自社名の検索に広告を出す費用は、仮の式場で年9万円。1組の粗利の1割に届かない。決めるのは費用ではなく、他社が自社名で入札しているかだ
自社名で検索した人に、広告を出すべきかどうか。式場の集客でいちばん意見が割れやすいのが、この「指名キーワード広告」です。「どうせ公式サイトが1位に出るのだから、お金の無駄」という声と、「他社に取られたら怖いから出しておく」という声が、同じ会議で並びます。
結論から書きます。月に200回、自社名で検索される仮の式場なら、自社名への広告にかかる費用は年9万円ほどです。粗利140万円の1組の、1割にも届きません。ここだけを見れば、出しても出さなくても損得は誤差です。
では何で決まるのか。僕の答えは、費用ではなく「検索した人を、横から連れていく広告が出ているかどうか」です。自社名で検索した人の画面に、他社や媒体の広告が並んでいるなら、自社の広告は守りとして働きます。並んでいなければ、広告はほとんど「どうせ来た人」にお金を払うだけになります。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。検索回数も、クリック率も、クリック単価も、来館率も、調査の数字ではありません。自分の会場の数字に置き換えると結論が変わるので、「どの数字が結論を動かすのか」を読み取ってもらうための計算として読んでください。
指名キーワード広告で、何にお金を払っているのか
指名キーワード広告は、自社名やその略称、「自社名 口コミ」「自社名 料金」といった言葉を検索した人に、検索結果の上に広告を出す仕組みです。多くの検索広告は、広告がクリックされたときにだけ費用が発生します。
この広告が、ふつうの検索広告と違う点が1つあります。検索している人が、すでに自社を知っているということです。「ブライダルフェアを探している人」に出す広告は、その人に自社を知ってもらう役割を持ちます。自社名を打ち込んだ人は、知っている状態から始まっています。
だから、指名の広告の効果は、「広告のおかげで来た人」の数ではなく、「広告が無かったら来なかった人」の数で測る必要があります。広告経由で来館予約が10件入っても、広告を止めた場合に自然検索の枠から同じ10件が入るなら、増えた成約はゼロで、広告費だけが出ていきます。
この「広告があってもなくても来た人」の割合を、僕は「どうせ来た人」と呼んでいます。紹介特典や、Instagramの運用でも同じ構造が出てくる考え方です。指名の広告は、その割合がいちばん高くなりやすい場所です。
仮の式場を置く
数字を置きます。
- 自社名とその周辺の言葉の検索は、月200回
- 年間の挙式は120組、1組の粗利は140万円
- 広告のクリック単価は90円。広告会社に運用を頼み、広告費の20%を手数料として払う
- 検索結果のクリックは、広告と自然検索(公式サイトのリンク)の合計で見る
- 広告経由のクリックのうち、来館予約に進む人は10%
- 来館した人のうち、成約する人は30%(来館後の成約率は、会場によって2〜4割に収まる範囲に置いた仮の値です)
クリック単価90円、検索200回というのは、小さな会場を想定した置き方です。実際は、地域の大きさや、会場名の知られ方で大きく変わります。ただ、桁が1つ違っても結論の組み立ては同じなので、先に進みます。
3つの場面で、増える成約を数える
自社名で検索した画面の様子は、大きく3通りに分けられます。それぞれに、広告を出した場合と出さない場合のクリックの割合を置きます。
場面A:他に広告が出ていない。 自社の公式サイトが1位。広告なしでも、検索した人の60%が自然検索のリンクをクリックする。広告を出すと、広告が35%、自然検索が28%に分かれ、合計は63%。
場面B:媒体が自社名で広告を出している。 結婚情報サイトなどが、自社名の検索画面に広告を出している。広告なしでは、自社の公式サイトのクリックが38%に落ちる(残りは媒体のページに流れる)。自社が広告を出すと、広告45%、自然18%で合計63%。
場面C:複数の他社が入札している。 広告なしでは、自社の公式サイトのクリックは20%。自社が広告を出すと、広告50%、自然10%で合計60%。
