見積書の「一式」は、全部は割らない。割るのは変わる行と、二人が選べる行だけ。仮の式場で手間は年4万円、値引き対応が年1組減れば元が取れる
見積書に「装花一式」「音響・照明一式」と書いてある。二人はこの行を見て、何が入っていて、何をすると金額が動くのかを知りたいと思っています。式場の側は、一式と書いたほうが早いし、細かく書くと値引きの根拠まで見えてしまう、と考えがちです。
結論を先に書きます。一式を全部割る必要はありません。割るのは、最終金額が動く行と、二人が選べる行の2つだけです。仮の式場で試算すると、その手間は年4万円ほどで、最終金額への不満から出す値引きが年1組減れば元が取れます。残りの一式は、そのまま残して構いません。ただし、残す行にも一行だけ添えるものがあります。
出典のある数字は1つだけです。国民生活センターが毎年度の相談を集計しているPIO-NETによると、結婚式に関する相談は毎年度1,500〜1,800件程度で推移しています。内容は契約や解約が最も多く、次に多いのが価格・料金です。その中に「最終的な支払総額が契約当初の見積金額より高額になった」「見積りのときに説明のなかった料金が加わった」という相談が含まれます。ただし、この集計は一式表記だけを切り出したものではありません。一式と相談件数の関係を示した調査は、僕は確認できていません。以降の式場の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
二人は一式のどこが気になるのか
見積書を受け取った二人が、一式の行で止まる理由は、だいたい3つです。
1つ目は、何が入っているのかが分からないこと。装花一式に、ゲストテーブルの花は入っているのか、ブーケは別なのか。分からないまま署名すると、あとで別の行が出てきたときに、最初から入っていたはずだと感じます。
2つ目は、増やしたとき、減らしたときに、いくら動くのかが分からないこと。人数が10人増えたら、花は増えるのか。料理は人数分の掛け算で動くことを二人も知っています。一式の行は、掛け算なのか固定なのかが見えません。
3つ目は、他の式場の見積と比べられないこと。A式場は装花を卓数で書き、B式場は一式で書いていると、金額の高い安いを比べる前に、同じ範囲の話をしているのかを確かめる作業が要ります。この作業が面倒で、比べるのをやめて、説明のしやすかった式場に流れる二人もいるでしょう。
式場の側から見ると、一式は悪いことではありません。細かく書くほど見積の作成に時間がかかり、行数が増えて読みにくくなり、二人が1行ずつ値切る材料にもなります。だから、どこまで割るかは、全部か全くしないかの二択にしないほうがいい、と僕は考えています。
割る行を決める2つの問い
一式の行ごとに、次の2つを順番に聞きます。
最初の問いは、人数や日取りや時期で、この行の金額が動くか。動くなら割ります。花も、音響も、引出物も、人数や卓数や演出の数で金額が変わる部分があります。動くのに一式と書くと、二人は最初の金額が最終の金額だと受け取ります。そして最終見積が出たときに、増えたと感じます。国民生活センターの集計に出てくる「契約当初より高額になった」は、この動く行を一式に隠したときに起きやすい形だと僕は見ています。
2つ目の問いは、二人が選んで、増やしたり減らしたりできる行か。選べるなら割ります。選べる行は、二人が打合せで判断する材料です。装花ならメインテーブルの花、ゲストテーブルの花、ブーケ、会場入口の花という単位が、そのまま選ぶ単位になります。一式のままだと、二人は選ぶ前に、何が選べるのかを聞くところから始めることになります。
2つの問いのどちらにも当たらない行は、一式のままで構いません。たとえば、司会者の打合せ料、当日の音響機材の設営費、控室の備品のような、動かないし、選べない行です。こうした行まで割ると、見積が3ページに延び、二人が本当に見るべき行が埋もれます。
仮の式場で手間を計算する
ここから仮の式場を置きます。
- 年に120組が契約する
- 見積書は30行で、そのうち一式の行が8行ある
- 8行のうち、問い1か問い2に当たって割る行は3行(装花、引出物、演出)
- 割る行に添える内訳を作る手間は、1組あたり10分
- 担当者の時間単価は、会社の負担分も入れて2,000円
Pythonで計算しました。
- 手間の合計 = 120組 × 10分 ÷ 60 = 20時間
- 費用 = 20時間 × 2,000円 = 4万円
年4万円です。10分が15分にふくらんでも、年6万円です。実際には、内訳のひな形を商品ごとに一度作っておけば、2組目からは数分で済むはずなので、この10分はやや多めに置いています。
効果を逆算する
効果は、調査で示せません。一式の割り方が成約や満足にどれだけ効くかを測った数字は、確認できていないからです。そこで、どれだけ効けば元が取れるかを逆算します。
効果の置き場所は、契約後の最終金額に二人が不満を出したときの値引きです。仮に、年6組の二人が最終見積に不満を出し、式場は1組あたり5万円を値引いて収めているとします。合計は年30万円です。
