ご祝儀のキャッシュレスを二人が使いたいと言ったら、式場が決める線は3つ。仮に手数料3%だと、60人の披露宴で二人の負担は最大4.5万円
打合せの終わりぎわに、新婦さんから「ご祝儀を、スマホで受け取れるようにしたいんですが」と言われたとします。受付の机に二次元コードを置きたい、という相談です。プランナーが「前例がないので」と返せば話は終わります。ただ、その返事は式場にとって得なのか。今日はそこを整理します。
先に結論です。式場が決めるのは、次の3つの線だけです。ひとつ目は、受付の机に二次元コードを置いてよいか。ふたつ目は、現金の祝儀を預かる責任を式場が持つか。みっつ目は、ゲストへの案内を式場の印刷物やスタッフの声かけに載せるか。この3つを先に決めておけば、「禁止」か「窓口になる」かの二択で悩まずに済みます。そして、どの線を選んでも式場の損得はそれほど大きく動かない、というのが僕の見立てです。動くのは二人の手取りと、当日の受付の空気のほうです。
調査では、賛成が6割ある
数字がひとつ出ています。トキハナが2025年3月に出した「結婚式のご祝儀事情に関する調査」です。令和に入ってから結婚式に参列した20〜40代の男女、有効回答329名に聞いていて、キャッシュレスのご祝儀に「とても賛成」「まあ賛成」と答えた人が59.5%でした。
メリットとして挙がったのは、「手軽でスムーズ」が59.6%、「受付の負担が減る」が44.1%、「盗難の心配がなくなる」が37.1%です(複数回答)。デメリットのほうは、「感謝の気持ちが伝わりにくい」が43.5%、「伝統的な雰囲気がない」が37.4%、「アナログ世代への説明が面倒」が35.9%でした。
読むときの注意が2つあります。ひとつは、これは329名の意識調査で、実際に何割の参列者がキャッシュレスで包んだかではないことです。賛成と実行の間には距離があります。もうひとつは、記事には渡す相手別の数字が載っておらず、「友人や同僚には肯定的、上司や親族には慎重」という傾向の紹介にとどまっていたことです。つまり、賛成が6割あっても、新郎新婦の親族席にまで広がるとは限りません。
この2点から、僕はこの調査を「二人の側に使いたい人が一定数いる」ことの根拠として使います。「ゲスト全員がキャッシュレスで包む時代になる」とまでは読みません。
線1:受付の机に二次元コードを置いてよいか
最初の線は、持ち込みを許すかどうかです。禁止にする理由として現場でよく聞くのは、次のようなものです。
- 受付の机が、コード、芳名帳、ウェルカムグッズで混み合う
- 決済の画面が表示されないゲストが出て、列が止まる
- 年配のゲストが戸惑い、受付係の説明が増える
どれももっともです。ただ、ここで見てほしいのは、列が止まる原因が「コードがあること」ではなく「コードしか選べないこと」だという点です。現金も受け付けて、コードは「どちらでも」にしておけば、止まる人は最初の1人か2人にとどまります。
反対に許す側の理由は、二人の希望を断らずに済むことに尽きます。結婚式の打合せは、小さな「できません」の積み重ねで、満足が削れていきます。コードの設置は、式場の設備や料理に影響しません。断る理由が「前例がない」だけなら、許したほうが安く済みます。
僕なら、許す場合の条件を3つだけ付けます。机の上に置く面積の目安(はがきサイズ程度)、現金も同じ机で受け付けること、決済が終わったかどうかの確認は二人側で行い、式場は関与しないこと。この3つなら、受付のルールとして説明も短く済みます。
線2:現金の祝儀を預かる責任を、式場が持つか
ふたつ目の線は、キャッシュレスとは別の話に見えて、実はいちばん金額が大きいところです。現金の祝儀を、式場の誰かが一時的に預かるかどうか。
仮の前提を置いて、規模を見てみます。ゲスト60人、1人3万円とすると、祝儀の総額は180万円です。キャッシュレス派がいなければ、この180万円がすべて現金で受付に集まります。披露宴の間、受付の机から金庫、あるいは新郎新婦の親族へと、誰かが運ぶことになります。
ここで式場がどこまで関わるかは、会場ごとに違います。次の3段階で考えると整理しやすいです。
- 受付は二人の親族や友人が行い、祝儀の保管も二人側が行う。式場は金庫を貸すだけ、あるいは何もしない
- 受付は二人側だが、披露宴中は式場が祝儀袋を預かって保管する
- 受付も保管も、式場のスタッフが行う
3に近づくほど、盗難や紛失が起きたときの責任が式場に寄ります。キャッシュレス派が増えると、現金の量が減るので、この責任は軽くなる方向に動きます。調査でも「盗難の心配がなくなる」が37.1%でメリットに挙がっていました。参列者の側も、その点は感じているということです。
線を引くなら、「現金を預かる場合は、袋の数と受け渡しの時刻を二人側と一緒に確認して記録する」と決めておくのが現実的です。キャッシュレスの話を持ち出されたことをきっかけに、この確認の手順を見直す式場があってもいいと思います。
線3:ゲストへの案内に、式場が関わるか
みっつ目は、案内の線です。二人が招待状やウェディングサイトでキャッシュレスの案内を出すのは自由ですが、受付で「こちらでも受け付けています」と式場のスタッフが口にするのか。席次表や会場のサインに、式場の印刷物として載せるのか。
調査のデメリットに、「アナログ世代への説明が面倒」が35.9%ありました。説明の負担は、二人かゲストの誰かが負うことになります。式場のスタッフが声をかけるようにすると、この説明の負担は式場に移ります。
僕が勧めるのは、式場は案内に関わらない、という線です。理由は2つあります。
