業界動向

光熱費が3割上がると、仮の式場では1組あたり2.9万円で粗利の2.1%。ただ、組数が減ると固定の部分が効いて、1組あたりの負担がもう一度上がる

電気やガスの料金が上がると、式場の経営者がまず考えるのは「どれだけ痛いか」です。次に「お客様の見積もりに乗せるのか、自分たちで吸収するのか」を考えます。ただ、この二つを決める前に、一つ確かめておきたいことがあります。光熱費のうち、結婚式が一組増えても減っても変わらない部分は、どれくらいあるのか、という点です。

結論から書きます。年間120組、光熱費が年1,500万円という仮の式場で、電気が3割、ガスが2割上がると、年間の負担増は350万円です。1組あたりで割ると2.9万円。粗利が140万円の式場なら、粗利の2.1%にあたります。数字だけ見ると、そこまで大きくありません。見積もりに乗せたことで契約が2.1%減っても、転嫁しなかった場合と同じになります。成約率が30%の式場なら、0.6ポイントの落ち幅です。

ただ、この計算には見えにくい部分があります。光熱費は、組数に比例して動く費用ではありません。組数が10%減っても、光熱費は10%は減らない。空調を入れる広間の広さも、冷蔵設備を回す時間も、組数が減ったからといって小さくならないからです。固定の部分が多いほど、組数が減ったときの1組あたりの負担は重くなります。

この記事の数字は、出典のある統計ではありません。光熱費の総額も、電気とガスの割合も、会場によって大きく違います。前提を先に並べるので、自分の式場の請求書の数字に替えて読んでください。

前提を先に置きます

使う数字は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。

  • 年間の挙式組数は120組
  • 光熱費は年間1,500万円。内訳は電気が900万円、ガスが400万円、水道が200万円
  • 1組あたりの光熱費は、1,500万円÷120組=12.5万円
  • 1組あたりの粗利は140万円。ここには光熱費の上昇前の費用が入っている
  • 料金の上がり方は、電気が30%、ガスが20%、水道は据え置き
  • 光熱費のうち、組数に比例して動く部分(変動費)の割合は40%、組数に関わらず動く部分(固定費)の割合は60%

最後の「固定が60%」は、いちばん自信のない数字です。厨房の冷蔵・冷凍設備、館内の照明と空調の基本的な運転、給湯の維持などは、挙式が一組入るかどうかに関係なく動きます。一方で、挙式当日の宴会場の空調、厨房のガス、洗い物の水道は、組数に比例します。どちらがどれだけかは、この記事では決められません。後半で、固定の割合を変えると結論がどう動くかを表にして示します。

上がり幅ごとの1組あたりの負担

まず、電気とガスの上がり幅を4通りに分けて、年間の負担増と1組あたりの額を計算します。水道は据え置きです。

電気の上昇 ガスの上昇 年間の負担増 1組あたり 粗利140万円に対して
10% 5% 110万円 0.9万円 0.7%
20% 10% 220万円 1.8万円 1.3%
30% 20% 350万円 2.9万円 2.1%
50% 30% 570万円 4.8万円 3.4%

電気が5割上がるという大きな変化でも、1組あたり4.8万円、粗利の3.4%です。見積もりの総額で見れば、さらに小さな割合になります。ここで「そこまで気にしなくていい」と読むか、「粗利の数%が毎年消える」と読むか。経営の判断は、ここで分かれます。

粗利140万円の式場が、毎年粗利の2%を失うのは、営業の側から見れば決して小さくありません。たとえば、割引の効果を調べるとき、1組あたりの割引が2.9万円ならどれくらい成約が増えれば元が取れるか、という計算をします。光熱費の上昇は、その2.9万円分の割引が、全員に黙って適用されているのと同じ形になります。

転嫁するなら、成約率がどこまで落ちると損か

光熱費の上昇分を、見積もりの金額に乗せて転嫁した場合を考えます。乗せる額は、1組あたりの負担増と同じ額とします。

転嫁しなければ、粗利は1組あたり140万円から負担増を引いた額になります。転嫁すれば、粗利は140万円に戻る。その代わり、見積もりが高くなった分だけ、契約をやめる二人が出るかもしれません。

分かれ目は、契約が減る割合が、負担増を粗利で割った値と等しくなるところです。

  • 負担増が1組あたり0.9万円なら、0.9÷140=0.65%
  • 1.8万円なら、1.3%
  • 2.9万円なら、2.1%
  • 4.8万円なら、3.4%

