契約を迷う二人には、契約後に変えられることの一覧を渡す
見学が終わって、見積もりも出して、二人の反応も悪くない。それでも最後に「持ち帰って考えます」と言われる。式場で営業に関わっている方なら、何度も経験した場面だと思います。
結論から書きます。持ち帰る二人の迷いのうち、一部は料金の高さではなく「契約したあとで、どこまで変えられるのか分からない」という不安から来ています。この不安には、値引きよりも、契約後に変えられること、条件つきで変えられること、変えられないことを分けた1枚を渡すほうが、効く場合があると僕は考えています。
先に断っておくと、この記事に出典のある統計は出てきません。「保留した二人の何割が変更の不安で迷っているか」を示す調査を、僕は見つけられていません。数字はすべて僕が置いた前提で、モデル計算のために使います。自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。
二人は「契約」を取り消せない決断として受け取っています
式場の側から見ると、契約書にサインしたあとも、決めることはたくさん残っています。ドレス、料理、演出、招待客の人数。契約の時点では、まだ半分も決まっていません。
ところが、二人の側から見ると、景色が違います。結婚式の契約は、人生でほとんど経験しない大きさの契約です。金額は数百万円になることもあります。そのうえ、何ができるのかを細かく知らないまま、日取りと会場だけを決めるように見えます。
そこで、頭の中にこういう問いが浮かびます。
- 人数が減ったら、どうなるのか
- 料理を変えたくなったら、どうなるのか
- 日取りを動かしたくなったら、どうなるのか
- 親が口を出してきて、中身が変わったら、どうなるのか
- やっぱりやめたくなったら、どうなるのか
この問いに、見学の席で答えが出ていないと、二人は「分からないまま契約するのは怖い」と感じます。そして、その不安を言葉にしないまま、「持ち帰って考えます」と言います。
「持ち帰って考えます」の中身は、一つではありません。他の式場と比べたい、親に相談したい、予算が心配、という理由が混ざっています。その中に、「変えられるかどうか分からない」という理由も混ざっているはずです。ここを切り分けずに、全部を「料金の迷い」として扱うと、値引きを出して終わります。
式場が答えているつもりで、答えきれていない場所
式場の営業は、この質問にすでに答えているつもりでいることが多いです。契約書にも約款にも、キャンセル料の段階表や変更の規定は書いてあります。聞かれたら説明します。
ただ、二人にとっては、この答えが次の三つの理由で届きません。
- 聞かれたら答える、という形になっている。 二人は、変更の可否を聞くこと自体をためらいます。「やめるつもりなのか」と思われそうで、聞きにくいからです
- 契約書の中に散らばっている。 人数の変更は一箇所、日取りの変更は別の箇所、解約は約款の後ろ、と並んでいます。一覧になっていないので、見学の帰りに二人で確かめられません
- 「できます」と「できません」しか書かれていない。 実際には「いつまでなら無料」「この条件なら有料」という中間があり、そこが一番知りたいところです
つまり、情報はあるのに、二人が迷いの最中に使える形にはなっていません。
渡す1枚の作り方
僕が考えている1枚は、表の形です。三つの欄に分けます。
欄1:契約後も変えられること(無料)
ここに入れるのは、契約したあとも、二人の判断で自由に動かせるものです。式場によって中身は違いますが、たとえば次のようなものです。
- 演出の内容
- 席次や席のつくり
- 衣装の選び直し(決める前の段階なら)
- 料理の中身の選び直し(確定日の前なら)
この欄が埋まっていると、二人は「決めたあとでも自由に変えられる範囲が広い」と受け取れます。契約は、すべてを固定することではないと伝わります。
欄2:期限か条件つきで変えられること
ここが一番大事です。無料で動かせる期限、動かすと費用が出る条件を、期限と一緒に書きます。
- 人数の増減:確定日はいつか、それまでは何人まで無料か
- 日取りの変更:何か月前までなら料金が出ないか
- プランの変更:変えると差額がどう出るか
書き方の工夫は、期限を「挙式の何か月前」で書き、さらに「二人の場合はこの日」と、実際の日付を添えることです。「3か月前」と書いてあるだけでは、二人は自分たちの日程に引き直せません。引き直す作業が面倒だと、この欄は読まれなくなります。
欄3:変えられないこと、戻らないこと
最後に、変えられないことを正直に書きます。
- 内金の扱い(戻る条件、戻らない条件)
- キャンセル料が発生する時期と段階
- 一度決まったら動かせない日取り(人気日など)
この欄を見せるのは、勇気が要ります。見せたら不安が増えるのでは、と考えるのは自然です。ただ、僕は逆だと考えています。二人は、変えられないことがあるのは分かっています。分からないのは「何が変えられないのか」です。範囲が見えれば、残りの大きな部分は安心して決められます。
渡すタイミングは見学の最後ではなく、持ち帰る直前
この1枚を、見学の最初に出すのはおすすめしません。最初に出すと、二人は契約の話をされたと身構えます。
渡すのは、二人が「持ち帰って考えます」と言いかけた直後です。言い方は、たとえばこうです。
「お持ち帰りになるときに、決めたあとで何が変えられるかを1枚にまとめたものがあります。迷われるところだと思うので、よければ見てください」
売り込みの言葉は入れません。説得もしません。渡すだけです。二人が自分たちで読み、パートナーと話し、必要なら親に見せられる形で持ち帰れることが目的です。
