が出たとき: 手順に沿って対応する。二人への連絡は、その場でプランナーが行う
この数字は、式場が自分で置くものです。僕が一般論として言えるのは、線を決めずに当日を迎えるのが、いちばん高くつくということだけです。
契約書のどこに書くか
屋内に切り替えるとき、二人が迷う理由はたいてい2つです。写真映えと、費用。写真映えについては、屋内の代替会場の写真を、契約前に見せておきます。費用については、屋外から屋内への切替で追加費用が出ない、と契約書に書いておくのが安心です。切替でゲストが倒れなかったことは、二人にとっても、式場にとっても、請求書より安い話です。
屋内切替を決められない式場の事情
とはいえ、屋内に切り替えにくい式場もあります。挙式の会場が屋外にしか無い、屋内は披露宴の準備で埋まっている、といった事情です。こういう式場は、選べる手が少ないので、前の段階で潰しておく必要があります。
- 夏の屋外挙式は、午前か夕方の時間帯に寄せる(正午から15時の枠を、夏は売らない)
- タープや日除けの常設を、新築・改装のときに検討する
- 挙式時間を短縮するプランを、あらかじめ作っておく
正午から15時の枠を売らないのは、売上に直接響く判断です。ただ、さきほどの計算で、備えの費用が年に数十万円の規模だと分かりました。枠を売らない損失がそれを超えるかどうかは、自分の会場の予約台帳で確かめられます。7月から9月の屋外挙式のうち、正午から15時にかかっていたのが何組か。数えれば、答えが出ます。
手順書を作った後の確かめ方
紙ができたら、一度だけ机上で動かしてみます。時間は15分で足ります。「13時の挙式前、ゲストの高齢の方が座り込んだ」という場面を1つ置き、誰が気づき、誰に伝え、誰が救急車を呼び、誰が二人に話すかを、口に出して順に言っていきます。詰まった箇所が、紙に足りないところです。たいていは、救急車を呼ぶ人と、二人に話す人が同じ人になっていて、同時にはできない、という点で止まります。そこで、呼ぶ人は会場責任者、二人に話す人はプランナー、と分けて書き直します。
もう1つ、見落としやすいのが搬送先です。休日の午後は、近くの病院が受け入れてくれるとは限りません。休日診療の窓口や、救急の受け入れ先の候補を2つ書いておくと、当日に電話を探す時間が減ります。これは費用がほとんどかからない備えです。
当日の伝え方
最後に、二人とゲストへの伝え方です。暑い日の屋外は、ゲストが一番我慢をする場面でもあります。礼服、ヒール、座れない時間。ここに式場が先回りして声をかけると、同じ暑さでも、印象はずいぶん違います。
- 受付で、飲み物と日傘を渡す(式場が用意できる範囲で)
- 挙式の案内状か当日のLINEに「暑い日は無理せず日陰へ」と一言書く
- 高齢のゲストには、受付の時点で椅子と日陰の席を案内する
これは法令の義務ではありません。ただ、搬送を出さないための手段であると同時に、見学前の二人が口コミを読んだとき、「配慮の厚い式場だった」と書かれる場面でもあります。
まとめ
- 2025年6月から、職場の熱中症対策は事業者の義務になった。体制、手順、周知の3つを決めておく
- 屋外挙式の介添・配膳スタッフは、暑い日に対象の目安(暑さ指数28以上または気温31度以上、連続1時間以上など)に当たりうる。適用の判断は労働基準監督署に確かめる
- 仮の式場の計算では、暑い日の備えは年24万円、搬送1件の費用は30万円と置くと、年に0.8件防げれば元が取れる
- ゲストと二人の側の線は、法律が引いてくれない。見る人、超えたら何をするか、契約書に何を書くかを式場が決める
- 屋内に切り替えにくい式場は、正午から15時の屋外枠を夏は売らない、日除けを常設する、といった前の段階の手を打つ
- 正午から15時の枠にどれだけ予約が入っているかは、予約台帳で数えられる。判断はその数字から始まる