広告を出した場合の合計から、出さない場合の合計を引いたものが、広告で「増えたクリック」です。月200回の検索で計算します。
| 場面 | 広告費(年、手数料込み) | 増えるクリック(月) | 増える成約(年) | 増える粗利(年) |
|---|---|---|---|---|
| A 他に広告なし | 約9.1万円 | 6回 | 2.2組 | 約302万円 |
| B 媒体が入札 | 約11.7万円 | 50回 | 18組 | 約2,520万円 |
| C 複数の他社が入札 | 約13万円 | 80回 | 28.8組 | 約4,032万円 |
場面Cの増えるクリックは、広告ありの合計(50%+10%=60%)から広告なしの20%を引いた40%で、200回のうち80回です。
これを見て、「場面Aでも年2.2組も増える」と読むのは危険です。Aの増加分は、広告と自然検索の合計クリック率が、仮に60%から63%へ3ポイント動くと置いたことから出ています。この3ポイントは、僕の置いた数字で、実際に3ポイント動くかどうかは広告を止めてみないと分かりません。動かなければ、Aの増える成約は0組で、広告費の9.1万円がそのまま無駄になります。
一方で、場面Aの損益分岐は、驚くほど低いところにあります。広告費9.1万円を、粗利140万円で取り返すのに要る成約は、0.065組です。来館予約の10%、来館後の成約30%を使うと、1回のクリックが成約になる確率は3%ですから、年に約2回の追加クリックがあれば元が取れる計算になります。月に直すと0.18回です。
つまり、場面Aでも「広告が月に1回でも、広告のおかげで来た人を作れば元は取れる」水準で、費用が誤差だという最初の結論は変わりません。
場面BとCは、広告ではなく「守り」の費用になる
場面Bと場面Cで増えるクリックは、広告が新しい人を連れてきたわけではありません。自社名で検索した人を、広告の枠で他のページに取られないようにした分です。
場面Bで、媒体が自社名で広告を出していると、検索した人は媒体のページに入ります。そのあとで予約が入れば、媒体を通した予約になります。媒体の掲載料が、来館や成約に応じて発生する契約なら、「自社名で検索して、自社に来るはずだった人」に媒体費を払うことになります。
仮に、媒体経由の成約1組あたりの費用が25万円だとします(これも僕の置いた数字です)。場面Bで、広告なしなら媒体のページに流れる25ポイント分、年に18組がすべて媒体経由になると、年に450万円の媒体費がかかります。自社の広告費は11.7万円です。差は、桁が違います。
ここで注意したいのは、18組という数字そのものを信じないことです。媒体のページに行った人が、全員そこから予約するとは限りません。公式サイトに戻ってくる人も、別の会場に移る人もいます。ただ、どう割り引いても、「守る費用」は11.7万円より大きくなりうる、という構造は変わりません。
場面Cも同じです。他社が自社名で広告を出しているなら、検索した人が他社の広告をクリックして、他社の見学に行く可能性があります。これは、費用の問題ではなく、機会の問題です。
判断の分かれ目は、今の検索画面を見ること
だから、最初にやることは、広告を出すか出さないかを議論することではありません。自社名で検索して、検索結果に何が並んでいるかを見ることです。
見るときの手順は、次のとおりです。
- スマホで、自社名だけを検索する。その次に、「自社名 口コミ」「自社名 料金」「自社名 ブライダルフェア」でも検索する
- 検索結果の上に「広告」「スポンサー」と書かれた枠があるか確かめる。あれば、誰が出しているかを書き留める
- 地域や端末で表示が変わるので、会場の近くと、遠く離れた場所の両方で見る。プライベートモード(履歴を使わない画面)を使う
- これを1日1回、1週間続ける。広告の出る時間帯は、日によって違う
広告会社に頼んでいる場合は、広告の管理画面にある「オークション分析」や「競合との比較」の項目で、自社名の検索で一緒に出ている広告主の名前と、その表示の割合が見られることがあります。見られる項目は広告の種類で違うので、担当者に聞くのがいちばん早いです。
