引っ越しを控えた二人の式場探しは、入居の翌月に追客日を置く
見学が終わって、反応も悪くなかった。それなのに、追客のメールにも電話にも返事が来ない。式場の営業に関わっている方なら、よくある光景だと思います。
返事が来ない理由は、式場への関心が薄れたからとは限りません。この記事で扱うのは、二人が「引っ越しの最中にいる」ケースです。見学の時点で、引っ越しの予定を口にした二人は、入居の前後に返事が極端に落ちる時期を通ります。その時期に追客を集中させている式場は、返事が来ないまま見切りをつけてしまいます。
結論から書きます。見学の場で「新居の入居はいつ頃ですか」と一言聞き、入居日の翌月に追客日を置く。これだけで、同じ保留の二人から戻ってくる組数が変わる可能性があると、僕は考えています。
先に断っておくと、この記事に出典のある統計は出てきません。「引っ越し前後で返信率がどれだけ落ちるか」を示す調査を、僕は見つけられていません。数字はすべて僕が置いた前提で、モデル計算のために使います。自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。
引っ越しが式場探しに割り込む形
結婚が決まった二人にとって、引っ越しは入籍や式場探しとほぼ同じ時期に来ます。同棲を始める二人もいれば、どちらかの実家を出て新居に移る二人もいます。転勤が決まって動く二人もいますが、その場合は別の記事で書いた段取りが当てはまります。ここで扱うのは、転勤ではなく、結婚をきっかけに二人で住む場所を新しく決める二人です。
引っ越しが式場探しに割り込むと、二人の生活では次のことが起きます。
- 物件探しと内見が週末を埋める。式場の見学と同じ土日の取り合いになる
- 契約、鍵の受け取り、荷造り、各種の住所変更と、平日の夜も細かい用事が続く
- 敷金・礼金・引っ越し業者・家具家電と、まとまった支出が一度に出る。式場の見積もりを見直す気持ちの余裕が減る
- 入居してからも、荷解きと生活の立ち上げで1か月ほどは落ち着かない
つまり、見学で「いいな」と思った二人でも、引っ越しの前後は、式場のことを考える時間と気持ちが両方とも薄くなります。これは式場への不満ではありません。時期の問題です。
式場の追客は、見学のあと3日目、1週間目、2週間目のように、見学日からの経過日数で決めている会場が多いと思います。この決め方だと、二人の生活の状況は一切入りません。引っ越しの真ん中に3回の連絡が重なると、3回とも返事が来ないまま終わります。式場の側は「関心が薄い二人」と判断し、追客を打ち切ります。実際は、入居後に落ち着いた頃に、もう一度式場のことを考え始めたかもしれない二人です。
見学の場で聞く一言
追客の日を二人の都合に合わせるには、二人の都合を知る必要があります。聞くのは見学の場、それも見積もりの説明が終わって、雑談に近い空気になったところが向いています。
聞き方は、次のような一言です。
「お二人は、今のお住まいから引っ越される予定はありますか。あるなら、おおよそいつ頃ですか」
ポイントは三つあります。
一つ目は、結婚の予定を聞くのではなく、生活の予定を聞くことです。引っ越しは、二人にとって答えやすい話題です。「式をいつ挙げるか」には迷いがあっても、「いつ引っ越すか」は物件の契約で決まっていることが多く、はっきり答えられます。
二つ目は、「いつ頃ですか」で止めることです。「入居は何月ですか」と細かく聞くと、尋問のように聞こえます。「来月」「春ごろ」「まだ決めていない」のどれでも、追客の日を決めるには足ります。
三つ目は、聞いた理由を一言添えることです。「連絡するタイミングを、お二人のご都合に合わせたいので」と言えば、売り込みのための質問ではないと伝わります。僕はこの一言があるかどうかで、答えてもらえる率が変わると考えています。ただし、これを裏づけるデータは持っていません。
聞いた答えは、見学の記録に1行だけ残します。「入居:3月ごろ」「引っ越しなし」「未定」の三択で十分です。記録の欄を増やしすぎると、現場が使わなくなります。
