披露宴当日の不満は、その場で現場が決められる上限額を先に決めておく。仮の式場では持ち帰りをやめると年115万円の差が出る
披露宴の最中に、ゲストから「料理が一品出ていない」と声が上がる。二人の親から「席が遠すぎる」と言われる。受付の担当者が「どうしましょう」と責任者の顔を見る。こういう場面で、その場で何を約束していいのか、決まっている会場は意外と少ないのではないかと思います。
結論を先に書きます。当日の不満は、現場の責任者が「その場で、誰にも聞かずに使える上限額」を先に決めておくほうが、会場の持ち出しは小さくなります。持ち帰って上長に確認し、後日あらためて謝罪と補償を決める流れは、丁寧に見えて、金額も手間も大きくなりがちです。僕が置いた仮の式場(年120組)で計算すると、その場で3万円まで決められる運用に替えた場合と、全件を持ち帰る運用との差は年115万円ほどになります。
この記事に出典つきの数字はありません。当日に不満が出る割合や、補償の相場を、業界全体の数字として僕は確かめられていません。以下の数字はすべて僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場を置く
計算のために、仮の式場を置きます。
- 年間の披露宴は120組
- そのうち、当日に何らかの不満の申し出が出る組は15%と仮定する。年18組
- 申し出の中身は、料理の提供ミス、席や動線の不具合、音響や進行の遅れ、スタッフの言葉づかいなど、さまざまなもの
- 不満が出たときの会場側の補償は、料理の追加、ドリンクのサービス、後日の料金調整のいずれか
15%という数字に根拠はありません。自分の会場で、過去1年の「当日に何かあった」記録を数えれば、もっと確かな数字が出ます。記録が残っていないなら、それがまず最初の課題です。
持ち帰ると、なぜ高くつくのか
当日の不満を持ち帰ると、次の流れになります。
- 責任者が「確認してご連絡します」と答える
- 翌日以降、上長や支配人に報告する
- 補償を相談して決める
- 二人に電話か訪問で伝える
この間、二人やゲストは「会場は何も決めてくれなかった」という状態で数日を過ごします。その間に不満が膨らむことは、仕組みとして避けられません。当日に「申し訳ありません、こちらをサービスさせてください」と言えば終わった話が、数日後には「あのときの対応も含めて」という話に変わります。
ここに数字を置きます。持ち帰った1件あたりを、次のように仮定します。
- 後日対応にかかる人件費:責任者と上長の2人が3時間ずつ。時給2,000円として1万2,000円
- 後日の補償額:平均10万円
その場で決める運用の1件あたりを、次のように仮定します。
- 当日の調整にかかる人件費:責任者と、横にいるスタッフの2人が30分ずつ。時給2,000円として2,000円
- その場の補償額:平均3万円
後日の補償額のほうが大きいのは、時間が経つほど要求が大きくなる、と僕が考えているからです。ただ、これも仮定です。この差が本当にあるかどうかは、自分の会場の過去の対応記録で確かめてください。
年間の差を計算する
年18件で計算します。
持ち帰る運用の場合です。
- 人件費:1万2,000円 × 18件 = 21万6,000円
- 補償額:10万円 × 18件 = 180万円
- 合計:201万6,000円
その場で決める運用の場合です。
- 人件費:2,000円 × 18件 = 3万6,000円
- 補償額:3万円 × 18件 = 54万円
- 合計:57万6,000円
差は144万円です。ただし、この計算は「全件が3万円以内に収まる」という前提なので、楽観的すぎます。
上限を超える案件を分ける
現実には、3万円では収まらない案件が出ます。料理が全卓に出なかった、音響が止まって進行が崩れた、といった会場全体の問題です。そこで、18件のうち2割の3.6件は上限を超えて、結局は持ち帰りになる、と置き直します。
- 上限内(14.4件):人件費2,000円 + 補償3万円 = 3万2,000円 × 14.4件 = 46万800円
- 上限超(3.6件):人件費1万2,000円 + 補償10万円 = 11万2,000円 × 3.6件 = 40万3,200円
- 合計:86万4,000円
持ち帰る運用の201万6,000円との差は、115万2,000円です。これが記事の見出しの「年115万円」の中身です。
この差のうち、一番大きいのは補償額の差です。つまり、この運用の効果は「現場が気前よく払うこと」から生まれるのではなく、「問題が小さいうちに、小さい金額で終わらせること」から生まれる、という仮定の上に立っています。この仮定が崩れる会場、つまり、その場で払っても結局後日あらためて請求が来る会場では、差はもっと小さくなります。
感度を見る
後日の補償額の仮定を動かしてみます。その場の補償額は3万円、人件費は上の通りで固定します。
| 後日の補償額 | 持ち帰りの年間合計 | 差(上限超2割を含む運用との比較) |
|---|---|---|
| 5万円 | 約112万円 | 約25万円 |
| 7万円 | 約148万円 | 約61万円 |