内訳を割ったことで、この不満が半分に減ったとします。年3組の値引きが消えて、15万円です。手間の4万円を引くと、差し引き11万円のプラスになります。
損益の分かれ目は、さらに小さいところにあります。手間の4万円は、5万円の値引きが0.8組分です。つまり、年に1組でも、値引きに至らずに済めば元が取れます。年120組の式場で、1組です。
もちろん、これは逆算なので、割ったら本当に不満が減るのかは分かりません。減らなかった場合に失うのは、年4万円と、打合せ前に内訳を作る担当者の時間です。減った場合に守るのは、値引きと、二人の「最初の説明と違う」という気持ちです。後者のほうが、数字より重いと僕は考えています。
装花一式を割ると、どう見えるか
仮の例で書きます。数字はすべて僕が置いたものです。
割る前は「装花一式 28万円」の1行です。割ったあとは、次の4行になります。
- メインテーブルの花 6万円
- ゲストテーブルの花 1卓あたり1.2万円 × 8卓 = 9.6万円
- ブーケとブートニア 4万円
- 会場入口とケーキ周りの花 8.4万円
合計は同じ28万円です。金額を変えたわけではなく、見え方だけが変わります。二人は、ゲストテーブルの花が卓数で動くことと、ブーケが別の行で選べることを、一目で読み取れます。人数が10人増えて1卓足すなら、1.2万円が増えると自分で計算できます。
担当者の側にも利点があります。打合せで「花を減らしたい」と言われたとき、どの行を触るのかを二人と一緒に画面で確かめられます。一式のままだと、担当者が持ち帰って計算し直すことになり、次の打合せまで話が止まります。
値引きの根拠が見える、という心配
割ることへの現場の心配で、いちばん多いのは「細かく書くと、値引き交渉の材料になる」です。これは、半分は当たっています。
花を5万円と書けば、二人は「ブーケだけ外したらいくら下がるか」と聞けます。式場は答えなければなりません。ただ、二人が聞きたいのは、外した金額であって、式場の原価ではありません。内訳に書くのは、二人に提供する単位の値段です。原価や粗利は載りません。
それに、聞かれたくない行は、聞かれても答えられない行ではなく、答えが毎回ぶれる行です。ブーケを外すといくら下がるのか、担当者によって答えが違うなら、一式のままにしてあることが、すでに問題になっています。内訳の整理は、その答えを式場の側で揃える作業です。
残す一式にも、一行を添える
割らない一式にも、添えておくと効く一行があります。
- 含まれるもの。たとえば「音響・照明一式(披露宴の進行に必要な機材と、当日のオペレーター1名を含む)」
- 含まれないもの。たとえば「持ち込みの映像を流す場合は別途」
- 動く条件。たとえば「人数が10人を超えて増える場合は、料金が変わることがあります」
この3種のうち、全部は要りません。その行で二人が最初に迷いそうな点を、1つだけ書きます。書き方は、断定の言い切りが向いています。「別途かかる場合があります」は、二人にとって、何もかかっていないのと同じくらい、判断の材料になりません。「持ち込みの映像を流す場合は別途です」のほうが、二人は自分のケースに当てはめて読めます。
最終見積との差に、上限を決める
もう一歩進めるなら、見積と最終金額の差に、式場の側で上限を決めておく方法があります。
たとえば、契約時の見積から、人数の増減以外の理由で増える金額は、二人が自分で追加を選んだ分を除き、一定の範囲に収めると約束する、という形です。範囲は式場が決めてよく、僕が決められるものではありません。大事なのは、二人が選んで増やした分と、式場の側の都合や見込み違いで増えた分を、見積の上で分けて見せることです。
この分け方は、一式のままだとできません。何を選んだら増えたのかが、見積書に書かれていないからです。一式を割る意味は、行を細かくすることよりも、増える理由を二人が自分で追えるようにすることにあります。
割る前に、実際の見積を一度見る
最後に、自分の会場でできる確認を1つだけ書きます。直近に契約した10組の見積書と、最終見積を並べて、金額が動いた行に印をつけます。
印のついた行のうち、一式で書かれていた行が、割る候補です。印のついていない一式は、そのままで構いません。この確認は、10組分で1時間もかからないはずです。確認した結果、動いた行のほとんどが一式の外にあるなら、この記事の対策は、効果の薄い対策になります。その場合は、別の理由で金額が動いているので、そちらを先に見直したほうがいいでしょう。
まとめ
- 一式は全部割らない。割るのは、人数や日取りで金額が動く行と、二人が選べる行の2つだけ
- 仮の式場(年120組、一式8行のうち3行を割る)で、手間は年4万円。10分を15分に置いても年6万円
- 年6組・5万円の値引きが半分になれば、差し引き年11万円のプラス。値引きが年1組減れば元が取れる
- 割らない一式にも、含まれるもの、含まれないもの、動く条件のうち、最初に迷う点を一行添える
- 内訳に書くのは二人に提供する単位の値段で、原価や粗利ではない
- 割る前に、直近10組の見積と最終見積を並べて、金額が動いた行が一式だったかを確かめる
