フェアの来場特典に5,000円つけても、仮の式場の費用は年112万円。成約が年2.7組増えれば元が取れる。見るのは金額より、特典目当ての人の成約率だ
ブライダルフェアの来場特典を、つけるかどうか、いくらにするか。季節の変わり目になると、必ず会議に出てくる議題です。「他社は5,000円分の商品券を出している」「うちも出さないと予約が埋まらない」という声と、「特典目当ての人ばかり来ても成約しない」という声が、同じテーブルに並びます。
先に結論を書きます。フェア予約が年300組、来場率75%の仮の式場なら、5,000円の特典を来場者全員に渡す費用は年112万円です。粗利140万円の1組に届きません。元を取るのは、特典のおかげで増えた成約が年2.7組。金額の議論は、思ったより早く終わります。
本当に決めるのは、特典目当てで増えた人が、どれだけ成約するかです。ここが数%まで落ちると、特典は赤字に変わります。数字の置き方を、順に見ていきます。
計算に使う仮の式場
この記事の数字はすべて、僕が置いた前提からの計算です。実在の式場の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
- フェアの予約は年300組
- 来場率は75%(予約300組のうち225組が来る)
- 来場したうちの30%が成約する(年67.5組)
- 成約1組の粗利は140万円
- 特典は来場した人に、その場で渡す
来館全体は別に年400組あって、フェア以外の来館(問い合わせからの見学など)は、この記事では数えません。特典を渡す相手は、フェアに来た225組だけです。
費用の大きさ
まず、特典に使うお金を並べます。来場者225組に全員渡す場合です。
| 特典の額 | 年の費用 | 粗利140万円の何組ぶんか |
|---|---|---|
| 3,000円 | 67.5万円 | 0.48組 |
| 5,000円 | 112.5万円 | 0.80組 |
| 10,000円 | 225万円 | 1.61組 |
10,000円でも、費用は粗利1.6組ぶんです。成約が年67.5組ある式場にとって、年1.6組は2%強にあたります。費用の絶対額は、思ったほど大きくありません。
ここで気をつけたいのは、この費用の大半が「どうせ来た人」に渡るお金だということです。特典がなくても来たはずの人にも、特典は渡ります。5,000円の特典が効いているのは、225組のうち一部だけで、残りは単なる値引きに近いお金です。だから、特典の損益は「費用を何組で割るか」ではなく、「特典で増えた組が何組か」で見ます。
損益分岐は、増えた来場の組数
特典のせいで来場者がx組増え、その人たちの成約率がcだったとします。増えた成約はx × c 組で、粗利はx × c × 140万円です。費用は、増えた人にも渡すので、(225 + x)組ぶん。
この2つが釣り合う点を、特典額と成約率ごとに計算しました。
| 特典の額 | 増えた人の成約率 | 損益分岐の来場増 | フェア予約でいうと |
|---|---|---|---|
| 3,000円 | 30% | 1.6組 | 年300組の0.7% |
| 3,000円 | 15% | 3.3組 | 1.4% |
| 5,000円 | 30% | 2.7組 | 1.2% |
| 5,000円 | 15% | 5.5組 | 2.4% |
| 5,000円 | 5% | 17.3組 | 7.7% |
| 10,000円 | 15% | 11.2組 | 5.0% |
| 10,000円 | 5% | 37.5組 | 16.7% |
一番右の列は、増えた来場を予約に換算して、年300組との比で出したものです。
見てほしいのは、成約率が下がるにつれて、必要な増え方が急に重くなる点です。5,000円の特典なら、増えた人の成約率が30%のとき、予約が1.2%増えれば足ります。5%まで落ちると、7.7%増えないと合いません。成約率が1/6になると、必要な増え方は6倍以上になります。
つまり、5,000円と10,000円のどちらにするかより、「特典で来る人が、本当に成約する人か」のほうが、損益を大きく動かします。
特典目当ての人の成約率
では、特典で増える人の成約率は、いくつでしょうか。僕はここに出典のある数字を持っていません。置けるのは仮定だけです。
特典目当ての人が、特典がなければ来なかった人だとします。その人たちの成約率は、元から来る人より低いと考えるのが自然です。会場を決める気が薄いまま来ているからです。ただ、「低い」がどのくらいなのかは、会場によって違うはずです。結婚式の準備を始めたばかりで、背中を押されて見学に来た二人は、特典がなくても数か月後に別の日に来たかもしれません。その場合、特典は来場の時期を前倒ししただけで、成約率はほぼ変わりません。
もう1つ、仮の計算をします。予約が10%増えて30組多くなる(来場は22.5組増える)として、増えた人の成約率ごとに、5,000円の特典の損得を出します。費用は、来場者247.5組の全員に渡す124万円です。
| 増えた人の成約率 | 増えた成約 | 増えた粗利 | 費用 | 差し引き |
|---|---|---|---|---|
| 30% | 6.8組 | 945万円 | 124万円 | +821万円 |
| 15% | 3.4組 | 472万円 | 124万円 | +349万円 |
| 5% | 1.1組 | 158万円 | 124万円 | +34万円 |
| 3% | 0.7組 | 95万円 | 124万円 | −29万円 |
この条件での損益分岐の成約率は3.9%です。特典で増えた22.5組のうち、成約が1組に届かないなら赤字になる、ということです。
逆にいえば、予約が1割増える特典なら、成約率が3.9%を超えれば黒字です。「特典目当ての人は成約しない」という声は、半分は正しく、半分は数字を見ていません。成約率が低くても、人数が増えれば粗利は積み上がります。ただし、増える人数が1割に届かないなら、同じ成約率でも結論が変わります。
