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式場紹介動画の制作費80万円は、年0.33組の成約で元が取れる。難しいのは回収ではなく、動画のおかげで来た人を数えることだ

式場の紹介動画を作るかどうか。公式サイトに載せる動画、ブライダルフェアの前に見てもらう動画、ポータルサイトの掲載ページに差し込む動画。どれも、制作会社から見積もりを取ると80万円から300万円くらいの話になりやすいと思います。

作るかどうかで揉めるとき、よく出る反論は「動画で成約が増える証拠があるのか」です。この反論には、実は答えがいりません。損益分岐を計算すると、動画は驚くほど低いハードルで元が取れるからです。本当に難しいのは、そのあとです。動画が効いたのかどうかを、あとから見分ける手段が会場に無いことが多いです。

結論から書きます。年120組、1組の粗利が140万円の仮の式場で、制作費80万円の動画が元を取るのは、年0.33組の成約です。制作費300万円でも年0.93組です。一方で、年120組の成約数は、何もしなくても年によって±11組ほど揺れます。0.33組の効果は、この揺れの中に完全に隠れます。

この記事は出典のある統計に頼る話ではありません。数字はすべて僕が置いた仮のものです。前提を本文に書くので、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

前提:年120組、来館600組、粗利140万円

仮の式場を決めます。

  • 年間の成約は120組
  • 来館は年600組。来館後の成約率は20%
  • 問い合わせは年1,200件。そのうち来館に進むのは半分の600組
  • 1組あたりの粗利は140万円
  • 動画の制作費は80万円の案と300万円の案を置く
  • 動画は3年使う。ただし年に1回、撮り直しや編集の更新をする費用がかかる。80万円の案は年20万円、300万円の案は年30万円とする

制作費を3年で割り、更新費を足して、年あたりの費用を出します。

  • 80万円の案:80万円÷3年+20万円=年46.7万円
  • 300万円の案:300万円÷3年+30万円=年130万円

3年ではなく2年で作り直すと、300万円の案は年180万円になります。会場を改装したり、人気だったプランナーが辞めたりして、映像が古くなる会場もあります。使う年数は、損益分岐を大きく動かす前提のひとつです。

取り返すのに要る成約は、年0.33組から0.93組

年あたりの費用を、1組の粗利140万円で割ります。

  • 80万円の案:46.7万円÷140万円=年0.33組
  • 300万円の案:130万円÷140万円=年0.93組

2年で作り直す300万円の案だと、年1.29組です。

年に1組いかない水準です。粗利140万円の式場にとって、動画は、他の販促と比べてかなり軽い投資に見えます。ここで「やはり動画は作るべきだ」と結論したくなりますが、見る角度を変えると、話が違ってきます。

角度1:問い合わせを何件増やせばいいか

動画が問い合わせを増やす経路で、必要な件数を逆算します。来館後の成約率が20%なら、1組の成約には5組の来館が要ります。問い合わせから来館に進むのが半分なら、5組の来館には10件の問い合わせが要ります。

  • 80万円の案:年0.33組の成約=来館1.67組=問い合わせ3.3件。年1,200件の0.28%
  • 300万円の案:年0.93組の成約=来館4.6組=問い合わせ9.3件。年1,200件の0.77%

年間の問い合わせが1,200件あっても、必要なのは3件から9件の上乗せです。月に直すと1件に届きません。動画は、問い合わせ数の面では、ほとんど何も起こさなくても回収に近づけるということです。

角度2:来館後の成約率を何ポイント上げればいいか

動画を見てから来る人は、来る前に会場の雰囲気を知っています。見学の説明が通りやすくなって、成約率が上がる、という経路です。来館は年600組なので、必要な上昇幅はこうなります。

  • 80万円の案:0.33組÷600組=0.056ポイント
  • 300万円の案:0.93組÷600組=0.155ポイント

20%が20.06%になれば、80万円の動画は回収されます。成約率が0.1ポイント動くかどうかを、月次の数字で見分けることはできません。月に50組を案内する会場で成約率が20%なら、偶然の揺れだけで標準偏差は約5.7ポイント、95%の幅で±11ポイントになるからです。

角度3:動画を見た人のうち、動画のせいで来た人は何割か

実務で一番使えるのは、この角度です。予約のときに「動画を見ましたか」と一問聞けば、動画を見た人の数が分かります。仮に、見たと答える人が年40組いたとします。

ここで大事なのは、見た人全員が動画の効果ではない、という点です。動画がなくても来ていた人が、たまたま動画も見ただけ、ということが多くあります。この「どうせ来た人」を引いた残りが、動画のおかげで増えた来館です。

