式場見学に遅れる二人には、案内を縮める前に見たい場所を聞く
見学の予約時刻の10分前に、電話が鳴ります。「すみません、電車が遅れていて、20分ほど遅れそうです」。
土日の見学が詰まっている式場なら、ほぼ毎週のように起きる場面だと思います。このときの現場の動きは、だいたい二つに分かれます。ひとつは、次の組があるので案内を短くして、会場を駆け足で回ること。もうひとつは、「また日を改めましょうか」と、その場で見学を流してしまうことです。
僕はどちらも、成約の取りこぼしにつながりやすいと考えています。結論は、案内を縮める前に、二人がいちばん見たい場所を聞くことです。そのうえで、残り時間で見せられる場所を決め、見られなかった場所には再訪の日を先につけておく。これだけで、遅れてきた見学の質はかなり守れます。
この記事に出典の数字はありません。後半に出てくる数字は、僕が置いた仮のものです。業界の平均ではありません。判断の条件と段取りの話として読んでください。
遅れてきた二人は、すでに焦っています
まず、遅れて着いた二人の状態を考えます。予約に間に合わなかった二人は、申し訳なさと焦りを抱えて入口に立っています。「時間を押してしまった」「担当の人に迷惑をかけた」と思っているので、案内が始まっても、質問を控えます。
見学は、二人が会場を見ながら「ここで自分たちの式が開けるか」を確かめる時間です。確かめるには、質問と、立ち止まって眺める余白が要ります。焦っている二人は、その両方を自分から手放します。「大丈夫です、急ぎましょう」と言ってしまう。
そこへ式場側が「お時間が限られていますので」と早足で案内を始めると、二人の遠慮はさらに強まります。見学が終わったとき、二人の手元に残るのは、写真で見たのと変わらない会場の印象と、慌ただしかったという記憶です。
遅刻そのものは、成約を妨げません。妨げるのは、遅刻した見学が、見たかったものを見ないまま終わることです。ここを分けて考えると、式場が打てる手が見えてきます。
時間が足りないとき、削られるのは二人が見たかった場所です
通常の見学は、同じ順番で組まれていることが多いと思います。挨拶、会場の案内、チャペル、披露宴会場、控室、試食、見積もりの説明。この順番は、式場の側が「見せたい順」で作ったものです。
遅れた分を取り戻そうとすると、後ろから削られます。試食が短くなる。控室を飛ばす。見積もりの説明は「あとで資料をお送りします」になる。ところが、二人が今日いちばん見たかったのは、まさにその後ろにある場所だった、ということが起こります。
たとえば、親に反対されている二人は、親が気にする料理を確かめたくて来ているかもしれません。人数が多い二人は、披露宴会場の席の並びだけが知りたいかもしれません。予算に不安がある二人は、見積もりの中身を聞きたくて予約したのかもしれません。
式場の「見せたい順」と、二人の「見たい順」は、必ずしも重なりません。時間に余裕がある日は、順番が違っていても、全部見るうちに二人の見たいものにも行き当たります。時間が足りない日は、そうはいきません。
削る前に聞く2つのこと
そこで、二人が到着したら、案内を始める前に、2つのことを聞きます。
ひとつめは、今日いちばん見たい場所です。「お時間が限られているので、今日は一番ご覧になりたいところから回りますね。どこから見ましょうか」と聞きます。質問というより、順番を二人に渡す言い方です。遅れたことを責めていないという合図にもなります。
ふたつめは、帰りの時刻です。二人の側にも次の予定があるかもしれません。「このあと、ご予定は大丈夫ですか」と聞いておく。式場の次の組の都合ばかり気にしていると、二人も予定を抱えていることを見落とします。二人が時間に余裕を持てるなら、案内を縮める必要はそもそもありません。
この2つを聞くのに、30秒もかかりません。ところが、これを聞かずに回り始めた見学と、聞いてから回り始めた見学とでは、二人の持ち帰る満足度が違ってきます。僕は、ここが遅刻した見学の分かれ目だと思っています。
