ハネムーンの旅行会社を二人に紹介する手数料は、仮の式場で年13万円。紹介経由の成約が年0.1組減れば消えるので、狙うのは収入ではなく二人の手間の削減
契約が済んだ二人に、ハネムーンの旅行会社を紹介する式場があります。打合せの終わりにパンフレットを渡したり、提携先の担当者を同席させたりして、成約すれば式場に紹介の手数料が入る形です。
結論を先に書きます。仮の式場で計算すると、この仕組みの手取りは年13万円ほどです。式場の売上全体から見れば小さい。しかも、この13万円は、紹介経由の成約が年に0.1組減るだけで消えます。手数料を稼ぐ目的でやると、割に合いません。やる意味があるのは、二人の準備の手間を減らして、満足度を守るためです。
数字はすべて僕が置いた仮のものです。出典のある調査の数字は使っていません。紹介の手数料の率は提携先との契約で決まるので、ここでは3%と置いて、5%や1%の場合も表にします。自分の会場の契約に置き換えて使ってください。
仮の式場を置く
前提を並べます。
- 年間の挙式は120組
- 契約後の打合せでハネムーンの案内をする。案内は1組あたり10分、パンフレットの印刷と合わせて変動費は1組1,500円
- 提携先との定例の連絡や資料の更新に、年12万円ぶんの手間がかかる
- 案内した二人のうち、実際に提携先で旅行を申し込む割合は15%。120組なら18組
- 旅行代金は1組80万円。手数料率は3%で、1組あたり2.4万円
- 来館した二人の成約率は30%、挙式1組の粗利は140万円
収入は、18組 × 2.4万円 = 43.2万円です。費用は、120組 × 1,500円 = 18万円に固定の12万円を足して、30万円。差し引きは年13.2万円になります。
悪い数字ではありません。ただ、年商から見れば誤差の大きさで、これが目的で組む仕組みではない、というのが僕の見方です。
元が取れる線は、年12.5組
費用の30万円を、1組あたり2.4万円の手数料で割ると、30 ÷ 2.4 = 12.5組です。120組のうち約10%の二人が提携先で申し込めば、元は取れます。
15%と置いたのは、案内した二人の多くはネットで自分で探すだろう、という僕の勘です。確かめた数字ではありません。ここを動かした表を作ります。
| 申し込む割合 | 年間の件数 | 手数料1% | 手数料3% | 手数料5% | 手数料8% |
|---|---|---|---|---|---|
| 5% | 6組 | −25万円 | −16万円 | −6万円 | 8万円 |
| 10% | 12組 | −20万円 | −1万円 | 18万円 | 47万円 |
| 15% | 18組 | −16万円 | 13万円 | 42万円 | 85万円 |
| 25% | 30組 | −6万円 | 42万円 | 90万円 | 162万円 |
見てほしいのは、左上の側です。申し込む二人が5%しかいなくて手数料が3%なら、年16万円の赤字です。紹介の手数料は、旅行代金に率をかけた額なので、旅行代金が小さい会場ほど効きません。旅行代金を60万円や100万円に動かしても、手数料3%・申し込み15%のときの差し引きは、それぞれ2万円と24万円。80万円の13万円と大きくは変わりません。
つまり、この仕組みの損益は、収入側をいくら動かしても、年数十万円の範囲に収まります。
失う側を置く
ここまでは、紹介でいくら入るか、の話でした。逆側に、紹介で何かが減る可能性があります。
契約が済んだ二人は、結婚式の準備のために毎週のように式場とやり取りします。そこで、ハネムーンの話を営業のように勧められると、式場は結婚式のお金を取るだけでなく、ほかのお金も取りに来る、と感じる二人もいるはずです。感じ方には幅があるので、全員がそう思うとは言いません。
仮に、ここで気まずさを感じた二人の満足度が少し下がり、卒花嫁としての紹介が年に1組分減るとします。紹介で来た二人の成約率が、普通の来館よりずっと高いなら、これはもっと痛い。でも保守的に、紹介で増える来館のぶんは成約率30%のままと置きます。
挙式1組の粗利は140万円です。手数料1件あたり2.4万円の、140 ÷ 2.4 = 58倍。
年13.2万円の差し引きを、140万円で割ると、0.094組です。つまり、紹介の押しつけで挙式の成約が年に0.1組、10年に1組減るだけで、手数料の収入はなくなります。
0.1組を観測することは、現実にはできません。年120組の式場の成約は、紹介が1組減ったかどうかで判断できる精度で数えられないからです。観測できないのに、損益は確実に0.1組の側に倒れる可能性がある。この非対称が、手数料を目的にしない理由です。
手数料を取らない選択
では、手数料を取らないほうがいいのか。ここでは、取るか取らないかより、二人に何を説明するかが大事だと思っています。
案内の仕方は、おおまかに3つあります。
- 提携先1社を、手数料が入ることを言わずに勧める
- 提携先を2〜3社並べて、手数料が入ることを伝えたうえで、二人に選んでもらう
- 手数料は受け取らず、二人が使えそうな選択肢の一覧だけ渡す
1は、二人があとで手数料を知ったときに、いちばん信頼を傷つけます。式場の人に勧められたから、と信じて申し込んだのに、実は式場に利益が入っていた、という形になるからです。これは、仕組み自体より、言わなかったことが問題になります。
