業界動向

婚姻が0.8%増えても、商圏の式場1つあたりでは年1.5組。近くに式場が1つ開くと、既存の1会場は年6〜7組を失いうる

2025年の婚姻件数は48万9,158組で、前年より4,066組、率にして0.84%増えました。2年連続の増加です。ニュースの見出しだけを見ると、少し明るい話に読めます。

ただ、この増加分を自分の商圏の式場1つに割ると、年に1.5組にしかなりません。一方で、同じ商圏に年90組を受ける式場が1つ開くと、既存の式場が失う組数は1会場あたり6〜7.5組です。全国の婚姻の微増と、近所の新規開業では、現場に届く大きさが4〜5倍違います。

今日は、この2つを同じ物差しで並べます。使う公表値は婚姻件数、披露宴の実施率、会場を決める時期の3つだけで、残りは僕が置いた前提です。商圏も式場も実在のものではなく、割り算の形を見るための仮の数字です。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

使う数字と置いた前提

公表値は次の3つです。

  • 2025年の婚姻件数は48万9,158組。前年より4,066組、0.84%の増加です(厚生労働省の人口動態統計、確定数)。概数の段階では48万9,119組で、確定数での修正は小さいものでした
  • 披露宴・ウエディングパーティーをした人の割合は43.1%です(リクルート ブライダル総研の結婚マーケット調査2025)
  • 二人が会場を探し始めるのは挙式の平均9.9か月前、決めるのは8.3か月前です(リクルートのゼクシィ結婚トレンド調査2024)

ここから先は、僕が置いた仮の前提です。

  • 商圏の婚姻件数は年5,000組
  • 披露宴をする割合は全国と同じ43.1%なので、披露宴をする組は5,000 × 43.1% = 2,155組
  • 商圏には披露宴を受ける式場が12会場あり、規模はどこも同じ。1会場あたり年約180組
  • 1組あたりの粗利は140万円

粗利の140万円も仮置きです。実際の値は会場ごとに大きく違うので、ここは自分の数字に差し替えてください。他の前提を動かさなくても、粗利だけを変えれば金額は比例して変わります。

商圏の婚姻件数5,000組は、人口でいえば中規模の市とその周辺を思い浮かべた、ざっくりした大きさです。大事なのは大きさそのものではなく、婚姻の増加率と開業の規模を同じ商圏に載せて比べる、という形のほうです。

婚姻が0.84%増えると、1会場に何組が届くか

まず、婚姻が全国と同じ0.84%だけ、この商圏でも増えたとします。

  • 披露宴をする組は、2,155組から約18組増えます
  • 12会場で均等に分けると、1会場あたり1.5組です
  • 粗利140万円なら、年に約210万円です

年180組を受けている会場にとっては、0.8%強の増加です。営業の努力がうまくいった年のブレや、1組のキャンセルで消える大きさで、増えたことが自社の数字から読み取れるかどうかも怪しいくらいです。

ここで見落としやすい点が2つあります。

1つ目は、全国で増えた分が、どの地域にも均等に降ってくるわけではないことです。婚姻件数は都道府県ごとに増減がばらけるので、全国で0.84%増えても、自分の商圏で増えているかどうかは別の話です。全国の見出しは、自分の商圏の数字の代わりにはなりません。

2つ目は、増えた婚姻がすべて披露宴をするわけではないことです。43.1%という実施率は、披露宴をしない二人が過半数いるという意味でもあります。仮に増えた婚姻の中身が、式をしない層に偏っていれば、披露宴の組は18組よりさらに少なくなります。逆の偏りもありえますが、どちらに偏っているかは全国の数字からは分かりません。

つまり、婚姻の増加は「追い風」ではあっても、1会場の売上計画を動かす大きさにはなりにくい、というのがこの計算の読み方です。

近くに1会場が開くと、何組が動くか

次に、同じ商圏で、年間の受け入れが90組の式場が新しく開いたとします。立ち上がりの途中ではなく、軌道に乗った状態の話です。

90組はどこから来るのか。ここに前提が1つ要ります。新しい式場の存在が、これまで披露宴をしなかった二人を呼び込むこともあるので、90組のうち何割が新しい需要で、何割が既存の式場から動いたかを分けて見ます。

新しい需要の割合 既存の式場から動く組数 既存12会場で均等に割った減少(1会場) 粗利に直すと
0% 90組 7.5組 約1,050万円
20% 72組 6.0組 約840万円
40% 54組 4.5組 約630万円

新しい需要が4割あると置いても、既存の1会場は年4.5組を失います。婚姻の増加で届く1.5組の3倍です。新しい需要が0%なら、7.5組で5倍になります。

どの置き方でも、近所に1会場開いたときの影響は、婚姻が全国並みに増えたときの増加分を、上回る結果になります。「商圏の婚姻が増えたから、開業の影響は吸収できる」とは、この計算では言えません。

婚姻の増加で90組を埋め合わせるには、何%増えればいいのか。90組の8割にあたる72組を、披露宴をする2,155組の増加でまかなうなら、必要な増加率は3.3%です。全国の増加率0.84%が続いたとして、複利で約4年かかります。開業は一度に起きるのに、婚姻の増加は毎年少しずつしか貯まりません。

均等に割ってはいけない場面

ここまでは、12会場に均等に影響が出るという前提でした。これがいちばん現実に合わない部分です。

新しい式場が奪うのは、価格帯・会場のタイプ・立地が近い会場の組です。ゲストハウス型の新規開業は、同じゲストハウス型の会場から二人を取り、ホテルや神社の披露宴会場とは、あまりぶつからないことがあります。

