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契約書の電子化は年何組から合うか。1通1,475円の手間と、年12万円のサービス料を並べた

契約書を電子契約に替えたほうがいいのか。この相談は、式場の事務まわりでよく出てくる話だと思います。ただ、答えは「どこも替えるべき」でも「紙のほうが安心」でもありません。年間の契約組数と、紙の契約書1通にいま実際いくらかかっているかで決まります。

この記事の結論を先に書きます。契約書の電子化は、サービス料を年12万円と置くと、紙1通あたりのコストが1,475円なら81組あたりから元が取れます。サービス料が年36万円なら、分岐は244組です。年間の契約が100組前後の会場では、料金プランの選び方ひとつで、得にも損にもなります。

先にお断りしておきます。この記事には、調査の数字を使っていません。出てくる金額と時間は、僕が置いた前提です。実際の会場の数字ではありません。前提は本文で全部書きますので、自分の会場の値に置き換えて読んでください。

紙の契約書1通にかかっているもの

電子化の損益を考えるとき、最初に間違えやすいのは、紙のコストを「印刷代と封筒代」だけで見てしまうことです。印刷と封筒だけなら、1通あたり数百円にしかなりません。それだと、月数万円のサービス料に勝てそうにない。ここで「電子化は割に合わない」と結論してしまうのは、早すぎます。

紙の契約書には、お金以外のコストがあります。担当者の手間です。

1通あたりに必要な作業を、順に書き出してみます。

  • 契約書と重要事項の書類を印刷して、ページをそろえる
  • 見積書や規約と一緒にファイルにまとめる
  • 契約の場で、二人に署名と押印をもらう
  • 控えを渡し、原本を持ち帰って保管用のファイルに入れる
  • 後日、郵送で契約する人には、封筒に入れて送り、返送を待つ
  • 返送されたら、記入漏れと押印漏れを確認する

ここでは、1通あたり35分かかると置きます。内訳は、書類の準備に20分、返送や記入の確認に10分、ファイリングに5分です。担当者の時給換算を1,500円と置くと、35分で875円です。

印刷、製本、封筒、郵送の往復で、1通あたり600円と置きます。これは郵送で契約を進める場合も含めた、ならした金額のつもりです。

合計すると、紙1通あたり1,475円です。この金額が、電子化で浮く可能性のある上限の目安です。電子契約にしても、確認の手間がゼロにはなりません。だから実際に浮くのは、この一部になります。それでも、まずは上限を置いて、分岐の組数を見ます。

損益分岐の組数

電子契約のサービス料は、会場によって選ぶ料金体系が違います。ここでは2つの形に絞ります。

  • 年12万円(月1万円)の小さなプラン
  • 年36万円(月3万円)の、署名の依頼や保管の機能が厚いプラン

分岐の組数は、年間のサービス料を、紙1通あたりのコストで割れば出ます。

  • 年12万円なら、12万円 ÷ 1,475円 で約81組
  • 年36万円なら、36万円 ÷ 1,475円 で約244組

年間の契約が120組の会場だと、小さなプランは分岐を超えます。年36万円のプランは、分岐に届きません。120組の紙コストは、1,475円 × 120組で年17万7,000円です。年36万円のサービスで、これを全部なくせたとしても、赤字になります。

つまり、年間の契約組数が分岐を下回るなら、機能の厚いプランを選んだ時点で、電子化は損になります。この点は見落とされやすいと思います。「電子化は便利だから入れる」という判断は、プランの値段が見えていないときに出てきます。

印紙の扱いを変数に入れる

紙の契約書には、印紙税がかかることがあります。電子データで契約を交わすと、紙の文書にかかる印紙税は、かからないと説明されることが多いようです。

ただ、僕はここを断定しません。理由は2つあります。

1つ目は、会場の契約書が、そもそも課税文書に当たるのかどうかが、契約書の作りで変わりうるからです。式場の契約は、挙式や披露宴という役務の提供と、料理や衣装などの物品の販売が混ざっています。契約書の書き方によって、扱いが分かれる可能性があります。

2つ目は、金額の帯によって税額が違うことです。記載金額が大きいほど、1通あたりの税額も大きくなる設計の税です。結婚式の契約の金額は、会場によっても、組によっても幅があります。

だから、この記事では印紙税の金額を前提に入れません。変数として扱います。

自分の会場の契約書に、いま印紙を貼っているのなら、貼っている額が1通あたりいくらかを数えてください。その額を、紙のコスト1,475円に足します。たとえば1通あたり200円を足すと、紙のコストは1,675円です。分岐の組数は、年12万円なら約72組、年36万円なら約215組まで下がります。

印紙を貼っていない会場や、貼る必要があるのか分からない会場は、先に税理士か税務署に確認してください。電子化の話は、そのあとです。

電子化が合わない会場の条件

ここまでの計算で、電子化が合わない会場の条件が見えてきます。

1つ目は、年間の契約が分岐を下回る小規模な会場です。年間40組なら、年12万円のプランでも赤字です。40組の紙コストは、1,475円 × 40組で5万9,000円です。サービス料の半分にも届きません。

