経営・組織

式場のヘアメイク内製が赤字になるのは、繁忙日の人数で雇うから

式場のヘアメイクを自社で抱えるか、外部の美容室に任せるか。この判断は年間の組数で決まると思われがちですが、僕の置いた仮の数字で計算すると、損益を決めているのは繁忙日に必要な人数のほうでした。年間組数が同じでも、土日の同じ時間帯に新婦が何人重なるかで、雇う人数が変わります。その人数が、閑散日にも払い続ける固定費になります。

この記事の数字は、すべて僕が置いた前提による計算です。実在の式場の実績ではありません。自社の組数や人件費に置き換えて、分かれ目の考え方を使ってください。

内製か外部提携かで、何が変わるのか

まず言葉をそろえます。内製は、式場が美容師やヘアメイクを自社で雇い、新婦のヘアメイクと着付けの売上を自社で立てる形です。外部提携は、外部の美容室やヘアメイク会社が会場に入り、式場は紹介料や場所代にあたる手数料を受け取る形です。

違いは売上の大きさだけではありません。

  • 内製は売上が全額入る代わりに、人件費・消耗品・設備の費用を式場が負います。組数が少ない月も人件費は同じです
  • 外部提携は売上のうち手数料分しか残りませんが、人件費と材料は外部が持ちます。組数が少なくても式場の赤字になりません
  • 内製は品質と接客の線を自社で決められます。外部提携は、外部の運営に合わせて当日の動きを作る必要があります

どちらが正しい、という話ではありません。式場の組数と、土日への偏り方で、どちらが残るかが入れ替わります。

仮の前提を置く

計算のために、次の前提を置きます。実際の数字ではなく、構造を見るための仮置きです。

  • 新婦1組あたりのヘアメイク・着付けの売上(リハーサルと家族分を含む):8万円
  • 内製の変動費(材料・消耗品):売上の8%
  • 美容師1名の年間人件費(社会保険を含む):420万円
  • 設備・備品の償却と保守:年間120万円
  • 外部提携の手数料:売上の20%

手数料率や人件費は、地域や契約で大きく変わります。ここでは20%と420万円と置きますが、自社の契約書と給与台帳の数字に差し替えてください。

組数だけで見ると、内製が得に見える

美容師2名で回す内製を考えます。固定費は人件費840万円に償却120万円を足した960万円です。年間組数ごとの損益は次のとおりです。

年間組数 売上 内製の利益 外部提携の手数料収入
100組 800万円 マイナス224万円 160万円
150組 1,200万円 144万円 240万円
200組 1,600万円 512万円 320万円
260組 2,080万円 954万円 416万円

内製の利益は、売上から変動費を引き、固定費960万円を引いた額です。外部提携は売上の20%がそのまま残ります。

この表だけを見ると、年間167組あたりが分かれ目です。150組では外部提携が240万円、内製が144万円で、外部提携のほうが残ります。200組になると内製が512万円で、外部提携の320万円を上回ります。多くの式場は、ここで「うちは180組あるから内製だ」と決めてしまいます。

抜けているのは、繁忙日に何人必要かという視点

ところが、この計算の「美容師2名」は、年間組数から割り戻した人数ではありません。繁忙日を回すために必要な人数です。

新婦のヘアメイクは、挙式の2〜3時間前から始まります。土曜日の午前に披露宴が2組、午後に2組という会場なら、午前の新婦2人は、ほぼ同じ時刻にヘアメイクが必要になります。1人の美容師が同時に2人は担当できないので、同じ時間帯の新婦の数が、最低限の人数になります。

仮に、同じ時間帯に新婦が最大3人重なる会場だとします。すると、年間180組でも美容師は3名必要です。固定費は、人件費1,260万円に償却120万円を足して1,380万円になります。

これを先ほどの前提で計算すると、次のようになります。

年間組数 売上 3名の内製の利益 外部提携の手数料収入
150組 1,200万円 マイナス276万円 240万円
200組 1,600万円 92万円 320万円
260組 2,080万円 534万円 416万円

分かれ目は年間167組から、約240組に動きます。同じ200組でも、2名で回せる会場なら内製が512万円、3名が必要な会場なら92万円です。外部提携の320万円に届きません。

つまり、損益を決めているのは年間組数そのものではなく、繁忙日の重なり方です。土日に挙式が集中する会場ほど、必要な人数が増え、その人たちは平日にも給料が出ます。

平日と閑散日は、誰の仕事か

内製の固定費を薄めるには、平日や閑散日にも仕事を作る必要があります。考えられる使い道は次のようなものです。

  • 前撮りやフォトウェディングのヘアメイクを自社で受ける
  • 招待客や親族の着付け・ヘアセットを有料で受ける
  • ブライダルフェアの模擬挙式やモデルのヘアメイクを自社で担当する
  • 婚礼以外の需要(成人式や七五三など)を受けられる立地なら、その予約を受ける

ただ、これらは放っておいても埋まりません。前撮りの予約を取る人、親族の着付けを提案する人が別に必要です。人件費だけを見て内製を選ぶと、使い道を作る仕事が漏れます。

