新郎新婦のリアル

両家顔合わせの食事会を契約特典で無料にすると、仮の式場では年180万円。成約が年1.3組増えれば元が取れる。数えるのは、親が会場に来る回数だ

両家顔合わせの食事会を、式場で受けて、契約特典として無料にする。この提案を現場で検討したことのある式場は多いと思います。「親が一度、会場に来てくれるなら安い」という声と、「無料で出して、結局他社で挙げられたら丸損」という声が、同じ会議で並びます。

結論から書きます。年120組・来館400組の仮の式場で、契約した二人の4割が使うなら、食事会を無料にする費用は年180万円です。取り返すのに要るのは、成約が年1.3組増えること。成約率に直すと0.3ポイントです。あるいは、契約後のキャンセルが年2.6件減ることでも元は取れます。

この数字だけを見ると、無料にしても怖くない水準です。ただ、僕が見ているのは費用の額ではありません。食事会によって「親が会場に来る回数」が増えるかどうかで、同じ180万円が投資にも、ただの値引きにもなります。

この記事の数字は、顔合わせ食事会の相場以外、すべて僕が置いた仮のものです。利用する割合も、原価率も、キャンセルが減る幅も、調査の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換えると結論が変わるので、「どの数字が結論を動かすのか」を読み取るための計算として読んでください。

顔合わせ食事会は、どれくらいの二人がやっているのか

まず、市場の大きさを確かめます。ゼクシィの全国推計(2024年)では、婚約の食事会(顔合わせ)だけを行った人が85.6%、結納と食事会の両方を行った人が5.3%と報じられています。合わせて9割ほどが、何らかの形で両家が顔を合わせる場を持っている計算です。

つまり、顔合わせをするかどうかは、二人が迷うところではありません。迷うのは「どこでやるか」です。

場所については、ゼクシィ結婚トレンド調査(2019年)で、料亭が46.8%、レストランが23.9%、ホテルが15.5%と報じられています。ゼクシィの別の記事では、料亭46.7%・レストラン23.3%という、少しずれた値も出ています。調査の切り方で小数点以下がずれるだけで、料亭が最多という並びは同じです。

費用は、同じ2019年の調査で平均6.7万円、別の記事では6.3万円という数字が出ています。時期は、挙式の平均8.2か月前です。別の調査(オールアバウト)では平均が7.1万円で、「5〜10万円未満」が46%でした。調査によってずれますが、6〜7万円台に収まっているのは共通しています。

ここから読み取れる、式場にとっての事実は3つです。

  • 顔合わせはほとんどの二人がやるので、需要は特別な層に限られない
  • 会場の相手は料亭やレストランで、式場は最初から候補にいないことが多い
  • 時期は挙式の8か月ほど前で、契約の前後にあたることが多い(これは僕の読みです。契約の時期は会場の営業の仕方で変わります)

式場が顔合わせを受けるということは、「二人が自分の会場に来る予定のなかった日」を、会場の側で作りにいくということです。

仮の式場を置く

数字を置きます。

  • 年間の挙式は120組、来館は400組(成約率30%)
  • 1組の粗利は140万円
  • 顔合わせの食事会は、本人2人と両親4人、きょうだい2人の8名。1人あたり8,400円弱の、コース料理の想定(調査の平均6.7万円を8名で割った値)
  • 食事の原価率は40%
  • 運営に、スタッフ2名が3時間つく。時給は1,800円(人件費の相場ではなく、僕が置いた値)
  • 場所は、空いている個室と時間帯を使う。新しい設備投資はしない

食事会の原価は1組あたり約2.7万円(6.7万円の40%)、人件費は1組あたり約1.1万円(2人×3時間×1,800円)で、合わせて1組あたり約3.8万円かかります。

ここまでは固定です。動かすのは、契約した二人のうち、何割がこの食事会を式場で開くかです。

無料にした場合の費用を数える

契約した120組のうち、利用が2割、4割、6割になる場合を比べます。

利用する割合 利用する組数 費用(年)
2割 24組 約90万円
4割 48組 約180万円
6割 72組 約271万円

では、この費用を取り返すのに何が要るか。

粗利140万円の1組で割ると、2割なら0.64組、4割なら1.29組、6割なら1.93組です。成約に直すと、来館400組のうち、成約率が0.16ポイント、0.32ポイント、0.48ポイント上がれば足ります。