この割合は、契約の組数にかかるものです。成約率が30%の式場にとって、契約が2.1%減るというのは、成約率が30%から29.4%になる、つまり0.6ポイント下がることに当たります。

負担増 契約が減ってよい割合 成約率30%のときの落ち幅 年120組のとき、減ってよい組数
0.9万円 0.65% 0.2ポイント 0.8組
1.8万円 1.3% 0.4ポイント 1.6組
2.9万円 2.1% 0.6ポイント 2.5組
4.8万円 3.4% 1.0ポイント 4.1組

表の読み方を補います。年120組の契約のうち、転嫁によって2.5組が逃げても、転嫁しなかった場合と粗利は同じ。3組逃げるなら、転嫁しないほうが得、という意味です。

この計算には二つの単純化が入っています。一つは、逃げる二人の粗利を140万円としていること。実際には、契約をやめる二人は、見積もりが安い順にやめるわけではないので、平均より粗利の低いプランの二人が多い、ということも考えられます。もう一つは、転嫁の額が見積もりの金額にそのまま載ると見ていること。値引きで調整される分は、この計算の外です。

もう一つ、このモデルが見ていないのは、転嫁を見た二人が「この式場は値上げした」と感じて、他の式場と比べ直すかどうかです。逃げる割合を決めているのは、金額そのものより、他の式場との差がどれだけ広がるかです。近隣の式場も同じ光熱費の上昇を受けているなら、差は広がりません。自分の式場だけが上げると、差は広がります。

固定の部分が、組数の減りを重くする

ここから、前提の「固定が60%」を動かします。

光熱費の上昇後の総額は、1,850万円(1,500万円+350万円)です。ここで、年間の組数が120組から108組(10%減)、96組(20%減)になったとします。変動の部分だけが、組数に合わせて減ります。

固定の割合 組数 光熱費の総額 1組あたり 120組のときとの差
30% 108組 1,720万円 15.9万円 +0.5万円
30% 96組 1,591万円 16.6万円 +1.2万円
60% 108組 1,776万円 16.4万円 +1.0万円
60% 96組 1,702万円 17.7万円 +2.3万円
80% 108組 1,813万円 16.8万円 +1.4万円
80% 96組 1,776万円 18.5万円 +3.1万円

120組のときの1組あたりは、1,850万円÷120組=15.4万円です。これに対して、固定が60%で96組に減ると、17.7万円。差は2.3万円です。つまり、光熱費の上昇で増えた1組あたり2.9万円に、さらに2.3万円が上乗せされる形になります。

ここに今回の話の肝があります。光熱費の上昇は、一度の値上がりで終わらず、組数が減ったときにもう一度効いてくる。値上がりの2.9万円と、組数減の2.3万円は、別々の原因で、同時に起きるかもしれない。婚姻数が減る、近隣に新しい式場ができるなど、組数の減る方向の変化は、光熱費の上昇と無関係に進みます。だから、光熱費の値上がり分だけを見て「粗利の2%だから吸収できる」と判断すると、組数が減ったときに足りなくなります。

固定の割合が高い会場ほど、この効果は大きい。80%の会場で96組に減ると、差は3.1万円です。

請求書のどこを見れば、固定の割合が分かるか

自分の式場の固定の割合は、請求書と稼働の記録を並べると、おおまかに分かります。

電気の請求書は、一般に、使った量に関わらず決まる基本料金の部分と、使った量に応じて決まる従量料金の部分、そして燃料費調整額や再生可能エネルギー発電促進賦課金のような、月ごとや年ごとに変わる加算の部分に分かれています。契約の種類によって、項目の名前や計算の仕方は違います。まず、自分の契約の請求書で、どの項目が使った量に連動するかを確かめます。

ただ、基本料金だけが固定、という見方では足りません。挙式のない日でも、冷蔵設備や館内の最低限の空調で使う電気量は発生します。ここを知るには、挙式のない日の使用量を見るのがいちばん早い。

  • 挙式もフェアもない平日の、1日の使用量(電気・ガス・水道)を、月ごとに拾う
  • 挙式のある日と、フェアだけの日の使用量も拾う
  • 挙式のない日の使用量×月の日数を、月の使用量から引く。残りが、挙式とフェアに連動する部分