答えを三つに分けて、追客の日を決める
答えは三つに分かれます。それぞれで、追客の置き方を変えます。
入居が見学から2か月以内の二人
最も気を配る二人です。見学の直後は、物件の契約と荷造りの真っ最中です。この時期の連絡は、返事を求めずに短く送るだけにとどめます。
見学のお礼は、通常どおり当日か翌日に送ります。これは引っ越しがあっても外しません。ただし、その次の連絡は「入居の翌月」まで空けます。間の1回だけ、返事のいらない連絡を入れる手もあります。内容は、引っ越しへの一言です。「お引っ越しの準備でお忙しい時期かと思います。ご返信は不要です」という文面です。返信不要と書くと、読む負担が下がります。
入居が3か月以上先の二人
見学の直後から入居までに時間があるので、通常の追客でかまいません。ただし、入居の2か月前から連絡を止め、入居の翌月に再開する、という切り替えを入れます。
引っ越しなし、または未定の二人
通常の追客のままです。聞かなかったのと同じ扱いで、何も変えません。この三つ目の分け方が大事です。引っ越しの話を聞いたからといって、全員の連絡を遅らせるわけではありません。変えるのは、はっきり引っ越しが近い二人だけです。
入居の翌月に送る連絡の中身
追客を再開する日は、入居日の翌月の第1週目あたりを目安にします。入居した月は、荷解きで落ち着きません。翌月に入ると、生活が少し回り始めて、次に考えることを探し始める頃だと、僕は見ています。
この連絡の中身は、前に送った営業文面の繰り返しにしません。次の三点を入れます。
- 入居を祝う一言。ただし、見学時に聞いた話の範囲で書く。「3月のご入居と伺っていました」程度の短さにする
- 前回の見学で二人が気にしていた点を一つだけ書く。見積もりの総額なのか、人数なのか、日取りなのか、見学の記録から一つ選ぶ
- 次の一歩を小さくする。「もう一度見学に来てください」ではなく、「気になっている点の資料を送ります」「5分だけ電話で確認できます」のような、負担の小さい選択肢を置く
最後の点は、引っ越し直後の二人の状況に合わせています。引っ越した直後の二人は、週末の予定が荷解きと買い物で埋まっています。2回目の見学のような大きな動きは、まだ頼めません。小さな一歩から再開してもらう設計にします。
仮置きのモデル計算
ここから先の数字は、すべて僕が置いた前提です。実際の会場の数字ではありません。
次の前提を置きます。
- 月の見学が100組で、そのうち契約に至らず保留になる二人が60組
- 保留の二人のうち、見学の場で引っ越しの予定を口にする二人が、仮に20%(12組)
- 引っ越し前後の期間に連絡した場合の返信率が、仮に10%
- 引っ越しの影響がない時期に連絡した場合の返信率が、仮に25%
- 返信した二人のうち、最終的に契約する割合が、仮に20%
この前提で、12組の引っ越し予定の二人について、現状のやり方(見学日からの経過日数で連絡し、引っ越し前後に集中)と、入居の翌月に連絡を置くやり方を比べます。
- 現状:12組 × 返信率10% = 1.2組が返信。うち20%が契約すると、0.24組
- 入居の翌月:12組 × 返信率25% = 3組が返信。うち20%が契約すると、0.6組
差は、月あたり約0.36組です。1年続けると、約4.3組になります。月0.36組は小さく見えますが、前提を置いて計算すると、1年で4組を超えます。見学の場で一言聞き、追客の日を動かすだけの変更としては、小さくない数字だと僕は見ています。
ここで気をつけたいのは、この計算が前提の置き方に大きく左右されることです。たとえば、引っ越し予定を口にする二人が5%しかいなければ、差は1年で約1組まで縮みます。返信率の差が10ポイントしかなければ、差はさらに小さくなります。逆に、自分の会場で引っ越しを控えた二人が多いと分かれば、効果は大きくなります。
だから、この計算をそのまま信じる必要はありません。やる価値があるかどうかは、自分の会場の見学記録で、引っ越し予定の二人がどのくらいいるかを数えれば、すぐに判断できます。
