見学中に二人が他式場を調べ始めたら、止めずに比べる軸を決める
見学の途中で、二人のどちらかがスマホを取り出して画面を見始める。案内している側は「ほかの式場の料金を見ているのかな」と気になりますが、何も言えず、そのまま説明を続けてしまう。この場面の話です。
結論から言うと、止めない方がいいと僕は考えています。ただし、気づかないふりもしません。おすすめは、二人が比べたい軸を一緒に決めて、その軸の答えを見学の中で出すことです。この記事では、なぜ止めると損をするのか、軸をどう決めるのか、決めた軸でどう案内を組み替えるのかを、順に整理します。
なお、この記事の中身は現場の段取りと判断の考え方です。出典のある調査の数字は使っていません。試算は仮の前提を置いた計算で、自社の実績ではありません。
スマホを見る二人は、もう比べている
まず前提を置きます。見学に来た二人は、すでに複数の式場を候補にしていることが多いはずです。1社だけを見て決める二人もいますが、見学の予約を取った時点で、頭の中にはほかの候補がいます。つまり、見学中にスマホを開くかどうかにかかわらず、二人は比べています。スマホを開くのは、比べる作業が目に見えただけです。
ここで案内する側に起きる反応は、大きく3つです。
1つ目は、気づかないふりをして説明を続けること。二人の意識は画面に向いているので、説明は耳に入りません。話した内容が残らないまま、見学の時間だけが過ぎます。
2つ目は、さりげなく止めること。「こちらの写真もご覧ください」と画面から目をそらさせる言い方がその例です。二人からすると、確認したいことを確認させてもらえない状態です。止められた不満は、式場への印象に残ります。
3つ目は、何を見ているのか聞いてしまうこと。聞き方によっては詮索に聞こえます。「どこの式場ですか」と聞かれて、素直に答える二人は多くないと思います。
どの反応も、二人が比べる作業を、案内の外に置いてしまいます。比べる作業が案内の外にある限り、式場は二人が何を基準に比べているのかを知ることができません。知らないまま、自社の強みを順番に説明することになります。
止めた場合と、軸を決めた場合の違い
違いを一言で言うと、「二人の比べる基準が、式場に見えるかどうか」です。
止めた場合、二人は式場の目を避けて、見学の後に自宅で比べます。そのとき使う基準は、料金の総額、写真の見た目、口コミの星の数のように、その場で拾いやすいものに寄りがちです。式場の側が見学で伝えたかった、料理の質、担当者の対応、日程の取りやすさは、基準に入らないまま比べられます。
軸を決めた場合、二人が基準を言葉にします。たとえば「総額と、日程の自由度と、料理」。この3つが出れば、見学の残りの時間を、この3つの答えを出すために使えます。式場が選ばれるかどうかは、その軸で勝てるかどうかに変わりますが、少なくとも二人の比べる土俵が見えているので、勝てない軸なら正直にそう伝えて、二人が後から「聞いてなかった」と感じる状況を避けられます。
ここは経営の数字に結びつきます。見学の目的は、成約率を上げることです。成約率は、見学の中で二人が決める基準に、自社が合っているかどうかでほぼ決まります。基準が見えない見学は、的を見ずに矢を放っている状態に近いと考えています。
比べる軸を決める、具体的な言い方
では、スマホを開いた二人に、どう声をかけるか。ポイントは、「何を見ているか」を聞かず、「何を比べたいか」を聞くことです。前者は相手の画面を聞く質問で、後者は二人の基準を聞く質問です。
使いやすい言い方を3つ挙げます。
1. 比べる前提で話を始める
「見学のあとに、ほかの式場さんとも比べられると思います。そのときに迷わないよう、お二人が一番大事にしたいことを先に聞いてもいいですか」
二人が比べていることを、式場が先に認めてしまう言い方です。比べることを責められないと分かると、二人は軸を話しやすくなります。
2. 軸を3つまでに絞ってもらう
「大事にしたいことを、3つだけ挙げるとしたら何になりますか」
3つにする理由は、軸が5つも6つもあると、どの式場も一長一短になって決められなくなるからです。3つなら、順位がつけやすく、見学の残りの時間でそれぞれに答えを出せます。3つという数に特別な根拠はなく、僕が現場の話から考えた、ちょうどよい数です。
3. 迷う軸には、答えを出す時間を作る
「お二人にとって、いちばん迷うのはどれですか」
もっとも迷う軸は、二人がまだ答えを持っていない軸です。ここに式場の説明が入ると、決め手になりやすい。逆に、すでに二人の中で答えが出ている軸に、長い説明は要りません。
この3つの流れを、見学の中盤、会場の案内が一巡したあたりで入れます。冒頭に入れると二人がまだ式場を見ていないので答えられず、終盤に入れると見学の時間が足りなくなります。
勝てない軸が出たときの扱い方
二人が挙げた3つの軸のうち、自社が弱い軸が入っていることがあります。たとえば「総額をできるだけ抑えたい」と言われたのに、自社の料金帯は高めだった場合です。