| 10万円 | 約202万円 | 約115万円 |
後日の補償額が5万円で済むなら、差は年25万円まで縮みます。それでも、現場の責任者が上限を持つ運用は、赤字にはなりません。逆にいえば、この運用が損になるのは、その場の補償が3万円より大きく膨らむ会場、つまり、上限を決めたことで現場が「3万円まで出していい」と受け取って、本来は謝罪だけで済んだ案件にまで払ってしまう会場です。
この点は、上限の決め方で防げます。
上限額の決め方
上限は金額だけで決めません。僕なら、次の3つを書面にします。
使えるもの、使えないもの
金額の上限だけを渡すと、現場は現金や値引きで払おうとします。それは後から取り消せません。まず使えるものを、取り消しやすい順に並べます。
- 謝罪と、事実の説明
- ドリンクや一品料理のサービス
- 当日の追加の演出や撮影枠(会場の持ち物で、原価が低いもの)
- 後日の料金調整(これは上限の外に置く)
後日の値引きや返金は、現場の責任者に渡さず、上長の判断に残します。現場で決めていいのは、1から3までです。こうすると、上限を3万円と書いても、実際に3万円が出ていく件数は減ります。
誰が使えるか
「責任者」と書くだけでは、その日の誰が責任者なのかが曖昧です。日ごとの当日の責任者を、前日までに名前で決めて、スタッフ全員に伝えます。責任者が不在になる時間帯(休憩中や別の組の対応中)の代わりも、あらかじめ決めます。
使ったあとの報告
上限内で決めたことは、その日のうちに記録します。書く内容は、何が起きたか、誰に何を約束したか、いくら使ったかの3点です。長い報告書はいりません。記録が溜まれば、次の年の上限を見直す材料になります。使った額が上限の半分にも届かない会場は上限を下げ、毎回上限いっぱいまで使っている会場は、そもそも当日の不具合の出方がおかしいので、運用のほうを直します。
上限を超える案件の分け方
上限を超える案件は、持ち帰りになります。ただし、持ち帰るのは「補償の金額」だけです。次のことは、当日のうちに現場で言えるようにしておきます。
- 何が起きたかを、会場として認めること
- 「本日中に、責任者の〇〇から連絡します」という、期限つきの約束
- 二人やゲストの不満を、聞き取って記録しておくこと
金額は持ち帰っても、「会場として話を受け止めた」という部分は当日に終わらせます。僕は、ここを分けるのが一番大事だと思っています。当日の現場で人が不満を抱えるのは、金額が決まらないことより、誰も自分の話を引き受けてくれないことのほうが大きいからです。これは僕の見立てで、数字で確かめたものではありません。
反対の立場から考える
上限を現場に渡す運用には、反対の意見もあるはずです。
「現場が甘くなる」
上限を渡せば、本当は払わなくていい案件に払うようになる、という心配です。これは起こります。対策は、使える手段を取り消しやすいものに限ることと、使ったら全件を記録することです。それでも払いすぎるなら、記録を見て上限を下げれば済みます。上限を渡さずに全件を上長が決める運用では、払いすぎているかどうかを確かめる材料がそもそも残りません。
「不満を言えば払ってもらえると、二人に覚えられる」
これも起こり得ます。ただ、当日に払うのは、会場側に非がある案件だけに絞ります。「料理の味が好みではなかった」のような、会場のミスでない申し出は、上限の対象外にして、謝罪と説明で終わらせます。対象になる案件を、会場のミスと認められるものに限ると、書面に1行書いておけば足ります。
「うちは年間の件数が少ないから、要らない」
年に数件しか起きない会場でも、起きたときの1件は、そこで決められる人がいるかいないかで結末が変わります。件数が少ないほど、現場は経験が無くて迷います。金額の差が小さくても、一人のスタッフが、固まって動けなくなる時間を減らす効果は残ります。
先に決めるときの手順
僕なら、次の順で始めます。
- 過去1年の「当日に何かあった」記録を数える。無ければ、今日から記録を始める
- 件数と、実際に出した補償額の平均を出す
- 使える手段を、取り消しやすい順に並べる
- 上限額を決める。迷ったら、過去1年の補償額の中央値あたりから始める
- 日ごとの当日責任者を、前日までに名前で決める
- 3か月たったら、記録を見て上限を見直す
最初の上限は、仮置きで構いません。決めておけば、見直す材料が残ります。決めていなければ、毎回その場の空気で払う額が変わります。
まとめ
- 当日の不満は、持ち帰ると、人件費も補償額も大きくなりやすい。仮の式場(年120組、不満が出る組は15%)では、上限3万円を現場に渡す運用で、年115万円ほどの差が出る
- この差の大半は、補償額から来る。「問題が小さいうちに、小さい金額で終わらせる」という仮定が効く会場でだけ、この運用は得になる
- 上限は金額だけで決めない。使える手段(謝罪、ドリンクや一品、当日の追加演出)、使える人(日ごとの責任者を名前で)、使ったあとの報告の3つを書面にする
- 後日の値引きや返金は現場に渡さない。上限を超える案件も、「会場として話を受け止める」ところまでは当日のうちに終わらせる
- 数字はすべて仮の前提。まず過去1年の当日対応の記録を数えるところから始める