これで、「挙式のない日の使用量×日数」が固定の部分、残りが変動の部分、というおおまかな分け方ができます。精密でなくていい。固定が3割なのか6割なのか、8割なのかが分かれば、上の表のどこにいるかが分かります。

もう一つ見ておきたいのが、電気の契約が市場の価格に連動する種類かどうかです。市場の価格に連動する契約は、価格が下がる局面もありますが、上がる局面では請求額が大きく動きます。料金が上がる幅を「3割」と決め打ちにできない場合は、この記事の表の4通りを全部見て、いちばん悪い場合でも耐えられるかを確かめたほうが安全です。

転嫁か、吸収か、使い方を変えるか

ここまでの計算を材料に、選択肢を三つに分けます。

① 見積もりに乗せて転嫁する

分かれ目は、成約率の落ち幅です。1組あたり2.9万円の負担なら、成約率が0.6ポイント落ちるまでは、転嫁のほうが得。ただし、近隣の式場が転嫁していないなら、落ち幅は大きくなりやすい。転嫁するときは、見積もりの中で「光熱費」という名前の項目を立てるのではなく、会場使用料や基本パッケージの価格に含めるほうが、二人にとっては比べやすくなります。

② 吸収する(粗利から出す)

吸収する場合は、毎年の負担増が粗利の2%(今回の仮置き)にあたることを、あらかじめ認識しておきます。吸収してよいのは、組数が減っても耐えられる場合だけ。上の固定費の表で、組数が10〜20%減ったときの1組あたりを見て、粗利がどこまで残るかを確かめておきます。

③ 使い方を変える

使い方を変える方法は、固定の部分と変動の部分で、効く場所が違います。

  • 固定の部分:挙式のない日の空調・照明・設備の運転時間を見直す。たとえば、使っていない宴会場の空調を切る、フェア日にだけ入れる場所を決める、といった運用
  • 変動の部分:挙式当日の厨房の火力、洗い場の水の使い方など。ここは調理や配膳の品質に直結するので、削りすぎると接客の質が落ちる

使い方を変える効果は、会場ごとに違い、この記事では見積もれません。ただ、固定の部分が6割あるなら、その6割は挙式のない日の運用で動かせる余地がある、という見方はできます。変動の部分は、動かすと品質に響く。この違いは、判断の順番に影響します。

三つの選択肢は、どれか一つを選ぶものではありません。多くの場合、③で動かせるところを動かしたうえで、残りを①か②で決めることになります。

数字を動かすとどうなるか

前提のうち、結論を動かしやすいのは三つです。

粗利。 粗利が140万円でなく100万円の式場なら、同じ2.9万円の負担増は2.9%になります。転嫁の分かれ目も、成約率で0.9ポイントまで広がります。粗利が低い式場ほど、光熱費の影響が大きく出ます。

光熱費の総額。 年1,500万円でなく3,000万円の式場なら、同じ上がり幅で負担増は倍になります。厨房が大きい、宴会場が多い、温水プールやガーデンの設備がある、といった式場は、総額が大きくなりやすい。上がり幅の割合ではなく、総額で見る必要があります。

組数。 年120組でなく60組の式場は、同じ負担増の350万円を、60組で割ることになります。1組あたり5.8万円。組数が少ない式場ほど、固定費が1組あたりに重く出ます。

三つとも、会場の規模や形によって大きく違う数字です。自分の式場の請求書とプランの粗利で、同じ計算を回してみてください。

まとめ

ここまでの内容を、短く回収します。

  • 仮の式場(年120組、光熱費年1,500万円)で、電気3割・ガス2割の上昇は、年350万円、1組あたり2.9万円。粗利140万円の2.1%
  • 転嫁して契約が減っても、2.1%(成約率30%なら0.6ポイント、年2.5組)までは、転嫁のほうが得
  • 光熱費は固定の部分が多い。組数が減ると、1組あたりの負担が、光熱費の値上がりとは別にもう一度上がる。固定60%で96組に減ると、1組あたり+2.3万円
  • 固定の割合は、挙式のない日の使用量を拾うと、おおまかに分かる
  • 選択肢は、転嫁・吸収・使い方を変える、の三つ。固定の部分は使い方で動かせる余地があり、変動の部分は品質に響く
  • 数字はすべて仮置き。自分の式場の請求書と組数で、同じ式を計算し直す