ひとつは、決済の不具合が起きたときの責任の所在です。式場のスタッフが「ここで払えます」と言ったあとに決済が通らなければ、苦情の矛先は式場に向かいます。もうひとつは、親族席への配慮です。調査の紹介どおり、上司や親族には慎重な意見が目立つなら、式場が前面に出ると、年配のゲストから見て「式場が勧めている」ように映ります。案内は二人の名前で出すほうが、角が立ちません。
二人の手取りは、手数料でどれだけ減るか
ここからは、二人の負担額を計算します。キャッシュレスの決済には手数料がかかることが多く、誰が負担するかはサービスによって違います。ここでは出典を確認できていないので、「仮に」の計算にします。
前提は次のとおりです。ゲスト60人、1人3万円で総額180万円。そのうちキャッシュレスで包む人の割合を10%、30%、50%の3通りにします。手数料率は、仮に0%、3%、5%の3通りです。手数料は二人が負担するものとして計算しました。
| キャッシュレスの割合 | 手数料0% | 手数料3% | 手数料5% |
|---|---|---|---|
| 10%(6人、18万円分) | 0円 | 5,400円 | 9,000円 |
| 30%(18人、54万円分) | 0円 | 16,200円 | 27,000円 |
| 50%(30人、90万円分) | 0円 | 27,000円 | 45,000円 |
3%なら、半数がキャッシュレスで包んでも二人の負担は2.7万円です。5%まで上げて半数なら4.5万円。タイトルの「最大4.5万円」は、この表の右下の数字です。
この金額を、二人はどう感じるか。祝儀180万円に対して2.5%です。受付の負担や盗難の心配がなくなる価値と比べて、納得できる範囲かどうかは、二人が決めることです。式場として大事なのは、この数字を二人が知らないまま進めないこと。打合せの場で「手数料が引かれる場合があるので、使うサービスの条件は二人で確認してくださいね」と一言添えるだけで、あとからの「聞いていなかった」を避けられます。式場が手数料の額を保証する必要はありません。保証できませんし、してはいけない領域です。
式場の側の負担は、ほとんど増えない
式場にとってのコストも、仮の前提で見ます。コードの設置を許可して、現金も受け付ける形にした場合です。
増えるのは、打合せで説明する10分から20分ほどの時間と、当日のスタッフ間の申し送りです。仮に打合せの追加が1組あたり20分、時給換算2,000円のプランナーなら、1組あたり約670円。年120組すべてで希望が出るとしても、約8万円です。実際には全組が希望するわけではないので、これより小さくなります。
一方で、減る可能性のあるものもあります。式場スタッフが現金の保管に関わる時間です。仮に1組あたり20分の保管と受け渡しの作業があったとして、同じ時給換算で年8万円。キャッシュレス派が増えて現金の量が減れば、この作業が短くなる余地はあります。ただし、袋の数が減っても確認の手順は変わらないので、時間が大きく減るわけではないと見ています。
つまり、増えるコストも減るコストも、年に数万円の桁です。許すか禁止するかの判断を、この金額でする意味はほとんどありません。判断を分けるのは、次の3つの問いです。
- 二人の希望を断ることの印象のほうが重いか
- 受付が混んだときに、現場が回せるか
- 現金を預かる責任を、今のまま続けるか
他業界では、現金を減らす動きがどう進んだか
他業界の考え方も、軽く触れておきます。現金のみだった窓口にカードやコード決済を足すとき、最初から全部を切り替えず、「現金も使える」まま足していく進め方があります。窓口の混雑や、年配の客への配慮を考えれば、仕組みとしてそうなりやすい、という話です。業界全体の傾向を調べたわけではありません。
結婚式の受付も、同じ形が合っていると僕は考えています。調査で賛成が6割あるといっても、残りの4割には反対か、どちらでもない人がいます。そして、その中に親族席の年配の方が多く含まれる可能性があります。現金を残したまま、コードを足す。この順番なら、誰の気持ちも削りません。
当日の受付で起きがちなこと
最後に、当日に起きやすいことを3つ書いておきます。実際に起きた事例の紹介ではなく、仕組みから予想できる場面です。
- 通信が不安定な会場で、決済が通らない。受付の机は、館内の通信が弱い場所にあることがあります。事前に、受付の位置で電波が届くか試しておくと安心です
- 「払ったかどうか」がゲストと二人の間でずれる。芳名帳に名前を書いたあと、決済を忘れる人が出ます。二人側で、あとから決済の一覧と芳名帳を突き合わせる前提にしておくと、式場が巻き込まれません
- 感謝の気持ちが伝わりにくい、という不安。調査のデメリットで最多の43.5%でした。決済の画面に、ひとことメッセージを添えられる仕組みがあれば、そこを補えます。式場が用意できるのは、芳名帳の隣に置くメッセージカードくらいですが、それだけでも印象は変わります
まとめ
- 調査(トキハナ、2025年3月、有効回答329名)では、キャッシュレスのご祝儀への賛成が59.5%。ただし意識調査で、実際の利用割合ではない
- 式場が決める線は3つ。机にコードを置いてよいか、現金を預かる責任を持つか、ゲストへの案内に関わるか
- 許す場合は「現金も同じ机で受け付ける」「決済の確認は二人側」「面積は目安を決める」の3条件で説明が短くなる
- 仮に手数料3%、キャッシュレスが半数なら、60人・180万円の祝儀で二人の負担は2.7万円。5%なら4.5万円
- 式場側のコストは、増えても減っても年に数万円の桁。判断は金額ではなく、断る印象、現場の回しやすさ、現金を預かる責任で分ける
- 案内は二人の名前で出し、式場は手数料の額も決済の成否も保証しない
