契約から式まで10か月の式場は、入金の決め方しだいで預かり金が4,400万円にも1.8億円にもなる。契約が1割減ると、現金は売上より先に減る
結婚式場の売上は、挙式が終わった日に立ちます。ところがお金は、契約した日から入ってきます。この二つのあいだにある「預かっているお金」が、式場の資金繰りをほとんど決めているのに、損益の数字の中では目立ちません。
この記事では、実在の式場の数字は使いません。出典のある統計もありません。そのかわり、前提を全部書いた仮の式場を置いて、入金のタイミングを変えたら預かり金の残高がいくらになるかを計算します。結論を先に書くと、同じ年120組、同じ総額350万円でも、入金の決め方しだいで預かり金の残高は4,400万円から1億8,000万円近くまで開きます。そして契約が1割減ったとき、先に痛むのは損益ではなく現金です。
預かり金は売上ではなく負債
結婚式場が契約時や式の前に受け取るお金は、会計上は前受金として、挙式を提供するまでは売上になりません。まだ提供していないサービスの代金を先に預かっている状態で、帳簿の上では負債です。
ここで押さえておきたいのは、損益と現金で時間がずれることです。
- 損益:挙式をした月に売上と原価が立つ
- 現金:契約した月から入金が始まり、挙式の原価(料理、衣装、装花、人件費)は挙式の直前に出ていく
契約から挙式までが長い商売なので、入金が先、支出が後になる期間が10か月前後あります。この期間に積み上がるのが預かり金の残高で、式場はこの残高を運転資金として使える立場にいます。
便利な反面、この残高は契約件数が増え続ける前提で膨らんでいます。件数が減ると、残高も減ります。そして減った分は、売上が落ちる前に、現金として足りなくなって出てきます。仕組みとしてはそうなるので、数字で確かめます。
仮の式場の前提
次の前提で計算します。実在の式場のものではなく、計算を見せるために僕が置いた数字です。
- 年間120組、毎月10組が契約する
- 契約から挙式までは10か月で一定(実際は季節や日取りでばらつきます)
- 総額は1組350万円で、追加や減額はなし
- 契約の取り消しは考えない(キャンセルは別に考えるべき論点なので、ここでは外します)
- 預かり金の残高は、月末時点で受け取り済みの前受金の合計で数える
年商は120組×350万円で4億2,000万円です。契約が毎月10組ずつ続く定常状態では、毎月10組が挙式を終えて売上になり、毎月10組が新しく契約します。
入金の決め方を4通りにして残高を出す
入金のタイミングを次の4通りにします。式場によって名前も割合も違うので、ここでは計算のために単純にした型です。
| 型 | 契約時 | 残りの入金 |
|---|---|---|
| A | 申込金10万円 | 挙式の1か月前に残額 |
| B | 総額の30%(105万円) | 挙式の3か月前に残額 |
| C | 総額の50%(175万円) | 挙式の1か月前に残額 |
| D | 申込金10万円 | 挙式の当日から後に残額 |
月ごとに10組の契約が積み上がっていくので、ある月末の残高は、契約済みで挙式前の約100組が、それぞれ受け取り済みの額を合計したものになります。計算するとこうなりました。
| 型 | 預かり金の残高 | 年商に対する割合 |
|---|---|---|
| A | 4,400万円 | 約10% |
| B | 1億7,850万円 | 約43% |
| C | 1億9,250万円 | 約46% |
| D | 1,000万円 | 約2% |
AとCは、契約時の金額と残額の時期が違うだけです。それなのに、残高は4倍以上違います。
残高を決めるのは、総額の大きさではなく、契約から入金までの早さと割合です。Aの式場は、契約から9か月間は申込金の10万円しか預かっていません。Bの式場は、契約の日に105万円を受け取り、7か月後には残りの245万円も受け取ります。同じ100組を抱えていても、手元にある現金は1億3,000万円以上違うことになります。
ここで、この残高をどう見るかが分かれます。
- 預かり金を、挙式の原価や返金に備えて手をつけない現金として持っている式場は、残高が大きいほど余裕がある
- 預かり金を、日々の支払いや借入の返済に回している式場は、残高が大きいほど、それに頼る度合いが強い
どちらなのかで、次の節の意味が変わります。
契約が1割減ると、先に減るのは現金
毎月10組の契約が、ある月から9組に減ったとします。契約が1割減った状態です。年間では12組、売上にすると4,200万円の減少に見えますが、損益に出てくるのは10か月後です。契約した組が挙式をするのが、その時期だからです。
現金は違います。契約が減った月から、入金がその分だけ減ります。減る額は、型によって立ち上がり方が違います。
| 型 | 契約が減った月から | 10か月目までの入金の減り幅(累計) |
|---|---|---|
| A | 月10万円(申込金の分)。9か月後から月350万円に増える | 440万円 |
| B | 月105万円。7か月後から月350万円に増える | 1,785万円 |
| C | 月175万円。9か月後から月350万円に増える | 1,925万円 |
| D | 月10万円。10か月後から月350万円に増える | 100万円 |
1組減るごとに、型Bでは契約の日に105万円が入らず、7か月後にも245万円が入りません。この10か月のあいだ、挙式の原価と固定費は、すでに契約している組の分だけ変わらず出ていきます。つまり、売上が落ちる前の10か月に、1,785万円の現金が足りなくなる計算です。
さらに契約が2割減ると、この額は倍になります。型Bで3,570万円、型Cで3,850万円です。
