披露宴当日の預かり物は、受付の箱だけで回していいか。仮の式場では年16万円の損が、受け渡し票を入れると7万円まで下がる
披露宴の当日、式場は思った以上に多くのものを預かっています。ご祝儀、祝電、ゲストからのプレゼントや手紙、二人が持ち込んだ私物、そして帰り際に見つかる忘れ物。これを「受付に置いた箱」と「そのとき手が空いている人」だけで回している会場は、実はそれほど珍しくないと僕は見ています。
結論から書きます。預かり物は、物の種類ごとに「誰が受け取り、どこに置き、誰に渡したか」を1枚の票に残す形にしたほうがいいと考えています。仮の式場で試算すると、箱だけで回した場合の年間の損失は16万円、受け渡し票を入れた場合は費用込みで7万円ほどです。差は年9万円ほど。金額としては小さく見えますが、この損失の中身は「たまに起きる重い事故」で、起きた年は数字以上に会場の信用が傷みます。
先に断っておくと、この記事に出典はありません。事故の発生率も、1件あたりの金額も、僕が置いた仮の数字です。実在の式場の実績でも、どこかの調査の結果でもありません。自分の会場で何件起きているかは、記事の最後に書く方法で数えられます。
当日に預かるものは5種類ある
まず、何を預かっているのかを分けておきます。ここを一緒くたにしていると、対策も一緒くたになって、どれにも効かなくなります。
1つ目はご祝儀です。受付で受け取り、記帳と合わせて管理し、披露宴後に二人か親族に渡します。額が大きく、紛失したときの影響がいちばん重いものです。
2つ目は祝電です。式場宛てに届き、司会が読む分と、読まずに二人へ渡す分に分かれます。届く時間帯が読めず、受け取る人も決まっていないことが多いものです。
3つ目はゲストからのプレゼントと手紙です。受付で渡され、二人の手元に届くまでに、控室、会場、クロークと置き場所が変わります。中身が壊れ物や生ものだと、置き場所の判断も必要になります。
4つ目は二人が持ち込んだ私物です。ウェルカムボードや手作りの装飾、引出物の追加分、衣装小物。当日の朝に預かって、夜に返すものです。会場のスタッフが受け取ることもあれば、業者が持ち込んで置いていくこともあります。
5つ目は忘れ物です。披露宴が終わってから見つかるので、持ち主が誰か分からない状態で預かることになります。
この5つは、「受け取る人」「置く場所」「渡す相手」「渡す時刻」がそれぞれ違います。箱ひとつでは、この4つのどれも記録できません。
箱だけで回すと、どこで事故が起きるか
事故は、物が人の手を渡るところで起きます。仕組みとして起きやすい場面を3つ挙げます。
受け取る人が途中で替わる
受付は開宴の少し前に交代することがあります。料理の提供が始まれば、受付にいたスタッフが会場の中へ回ることもあります。交代のときに「あの箱の中身は何時までに誰に渡す約束か」が口頭で伝わらないと、受け取った人しか知らない情報が消えます。
置き場所が2か所以上になる
プレゼントを控室へ、ご祝儀を事務所の金庫へ、祝電を司会台へ。置き場所が分かれると、「どこにあるか」を知っている人が物ごとに別になります。披露宴が終わって二人が「あの手紙は?」と聞いたとき、答えられるのが1人だけという状態が起きます。
渡す相手が当日に変わる
ご祝儀は、事前の打合せでは「新郎の父に渡す」と決めていても、当日の朝に「やっぱり新婦の母に」となることがあります。変更は二人か親族が口頭で言うだけで、会場側の記録には残りません。受け取った相手が違った、という話になったとき、どちらの言い分が正しいかを確かめる材料がありません。
どれも、スタッフが不注意だから起きるのではありません。記録を残す場所が無いから起きます。ここが「人を責める話ではなく、仕組みの話」だと僕が考える理由です。
仮の式場で損失を置いてみる
数字で見ます。前提を先に書きます。すべて仮置きです。
- 年間の披露宴は200組
- 預かり物に絡む行き違い(取り違え、置き場所の取り違え、渡し忘れ、翌日の問い合わせ)が起きる割合は、箱だけの運用で1%(年2件)
- 1件の対応にかかる費用は3万円(再手配、お詫びの品、担当者の対応時間の合計)
- 重い事故(ご祝儀や高額の品の紛失)が起きる割合は0.1%(年0.2件)
- 重い事故1件の補償と対応は50万円
この前提で、箱だけの運用の年間の損失は次のとおりです。
- 行き違い:200組 × 1% × 3万円 = 6万円
- 重い事故:200組 × 0.1% × 50万円 = 10万円
- 合計:16万円
重い事故は年0.2件、つまり5年に1度の計算です。毎年は起きません。ただ、起きた年は50万円が出ていきます。平均すると年10万円という見方は、ならした数字であって、実際の年の姿ではない点には気をつけてください。
受け渡し票を入れると、何が変わるか
受け渡し票は、難しいものではありません。1組につき1枚、物の種類ごとに行を作った表です。
- 何を、いつ、誰が受け取ったか
- 置き場所はどこか
- 誰に、何時に渡す予定か(変更があれば、いつ、誰が言ったか)
- 渡したとき、受け取った人の署名か、スタッフの確認印