来場率を上げる効き方
特典の効き方は、予約を増やすだけではありません。もう1つ、「予約した人が来る割合」を上げる効き方があります。
予約が300組で固定のまま、来場率が75%から上がるとします。これは、特典が「来たらもらえる」という約束として、無断欠席を減らす場合です。5,000円を全員に渡した場合の損益は次のとおりです。
| 来場率 | 来場組数 | 増えた成約の粗利 | 費用 | 差し引き |
|---|---|---|---|---|
| 78% | 234組 | 378万円 | 117万円 | +261万円 |
| 80% | 240組 | 630万円 | 120万円 | +510万円 |
| 85% | 255組 | 1,260万円 | 128万円 | +1,132万円 |
ここは、予約した時点で見学の意思がある人が来る割合が上がるだけなので、増えた来場者の成約率を、元の30%のままで置いています。やや楽観的な置き方です。予約して来なかった人は、もともと迷いが強い人だった可能性があり、成約率は30%より低いかもしれません。
それでも、損益分岐は小さいです。5,000円の特典で、来場率がどれだけ上がれば元が取れるか。増えた人の成約率が30%なら0.9ポイント、15%でも1.8ポイントです。来場率75%が76〜77%に動けば、特典の費用は戻ります。
無断欠席には、リマインド連絡という別の打ち手があり、前日の連絡だけで動く部分もあります。特典をつけてから来場率を測り、リマインドとの重なりを分けて見る必要があります。
渡し方で、費用は3分の1になる
ここまでは、来場者全員に渡す前提でした。実際には渡し方を変えると、費用が大きく変わります。
| 渡し方 | 対象 | 5,000円のときの年の費用 |
|---|---|---|
| 来場者全員 | 225組 | 112.5万円 |
| 来場者のうちアンケートに答えた人 | 仮に6割(135組) | 67.5万円 |
| 契約した人だけ | 67.5組 | 33.8万円 |
契約した人だけに渡す形にすると、費用は全員に渡す場合の30%まで下がります。粗利140万円の成約1組に対して、5,000円は0.4%。この額で成約の背中が押されることは、ほとんどないでしょう。ただ、これはもう「来場特典」ではなく「成約特典」です。目的が違うので、来場を増やす効き目は期待できません。
アンケートに答えた人に渡す形は、中間にあたります。来場後に答えてもらった内容(式場探しの期間、見学の数、不安な点)が接客の改善に使えるなら、特典の費用の一部は調査費として説明がつきます。ただし、特典のために答えてもらったアンケートは、答えが丁寧になる保証がありません。
渡し方は、特典の目的が何かで決めます。
- 予約を増やしたい: 予約の時点で「来場すればもらえる」と見せる必要がある。全員に渡す形になる
- 来場率を上げたい: 予約後のリマインドに特典を書く。来場者全員に渡す
- 来場後の情報を集めたい: アンケート回答を条件にする。費用は下がるが、予約を増やす効果はほぼない
- 成約を後押ししたい: 契約者特典にする。来場を増やす効果は期待しない
目的を1つ決めないまま「何かつけよう」で始めると、費用だけが全員に渡り、効果の測りようがなくなります。
特典をやめたときの見え方
最後に、見落としやすい点を1つ。特典を長く続けた会場が、ある月にやめると、予約が減ります。それが特典の効果の証拠にも見えますが、実は半分は「他社が出していた特典と比べた不利」を戻しただけかもしれません。特典を出している会場が多い地域では、出さないこと自体が「見劣りする」要因になります。この場合、特典の効果は「増やす」ではなく「減らさない」です。
減らさないための費用が年112万円なら、損益分岐は、特典をやめたときに失う来場の組数で測ります。5,000円・成約率30%なら、特典をやめて来場が2.7組減るだけで、やめた分のお金は消えます。年225組のうち、1%強です。
やめて確かめる場合は、数か月の期間を区切り、前年同月との比較ではなく、同じ月の中で曜日や媒体別に分けて見ます。月ごとの予約数は揺れが大きく、1か月だけの減少を特典の効果とは読めません。
自分の数字で測る手順
ここまでの計算を、自分の会場でやり直す手順を並べます。
- フェア予約の年間数、来場率、来場後の成約率、成約1組の粗利を出す
- 特典の額 × 来場者数で、年の費用を出す
- 費用 ÷(成約率 × 粗利 − 特典額)で、損益分岐の来場増(組)を出す
- 特典をつけた月とつけなかった月で、予約数、来場率、来場後の成約率を別々に並べる
- 特典の予約経路(特典の記載があるページ経由か)で、成約率を分けて見る
5が一番手間ですが、特典で増えた人の成約率を直接見る手段はこれしかありません。予約フォームで「この特典を見て予約した」と選べるようにしておくと、来場後の成約まで追えます。
注意点を1つ。特典で増えた人と、元から来る人を分けるには、同じ月に特典の有無を分けるやり方(たとえば特典を載せるページと載せないページを作る)が必要です。時期を前後で比べるだけだと、季節要因と混ざります。
まとめ
- 5,000円の来場特典は、フェア来場225組の仮の式場で年112万円。粗利140万円の1組に満たない
- 損益分岐は、特典で増えた来場の組数で決まる。5,000円・成約率30%なら2.7組、5%なら17.3組
- 予約が1割増える特典の損益分岐の成約率は3.9%。特典目当ての人が成約しないという心配は、人数が増えれば吸収できる
- 来場率の上げ方でも元が取れる。5,000円・成約率30%なら、来場率が0.9ポイント動けば足りる
- 渡し方で費用は変わる。契約者だけなら全員に渡す場合の30%。ただし来場を増やす効果は期待しない
- 決める前に、予約・来場・成約を、特典の有無で分けて並べる。特典の額は、その後でいい
