ゲスト名簿の表記を発注前に二人へ確認してもらう手間は、仮の式場なら年5万円。表記ミスが0.42%あれば元が取れる。重いのは、当日の席札で見つかるミスだ
結婚式の準備で、式場がいちばん地味に困るミスの1つが、ゲストの名前の表記です。
「齋藤」を「斎藤」と印刷してしまった。「渡邉」が「渡辺」になっていた。「ゆうき」さんの漢字が、二人の記憶と名簿で違っていた。席札や名札が出来上がってから気づくと、作り直しになります。
この記事の論点は1つです。ゲスト名簿の表記を、招待状を発注する前に、二人へ確認シートで返してもらう手間は、表記ミスの1件あたりの直しを3,300円と置くと、ミス率が0.42%を超えれば元が取れます。 ただし、数字の根拠になる調査はありません。出典のない仮置きの計算で、前提はすべて本文に書きます。
仮の式場の置き方
数字は、考え方を見せるための仮置きです。実在の式場の実績ではありません。
- 年間120組、1組あたりのゲストは60人。名前を扱う人数は年7,200人分
- 担当者の人件費は1時間2,500円
- 席札・名札・席次表などの作り直し材料費は、1件あたり800円
- 表記ミスの直しに担当者が1時間かかる(確認、再発注、二人への連絡)。1件あたりの直しは800円と2,500円で3,300円
ミス率は実績がないので、0.5%、1%、1.5%、2%の4通りを並べます。自分の式場の数字を知るには、過去1年の「名前の直し」を数えるしかありません。ここは後で書きます。
表記ミスは年に何件、いくらになるか
年7,200人分の名前に対して、ミス率ごとの件数と直しの費用は次のとおりです。
| ミス率 | 年間の件数 | 直しの費用 |
|---|---|---|
| 0.5% | 36件 | 11.9万円 |
| 1% | 72件 | 23.8万円 |
| 1.5% | 108件 | 35.6万円 |
| 2% | 144件 | 47.5万円 |
1.5%なら、1組あたり0.9件です。10組のうち9組に1件ずつ、どこかの表記の直しが入る計算です。
費用だけ見れば、年36万円は大きな額ではありません。粗利が1組140万円の式場なら、成約が0.25組分です。ここで話を終えると「放っておいても痛くない」になります。
痛いのは、直しのタイミングです。
直しは、いつ見つかるかで重さが変わる
同じ表記ミスでも、見つかる時期で意味が違います。
発注前に見つかれば、名簿の1行を直すだけです。印刷した後なら、再発注です。式の1週間前なら、納期に間に合うかが問題になります。式の当日、ゲストが自分の席札で気づいた場合は、直しの費用では済みません。ゲストの前で二人が恥をかき、担当者は頭を下げることになります。
仮に、見つかるのが当日になるのがミス全体の4分の1だとします。これも根拠のない仮置きです。1.5%の式場なら、年27件、ほぼ毎月2件ずつ、当日のゲストに見える形で出る計算になります。
この27件が全部クレームになるわけではありません。ゲストが気づいても黙っていることのほうが多いはずです。ただ、二人が気づいた場合は話が違います。「名前を間違えられた」は、料理や衣装に比べれば小さな不満に見えます。ただ、式の当日にやり直しがきかないという点で、取り返しのつかない種類の失敗です。
だから、このミスを数えるときは、直しの費用の3,300円だけでなく「当日に見える形で出るかどうか」を別に数えます。年27件という数字は、費用の話というより、二人に見える失敗の回数です。
確認シートで何を返してもらうか
打ち手は単純です。招待状の発注の前に、ゲスト名簿を二人に返し、1人ずつ「この表記で印刷します」と確認してもらいます。
確認してもらう項目は、次のくらいで足ります。
- 姓と名の漢字(旧字、異体字を含む)
- 読み仮名(席次表に振る場合)
- 肩書き(役職名は、異動で変わっていないか)
- 夫婦や家族の連名の順番(夫が先か、年齢順か)
- 旧姓のまま招くか、新姓で招くか
二人が名簿を作るときは、LINEの表示名を見ながら入力することが多いはずです。表示名は愛称で、本名の表記とは限りません。住所録のコピーや、年賀状の宛名の写真から転記することもあります。ここで漢字が崩れます。
大事なのは、シートを式場が埋めないことです。式場が埋めると、誤りが見つかるのは印刷の後になります。二人に見せる、二人が確認する、二人がサインする。この3つが揃って、はじめて責任の所在が動きます。
手間はいくらか
確認シートを回すと、担当者の仕事は増えます。シートの送付、返信の催促、返ってきた直しの反映です。1組あたり10分と仮置きすると、年120組で20時間、人件費で5万円です。
別の見方もあります。シートの雛形は一度作れば使い回せます。手間がかかるのは催促で、返信が遅い二人ほど、招待状の発注が遅れます。ここは費用というより、段取りの問題です。後の節で触れます。
損益分岐は、ミス率0.42%
手間が年5万円、直しの削減率を50%と置きます。半分は防げて、半分は確認をすり抜けるという想定です。この半分も仮置きです。
5万円を回収するために必要な削減額は5万円です。1件3,300円で50%を防ぐので、必要なミス件数を逆算します。
- 防ぎたい件数 = 5万円 ÷ 3,300円 = 約15.2件
- 防げる割合が50%なので、ミス全体は約30.3件
- 7,200人分に対するミス率は、約0.42%
