来館・成約

式場の見学予約は電話だけにせず、耳の不自由な二人の入口を作る

見学予約の入口が「お電話ください」だけの会場は、耳の不自由な二人にとって、問い合わせの手前で道が止まっています。式場の側からは、その二人は問い合わせが来なかった人としてしか見えません。止まっていることに、数字の上では気づけないです。

結論から書きます。見学予約は、電話のほかにフォームかメッセージで完結する入口を一つ置いておく。そして見学当日は、話し方の希望を最初の一言で聞く。この二つだけで、入口で落ちていた二人を拾えます。大きな投資は要りません。

この記事で出典のある数字は、厚生労働省の調査の1つだけです。「耳の不自由な二人が結婚式を挙げる割合」や「電話だけの会場で失う件数」を調べた統計は、僕は見つけられていません。損得の計算は全部、僕が置いた仮の前提です。自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。

数字で分かるのは「少なくない人数がいる」ところまで

まず、出典のある数字から。厚生労働省の「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」(2024年5月公表)では、在宅で身体障害者手帳を持つ人は推計415.9万人です。そのうち聴覚・言語障害が37.9万人、手帳所持者の9.1%でした。前回の平成28年調査では34.1万人(8.0%)です。

読むときの注意が三つあります。

  • この調査は、在宅の人と手帳を持つ人が中心です。手帳を持たない難聴の人や、年を重ねて聞こえにくくなった人は、この数字に入りません
  • 年齢の区切りがない全年齢の数字です。結婚を考える世代だけの数字ではありません
  • 聴覚と言語を合わせた区分です。「耳が不自由」と「話すことが難しい」では、必要な備えが違います

つまり、この数字から言えるのは「商圏にゼロではない人数がいる」ところまでです。結婚式を考える二人の何%がそうかは、この調査からは出せません。ここから先は、仮の数字で考えます。

電話だけの入口で何が起きるか

見学予約の入口が電話のみの会場を考えます。耳の不自由な二人がとれる動きは、おおむね三つに分かれます。

  1. 家族や友人に電話を代わってもらう。式場探しの最初の一歩で、親しい人に頼ることになります
  2. 電話リレーサービスのような、通訳オペレーターを介する仕組みを使う。使える二人もいれば、使い慣れていない二人もいます
  3. 電話をあきらめて、ほかの会場を探す

3が増えると、会場の側には何も届きません。公式サイトを見て、「予約は電話」と書いてあるのを見て、そのまま閉じる。アクセス解析には、予約ページで離脱した1件として残るだけです。

ここで大事なのは、電話以外の入口がある会場との差です。二人は、同じ日に3つの会場の予約ページを開いているかもしれません。フォームで予約が完結する会場と、電話しかない会場が並んでいれば、先に動けるのはフォームのある会場です。

電話の入口を減らす話ではありません。電話に加えて、文字で完結する入口を置く話です。

入口に足すものは三つ

費用の小さい順に、足すものを並べます。

1. 予約フォームの完了までを文字で終わらせる

すでにフォームがある会場でも、完了画面に「後ほどお電話します」と書いてあるものがあります。これでは、折り返しの電話が来た時点で止まります。完了画面と確認メールに、「連絡はメールかLINEでもできます」と書き、フォームに連絡手段を選ぶ欄を一つ足します。

2. 折り返しの手段を二人に選んでもらう

フォームの連絡手段の欄に、「電話」「メール」「LINE」を並べて選んでもらいます。「電話は難しい」という理由は聞きません。理由を書かせると、答えにくくなります。選ぶだけにします。

3. 見学案内のページに一文を足す

「筆談やタブレットでの文字表示など、ご希望の方法で案内します。予約時にお知らせください」と書きます。これは、サービスを約束する文ではありません。予約のときに言ってよい、と知らせる文です。二人は、言って断られるのが怖くて、言わずに来館してしまうことがあります。先に書いてあれば、言いやすくなります。

三つとも、制作の作業は数時間です。ここまでは、費用の議論をするまでもありません。

見学当日に先に確かめること

予約の段階で希望が分からなかった二人でも、当日の出迎えの最初の一言で聞けます。聞き方は、決めつけない形がいいです。

「お話しの進め方で、ご希望はありますか。筆談や、画面に文字を出す方法も用意できます」

こう聞くと、耳の不自由な二人だけでなく、補聴器を使っている人、片耳だけ聞こえにくい人にも通じます。聞こえにくさは一律ではありません。手話を主に使う人、口の動きを見て理解する人、補聴器や人工内耳で聞き取れる人。それぞれ、必要なことが違います。担当者が「たぶんこうだろう」と決めて対応を始めるのが、いちばんずれます。

