経営・組織

年間の挙式枠の半分以上は空いている。それでも土日の人気日は満席になる。閑散期の枠を割引で埋める前に数える「共食い」の損益分岐

「うちは稼働率が5割だから、空いている枠を安く売れば、その分だけ増える」。こう考えて、閑散期の土日や平日に割引プランを出す式場は少なくありません。計算の前半は合っています。空いた枠に1組入れば、固定費はすでに払ってあるので、割引後の価格が変動費を上回る限り、その1組は利益になります。

ただ、後半に見落としがあります。割引の枠に来た人のうち、割引がなければ人気日で契約していた人が混じると、増えたはずの利益が消えます。この記事では、年120組の仮の式場をひとつ置いて、枠がどこで埋まりどこで空いているかを数え、割引で増える利益と共食いで減る利益の分かれ目を計算します。

先に断っておくと、出てくる数字はすべて、僕が置いた前提による計算です。実在の式場の実績ではありません。自分の会場に当てはめるときは、前提の数字を自分の数字に差し替えて読んでください。

枠の数え方

挙式の枠は「1日に何組入れられるか」で決まります。仮の式場は、土曜と日曜に1日2組(昼と夕方)を受けられるとします。平日は、受けることはできるが実績は少ない、という扱いにします。

2027年のカレンダーで土曜と日曜を数えると、年間で104日です。繁忙期(3〜5月と9〜11月)の土日が52日、閑散期(1・2月、6〜8月、12月)の土日が52日で、きれいに半分ずつになります。祝日は数えていません。1日2組なので、土日の枠は年間208です。

仮の式場の年間件数を120組とし、そのうち85%が土日、15%が平日とします。さらに、件数の70%が繁忙期、30%が閑散期に集まるとします。この配分は僕の想定で、会場によって違います。

  • 繁忙期の土日:120組×0.7×0.85=71.4組。枠は104なので、埋まっているのは約69%
  • 閑散期の土日:120組×0.3×0.85=30.6組。枠は104なので、埋まっているのは約29%
  • 平日:120組×0.15=18組

土日の208枠に対して、埋まるのは約102組です。平均すると約49%になります。「稼働率は5割を切っている」という見え方は、こうして作られます。

平均の5割は、どこも5割ではない

ここで、平均が隠している偏りを足します。繁忙期の土日52日のうち、人気の日が20日あるとします。気候がよく、日柄もよく、ほかの予定とも重なりにくい日です。この20日は、昼も夕方も満席だとします。20日×2枠で40組です。

すると、繁忙期の残りは次のようになります。

  • 繁忙期の人気日:20日×2枠=40枠、埋まるのは40組(100%)
  • 繁忙期のそれ以外の土日:32日×2枠=64枠、埋まるのは71.4−40=31.4組(約49%)
  • 閑散期の土日:104枠、埋まるのは30.6組(約29%)

「稼働率49%」の式場の中身は、満席の40枠と、5割弱の64枠と、3割弱の104枠です。空いている枠は多いのに、買いたい人が多い枠にはもう空きがありません。

これを知らずに全体の稼働率だけを見ると、どちらの判断も間違えやすくなります。ひとつは「枠はまだ余っているので、値上げはできない」という判断です。人気日の40枠は満席なので、値上げの余地はそこにあります。もうひとつは「空き枠を割引で埋めれば増える」という判断で、こちらが次の節の話です。

空き枠を25%引で売ると、1組あたりいくら残るか

平均の挙式・披露宴の売上を350万円とします。変動費(料理、飲料、衣装、装花など、1組入るごとに増える費用)が売上の55%だとすると、1組あたりの変動費は192.5万円です。

  • 定価で受けた1組の限界利益:350万円−192.5万円=157.5万円
  • 25%引(262.5万円)で受けた1組の限界利益:262.5万円−192.5万円=70万円

割引でも70万円は残ります。固定費はすでに払っているので、この70万円はまるごと追加の利益です。空き枠が閑散期の平日にあって、割引がなければ誰も入らなかった枠なら、割引は確実に増益になります。

ここまでは、割引に賛成の側の計算です。次に、その割引で動く人の中身を見ます。

共食いの損益分岐

割引プランを出すと、来るのは次の2種類の人です。

  • 新規:割引がなければ、この式場では挙げなかった人。純粋な増加
  • 共食い:割引がなければ、人気日に定価で契約していた人。割引の枠に動いた人

新規が1組増えると、利益は70万円増えます。共食いが1組出ると、その組が定価(157.5万円)から割引(70万円)に動くので、差し引き87.5万円減ります。

分岐は、新規1組に対して共食いが何組かで決まります。

  • 70万円×新規=87.5万円×共食い
  • 共食い=新規×0.8

新規1組に対して、共食いが0.8組を超えると減益です。割引で10組来たとすると、新規が5.6組、共食いが4.4組のあたりが境目です。割合で書くと、割引の枠に来た人のうち約44%(0.8÷1.8)が共食いなら、損益はちょうどゼロです。

割引の枠に来た人の半分近くが「定価でも契約していた人」なら、割引は利益を増やしません。逆に、2割程度なら大きく増益になります。

人気日の客が閑散期に動くのは、起きやすいのか

起きやすさは、割引の見せ方で変わります。僕の見立てでは、次の3つが共食いを増やします。

  • 割引を公式サイトの目立つ場所に出す。人気日を検討中の人にも目に入り、「同じ会場で、日をずらせば安い」と気づかれます
  • 割引の条件が「日程をずらせる人」だけに限られない。誰でも使えるなら、条件の合う人から使います
  • 見学の時点で、人気日が埋まっていることを先に伝える。人気日が取れなかった人が、割引の日に移るのは自然です