2は、手数料を開示することで、勧められた二人は、式場の利益と自分の利益が別だと理解して選べます。僕は、手数料を受け取るなら、これが最低ラインだと思っています。
3は、収入がゼロになります。ただ、案内の費用の30万円も、ほぼ発生しなくなります。一覧を作って更新する手間だけが残る。年13.2万円の差し引きをあきらめて、費用の側を落とす選び方です。
二人の手間の側から見る
紹介の価値を、手数料でなく、二人の手間で測り直します。
契約後の二人は、衣装、料理、招待状、席次と、やることが並んでいます。ハネムーンは、結婚式の日程が決まった時点で、いつ休みを取れるか、どこへ行くかを考え始めます。二人が自分で探す手間は、本当は、紹介があってもなくても、なくなりません。
式場が減らせる手間は、2つあります。
- 挙式の日程から、休みを取りやすい時期と、旅行会社の繁忙期が分かること。式場は、挙式の前後に、二人が何日あけたいかを聞いています
- 衣装やヘアメイクの予定と、旅行の出発日が重ならないための調整
旅行会社そのものを選ぶのは二人です。式場が代わりに選ぶ必要はありません。式場が持っているのは、挙式の日程と、準備の山の時期の情報です。ここを一覧とあわせて渡すほうが、二人の役に立つと思っています。
固定費の12万円が重い理由
費用の内訳をもう一度見ます。変動費は18万円、固定費は12万円です。固定費は、案内の組数に関係なくかかります。
提携先が増えると、この固定費は増えます。2社並べるなら、定例の連絡も資料の更新も2社ぶんです。仮に1社あたり12万円とすると、2社で年24万円。費用は合計42万円になり、元を取る線は 42 ÷ 2.4 = 17.5組、案内した二人の14.6%まで上がります。
先ほどの、複数の提携先を並べる案内は、二人にとっては誠実ですが、式場にとっては固定費が倍になります。申し込み先が2社に割れれば、1社あたりの件数も減ります。複数並べるなら、更新の手間を下げる工夫が要ります。たとえば、提携先に資料の更新を任せて、式場は紙1枚の枠を渡すだけにする。連絡を年4回に絞る。そのくらいの設計をしないと、収入より手間が上回ります。
半年後の見直し
始めるときは、続ける条件とやめる条件を先に決めておくと、ずるずる続けずに済みます。例を置きます。
- 続ける条件:半年で案内した二人のうち、申し込みが10%以上。または、手数料を取らない一覧の形にして、費用が年10万円以下
- やめる条件:申し込みが5%を切る。または、二人から、案内を営業に感じた、という声が1件でも出る
後者の声は、1件で足ります。0.1組の成約が動くかどうかは、1件の声のほうが先に見えるからです。声が出ない会場もあるでしょうが、それは、二人が言わなかっただけの可能性があります。契約後のアンケートに、案内は役に立ったか、押しつけに感じなかったか、を1問足すと、声が拾いやすくなります。
判断の分かれ目
自分の会場で続けるか決めるときの条件を、3つに絞ります。
紹介が成立する割合を、数える。 案内した組数と、提携先から報告のある申し込み組数を、半年分並べます。10%を切るなら、手数料3%では年に赤字になります。数えていないなら、まず数えることが先です。
手数料率を、契約書で見る。 1%と3%と5%では、同じ申し込みでも、差し引きが2万円と13万円と42万円と変わります。率が低いなら、収入目的は成り立ちません。
案内の場所を、打合せの中に置かない。 契約後の打合せの時間は、二人にとって、式の中身を決める時間です。そこで旅行の案内をすると、式の話が切れます。メールや、打合せの最後に渡す紙1枚で足ります。10分の案内を、紙1枚に置き換えれば、変動費の1,500円は500円ぐらいまで下がります。
手数料の使い道
もう1つ、手数料の置き場所を決めておく手があります。受け取った手数料を、二人の側に戻す形です。たとえば、提携先経由で申し込んだ二人に、挙式の日に使えるささやかな品を返す、といった使い方です。収入は年43万円なので、半分の21.6万円を戻すと、費用30万円を引いた差し引きは8万円の赤字です。戻す形にするなら、はじめから、手数料は費用を埋めるためのもので、利益は期待しない、と割り切る必要があります。
ここまで書いて分かるのは、この仕組みが、大きな利益を生むものではないということです。だから、利益の側で迷うより、二人の側で迷わないことを優先する。それで、年13万円の差し引きが多少ぶれても、困りません。
まとめ
- 仮の式場で、ハネムーン紹介の手数料は年43万円、費用は年30万円で、差し引きは年13万円ほど
- 元が取れる線は、案内した二人のうち約10%が提携先で申し込むこと
- 手数料率が3%から1%に落ちると、同じ申し込みでも差し引きは年16万円の赤字になる
- 挙式の粗利140万円は手数料1件の58倍。紹介の押しつけで成約が年0.1組減れば、収入は消える
- 手数料を受け取るなら、複数の提携先を並べて、手数料が入ることを伝える
- 式場が減らせる手間は、挙式の日程と準備の山の時期という、自分だけが持つ情報の側にある
- 収入ではなく、二人の手間を減らす道具として、案内は紙1枚にとどめるのが現実的