成約率は30%の仮置きなので、0.3ポイントは、来館400組のうち1組か2組が動く幅です。これは、成約率の月ごとのぶれ(僕は1ポイントほどはノイズだと見ています)よりも小さい数字になります。だから、無料にした効果は、成約率を毎月眺めても読めません。「特典をつけたから成約が増えた」と、後から言い切ることができない種類の施策です。

ここは、この記事でいちばん強く書いておきたい点です。費用が小さいことと、効果が見えることは別の話です。年180万円は、会場の経費としては目立たない額です。ただ、効果が読めないまま毎年続けると、年180万円が見えない値引きとして居座ります。

元を取る道は、成約だけではない

もう1つの道は、契約後のキャンセルが減ることです。

契約後のキャンセルが、年に5%(6組)出る仮の式場を考えます。キャンセルされると、その日を同じ条件で売り直せないことがあります。売り直せる割合を半分と置くと、1件のキャンセルで失う粗利の期待値は70万円です(140万円×売り直せない半分)。

費用180万円を、70万円で割ると2.6件。つまり、利用した48組のキャンセルが2.6件減れば元が取れます。利用した48組のキャンセル率は、仮に5%なら2.4件です。2.6件は、その全部を超えます。

この計算から分かるのは、キャンセルの減少だけで無料を正当化するのは厳しい、ということです。4割が使って、その全員のキャンセルがゼロになっても、足りません。

では6割が使う場合はどうか。費用は271万円で、必要なキャンセル減は3.9件です。利用した72組の仮のキャンセル数は3.6件なので、これも全員がキャンセルしなくなっても届きません。

整理すると、次のようになります。

  • 利用する割合が高いほど、必要な成約の増加も大きくなる
  • キャンセル減だけで元を取るのは難しい(利用した組が全員やめなくなっても足りない)
  • 成約の増加か、成約とキャンセルの両方の組み合わせで取り返すことになる

つまり、無料の顔合わせは、契約前の二人を動かすための特典として設計したほうが、数字としては筋が通ります。契約した後の二人に出す特典ではなく、契約の判断を後押しする特典です。

親が会場に来る回数が、効果の出どころになる

ここからは、数字ではなく仕組みの話です。

結婚式の契約では、決裁者が二人だけとは限りません。費用を親が出す組もいます。親からの援助は、結婚式の総額のうちかなりの割合を占める調査がありますが、僕は別の記事で、その割合が調査によってずれることを書いているので、ここでは数字を出しません。ただ、親が費用を出すなら、親が会場を見ていない契約は、あとから「やっぱり別の場所がいい」という声が出る余地を残します。

親が会場に来る回数は、式場によって違います。見学に親を連れてくる二人もいれば、契約後の打合せまで一度も来ない親もいます。顔合わせの食事会は、親が会場に来る、ほぼ唯一の「ご飯を食べにくる」機会です。見学のように、結婚式の営業を受けにくる場ではないので、親の側も身構えません。

この回数が増えたときに、何が変わりうるか。

1つは、親が会場を知った状態で打合せが進むことです。親が会場を知っていると、契約後に出てくる「そこでやるの?」という確認が、早い段階で片づきます。これが、キャンセル減の出どころになると僕は考えています。

もう1つは、契約前に親を連れてくる動機を二人に与えることです。「顔合わせを、ここで無料でできます」という特典は、見学の時点で言えば、親を連れて来る理由になります。親が来た見学は、二人だけで来た見学より成約しやすい、という話は現場でよく聞きます。ただ、この記事では数字の裏づけを持っていないので、断定はしません。仮にそうだとして、損益分岐の0.3ポイント分の効果が出るかどうかを、後で検証できる形にするのがこの記事の目的です。