ポイントは、「渡す相手の変更」を書く欄を最初から用意しておくことです。口頭の変更を、その場で票に書き写す動作を1回入れるだけで、「言った・言わない」になる場面がほぼ消えます。
費用は2つあります。1つ目は、票と鍵つきの預かりボックスを用意する初期費用で、仮に2万円とします。2つ目は、1組あたりの確認の手間です。1組につき5分、時給1,500円で計算すると、200組で次の額になります。
- 200組 × 5分 ÷ 60 × 1,500円 = 2.5万円
票を入れても事故がゼロになるわけではありません。ここも仮に、行き違いは3分の1の0.3%、重い事故は10分の1の0.03%まで下がるとします。
- 行き違い:200組 × 0.3% × 3万円 = 1.8万円
- 重い事故:200組 × 0.03% × 50万円 = 3万円
- 合計:4.8万円
残る損失の4.8万円に、毎年の確認の手間2.5万円を足すと7.3万円です。初年度は初期費用の2万円が乗って9.3万円になります。箱だけの16万円と比べると、初年度で6.7万円、2年目以降は8.7万円の改善です。
ここで、改善の幅は発生率の仮定に大きく左右されます。もし箱だけの運用でも行き違いが0.2%、重い事故が0.01%にとどまる会場なら、箱だけの損失は3.2万円で、票の運用費2.5万円とほぼ同じです。その会場にとって、票は割に合いません。
つまり、受け渡し票の損益は、自分の会場の「行き違いの件数」で決まります。ここは推測ではなく数えられる数字です。
自分の会場で数える方法
過去1年分で、次の3つを数えます。
- 当日または翌日以降に、預かり物について二人かゲストから問い合わせが入った件数
- 渡す相手や置き場所の食い違いが、スタッフ同士の確認で見つかった件数
- 忘れ物のうち、持ち主を特定するまでに3日以上かかった件数
3つを合計して件数を200組などで割れば、「発生率」になります。記録が残っていない場合は、そのこと自体が結果です。記録が無いのに事故が起きていなければ運がよかっただけで、起きていれば誰も数えていなかったことになります。
数えるのに半日かかるなら、直近3か月分だけでも構いません。年間の件数に直すときは4倍します。
票を入れるときの設計の分かれ目
導入すると決めたら、運用の設計には3つの分かれ目があります。
票は紙かデータか
紙は当日の動きの中で書き込みやすく、立ったままでも使えます。データは後から集計しやすい反面、受付の混雑時にタブレットを操作する余裕が無いことがあります。僕は、当日は紙で書き、翌営業日に事務所でデータに写す二段構えが現実的だと考えています。写す作業は件数が少ないので、1組あたり1〜2分で済みます。
誰が責任者になるか
票を書くのが全員だと、書かれない票が出ます。「預かり物の責任者」を披露宴ごとに1人決めて、その人が閉場時に票の空欄を確認する形にします。受付が交代しても、責任者は変わらないようにします。責任者の指名は、前日の最終打合せの項目に入れておくと忘れません。
ご祝儀だけ別扱いにするか
ご祝儀は額が大きいので、他の預かり物とは別に、2人で数えて封をする運用を足す選択肢があります。この場合、票の費用に加えて、1組あたり3分、2人がかりの作業が増えます。仮に200組で計算すると、200組 × 3分 ÷ 60 × 2人 × 1,500円 = 3万円です。票を入れた後に残る重い事故の期待損失は年3万円で、封をする運用に3万円かけても、削れるのはその一部だけです。費用のほうが大きくなりやすいので、「やる・やらない」が拮抗します。ここは会場の事故歴と、補償の取り決め(預かり責任の範囲を契約書に書いているか)で決める部分です。
二人に伝えておくこと
票を作っても、二人が知らなければ、渡す相手の変更が会場に伝わりません。契約後の打合せの最後に、次の3点を伝える欄を作っておきます。
- 預かり物は5種類あること
- 渡す相手と時刻は、前日の最終打合せで票に書くこと
- 当日に変更するときは、受付かプランナーに一言伝えれば、その場で票に書き込むこと
この3点を、最終打合せの確認書の1行にしておけば、案内のための別の紙は要りません。
まとめ
- 披露宴当日の預かり物は、ご祝儀、祝電、プレゼントと手紙、二人の私物、忘れ物の5種類。受け取る人、置く場所、渡す相手、渡す時刻がそれぞれ違う
- 事故は、受け取る人が替わるとき、置き場所が分かれるとき、渡す相手が当日に変わるときに起きる。人の注意ではなく、記録を残す場所の問題
- 仮の式場(年200組)では、箱だけの運用の損失が年16万円。受け渡し票を入れると、運用費込みで年7.3万円(初年度9.3万円)になる。数字はすべて仮置き
- 箱だけでも行き違いがごく少ない会場なら、票の費用と損失がほぼ同じで、割に合わない。損益は自社の行き違いの件数で決まる
- 過去1年(または3か月×4)で、問い合わせ、食い違い、3日以上かかった忘れ物を数えてから決める
- 設計の分かれ目は、紙かデータか、責任者を誰にするか、ご祝儀を別扱いにするかの3つ。渡す相手の変更を書く欄は最初から用意する