仮に12会場のうち、新規開業と価格帯もタイプも重なるのが4会場だけだったとします。この4会場で、動く組を分けます。

  • 新しい需要が0%:90 ÷ 4 = 22.5組(粗利で約3,150万円)
  • 新しい需要が20%:72 ÷ 4 = 18組(粗利で約2,520万円)
  • 新しい需要が40%:54 ÷ 4 = 13.5組(粗利で約1,890万円)

年180組を受けている会場にとって、18組は1割です。ここまで来ると、営業の努力で誤差として吸収できる大きさではありません。

同じ商圏で、同じ開業なのに、重なる4会場には年13〜22組、重ならない8会場には年0組近い、という分かれ方になります。「商圏に1会場開いた」という事実だけでは、自分が4会場側なのか8会場側なのかが分かりません。見るべきは、自社と開業する会場が、二人の見学候補の中で同じ棚に並ぶかどうかです。

二人が見学する会場は平均2.6軒(ゼクシィ結婚トレンド調査2024)です。この2.6軒に自社と新規の式場が一緒に入る確率が高いほど、4会場側に近くなります。逆に、新規の式場と自社が同じ二人の候補に並ぶことがほとんどなければ、均等割りよりもさらに影響は小さくなります。

影響が出る順番

もう一つ、婚姻の増加と新規開業では、数字に出てくる順番が違います。

二人が会場を探し始めるのは挙式の平均9.9か月前で、決めるのは8.3か月前です。つまり、今年の婚姻の増減が式場の挙式件数に届くのは、契約が決まった時点から見て、その8か月ほどあとです。入籍の年と挙式の年がずれる二人も多いので、実際にはもっと幅があります。

婚姻の増加が「契約の数」として見えるのは、二人が会場を探し始める時期、つまり来館の予約が入る時期です。式場にとって、婚姻の増加はまず来館数の増加として見えて、挙式件数として見えるのはさらにあとになります。

新規開業は、順番が逆です。

  • 開業が発表された時点で、迷っている二人の候補に1軒が加わる
  • 開業後の最初の数か月は、見学の比較先として入ってくる。契約が取られるのは、そこから数週間から数か月のあと
  • 既存の式場の挙式件数に影響が出るのは、契約から挙式までの約8か月後

数字としては、まず来館の成約率や、同じ二人の取りこぼしが先に動きます。挙式件数の減少として見えるのは、さらに1年近くあとです。

このずれには、判断を遅らせる効果があります。来館数が少し減っても、成約率が少し下がっても、季節や広告の出稿状況のせいに見えます。挙式件数が減ったことに気づいたときには、契約はとっくに失われていて、取り戻せる手が残っていません。

開業を前に動かす数字

開業の情報を耳にしたとき、確かめておく数字を3つに絞ります。

1つ目は、自社の成約率の推移です。月ごとの成約率は揺れますが、来館が同じ程度で成約率だけが下がっていれば、別の会場に取られている可能性があります。成約率は1ポイントの変化で気にしても意味がないくらい揺れるので、3か月分をまとめて前年と比べるほうが安全です。

2つ目は、失注した二人がどこで決めたかです。来館のアンケートや、断りの連絡で聞ける範囲でかまいません。新しい式場の名前が数件でも出始めたら、4会場側にいる可能性が高くなります。

3つ目は、見学の予約時点での競合の名前です。予約フォームに「ほかに見学した(予定の)会場」を任意で聞いておくと、二人の候補の中で自社がどこと並んでいるのかを、契約の前に見られます。これは新規開業に限らず、日常の競合把握として役に立ちます。

反対に、全国の婚姻件数の発表を見て、自社の来年の件数を直接変える必要はありません。全国の婚姻の0.84%の増加は、1会場に1.5組という大きさです。計画を変える材料には、足りません。

計画に入れる数字の置き方

1会場の中期計画に入れる数字は、次のように置くのが無難だと僕は考えています。

  • 婚姻の増減は、自社の商圏の数字を、市区町村単位で自分で見る。全国の見出しは、参考にとどめる
  • 新規開業・閉館・リニューアルは、計画の前提に1行ずつ書く。開業なら、自社と価格帯が重なるかどうかで、影響を4会場側か8会場側かに分ける
  • 開業の影響を見積もるときは、均等割りを出したうえで、「重なる会場だけで割った数字」も並べる。2つの幅が、そのまま計画のリスクの幅になる

婚姻の微増は嬉しい話ですが、年1.5組を理由に、営業の人員やフェアの出稿を増やす根拠にはできません。逆に、近所の開業は、年6〜7組、重なる会場なら13〜22組の動きにつながりえるので、こちらのほうが先に手を打つ価値があります。

まとめ

  • 2025年の婚姻件数は48万9,158組で、前年より4,066組(0.84%)増えました。仮の商圏(婚姻5,000組、式場12会場)に当てはめると、1会場あたり年1.5組、粗利で約210万円です
  • 同じ商圏に年90組を受ける式場が開くと、既存の1会場は、新しい需要が0〜4割の置き方で、年7.5〜4.5組を失います。婚姻の増加で届く1.5組の3〜5倍です
  • 90組の8割を婚姻の増加で埋めるには、商圏の披露宴をする組が3.3%増える必要があります。全国並みの0.84%の増加が続くとして、約4年分です
  • 影響は均等には出ません。価格帯とタイプが重なる4会場だけで割ると、1会場あたり年13.5〜22.5組、年180組の会場なら最大で1割を超えます
  • 婚姻の増加は来館数に先に出て、挙式件数には約8か月のあとに出ます。開業の影響は成約率に先に出て、挙式件数に出るのは1年近くあとです
  • 計画に入れるのは全国の婚姻の見出しではなく、自社の商圏の婚姻と、近隣の開業・閉館の一覧です。開業は重なる会場かどうかで、影響の大きさが大きく変わります