残り時間は、仮に数字を置くと見えやすくなります
では、実際にどのくらい時間が残るのか。僕が置いた仮の数字で考えます。業界の平均ではないので、自分の式場の数字に置き換えて読んでください。
仮に、見学の枠を90分とします。二人が20分遅れて着いたとき、そのまま終わりの時刻を動かさなければ、案内に使えるのは70分です。次の組との間に15分の余白があるなら、その余白を使って、案内は最大85分まで延ばせます。
こうして見ると、「20分遅れたから、案内を20分削る」は、必ずしも必要ではありません。余白を使えば、削るのは5分程度で済みます。ところが、現場では余白の存在が忘れられて、「遅れた分だけ短くする」が反射的に起きます。
反対に、次の組との間に余白が無い式場もあります。その場合は、70分の中に、二人がいちばん見たい場所を入れる設計が要ります。70分あれば、チャペルと披露宴会場、見積もりの説明の3つは回せる、というように、見せる場所を数える。数えたうえで、入りきらない場所を決めます。
この計算は、遅れの連絡が来た時点でできます。電話を受けた担当が、次の組の時刻と余白を見て、「85分まで使える」「70分しか使えない」を先に出しておく。二人が着いたときには、案内の設計はもう済んでいます。
縮めた見学は、成約率をどれだけ下げるのか
案内を縮めると、成約率がどれだけ下がるのか。これは、式場ごとに違う数字で、僕は業界の数字を知りません。だから、仮の数字で、損得の大きさを見てみます。
仮の前提を置きます。
- 遅れて着く見学が、月に6組ある
- 通常の見学の成約率が25%
- 1組の成約で残る粗利が100万円
案内を縮めても成約率が変わらないなら、損は出ません。月の期待粗利は 6組 × 25% × 100万円 = 150万円です。ここで、縮めた見学の成約率が3ポイント下がると、期待粗利は132万円になり、18万円が減ります。5ポイント下がれば30万円、10ポイント下がれば60万円の減りです。
つまり、遅れた見学の扱いで、月に数十万円の差が出うる、というのがこの仮の計算です。数字は仮ですが、構造は変わりません。遅れる見学は、数は多くなくても、1組あたりの粗利が大きいので、扱いが雑だと目立つ額になります。
逆に言うと、案内を縮めても成約率が変わらない式場は、この記事の対象ではありません。自分の式場で、遅れて着いた見学の成約率と、通常の見学の成約率が違うのかを、一度だけ見てみてください。記録があれば、半年分で足ります。見学の記録に「遅れた」の一言を足しておくだけで、後から比べられます。
見られなかった場所には、再訪の日を先につけます
70分で、二人が見たい場所が全部は入りきらない日があります。このとき、見られなかった場所を「次の機会に」と曖昧にして終わらせないことです。
前に別の記事で、会場を見せられない日は再訪日を決めるという話を書きました。遅れた見学も同じ構造です。見られなかった場所があるのは、二人にとって保留の理由になります。保留の理由が一つに絞れているのは、悪いことではありません。その理由を解く日を、帰る前に決めてしまえば済みます。
言い方の例です。「今日は披露宴会場とチャペルをご覧いただきました。控室と試食は、次回ご来館のときにご案内しますね。来週の土日で、お時間の取りやすいのはどちらでしょうか」。
ここで大事なのは、二人に日を選んでもらうことです。「また日が決まったらお知らせください」だと、二人の側に宿題が残ります。式場が候補を2つ出して、二人が選ぶ形にすると、二人は選ぶだけで済みます。
再訪が決まった見学は、1回目の見学が終わった時点で、次の来館の約束が入っています。遅れたことが、結果として、2回目の来館を作ったことになります。これは、時間に余裕がある通常の見学では起きにくい形です。
遅れの連絡を受ける電話で、先にしておくこと
