キャンセルの損失は、挙式の何か月前かで3倍以上違う。仮の式場で、人気日は34万円から116万円
キャンセルが1組出たとき、式場はいくら損をするのでしょうか。契約した金額の何割、と考える人が多いのですが、損失の中身を分けて見ると、答えは「挙式の何か月前か」でほとんど決まります。この記事の数字はすべて、僕が置いた仮の前提で計算したものです。実在の式場の実績ではありません。仮の前提で動かすことで、どこが効いているのかを見えるようにするのが目的です。
先に結論を書きます。
- キャンセルの損失は、「その日が再び売れるか」と「すでに使った準備費用」の2つで決まる
- 挙式日が遠いほど再販売しやすく、近いほど売れ残る。同じキャンセルでも損失は3倍以上違う
- 一律の金額でキャンセル料を決めると、早い時期は取りすぎ、直前は取り足りない形になる
- 損失を段階で見積もるには、自社の過去のキャンセル日が何日後に再び埋まったかを数えればよい
前提:仮の式場を置く
数字を動かすために、次の式場を置きます。
- 1組あたりの粗利は100万円(挙式の費用から、料理や衣装などの原価を引いたあと)
- 年間の契約は100組、そのうち8%の8組がキャンセルになる
- キャンセルが出た日が再び売れた場合は、割引などで粗利が2割減る
- 再び売れるかどうかは、キャンセルが分かった時点から挙式日までの月数と、人気日か閑散日かで変わる
粗利100万円、契約100組は、計算しやすいように置いた数字です。業界の平均ではありません。キャンセル率8%も同じで、自社の数字に置き換える前提で読んでください。
ここで大事なのは、キャンセル料を考える前に、式場の損失がどう生まれるかを分けておくことです。損失は次の3つに分かれます。
- 日が再び売れなかった場合に失う粗利(100万円まるごと)
- 日が再び売れた場合でも、値引きで減る粗利(今回は20万円)
- すでに使った準備の費用(打合せの工数、先に発注したもの、仮押さえした人手など)
キャンセルの損失は、この3つを足したものです。1と2は、再び売れる確率で重みが変わります。再び売れる確率を p として、損失はこう書けます。
損失 = (1 − p) × 粗利 + p × 値引き分 + 準備費用
p は、挙式日までの月数で大きく動きます。
挙式の何か月前かで、損失はこう動く
挙式日までの月数ごとに、仮の p と準備費用を置いて計算します。人気日(土日祝のよく売れる日)の場合です。
| 挙式まで | 再び売れる確率 p | 準備費用 | 損失 |
|---|---|---|---|
| 12か月前 | 85% | 2万円 | 34万円 |
| 9か月前 | 70% | 4万円 | 48万円 |
| 6か月前 | 50% | 8万円 | 68万円 |
| 3か月前 | 25% | 14万円 | 94万円 |
| 1か月前 | 5% | 20万円 | 116万円 |
p と準備費用は、僕が妥当そうな形に置いた仮の数字です。確からしさのある数字ではありません。見てほしいのは数字そのものではなく、形のほうです。12か月前は34万円、1か月前は116万円で、3.4倍の開きになります。
たとえば12か月前の行を、式で追ってみます。(1 − 0.85) × 100万円 = 15万円、0.85 × 20万円 = 17万円、これに準備費用2万円を足して34万円です。1か月前なら、(1 − 0.05) × 100万円 = 95万円、0.05 × 20万円 = 1万円、準備費用20万円で、合計116万円になります。
早い時期の損失の大半は「値引きで減る分」で、直前の損失の大半は「日が丸ごと空く分」です。同じキャンセルという出来事でも、損失の正体が入れ替わっています。
閑散日(平日や、よく売れない時期の日)では、p が下がります。
| 挙式まで | 再び売れる確率 p | 損失 |
|---|---|---|
| 12か月前 | 60% | 54万円 |
| 9か月前 | 45% | 68万円 |
| 6か月前 | 28% | 85.6万円 |
| 3か月前 | 10% | 106万円 |
| 1か月前 | 2% | 118.4万円 |
閑散日は、早い時期ほど人気日との差が大きく、12か月前では54万円と34万円で20万円違います。1か月前になると、どちらも再び売れる見込みがほとんど無くなり、差は2万円ほどに縮みます。閑散日のキャンセルは、早く出ても人気日の直前に近い重さがある、という見方もできます。
年間で見ると、損失は約594万円になる
次に、年間の損失を出します。8組のキャンセルが、どの時期に出るかの配分を置きます。これも仮です。
- 12か月前以上:10%(0.8組)
- 9か月前ごろ:20%(1.6組)
- 6か月前ごろ:30%(2.4組)
- 3か月前ごろ:25%(2.0組)
- 1か月前ごろ:15%(1.2組)
人気日の損失表と掛け合わせると、年間の損失は約594万円になります。キャンセル1組あたりに直すと、平均で約74万円です。