確かめたあとの、当日の動き方は、僕なら次のように組みます。

  • 歩きながら説明しない。立ち止まって、顔を向けてから話す
  • 説明するときは、逆光にならない位置に立つ。窓を背にすると、口元が見えにくくなります
  • 数字は口頭で言わず、見積書や紙に書いて見せる。料金の話は、聞き間違いが一番困る場所です
  • 二人が筆談を選んだら、紙でもタブレットでもよいので、書いた文を消さずに渡す。あとで見返せるからです
  • 音声を文字にするアプリを使うなら、使ってよいか、二人に先に聞く。画面を見る時間が増えるので、説明の速さを少し落とします

どれも、会場の設備を替える話ではありません。担当者の動き方の話です。

通訳を会場が用意するかは、線を引いて決める

手話通訳者の同席を求められたときが、費用の判断の分かれ目になります。

2024年4月から、民間の事業者にも障害のある人への合理的配慮の提供が法的な義務になりました(障害者差別解消法の改正)。ただし、義務は「過重な負担にならない範囲」です。何を、どこまで会場が負担するかは、法律の条文から機械的には決まりません。ここは、会場ごとに考えておく必要があります。

僕なら、次の三段階に分けて決めておきます。

  • 会場の側で負担して、すぐ出来る範囲。筆談、紙の資料、タブレットの文字表示、説明の位置取り
  • 相談して決める範囲。通訳者の同席。二人が手配する通訳者の入場を認めるのか、会場が手配するのか、費用を誰が持つのか
  • 事前の打ち合わせが必要な範囲。披露宴当日の通訳者の配置、司会の台本への配慮

通訳者の同席が要る二人が来たとき、その場で「費用はどうしますか」と詰まらないよう、中間の線を先に決めておきます。線は、担当者がその場で決めなくていい形にしておきます。

なお、費用の負担の決め方は、行政の相談窓口や専門の団体に聞くのが確実です。僕は法律の専門家ではないので、ここでは「線を先に決めておく」ことだけを書きます。

損得を仮の数字で見る

ここから先は、出典のない仮置きの計算です。実在の会場の数字ではありません。

前提を置きます。

  • 月の問い合わせは100件
  • そのうち1%の1件が、電話以外の入口を必要とする二人(耳の不自由な二人)と仮定する。実際の割合は、会場によってまったく違うはずです
  • 問い合わせから来館する割合は40%、来館から成約する割合は30%
  • 成約1組あたりの粗利は120万円

この1件が来館して成約する確率は、0.4 × 0.3 = 0.12組です。粗利をかけると、月に14万4千円です。年にすると約173万円。

電話だけの入口では、この二人のうち半分が止まると仮に置きます。月の1件が半分に減るので、失う分は年にすると約86万円です。割合を変えると、次のようになります。

  • 止まる割合が3割なら、年に約52万円
  • 5割なら、年に約86万円
  • 8割なら、年に約138万円

問い合わせの1%という置き方も大きすぎるかもしれません。0.5%なら、金額はそれぞれ半分になります。それでも、フォームに連絡手段の欄を足し、ページに一文を書く作業は、数時間です。年に数十万円の側が小さく見える会場でも、足す作業のほうがずっと小さいです。

一方、通訳者を会場が常に待機させるような投資は、年に100万円単位の費用になることがあります。1%の問い合わせを前提にすると、これは元が取れません。だから、入口の手段を足すところまでは必ずやる。通訳者の手配は、二人から求められたときに相談して決める。この二段で分けるのが、僕の考えです。

数字だけで決めないほうがいい理由

ここまで損益で書いてきましたが、最後に外せない点が一つあります。

こうした二人が来館したときの体験は、口コミにも、紹介にも出ます。「話を聞いてくれた」「電話しか受けてくれなかった」という感想は、1組分の粗利とは別の形で残ります。この影響の大きさを測った数字は、僕は持っていません。ただ、少人数の二人への対応は、1組分の損得だけでは測りきれない可能性があります。

その意味で、入口を足す費用は「保険」の側面があります。小さく足しておけば、避けられる不満があります。

まとめ

  • 厚生労働省の令和4年調査では、聴覚・言語障害で身体障害者手帳を持つ在宅の人は推計37.9万人です。ただし結婚式を考える世代の割合は、この調査からは出せません
  • 見学予約が電話だけだと、耳の不自由な二人は問い合わせの手前で止まります。会場の側には、止まったことが数字で見えません
  • 足すのは三つです。フォームを文字で完結させること、折り返しの手段を選ばせること、見学案内に「筆談などを用意できる」の一文を書くこと
  • 当日は、出迎えの最初に「お話しの進め方で、ご希望はありますか」と聞く。耳の不自由さは一律でないので、決めつけて対応を始めません
  • 通訳者の手配は、会場で負担する範囲、相談して決める範囲、事前の打ち合わせが要る範囲に分け、線を先に決めておきます
  • 仮に問い合わせの1%が該当し、電話だけで半分が止まると置くと、失う粗利は年に約86万円です。入口を足す作業のほうがずっと小さいです
  • 数字は仮置きなので、自分の会場の問い合わせ数で置き換えて判断します