見学の席で口頭で説明するだけでは足りません。持ち帰りの場面は、二人が式場を離れて、駅やカフェで話す場面です。そこで見返せる紙かPDFがあるかどうかで、迷いの質が変わります。
仮置きのモデル計算:月1.2組の差は小さいか
では、この1枚で何が変わるのか。出典がないので、前提を置いて計算します。数字は全部、僕が置いたものです。
前提は次のとおりです。
- 月に見学に来る組:30組
- 成約率:30%(月9組が契約)
- 見学したが、持ち帰ったまま戻らない組:月12組
- 戻らない12組のうち、「変えられるかどうか分からない」が理由の組の割合:20%(月2.4組)
- その2.4組のうち、1枚を渡して契約に戻る組の割合:50%
この前提で計算すると、1枚で戻る組は 12組 × 20% × 50% = 月1.2組です。年に直すと14.4組、成約率は30%から34%に上がります。
ただし、この前提は動かしてみる必要があります。理由の割合と戻る割合を変えると、結果はかなり幅を持ちます。
- 理由の割合10%・戻る割合25%:月0.3組(年3.6組)
- 理由の割合10%・戻る割合50%:月0.6組(年7.2組)
- 理由の割合20%・戻る割合25%:月0.6組(年7.2組)
- 理由の割合20%・戻る割合50%:月1.2組(年14.4組)
- 理由の割合30%・戻る割合25%:月0.9組(年10.8組)
- 理由の割合30%・戻る割合50%:月1.8組(年21.6組)
一番厳しい想定でも、年に3.6組です。一番甘い想定では、年に21.6組になります。この幅の中で、自分の会場の数字がどこに入るかが問題です。
作る手間は、1枚をつくる数時間と、契約書の変更規定を見直す作業です。人気日の1組、あるいは数組を取り戻せるなら、手間は十分に回収できる範囲だと僕は考えます。ただし、これは前提を置いた計算です。実際に月0.3組しか動かない会場もあると思います。
この1枚が効かない二人
効かない場面もあります。先に書いておきます。
- 迷いの理由が料金そのものの二人。 総額が予算を超えている二人には、変更の一覧を渡しても動きません。予算の話は別の手当てが要ります
- 他の式場と比べている最中の二人。 比較が終わるまで決められないので、この1枚は比較の材料にしかなりません。ただし、他の式場がこの種の一覧を出していなければ、比較の軸を自分の式場に有利に動かす材料にはなります
- 変更の可否が実際にとても少ない会場。 欄1がほとんど空で、欄3だけが長い場合、この1枚は逆効果になります。まず、変えられる範囲を広げられないか、式場の側で見直す必要があります
3つめは大事なところです。この1枚は、営業のためのコピーではなく、式場の契約条件を二人の目線で棚卸しする作業です。作ってみて欄1が貧弱なら、契約条件そのものを見直す機会になります。
作るときに守る4つのこと
1枚を作るときに、僕が気をつけたいと考えているのは次の4点です。
- 契約書と一字一句そろえる。 一覧と契約書で期限が違えば、信頼がなくなります。作るときに約款と突き合わせ、約款を改定したら一覧も同時に直します
- 営業担当が口頭で約束を足さない。 一覧に書いてあることだけが約束です。「たぶん融通が利きます」と口頭で足すと、後のトラブルになります
- 「ただし」を一覧の中に入れる。 条件を省略して、できる面だけを大きく書くと、二人は後で「聞いていない」と感じます。条件は小さい字にせず、欄2に正面から書きます
- 更新日を入れる。 規定は変わります。古い一覧が二人の手元に残るのを防ぐために、作成日か改定日を入れます
測り方:何を数えて、いつ判断するか
効いたかどうかは、感覚ではなく数字で見ます。数えるものは3つです。
- 「持ち帰り」と言った組のうち、1枚を渡した組の数
- 渡した組のうち、後日契約になった組の数(渡さなかった組との比較)
- 契約になった組から聞いた、一覧が役に立ったかどうか(成約者アンケートの1問)
注意点が一つあります。渡した組と渡さなかった組を比べるとき、渡すかどうかを営業が選んでいると、迷いの深い二人にだけ渡す傾向が出て、比較が歪みます。最初の2〜3か月は、持ち帰りを告げた全員に渡す運用にして、同じ条件で数えるほうがよいです。
判断の目安は、3か月分の組数です。月30組の会場なら、持ち帰りは3か月で数十組です。数十組の差は、たまたまの揺れで説明できてしまうこともあります。だから、数か月の動きを見たうえで、続けるかどうかを決めます。1か月だけ見て、止めるか広げるかを決めるのは早すぎます。
まとめ
- 持ち帰る二人の迷いには、料金だけでなく「契約後に何が変えられるか分からない」という不安が混ざっていると考える
- 契約書に情報はあるが、聞きにくく、散らばっていて、中間の条件が見えない。二人が迷いの最中に使える形になっていない
- 1枚を三つの欄に分ける。契約後も無料で変えられること、期限か条件つきで変えられること、変えられないこと
- 欄2には「挙式の何か月前」だけでなく、二人の日程に引き直した実際の日付を添える
- 渡すのは見学の最初でも最後の説明でもなく、「持ち帰って考えます」と言いかけた直後。説得せず、渡すだけにする
- 仮置きのモデルでは、月30組・成約率30%の会場で、最大の想定で年21.6組、最小の想定で年3.6組。幅が大きいので、自分の数字で置き直す
- 料金そのものが理由の二人や、比較の最中の二人には効きにくい。欄1が貧弱なら、契約条件の見直しが先
- 契約書との一致、口頭の上乗せをしないこと、条件を省かないこと、更新日を入れることを守る
- 最初の数か月は持ち帰りを告げた全員に渡し、数か月分の動きで続けるかを決める