遅れの連絡を受けた担当は、電話口で慌てがちです。ここでしておくことを、順番に並べます。
- 「気をつけてお越しください」と先に言う。遅れを責めない
- 到着の見込み時刻を聞く。「20分」と言われても、駅からの移動を足して、実際は30分かもしれない
- 今日の見学で、特に見たい場所があるか聞く。この時点で聞いておくと、到着後の30秒が節約できる
- 次の組の時刻と余白を見て、使える時間を頭の中で出しておく
- 到着したら、使える時間と回る場所を二人に伝える。「◯時まで、ゆっくりご案内できます」と、終わりの時刻を先に言う
終わりの時刻を先に言うのは、二人を安心させるためです。時間が限られていると思い込んだまま回ると、質問を控えます。「◯時まで大丈夫です」と先に言われた二人は、その時刻までは質問してよいのだと理解します。
もうひとつ、30分以上の遅れになりそうなときは、その場で再訪の話を出します。「今日は半分だけご覧いただいて、残りは別の日にしますか。それとも別の日にまとめて回りますか」と、二人に選ばせます。選択肢がどちらでも、二人が納得して決めたかたちになります。
日を改めたほうがいいのは、どんなときか
遅れの連絡を受けても、日を改めたほうがよい場面はあります。判断の条件は、2つに絞れると思っています。
ひとつは、使える時間では、二人がいちばん見たい場所に届かないときです。披露宴会場が見たくて来たのに、使える時間が30分しかなく、会場の準備もあって入れない。このまま案内しても、二人は何も持ち帰れません。無理に回すより、日を改めたほうが、二人にとっても式場にとっても得です。
もうひとつは、二人が疲れ切っているときです。遅刻の原因が、交通機関の乱れや、体調不良であることもあります。到着した二人の顔色が悪ければ、案内の予定を全部こなすより、「今日はここまでにして、続きはまた別の日に」と言ってあげたほうがよい場面もあります。
この2つのどちらにも当てはまらなければ、残り時間で二人の見たい場所を見せる設計にします。日を改めるのは、最後の手段にしておくのがよいと思います。見学の予約を取り直すと、二人の予定がまた合うとは限らず、その間に他の式場へ流れる可能性があるからです。
担当者ごとの差を、小さくしておく
遅れの連絡への対応は、担当者によってばらつきが出やすい領域です。ベテランは余白の使い方を知っていて、自然に「ここからご覧になりますか」と聞けます。入って間もない担当は、時間が足りないと焦って、いつもの順番で急ぎ足の案内をしてしまいます。
差を小さくするには、手順書を長く作る必要はありません。次の3点を、見学の受付表の隅に書いておく程度で十分です。
- 遅れの連絡を受けたら、次の組の時刻と余白を見て、使える時間を出す
- 到着したら、終わりの時刻を先に伝え、いちばん見たい場所を聞く
- 見られなかった場所には、帰る前に再訪の日を二人と決める
担当者ごとに差が出る領域だからこそ、一枚の紙に書いてある、というだけで、現場の動きは揃います。研修で一度だけ口頭で伝えるより、受付表に書いてあるほうが、忙しい土日には効きます。
まとめ
- 見学に遅れてくる二人は、焦りと申し訳なさで質問を控えます。早足の案内は、その遠慮を強めます
- 時間が足りないと、削られるのは後ろの場所です。それが二人のいちばん見たい場所だと、見学の価値が下がります
- 案内を縮める前に、「今日いちばん見たい場所」と「帰りの時刻」を二人に聞きます
- 次の組との余白を使えば、削る時間は遅れた分より小さく済みます。遅れの連絡を受けた時点で、使える時間を出しておきます
- 見られなかった場所は、帰る前に再訪の日を二人と決めます。候補は式場が2つ出して、二人に選んでもらいます
- 日を改めるのは、使える時間で見たい場所に届かないときと、二人が疲れ切っているときだけにします
- 遅れる見学は数が少なくても、1組あたりの粗利が大きいので、扱いの差が月の数字に出ます