他に誰も出ていなければ、場面Aです。ただし「今は出ていない」だけで、来月に媒体が入札を始めることはありえます。場面Aだから出さない、と決めるなら、定期的に見直す約束とセットにします。
広告を止めて確かめる:期間と、読み取れること
場面Aか、BやCかが分からないときや、そもそも広告の効果が分からないときは、止めて確かめる方法があります。ただし、止めて確かめるには条件があります。
仮の式場の自社名の検索は、月に200回です。2週間止めると、検索は約93回で、自然検索のクリックは60%なら約56回です。広告を出していた期間と比べて、自然検索のクリックが3ポイント変わるかどうかは、約93回の中では2.8回の差です。この程度の差は、週ごとのばらつきの中に埋もれます。
だから、検索が月200回の会場では、2週間止めても、結論は出ません。分かるのは、大きな差があるときだけです。自然検索のクリックが半分になったなら、場面BかCだと分かります。変わらなければ、場面Aに近いと分かりますが、3ポイントの差があるかどうかは分かりません。
ただ、場面Aの費用は年9万円です。分からないまま続けても、止めて分からないままにしても、損は9万円の範囲です。確かめるために時間を使う価値が薄いなら、「場面Aなら、半年に1度、検索画面を見る」と決めて、広告は出し続けるほうが手間は軽くなります。
止めて確かめる価値が出るのは、検索の回数が桁違いに多い会場や、広告費が月に数万円を超える会場です。たとえば、月に2,000回の検索があって、広告費が年90万円になる会場なら、2週間で約930回のデータが取れます。3ポイントの差は28回で、見える大きさになります。
来館率の置き方で、場面Aの結果は変わる
場面Aの結論は、来館予約に進む率に左右されます。仮に10%と置きましたが、実際は会場によって違います。
追加クリックが年72回あるとき(月6回)、来館予約の率を3%、5%、10%に置いて、増える成約を並べます。来館後の成約率は30%のままです。
- 3%:72回×3%×30%=0.65組、粗利約91万円
- 5%:72回×5%×30%=1.08組、粗利約151万円
- 10%:72回×10%×30%=2.16組、粗利約302万円
3%でも、広告費9.1万円との比較では、10倍に近い粗利です。ここでも、場面Aの広告は、損になる側に倒れにくい構造をしています。倒れるのは、増えるクリックが0のとき、つまり「広告があってもなくても来る人」しか広告から来ていないときです。この前提は、止めてみないと分かりません。
広告の費用で見落としやすい3つの項目
最後に、仮の式場の計算に入れなかった費用を挙げます。
運用の手間。 広告の管理画面を見る時間、月次の報告を読む時間、広告会社とのやりとりの時間は、広告費に含まれません。月に1時間でも、年に12時間かかります。
キーワードの広がり。 自社名の周辺の言葉に広げると、クリックが指名ではない人に出ることがあります。「ブライダルフェア 地域名」のような言葉は、指名ではなく、他社と競う言葉です。指名の広告の成果と混ぜて見ると、全体の効率が良く見えるので、分けて数えます。
計測の混ざり方。 広告経由の来館が、そのまま「広告の成果」として報告されることがあります。広告を止めても来た人が混ざっているため、報告の数字をそのまま成果として読まないようにします。
まとめ
- 自社名の検索に出す広告は、月200回の仮の式場で年9万円ほど。粗利140万円の1組の1割に届かない
- 広告の効果は「広告のおかげで来た人」ではなく「広告が無かったら来なかった人」で数える。その割合が低いほど、広告は「どうせ来た人」へのお金になる
- 判断の分かれ目は、自社名で検索したとき、他社や媒体の広告が並んでいるか。並んでいれば守りの費用になり、並んでいなければ誤差の費用になる
- 最初にやることは、スマホで自社名を検索して、広告の枠を見ること。1週間、時間をずらして続ける
- 広告を止めて確かめるには、検索回数が要る。月200回では2週間止めても結論は出ず、月2,000回なら見える
- 場面Aで出し続けるなら、半年に1度の見直しをセットにする
