式場にメールで届く外注の請求書は、印刷して保存できない
式場には、外注先から請求書が届きます。カメラマン、司会、装花、音響、ヘアメイク、引出物。挙式のたびに、あるいは月末に、PDFがメールで届く式場が増えています。
そのPDFを印刷して、ファイルに綴じて、メールは消す。これで保存したつもりになっている式場は、多いと思います。紙の時代の習慣としては自然です。ただ、電子帳簿保存法の電子取引のデータ保存は、2024年1月1日から完全に義務になり、印刷しただけでは保存したことになりません。
この記事は、法律の細かい解説ではなく、経営者が決めることに絞ります。「誰が」「どこに」「何という名前で」保存するかです。手間は仮の前提で計算しますが、数字は小さいです。小さい手間を誰も決めていないせいで、調査のときに出せない。そこが危ないところだと思っています。
先に結論です
- メールで受け取った請求書のPDFは「電子取引」にあたり、データのまま保存する必要があります。印刷して綴じるだけでは足りません
- 保存の条件は大きく2つです。改ざんされていないことの確保と、検索・表示できることの確保です
- 仮の前提で、外注の請求書が年420通届く式場が、1通2分で保存するなら、年14時間です。人件費に直すと3万円に届きません
- 手間は小さいので、導入にお金をかけるより先に、保存する人・場所・ファイル名の3つを決めるほうが効きます
- 売上規模や、データの出し方によっては、検索の条件が不要になります。自社がどれに当てはまるかは、税理士に確認するのが確実です
電子取引とは、メールで受け取った請求書のことです
電子取引というと、ネットで商品を買うことを思い浮かべるかもしれません。電子帳簿保存法でいう電子取引は、もう少し広くて、請求書や領収書などの取引情報を、紙ではなく電子データでやり取りすることを指します。
式場でよくある例を挙げます。
- カメラマンの請求書が、メールにPDFで添付されて届く
- 装花の業者が、ウェブの管理画面から請求書をダウンロードする形式にしている
- 司会者が、LINEで請求書の画像を送ってくる
- クレジットカードの利用明細を、カード会社のサイトからダウンロードする
- ネット通販で買った備品の領収書が、メールで届く
どれも、受け取った側は電子データを保存しなければなりません。マネーフォワードの解説では、2024年1月1日以降は、電子取引データの保存が完全義務化され、紙への出力保存は認められない、と整理されています。
ここで注意したいのは、LINEの画像やクラウドサービスの管理画面です。メールならいつでも検索できますが、LINEのトーク履歴は端末を替えたり、相手がやめたりすると残らないことがあります。請求書を受け取ったら、メールでもLINEでも、受け取ったその場で、決めた場所にデータとして移す。この運用にしておくと、受け取り方が増えても崩れません。
保存の条件は2つです
マネーフォワードの解説をもとに、保存の条件を整理します。条件は、真実性の確保と、可視性の確保の2つです。
真実性の確保は、改ざんされていないことを示す条件です。次のどれかを満たします。
- 受け取ったときに、タイムスタンプがついた状態で受け取る
- 受け取ったあと、速やかにタイムスタンプをつける
- 訂正や削除の記録が残る、あるいは訂正・削除ができないシステムで保存する
- 訂正・削除を防ぐための事務処理の規程を定めて、その通りに運用する
小さな式場が現実的に選びやすいのは、最後の「事務処理の規程」です。A4で1枚、「請求書のデータは、誰が、どこに保存し、訂正や削除をしない」と書いて、保存場所に置いておく。これで足りる、と整理されています。具体的な書式は、税理士や国税庁の資料で確認してください。
可視性の確保は、必要なときに見られる、探せるという条件です。
- 画面やプリンタなど、見られる環境を備える
- 検索の機能を確保する
検索の機能とは、日付、金額、取引先で探せることです。さらに、日付や金額は範囲を指定して探せること、2つ以上の項目を組み合わせて探せることも求められます。
ここまで読むと、専用のシステムを入れないといけないように見えます。でも、検索の条件が不要になる場合があります。
検索の条件が不要になる場合があります
マネーフォワードの解説では、検索の条件が不要になる場合が、次のように整理されています。
- 前々年の売上高が5,000万円以下であること(税抜で判断するとされています)
- あるいは、電子データを印刷して、取引年月日や取引先ごとに整理して、提示や提出ができること
- そのうえで、税務署からデータのダウンロードを求められたときに応じられること
婚礼を年に数十組から数百組受ける式場の売上は、5,000万円を超えることが多いはずです。ですから、1つ目はあまり当てはまりません。2つ目の「印刷して整理して出せる」は、式場でも使える可能性があります。ただし、この場合も、データそのものの保存は必要です。印刷はあくまで補助で、データがなくなってよいわけではありません。
あと1つ、猶予の措置があります。所轄の税務署長が「電子取引データの保存ができない相当の理由がある」と認めるとき、データのダウンロードの求めと、印刷した書面の提示の求めの両方に応じられれば、保存の条件を満たさなくても問題ない、という整理です。事前の申請は不要とされています。
この猶予を、最初から当てにするのはおすすめしません。「相当の理由」があるかどうかは、税務署の判断になります。ふだんから保存しておけば、そもそも猶予を使う場面が来ません。
守らないと、何が起きるのか
罰金の額が決まっているわけではありません。マネーフォワードの解説でも、直接の罰則の金額は書かれていません。リスクとして挙げられているのは、青色申告の承認が取り消される可能性です。