ミス率が0.42%を超えていれば、確認シートの手間は直しの削減で元が取れます。0.5%なら、手間より削減額が少し大きくなります。1.5%なら、年12.8万円の純増です。
手間のかけ方を変えると、分岐はこう動きます。
| 1組あたりの手間 | 年間の人件費 | 分岐のミス率 |
|---|---|---|
| 5分 | 2.5万円 | 0.21% |
| 10分 | 5万円 | 0.42% |
| 15分 | 7.5万円 | 0.63% |
| 20分 | 10万円 | 0.84% |
20分かけても、ミス率が1%近くあれば元が取れます。逆に、ミス率が0.2%しかない式場なら、5分でも回らない可能性があります。損益より先に、自分のミス率を知る必要がある理由はこれです。
自分のミス率を知る方法
数え方は簡単です。過去1年分の契約のうち、名簿が確定した後に、名前の表記が直された件数を拾います。
拾う先は3つです。
- 席札・名札・席次表・引出物の名札の再発注の履歴
- 招待状の宛名の刷り直しの履歴
- 担当者の打ち合わせ記録に残っている「表記の修正」の一言
記録がなければ、数えられません。その場合の最初の一手は、確認シートの導入ではなく、記録を取ることです。半年も付ければ、自分のミス率がおおよそ見えます。
この半年が惜しいなら、1組あたり5分の最低限版(ミスの多い項目だけ聞く)から入る手もあります。旧字、異体字、旧姓の3項目だけを、二人に確認してもらいます。それでも拾える誤りは、全体の半分近くあるのではないか、というのが僕の見立てです。ただ、これも実績のある数字ではありません。
確認シートが回らなくなる3つの場面
損益が通っても、運用が回らなければ意味がありません。回らなくなる場面は、だいたい決まっています。
1つ目は、二人が名簿を完成させる前にシートを送る場面です。名簿が60人に満たないうちに確認を頼むと、後から追加された人の表記が確認されません。シートを送るのは、名簿が確定したと二人が言った後に限ります。
2つ目は、親や上司が名簿に口を出す場面です。親が後から「この人も呼んで」と足すと、その人の名前は二人も確認していません。追加分のゲストには、追加のシートが要ります。ここが漏れやすいのではないか、と僕は見ています。
3つ目は、催促が担当者の仕事として定着しない場面です。返信が1週間遅れると、招待状の発注が1週間遅れます。招待状の発送には期限があります。その期限から逆算して、シートの返信期限を二人に先に伝えておきます。
確認シートをやらない選択
やらない選択にも、筋の通る場面があります。
少人数の式で、ゲストが20人以下なら、名前の数が少なく、二人が全員の漢字を知っていることが多いでしょう。身内中心の式で、全員の名前を二人が毎年の年賀状で書いているなら、確認シートは形式になります。
一方、会社関係のゲストが多い式、親族の数が多い式、遠方の友人が多い式は、確認の価値が上がります。二人が名前を書き慣れていない人ほど、誤りが入りやすいからです。
そこで、全組に同じシートを回すのでなく、ゲストが40人を超える組に限る、会社関係のゲストが10人を超える組に限る、といった線引きも考えられます。ただ、線引きをするには判断の手間がかかります。120組に対して判断を10秒ずつ入れても、20分です。全組に回すほうが、結局は簡単かもしれません。
当日の席札を見せる側の工夫
発注前の確認とは別に、当日の朝にできることがあります。
席札と名札の一式を、開宴の前に、二人またはその家族に1度だけ見せます。時間は2分で足ります。ここで見つかった誤りは、現場で手書きに直せます。
この確認は、損益の計算には入れていません。効果を数える手がないからです。ただ、当日の誤りを、ゲストに見せる前に拾える最後の機会です。会場の外では印刷し直せません。ここまで含めて、表記の確認は3回に分けて考えると整理しやすくなります。
- 名簿の確定時:二人が確認する(確認シート)
- 印刷の直前:式場が確認する(担当者の目視)
- 当日の朝:二人側が確認する(席札の確認)
3回とも同じ人がやると、見落としが重なります。確認する人を分けるのが、この仕組みの肝です。
決める人が見る順番
経営者として決めるのは、導入するかどうかより、次の3つの順番です。
- 過去1年の名前の直しの件数を、記録から拾う。拾えなければ、半年の記録を取り始める
- ミス率が分岐(担当者の手間で0.2〜0.8%)を超えているかを見る
- 超えているなら、ゲスト数や会社関係の人数で線引きをして、確認シートを回す
費用の面では、年5万円の手間です。気になるのは費用より、導入した後に、確認シートの返信が遅れて招待状の発注が遅れる問題です。そこで、返信期限を契約時の打ち合わせの日程表に最初から書いておく、という運用に落とします。
まとめ
- 年7,200人分の名前の表記ミスが1.5%なら、年108件、直しの費用は年35.6万円(仮置き)
- 費用より重いのは、当日に見える形で出るミス。仮に4分の1なら年27件
- 招待状の発注前に、二人が名簿の表記を確認する手間は、1組10分で年5万円(仮置き)
- 損益分岐は、ミス率0.42%。手間が5分なら0.21%、20分なら0.84%
- 数字の根拠になる調査はない。先に、過去1年の「名前の直し」を数えるのが最初の一手
- 確認は、二人(名簿の確定時)、式場(印刷の前)、二人側(当日の朝)の3回に分ける
- 回らなくなるのは、名簿が未完成のとき、追加ゲストが漏れるとき、催促が定着しないとき