この現金は、減った分が預かり金の残高から出ていく形で消えます。だから、預かり金を運転資金に使っている式場ほど、契約が減ったときに最初に苦しくなります。損益計算書を見ても、その月の売上はまだ落ちていません。見ているのが売上と利益だけだと、気づくのが10か月遅れます。
型Dのように入金が遅い式場は、この揺れが小さい。ただし、その分だけ、契約時に預かっている金額が小さいので、キャンセルが出たときの取りこぼしが先に来ます。入金を遅らせる設計は、現金の揺れを小さくする代わりに、お客様が契約を取り消すときの心理的な壁も低くします。この点は、キャンセルの時期ごとの損失の記事でも触れているので、そちらを参照してください。
入金を早める損得の分かれ目
入金を早めると、預かり金の残高が増えます。この増えた分には、借入の金利に相当する価値があると見られます。仮に年2%の金利とすると、AからBに変えたときの残高の増加は13,450万円(1億7,850万円−4,400万円)で、年間の金利相当は約269万円です。
一方で、契約時に求める金額を上げると、見学のあとの成約率が下がるかもしれません。契約時に10万円で済む式場と、105万円を求める式場では、迷っている人の最後の一歩の重さが違います。
どこまで成約率が下がったら割に合わないか、1成約の粗利を仮に35%(122.5万円)として、損益分岐を出します。
- 年間の金利相当:約269万円
- 1成約の粗利:122.5万円
- 269万円÷122.5万円=約2.2組
年に2.2組、つまり120組の約1.8%の成約が減るだけで、金利相当の利益は消える計算になります。見学のあとの成約率が仮に30%だとすれば、その1.8%減は30%が約29.5%になる程度の動きで、月次の成約率の揺れ(数ポイント動く)よりずっと小さい。つまり、入金を早めたことの効果は、成約率の揺れの中に埋もれてしまい、数字では確かめられません。
ここから言えることは、入金を早める設計は、金利相当を稼ぐためにやるものではない、ということです。損得の計算だけで入金設計を選ぶと、成約率への影響を数字で確かめられないまま、金利の分だけを根拠に決めることになります。
入金を早める理由があるとすれば、別のところです。
- 日取りを押さえた人が、途中で取り消しにくくなる(確かめるには自社のキャンセル率を型ごとに見る必要があります)
- 挙式の原価が早く出る式場(衣装の仕入れなど)で、先に現金が要る
- 契約が増える局面で、広告費を先に出す資金が要る
逆に、入金を遅らせる理由もあります。
- 契約時の金額を軽くして、見学のあとの決めやすさを上げる
- 預かり金の残高を小さくしておいて、閉館や廃業のときに返金すべき額を小さく保つ
どちらが正しいかは、式場の資金の持ち方、成約率、キャンセル率で変わります。僕は、金利相当の損得よりも、キャンセル率と契約が減ったときの現金の揺れで決めるほうが、判断が荒れないと考えています。
預かり金の残高と、閉館のときの返金
預かり金の残高は、閉館や廃業のときの重さにも直結します。型Bの式場が閉まるなら、1億7,850万円にあたる契約済みの挙式約100組について、式場は挙式を提供できなくなります。その人たちには、預かった額の返金や、別の会場への案内が必要になります。
実際にどう扱われるかは、契約書の内容、閉館の形(事業譲渡、破産、廃業)、保全の仕組みの有無で違います。法律や個々のケースは僕が断定できる領域ではないので、ここでは一般論だけを書きます。
- 預かり金の残高が大きいほど、閉まるときに影響を受ける組の数と金額が大きい
- 残高を現金として持っていないと、返金の原資がなくなる
預かり金を運転資金に使う式場ほど、この二つめが重くなります。毎月の入金が残高を維持しているあいだは見えませんが、契約が減り始めたときに、最初に表に出てくるのが預かり金と手元の現金の差です。
自社で数える手順
最後に、自分の会場の数字に置き換えるための手順です。最初は表計算ソフト1枚で足ります。
- 月末の前受金残高を出す。 契約済みで挙式前の全組について、受け取り済みの額を足します。会計ソフトの前受金の勘定科目の残高が、これに近い数字です
- 残高を月の売上で割る。 上の仮の式場なら、型Bは約5.1か月分、型Aは約1.3か月分です。自社が何か月分の売上を預かっているかが分かります
- 手元の現金と並べる。 前受金の残高に対して、すぐ使える現金と預金がどれだけあるか。この差が、預かり金を使っている額です
- 契約が1組減ったら、いつ、いくら入金が減るかを書き出す。 契約時の入金、中間の入金、残額の入金のそれぞれが、何か月後にいくら減るか。この表があると、契約が減ったときに何か月分の余裕があるかが言えます
- 月次で、契約件数と挙式件数の差を見る。 契約が挙式を下回る月が続くと、残高は減っていきます。損益には出ないので、別の行として持っておきます
このうち、一番最初にやるべきなのは2番です。残高を売上の何か月分で持っているかを知らないと、契約が減ったときの揺れの大きさが分かりません。
まとめ
- 前受金は売上ではなく負債で、契約から挙式までの10か月前後に残高として積み上がる
- 仮の式場(年120組、総額350万円、契約から式まで10か月)では、入金の型で残高が1,000万円から1億9,250万円まで開く
- 契約が1割減ると、売上が落ちる10か月前から入金が減り、型Bでは累計で1,785万円の現金が足りなくなる
- 入金を早める損得を金利で計算すると、年間の金利相当は約269万円で、成約が年2.2組減るだけで消える。決める軸は金利ではなく、キャンセル率と現金の揺れ
- 自社の前受金残高が売上の何か月分かを数えるところから始める