国税庁の一問一答では、特段の事由がなければ直ちに取り消しとはならない、とされています。ただ、可能性がゼロではないとも書かれています。承認が取り消された場合、個人事業主なら最大65万円の特別控除が受けられなくなり、赤字の繰越もできなくなる、と説明されています。
法人の式場なら、同じ影響がそのまま出るわけではありません。ここは、税理士に確認してほしいところです。僕が言えるのは、「出せなかった」という事実が、税務調査のときに不利に働く可能性がある、ということまでです。
手間を仮の前提で計算します
ここから、式場の手間を計算します。数字は、実在の統計ではなく、僕が置いた仮の前提です。自社の数字に入れ替えて読んでください。
- 年間の挙式は200組
- 毎月届く外注先の請求書は10社分。年間で120通
- 挙式ごとに届く請求書(カメラマン、司会、生演奏など)は、1組あたり平均1.5通。年間で300通
- 合計で、年間420通
- 1通を保存する手間は2分(メールを開く、ファイル名を直す、決めたフォルダに入れる)
- 事務スタッフの時給は2,000円
計算します。420通に2分をかけると840分で、14時間です。時給2,000円をかけると、年間2万8,000円になります。
手間が3分なら21時間で、4万2,000円。5分かかるとしても35時間で、7万円です。
つまり、保存そのものにかかるお金は大きくありません。大きいのは、決めないことのコストです。
決めないと起きる、3つの困りごと
僕が心配しているのは、次の3つです。
**1つ目は、メールが担当者の個人の受信箱に残る問題です。**請求書が経理の担当者ではなく、プランナーや現場の担当者のメールに届くことは、よくあります。その担当者が異動したり、退職したりすると、メールが探せなくなります。会社として保存した、とは言えません。
2つ目は、ファイル名がばらばらになる問題です。「請求書.pdf」「invoice_0912.pdf」「御請求書(最終).pdf」。このままフォルダに入れると、あとから日付、金額、取引先では探せません。検索の条件が不要な場合でも、整理して出せなければなりません。ファイル名のルールがないと、そこで詰まります。
**3つ目は、訂正の履歴が残らない問題です。**請求書が再発行されたとき、古いファイルを上書きして消してしまうと、どちらが正しいのか分からなくなります。事務処理の規程で「削除しない」と決めても、現場が上書きしていたら意味がありません。
どれも、お金のかかる話ではなく、決め事の話です。
決めるのは3つだけです
保存の運用は、次の3つが決まれば回り始めます。
**保存する人。**請求書を受け取った人ではなく、経理か事務の担当を1人決めます。受け取った人は、その担当に転送するだけにします。転送先は共有のメールアドレス(たとえば経理用)にしておくと、担当が替わっても続きます。
**保存する場所。**共有のクラウドストレージに、年と月で分けたフォルダを作ります。個人のパソコンの中や、個人のメールの受信箱には置きません。
**ファイル名の付け方。**マネーフォワードの解説にあるように、検索で探せることが条件なので、日付、取引先、金額が分かる名前にします。たとえば、「20261031_〇〇写真館_55000」のような形です。取引先の名前を略さず統一しておくと、あとで探しやすくなります。
この3つに、先ほどの「訂正や削除をしない」という1行を足して、A4で1枚にまとめる。それが事務処理の規程になります。
外注先に頼めることもあります
受け取る側だけで頑張らなくても、外注先に頼める運用もあります。
- 請求書をメールで送ってもらうとき、件名に取引先名と年月を入れてもらう
- 請求書の再発行は、元のファイルを残したまま、新しい番号で出してもらう
- 紙で受け取りたい相手には、紙のまま受け取る。紙で届いた書類は、従来通りの保存でよい
3つ目は大事です。電子取引のデータ保存が義務になるのは、電子データで受け取ったものです。紙で受け取ったものは、紙のまま保存します。外注先が紙で出すなら、そのままで構いません。
ただし、外注先の側が電子化を進めているのに、こちらだけ紙に戻してほしいと頼むのは、現実的ではないと思います。受け取り側の運用を整えるほうが、長く続きます。
経営者が確認するのは、この4点です
最後に、経営者が自社で確認するための、4つの問いをまとめます。
- 外注の請求書は、メールやLINEなど、電子で届いているか。届いているなら、その数は年に何通か
- 受け取ったデータを、誰が、どこに、どんな名前で保存しているか
- 自社は、検索の条件が不要になる場合に当てはまるか。当てはまらないなら、日付・金額・取引先で探せる状態になっているか
- 事務処理の規程を、A4で1枚でも作っているか
1つでも「答えられない」があれば、そこが次に決めることです。システムを入れる前に、決め事を紙に書く。その順番で、手間はほとんど増えずに済みます。
まとめ
- メールやLINEで受け取った外注の請求書は、電子取引にあたり、2024年1月1日から、データのまま保存することが義務になっている(マネーフォワードの解説による)
- 保存の条件は、改ざんされていないことの確保と、検索・表示できることの確保の2つ。小さな式場は、事務処理の規程で真実性を満たす方法が現実的
- 売上高5,000万円以下などの場合は、検索の条件が不要になる。当てはまるかは税理士に確認する
- 仮の前提で、年420通を1通2分で保存すると年14時間、人件費で2万8,000円。手間そのものは小さい
- 困るのは、担当者の個人の受信箱に残る、ファイル名がばらばら、上書きして履歴が消える、の3つ。決め事で防げる
- 決めるのは、保存する人・場所・ファイル名の3つと、「訂正や削除をしない」の1行。A4で1枚にまとめておく