最後のものは、共食いではなく救済に近いケースがあります。人気日が満席で、どのみち取れなかった人は、割引日に移らなければ他社に行きます。この場合の動きは「他社への流出を止めた新規」と数えるべきです。つまり、共食いかどうかは、その人が割引の日に移る前に「人気日が空いていたか」で分かれます。

数え方:割引の前に、割引を使った人を3つに分ける

割引プランを出す前、あるいは出した後に、割引で契約した組を次の3つに分けて数えることをお勧めします。

  1. 最初の希望日が人気日で、その日が空いていたのに、割引日で契約した組。これが共食い
  2. 最初の希望日が人気日で、その日がすでに埋まっていた組。これは新規に近い(他社に流れていた可能性が高い)
  3. 最初から割引日を希望していた組。これは新規

見学の記録に「最初の希望日」と、その日の空き状況が残っていれば、数えられます。残っていなければ、残す項目を1つ増やすだけです。ここを数えずに割引を続けると、成約数は増えているのに利益が増えない、という状態になりえます。

もうひとつ、数字で確かめやすい方法があります。割引を出す前の同じ月と、出した後の同じ月で、人気日の成約数を比べます。人気日の成約が減っていれば、共食いの兆候です。ただ、人気日は元々満席に近いので、減らないケースも多いはずです。その場合は、人気日の「契約が決まるまでの日数」が長くなっていないかを見ます。

割引の代わりに使えるもの

共食いを避けるための手段は、割引の額を下げることだけではありません。僕が考える選択肢は次のとおりです。

  • 条件をつけて限定する:「平日の挙式で、ゲスト人数が30名以下」のように、人気日を希望しない人が自然に選ぶ条件を付けます。人気日の人が使うには、条件を変える必要が出ます
  • 人気日の枠を先に売り切る:人気日の予約を締め切ってから、割引日を案内します。順番を入れ替えるだけで、共食いは起きにくくなります
  • 割引の代わりに、付帯をつける:25%引ではなく、料理のグレードアップや衣装1着の追加にします。金額を値引きとして見せないので、人気日の客に伝わりにくくなります。ただし、付帯にも原価がかかるので、変動費の増え方は計算が必要です
  • 人気日を値上げする:人気日は満席なので、定価を上げても枠は埋まる可能性があります。閑散期を割引する代わりに、人気日を上げて、差を広げる。ただし、これは人気日の成約が減らないことが前提で、確かめるには半年ほどの記録が要ります

どれが良いかは、会場の立地と、人気日を希望する人の予算の余裕によって変わります。

変動費の率を変えると、分岐がどう動くか

さきほどの計算は、変動費率を55%に置いたものでした。この率を変えると、共食いの許容量は大きく動きます。25%引で受ける場合を、率を変えて計算します(売上は350万円のまま)。

  • 変動費率45%(変動費157.5万円):定価の限界利益192.5万円、割引後105万円。共食い1組の損87.5万円、新規1組の得105万円。許容される共食いは新規1組あたり1.2組。割合では約55%まで
  • 変動費率55%(変動費192.5万円):許容は0.8組、割合で約44%
  • 変動費率65%(変動費227.5万円):定価の限界利益122.5万円、割引後35万円。共食い1組の損87.5万円、新規1組の得35万円。許容は0.4組、割合では約29%

割引の額(87.5万円)は同じなので、共食い1組の損は変わりません。変わるのは、割引後に残る利益です。変動費率が高い式場ほど、割引後に残る利益が薄くなり、共食いに耐えられる割合が下がります。変動費率が65%の式場が、25%引の割引を誰でも使える形で出すと、割引の枠に来た人のうち3割が共食いなだけで、損益がゼロになります。

自分の会場の変動費率が分からなければ、割引を決める前に、変動費の中身(料理・飲料・衣装・装花・引出物・人件費のうち変動する部分)を1組ごとに出してみるのが先です。

平日の枠は別の話

ここまでは土日の枠で考えてきました。平日の枠は、また別です。

仮の式場の平日は、18組が入っています。平日は1日1組とすると、2027年の平日は261日(祝日を除く前の数)なので、枠は261です。埋まるのは18枠で、約7%です。

平日の稼働が低いのは、需要が少ないからでもあります。結婚式に平日を選ぶ人は、ゲストの参加しやすさや費用の抑えやすさを優先する人です。平日を割引で売ると、土日を希望していた人が動く可能性は、閑散期の土日の割引より小さいはずです。ゲストが集まりにくいという、日程そのものの条件があるからです。

つまり、同じ空き枠でも、平日は割引の共食いが少なく、閑散期の土日は共食いが多い、という並びが想定できます。割引を試すなら、共食いの少ない側から始めるのが安全です。僕なら、閑散期の平日から始めて、数字を見ながら閑散期の土日に広げます。

まとめ

  • 年120組の仮の式場では、土日の枠208のうち埋まるのは約49%。ただし、繁忙期の人気日の40枠は満席で、閑散期の土日は約29%しか埋まっていない
  • 全体の稼働率が5割でも、売れる枠と売れない枠は分かれている。値上げの余地は満席の枠にあり、割引の余地は空いた枠にある
  • 25%引でも限界利益は70万円残る(売上350万円、変動費率55%の想定)。割引で来た新規の1組は、そのまま増益になる
  • 割引の枠に来た人のうち、約44%が「定価でも人気日で契約していた人」なら、損益はゼロ。変動費率が65%なら、約29%で分岐する
  • 見学の記録に「最初の希望日」と「その日の空き状況」を残せば、割引で契約した組を共食いと新規に分けて数えられる
  • 割引は、条件を限定する、人気日を先に売り切る、付帯に置き換える、の順で共食いを減らせる。先に試すなら、共食いの少ない閑散期の平日から