ここで、弱い軸を隠したり、話をそらしたりすると、二人は後で気づきます。見積書を並べて比べれば、すぐに分かることだからです。見学の中で気づかなかったとしても、数日後に別の式場の見積もりを見たとき、「ここは高かった。説明もなかった」という印象になります。
そこで、弱い軸は先に認めて、その軸の中で動かせる部分を示します。
- 「総額は、他社さんと並べると高く見えると思います。その代わり、人数を減らしたときに下がる項目と、下がらない項目をここでお見せします」
- 「日程の自由度は、土日は埋まりやすいです。平日であれば、この条件で空きがあります」
こうした答え方は、売り込みに見えにくく、二人の基準に正面から向き合っているように見えます。ここまで説明すれば、二人が持ち帰ったあとに、他社の見積書と並べても、ぶれにくくなります。
もちろん、それでも弱い軸が決め手になる二人は、成約しないでしょう。それは仕方がありません。ただ、「合わない二人を見学の中で見分けられる」ことには価値があります。後で追客に時間を割く相手と、割かない相手を分けられるからです。
前提つきの試算:損得はどれくらいか
ここで、仮の数字を置いて、軸を決める対応が割に合うかを確かめます。すべて想定で、実績ではありません。
仮の前提です。
- 月の見学が100組ある
- そのうち2割の20組は、見学中にスマホで他式場を調べ始める
- 調べ始めた二人の成約率は15%、調べなかった二人は30%
- 調べ始めた二人に「比べる軸を決める」対応をすると、成約率が15%から20%に上がる(これも仮の想定)
計算すると、現状の成約は、20組×15%+80組×30%で、月27組です。対応を変えた場合は、20組×20%+80組×30%で、月28組。差は月1組です。
1組増えたときの価値を見積もるために、さらに仮の前提を置きます。1組あたりの売上を300万円、粗利率を30%とすると、粗利は90万円です。月1組の増加は、粗利で月90万円の差になります。
もちろん、この数字は仮の前提の上に立っています。実際の式場では、スマホを開く組の割合も、成約率も違います。大事なのは、数字そのものではなく、次の2点です。
- 見学中にスマホを開く二人は、全体の一部でしかないが、成約率が低い層になりやすいので、改善の余地が大きい
- 改善にかかるコストは、声かけの練習だけで、費用はほとんどかからない
もし、自社の数字で確かめるなら、見学の記録に「見学中にスマホを使っていたか」を1項目足し、その組と、そうでない組の成約率を3か月ほど並べてみてください。差がほとんどなければ、この対応に力を入れる必要はありません。差が大きければ、対応を変える価値があります。
決めた軸は、見学後の連絡にも使う
軸を決めた効果は、見学の中だけで終わりません。二人が挙げた3つの軸は、見学後のお礼の連絡や、追客の内容にも使えます。
たとえば、見学の翌日に送る連絡では、一般的なお礼ではなく、「見学の中で、総額・日程の自由度・料理の3つを大事にされると伺いました。この3つについて、先ほどお見せできなかった資料を添えます」と書きます。二人が口にした言葉をそのまま使うので、定型文より読まれやすいはずです。
この連絡は、他社と比べている最中の二人に対して、比べる材料を式場の側から渡す役割を持ちます。二人が自宅で比べるときに、自社の資料が、二人の挙げた軸にそって手元にある状態を作れるわけです。
なお、見学の記録には、二人が挙げた3つの軸を、そのままの言葉で残しておきます。担当者が替わっても、次の連絡で軸がぶれないようにするためです。
やらない方がいい声かけ
最後に、避けた方がいい声かけをまとめます。
- 「どちらの式場とお比べですか」と、他社の名前を聞く
- 「うちが一番お得ですよ」と、比較の結論を先に言う
- 「今日決めていただければ特典が」と、スマホを見る時間を断ち切るように期限を出す
- 二人がスマホを見ている間、説明を続ける
特に、期限を出して画面から目をそらさせる声かけは、逆効果になりやすいと考えています。比べたい気持ちを、押さえつけるものに聞こえるからです。比べることを前提にして、その比べ方を手伝う方が、最終的に二人の信頼を得やすいはずです。
まとめ
- 見学中にスマホを開く二人は、すでにほかの式場と比べている。スマホを開くことは、比べる作業が目に見えただけ
- 止める、気づかないふりをする、何を見ているか聞く、のどれもが、二人の比べる基準を式場から見えなくする
- 「何を見ているか」でなく「何を比べたいか」を聞き、軸を3つまでに絞ってもらう
- 声かけは、会場の案内が一巡した中盤に入れる
- 勝てない軸は隠さず先に認め、その軸の中で動かせる部分を示す
- 仮の前提で試算すると、スマホを使う20組の成約率が15%から20%に上がるだけで、月1組・粗利で月90万円の差になる
- 自社で確かめるには、見学記録に「スマホ使用の有無」を足して、成約率を3か月並べる
- 二人が挙げた軸の言葉は、見学後のお礼の連絡にもそのまま使う