2つ目は、契約の場で全員が紙に署名する運用を、変える予定がない会場です。紙の手間の大部分は、郵送で契約する人の分と、ファイリングの分です。来館の場で署名する人しかいない会場では、電子化で浮くのは、印刷と製本の一部だけになります。

3つ目は、担当者が、紙の書類を二人に渡す場面を大事にしている会場です。契約は、二人にとって大きな決断です。紙の束を前にして、署名する儀式のような場面に、価値を感じる二人もいると思います。ただし、これは僕の想像で、調べた事実ではありません。

逆に、電子化が合う会場の条件もあります。

  • 年間の契約が、分岐の組数を超えている
  • 遠方の二人や、平日に来られない二人が多く、郵送の契約が一定数ある
  • 契約書の返送が遅れて、契約の成立が遅れる経験が、すでにある

最後の条件は、お金に換えにくいのですが、軽くは扱えません。紙の契約書が返送されないあいだは、契約が成立していません。人気日を押さえたまま、二人の返事を待つ時間が長くなります。この待ち時間が1日短くなるだけでも、人気日の枠を別の組に回せる可能性が出ます。

電子化の前に決めておく運用のルール

電子化を決めたら、次に決めるのは、運用のルールです。サービスを入れただけでは、現場の手間は減りません。むしろ、紙と電子が混ざる期間は、手間が増えます。

決めておきたいのは、次の4つです。

1つ目は、電子で契約する人の範囲です。全員を電子にするのか、郵送で契約する人だけ電子にするのか。来館の場で署名する人は、紙のまま残すのか。範囲を決めないと、担当者ごとに判断が分かれます。

2つ目は、二人への説明の言葉です。電子契約になじみのない二人もいます。とくに、二人の親が契約に関わる場合は、親が納得しないことがあります。「紙でも結べます」という選択肢を残しておくと、電子化への反発を減らせると考えています。

3つ目は、契約後の書類の置き場です。紙の原本のファイルと、電子の保管データが、別々の場所に分かれると、後で探す手間が増えます。保管の場所と、探し方を、最初に1つに決めてください。

4つ目は、切り替えの時期です。繁忙期の真ん中で切り替えると、現場が混乱します。契約が少ない月に、試験的に始めるほうが無難です。

電子化の効果を、あとから確かめる方法

電子化を入れたあと、効いたのかどうかを確かめるには、数える項目を先に決めておきます。

数えるのは、3つです。

  • 紙の契約書1通にかかった時間(切り替え前の数か月分を、ざっと測っておく)
  • 契約から、契約書がそろうまでの日数
  • 電子契約の人で、署名が止まった件数

1つ目は、分岐の組数の前提を、自分の会場の数字に置き換えるために使います。35分という僕の前提は、会場によって半分にも倍にもなると思います。ここが違えば、分岐の組数も、倍近く動きます。

2つ目は、契約が成立するまでの待ち時間の変化です。電子化の効果は、手間の削減より、この日数の短縮に出ることが多いのではないか、というのが僕の見立てです。ただ、これも調査の数字ではありません。自分の会場で測らないと、分かりません。

3つ目は、電子契約の弱点を見つける数字です。署名が途中で止まる二人がいるなら、その二人は、説明の言葉が足りていないのかもしれません。止まった件数を、毎月数えてください。

紙の手間を減らすだけなら、電子化以外の方法もある

最後に、電子化を入れなくても減らせる手間を書きます。

契約書の準備に20分かかっているなら、そこは電子化と関係なく、減らせるかもしれません。契約書の雛形を、記入が必要な箇所だけが空欄の状態で、あらかじめ印刷しておく。見積書と規約を、契約ごとに別々に出力するのをやめて、セットで1つのファイルにしておく。こうした工夫で、準備の時間は半分にできる余地があります。

返送の確認に10分かかっているなら、チェックリストを1枚つくるだけで、確認が早くなります。記入漏れと押印漏れが起きやすい箇所は、会場ごとに決まっているからです。

この2つで、35分が20分になったとします。そうすると、紙1通あたりのコストは、600円と、20分分の500円で、1,100円です。分岐の組数は、年12万円で約109組まで上がります。

つまり、紙の手間を先に減らすと、電子化の分岐は上がります。電子化の相談をする前に、紙の手間をどこまで減らせるかを見ておくと、判断の材料が増えます。

まとめ

  • 契約書の電子化は、年間の契約組数と、紙1通あたりのコストで決まる
  • 紙1通のコストは、印刷代だけでなく、担当者の手間も入れて見る。ここでは1,475円と置いた(35分と時給1,500円で875円、印刷や郵送で600円)
  • サービス料が年12万円なら分岐は約81組、年36万円なら約244組。機能の厚いプランは、契約が少ない会場では赤字になる
  • 印紙税は、金額が会場の契約書の作りで変わるので、断定せず変数に置く。確認は税理士か税務署に
  • 郵送で契約する人が多い会場は、電子化が合いやすい
  • 電子化の前に、紙の手間をどこまで減らせるかを見ておくと、分岐の組数が正しく出る
  • 運用は、電子にする範囲、説明の言葉、保管場所、切り替え時期の4つを先に決める