仮に、閑散日の稼働を埋める仕事で年間150万円の売上が立つとします。3名の内製なら、売上は150万円増え、変動費を引いて約138万円の利益が加わります。それでも、200組では230万円で、外部提携の320万円には届きません。使い道を作っても、すぐには逆転しないということです。

内製のほうが強いのは、数字に出ない場面

数字だけで外部提携が有利に見える会場でも、内製を選ぶ理由はあります。

  • 当日の動きを式場の進行に合わせられる。ヘアメイクの遅れが、挙式や撮影の遅れに直結しない
  • リハーサルの決定事項を、プランナーと同じ画面で共有できる
  • 新婦の仕上がりへの不満を、式場が直接受け止めて直せる
  • 退職や欠員が出たとき、採用と教育を式場の裁量で決められる

逆に、外部提携の弱みも見えます。外部の美容室が人手不足になれば、式場は何も手を出せません。担当者が入れ替わっても、式場は気づけません。内製と外部提携の差は、損益と同じくらい、品質の責任がどこにあるかの差です。

欠員が出たとき、内製は止まる

もう一つ、損益の表に載らないリスクがあります。内製は、美容師が1人辞めただけで、繁忙日の受け入れ人数が変わります。3名で回していた会場が2名になれば、同じ時間帯に3組の新婦を受けることはできません。採用が決まるまでの間、その日の1組を断るか、外部の美容室に急ぎで頼むかを決めることになります。

外部提携は、この欠員リスクを外部が持ちます。ただし、外部の美容室が欠員になっても、式場が打てる手は少なくなります。どちらにも欠員の問題はあって、違うのは、問題が起きたときに式場が動けるかどうかです。

内製を選ぶなら、欠員が出たときの代わりを、先に決めておくのが現実的です。たとえば、外部の美容室と「繁忙日の応援だけ」の契約を結んでおく。常勤の1名分を、短時間のパートで厚くしておく。どちらも、欠員が出てから探すより、費用は軽く済みます。この備えにかかる費用も、先ほどの固定費に足して比べてください。

決める前に、自社の数字で確かめる4つのこと

内製か外部提携かは、年間組数を見る前に、次の4つの数字を取り出してから決めるのがいいと思います。

  1. 同じ時間帯に新婦が最大何人重なるか。 過去1年の挙式の開始時刻を並べて、ヘアメイクの開始が重なる最大人数を数えます。平均ではなく、最大です
  2. その最大人数を、年間で何日使っているか。 3人が必要な日が年に10日しかないなら、残りの日は外部のスポット応援や短時間のパートで補う設計もあります
  3. 外部提携の手数料率の実績。 今の契約が20%なのか、別の比率なのかを契約書で確認します。内製に切り替えるときの比較は、この数字で決まります
  4. 閑散日に仕事を作れる担当が社内にいるか。 前撮りや親族の着付けを提案する人がいなければ、人件費だけが残ります

2番の考え方が、内製と外部提携の「あいだ」を作ります。繁忙日だけ外部に頼る併用です。常勤の美容師は同じ時間帯に重なる人数の下限、たとえば2名に抑えておき、3人目が必要な日だけ外部の美容室に入ってもらう設計です。固定費は2名分に収まり、最大人数の日は外部の手数料で受けられます。

併用の注意点は、運営の線を二重にしないことです。内製のスタッフと外部のスタッフで、リハーサルの内容・当日の持ち物・仕上がりの確認が食い違うと、新婦には同じ会場の別のサービスに見えます。決定事項の渡し方は、内製か外部かにかかわらず式場が決めておく必要があります。

見直しのタイミング

内製か外部提携かは、一度決めたら変えない決定ではありません。次のようなときに数字を取り直します。

  • 年間組数が2割以上動いたとき
  • 土日の挙式の偏りが変わったとき。たとえば、平日の挙式を増やしたり、同じ時間帯の枠を減らしたりしたとき
  • 美容師の退職や採用で、固定費が動いたとき
  • 外部の美容室から、手数料率の見直しを求められたとき

特に、同じ時間帯の最大人数は、枠の設計を変えると動きます。披露宴の開始時刻を30分ずらして重なりを減らせば、必要な人数が1名減る場合があります。その1名分の人件費420万円が、仮の計算では年間組数が約73組動いたのと同じ重さです(1名の人件費420万円を、1組あたりの手残り5万7,600円で割った値です)。

まとめ

  • ヘアメイクの内製と外部提携の分かれ目は、年間組数よりも、同じ時間帯に新婦が最大何人重なるかで動きます
  • 仮の前提では、2名で回せる会場の分かれ目は年間約167組、3名が必要な会場では約240組でした
  • 内製の人件費は、閑散日にも払い続ける固定費です。閑散日の使い道は、作る人がいなければ埋まりません
  • 繁忙日だけ外部に頼る併用なら、常勤は重なりの下限に抑えられます。そのかわり、決定事項の渡し方は式場が一本化します
  • 決める前に、最大の重なり人数、その日数、外部の手数料率、閑散日の担当者の4つを自社の数字で確かめます