有料で受ける場合との差

無料で出す、という選択以外に、有料で受ける、という選択があります。

有料で、調査の平均と同じ6.7万円で受けると、1組あたりの粗利は約4.0万円です(6.7万円から原価2.7万円を引く)。人件費を引くと、約2.9万円が残ります。

利用する割合 利用する組数 粗利から人件費を引いた額(年)
2割 24組 約71万円
4割 48組 約141万円
6割 72組 約212万円

4割が使うなら、有料なら年141万円の利益、無料なら年180万円の費用で、差は年321万円です。

この差を、「無料の特典の値段」と読んでください。年321万円を払って、成約1.3組分の効果に届くかどうか。粗利140万円で割ると2.3組です。無料にして成約が2.3組増えれば、有料で受けるより得になる、という言い方もできます。ここから、成約率で0.57ポイントです。

この数字から見えてくる分かれ目は、次のようになります。

  • 食事会をきっかけに、新しく成約する二人が出る見込みが薄いなら、有料で受けるほうが安全
  • 契約前の二人の背中を押すために使えるなら、無料でも成立しうる
  • 契約後の二人に出す特典として無料にするなら、キャンセル減だけでは元が取れない

3つ目は強く言っておきます。契約した二人にだけ無料にする設計は、僕の置いた数字では、割に合いません。無料にするなら、契約の前に、特典として見せる必要があります。

受ける前に、会場の側で決めておくこと

無料か有料かの前に、受けるかどうかの条件があります。

空いている時間帯を使う。 土日の昼に挙式がある会場は、顔合わせの需要が最も大きい土日の昼に、個室を貸せません。使えるのは、挙式のない平日や、午後の遅い時間帯です。顔合わせが「土日の昼」に集中する二人の都合と、式場の都合は、合いません。この食い違いで、利用する割合は仮置きの4割を下回ることがあります。

挙式の枠を潰さない。 顔合わせのために、売れたはずの披露宴の枠を空けないことです。枠が1つ売れ残るだけで、粗利140万円の機会がなくなります。個室が空くという前提が崩れると、食事会の費用は人件費と原価だけではなくなります。

営業のトークにしない。 顔合わせで、親にその場で結婚式の話を始めないことです。「ご飯を食べに来る場所」として来たのに営業を受けると、次はありません。食事会の目的は、会場を知ってもらうことにとどめます。

料亭と比べない。 料亭が最多の理由は、格式と、座敷の落ち着きにあります。式場で同じことをやろうとしても、味や雰囲気で勝てるとは限りません。式場が勝てるのは、「挙式を考える二人にとって、一度で複数の用が済む」という便利さの面です。便利さを前に出す設計で考えます。

効果を確かめる方法

無料にした後で、効果を測れるようにしておきます。

成約率の月次の数字では、0.3ポイントは読めません。だから、測るのは別の数字です。

  • 食事会を使った組と使わなかった組の、契約後のキャンセル率を、1年後に並べる
  • 見学の時点で「顔合わせ特典」を伝えた組と、伝えなかった組の、成約率を並べる(伝える日と伝えない日を、週ごとに分けると比べやすい)
  • 親が会場に来た回数を、見学・打合せ・食事会で数えて、記録に残す

どれも、1年はかかります。半年で判断するなら、見学の時点で特典を伝える日と伝えない日を分ける、2つ目だけを試します。ただ、2つ目で出る差が、成約率で1ポイントに満たないときは、ノイズと区別がつきません。そのときは「分からない」とだけ記録して、次の年に持ち越します。

まとめ

  • 顔合わせは9割ほどの二人がやる行事だが、最多の会場は料亭で、式場は最初から候補にいないことが多い
  • 年120組・来館400組の仮の式場で、利用4割なら、無料の費用は年180万円。取り返すのは成約年1.3組(成約率0.3ポイント)
  • 契約後のキャンセル減だけで元を取るのは難しい。利用した二人が全員やめなくなっても足りない
  • 無料にするなら、契約した後の二人ではなく、契約前の二人の背中を押す特典として見せる設計が筋が通る
  • 有料で受けると年141万円の利益。無料との差は年321万円で、成約が2.3組増えて初めて無料のほうが得になる
  • 土日の昼に個室を使えない会場は、利用の割合が仮置きより下がる。枠を潰す設計は避ける
  • 効果は成約率の月次では読めない。特典を伝える日と伝えない日を分けて比べる