見た人のうち、動画がなければ来なかった人の割合を p とします。年40組が見るなら、必要な p はこうなります。

  • 80万円の案:0.33組÷(40組×成約率20%)=4.2%
  • 300万円の案:0.93組÷(40組×成約率20%)=11.6%

見た人が年80組なら、80万円の案は2.1%、300万円の案は5.8%です。年120組なら、1.4%と3.9%になります。

この表を見ると、判断の分かれ目が見えてきます。80万円の案は、見た人の20人に1人が「動画がなければ行かなかった」だけで回収されます。300万円の案は、見た人が年40組なら9人に1人が必要です。数字だけでは良し悪しは決まらず、「動画を見る人が何組いるか」と「動画が背中を押す人の割合」が分かって初めて、300万円の案を通すかどうかが決まります。

成約数の揺れと動画の効果

次に、効果が見えるかどうかを考えます。年120組の成約は、毎年同じ数にはなりません。1組ごとの成約が独立に起きるとみなす簡単な近似では、年の成約数の標準偏差は約11組(√120)です。去年と今年の差で効果を見ようとすると、差の揺れは約15組(11組×√2)で、約95%の幅だと±30組になります。

動画が年0.33組、あるいは年1組を増やしたとしても、去年と今年の成約数を並べて見分けることはできません。「動画を入れた年は成約が増えた」「減った」という話は、動画とは別の原因で起きた揺れを、動画の効果と読み違えているだけのことが多いです。

だから、動画の効果を数字で確かめるには、年間の成約数ではなく、動画に触れた人と触れなかった人を分けて比べる必要があります。

見分けるための仕組みを、制作前に決める

制作前に決めておくと、あとが楽になる項目を挙げます。

  1. 予約フォームに「会場の動画を見ましたか」の一問を入れる。見た、見ていない、覚えていない、の3択でよい
  2. 来館時のアンケートにも同じ質問を入れる。予約時の回答と食い違うことがあるので、両方取る
  3. 動画を見た人と見ていない人で、来館率と成約率を分けて記録する。年に40組の動画視聴では、成約率の差は誤差だらけになるので、2年分は溜めて見る
  4. 動画を置いた場所を1か所ずつ足していく。公式サイトのトップだけにするのか、フェアの予約ページにも置くのかで、見た人の数が変わる。置き場所を同時にいくつも変えると、どこが効いたか分からなくなる

この仕組みは、動画が無くても使えます。つまり、動画を作るかどうかの判断より、予約フォームに一問足すほうが先です。動画を作ってから聞き始めると、動画を入れる前の基準値が取れません。

動画の役割を分けて考える

動画は、会場によって役割が違います。

  • 来館前の不安を減らす動画:遠方のゲストを呼ぶ予定の二人や、他の会場と比べて検討している二人が、見学の前に雰囲気を見るための動画。来館の取りやめを減らす役割
  • 来館後の持ち帰りを助ける動画:見学に同席できなかった家族に見せるための動画。契約の判断を後押しする役割
  • 検索やSNSで見つけてもらう動画:知らない人に会場を知ってもらうための動画。そもそもの認知を増やす役割

役割が違えば、見るべき数字も違います。来館前の不安を減らすなら、予約から来館までの取りやめ率を見ます。持ち帰りを助けるなら、来館後1週間の成約率を見ます。認知を増やすなら、動画経由の初回訪問数を見ます。

全部を1本の動画で担わせようとすると、どの数字を見ても「効いたかもしれない」で終わります。1本目は役割をひとつに絞って、80万円の案で始め、結果が数字で見えたら、300万円の案に進むかどうかを考える順番が、無駄になりにくいと僕は思っています。

300万円の案を通す条件

300万円の案が合理的になる条件を整理します。

  • 動画を見る人が年80組以上いる。見る人が少ないと、必要な「どうせ来た人」の割合が高くなりすぎる
  • 3年以上使える。改装の予定がなく、映像に出る人の入れ替わりが少ない
  • 1組の粗利が140万円より大きい。粗利が200万円なら、年あたり130万円の費用は0.65組で回収される
  • 複数の場所に使い回せる。公式サイト、ポータルサイト、SNS、フェアの会場で流すなど、見られる回数が増えるほど1回あたりの費用は下がる

逆に、次のときは80万円の案か、まだ作らないほうがいいと考えます。

  • 予約フォームで、何を見て来たかを聞いていない
  • 動画を置く場所が公式サイトの1か所しかなく、サイトへの訪問自体が少ない
  • 来年に改装やチャペルの入れ替えを予定していて、2年以内に撮り直しになる

まとめ

  • 年120組、粗利140万円の仮の式場で、制作費80万円の動画は年0.33組、300万円の動画は年0.93組の成約で元が取れる
  • 問い合わせ数なら年3件から9件の上乗せで足りる。成約率なら0.056ポイントから0.155ポイントの上昇で足りる
  • 動画を見た人が年40組なら、動画がなければ来なかった人が4.2%(80万円案)から11.6%(300万円案)いれば回収できる
  • 年120組の成約は年ごとに±11組揺れるので、去年との比較では動画の効果は見えない
  • 判断を分けるのは回収額ではなく、動画を見た人を数える仕組みがあるかどうか。予約フォームの一問は、動画を作る前に入れる
  • 1本の動画に複数の役割を持たせず、80万円の案で始めて、数字が見えたら300万円の案を検討する