聞くときに避けること
この方法には、いくつか落とし穴があります。
一つは、引っ越しの話を、契約を急がせる材料にしないことです。「引っ越しの前に決めておくと楽ですよ」と言うと、二人は「引っ越しを口実に急かされた」と受け取ります。聞いた答えは、連絡の日を決めるためだけに使います。
もう一つは、引っ越しの理由や同居の事情に踏み込まないことです。聞くのは、時期だけです。同棲の有無、どちらの実家からの引っ越しか、といったことは、二人が話してくれたときだけ受け止めます。
三つ目は、記録に残した情報を、他の用途に使わないことです。引っ越しの時期は、二人にとって個人的な情報です。追客の日を決める目的以外に、勧誘や広告に使うと、信頼を損ないます。見学の記録に残すのは、日付の目安だけにとどめます。
測り方:何を数えて、いつ判断するか
この方法が効いたかどうかは、感覚ではなく数字で確かめます。数えるのは次の二つです。
- 引っ越し予定の二人の、追客への返信率(入居の翌月に送った連絡に対する返信の割合)
- 引っ越し予定の二人の、保留から契約に至った割合
比べる相手は、同じ会場の過去の記録です。引っ越しの予定を聞き始める前の半年間で、保留の二人からの返信率を出しておきます。聞き始めたあとの半年間と比べます。ただし、半年では引っ越し予定の二人の数が少なく、数字が安定しない場合があります。月に引っ越し予定の二人が3組しかいなければ、半年で18組です。そのうちの返信が2組増えたかどうかを見ても、偶然の範囲かもしれません。
判断の目安は、1年です。1年続けて、引っ越し予定の二人からの返信率が、過去より上がっていれば続けます。変わらなければ、聞く手間を減らして「引っ越しなし」の記録だけに戻します。聞く手間は一言なので、大きな負担ではありませんが、効果が見えないまま続ける理由もありません。
もう一つ、記録の取り方についてです。「入居:3月ごろ」のような記録は、あとで集計できる形にしておきます。自由記述で「4月に引っ越し予定とのこと」と書くと、あとで数える手間が膨らみます。月の欄だけを数字で入れる、あるいは「2か月以内」「3か月以上」「なし・未定」の三択にすれば、集計は数分で済みます。
この方法が効かない二人
最後に、この方法が効かない場合を書いておきます。
- 引っ越しとは無関係な理由で保留している二人。たとえば、費用そのものに納得していない二人には、連絡の日をずらしても結果は変わりません
- 入居日が決まっていても、結婚式の日取りを先に決めている二人。日取りが決まっているなら、入居の翌月まで待つと、式場の枠が埋まる場合があります
- 引っ越し先が遠方で、式場の商圏から外れる二人。入居後の見学は、そもそも難しくなります
効かない二人は、見学の場での会話から、ある程度は見分けられます。見学の場で「日取りはもう決めていますか」「引っ越し先はどのあたりですか」の二つを聞き足すと、入居の翌月に連絡を置く意味があるかどうかが分かります。ただし、聞く項目を増やしすぎると見学が事情聴取になるので、引っ越しの時期だけで始めるのが安全です。
まとめ
- 追客を見学日からの経過日数だけで決めると、二人が引っ越しの最中にいるときに連絡が重なり、返事が来ないまま打ち切ってしまうことがある
- 見学の場で「引っ越しの予定はありますか。あるならいつ頃ですか」と一言聞く。理由は「連絡のタイミングを二人の都合に合わせたいから」と添える
- 答えは三つに分ける。入居が2か月以内、3か月以上先、なし・未定。変えるのは、引っ越しがはっきり近い二人だけ
- 入居日の翌月の第1週目あたりに、追客を再開する。中身は入居を祝う一言、前回気にしていた点を一つ、小さな次の一歩にする
- 月60組の保留、引っ越し予定の二人が20%という仮置きでは、年に約4組の差になった。ただし前提次第で大きく変わるので、自分の会場の記録で数えてから判断する
- 聞いた情報は、追客の日を決めるためだけに使う。契約を急がせる材料にしない
- 1年続けて返信率が上がっていなければ、聞く手間を減らして元に戻す