契約100組の年間粗利は、仮の前提で1億円です。594万円は、その約6%にあたります。キャンセル率が8%でも、粗利への影響は6%ほどになる、という計算です。
数字が小さく見えるかもしれませんが、これは「日が再び売れた」場合を多く見込んだ数字です。次の節で、再び売れる確率が違った場合を見ます。
再び売れる確率が20ポイント変わると、年間で約240万円動く
p を全体に20ポイント下げた場合と上げた場合で、年間の損失を計算します。
- p が20ポイント低い:年間の損失は約708万円(基準より約114万円増える)
- 基準:約594万円
- p が20ポイント高い:年間の損失は約470万円(基準より約124万円減る)
高い場合と低い場合の差は約238万円で、粗利1億円の2%を超えます。キャンセル率そのものを1ポイント動かすより、再び売れる確率を動かしたほうが、損失への効きが大きい場面があります。
再販売の確率は、運営の工夫で動かせる数字です。
- キャンセルが出た日を、すぐに公式サイトや案内に反映しているか
- 空いた日だけを対象にした見学の案内を持っているか
- 再び売るときの値引きの上限を決めているか。値引きが40%になると、損失は表のとおりには収まりません
再び売るときの粗利の残りを、2割減ではなく4割減にして計算し直すと、12か月前の損失は34万円から51万円、1か月前は116万円から117万円になります。早い時期ほど、値引きの深さが損失に効きます。直前は、日が空くことが損失のほぼ全部なので、値引きの深さはほとんど関係がありません。
一律の金額だと、どこが取り足りないか
ここまでの損失を、キャンセル料の設計に当てはめます。契約時の申込金が一律10万円で、キャンセル時にそれだけが返らない、という仕組みを例にします。
人気日で、キャンセルのたびに式場の手元に残る額と、損失の差を見ます。
| 挙式まで | 損失 | 一律10万円との差(取り足りない額) |
|---|---|---|
| 12か月前 | 34万円 | 24万円 |
| 9か月前 | 48万円 | 38万円 |
| 6か月前 | 68万円 | 58万円 |
| 3か月前 | 94万円 | 84万円 |
| 1か月前 | 116万円 | 106万円 |
年間では、キャンセル8組の配分で、回収できる額は80万円です。損失の約594万円に対して、約514万円が式場の持ち出しになる計算です。
一方で、キャンセル料を段階に分ける設計を考えます。たとえば挙式の12か月前なら10万円、9か月前は15万円、6か月前は20万円、3か月前は30万円、1か月前は35万円と置きます。仮の総額を350万円とすると、割合では3%、4%、6%、9%、10%ほどです。この場合の年間の回収額は約182万円で、損失の594万円に対して約3割です。
ここで見てほしいのは、段階にしても損失の全部は取れないことです。損失の全額を取ろうとすると、12か月前で総額の10%近く、1か月前で33%近いキャンセル料になります。
総額350万円に対する損失の割合は、12か月前で9.7%、9か月前で13.7%、6か月前で19.4%、3か月前で26.9%、1か月前で33.1%です。
この割合をそのまま規定に書くことが、そのまま適切だという意味ではありません。キャンセル料の定め方は、消費者契約法9条1号が関わってきます。この規定は、同種の契約が解除されたときに事業者に生じる「平均的な損害」を超える部分を無効とするものです。何が平均的な損害にあたるかは、個別の契約や事情ごとに判断されるので、実際の規定づくりは専門家(弁護士など)に確認してください。僕が書いているのは、損失の形を理解するための考え方までです。
その前提で、考え方として言えるのは次の2点です。
- 損失が挙式日までの月数で変わる以上、一律の金額は、早い時期には重く、直前には軽くなりやすい
- 段階を細かくするのは、取るためというより、損失の形に合わせて説明できる規定にするため
契約の場面で、新郎新婦に「この日が空いたままになったとき、式場がどれだけ困るか」を説明できる規定は、説明のしやすさにも効きます。
自社の数字で確かめる手順
仮の数字を、自社の数字に置き換える手順を書きます。
- 過去2〜3年のキャンセルを一覧にする。契約日、挙式予定日、キャンセルが分かった日、その日が人気日か閑散日か、を並べる
- キャンセルが分かった時点から挙式予定日までの月数で、12か月以上、9か月前後、6か月前後、3か月前後、1か月前後のように区切る
- それぞれの区切りで、その挙式予定日が再び契約された割合を数える。これが p になる
- 再び契約されたとき、元の粗利と比べて何割減ったかを出す。これが値引き分になる
- 準備費用は、キャンセルまでにかかった打合せの工数と、先に払ったものを集めて平均を出す
- 損失の式に入れて、区切りごとの損失を出す
件数が少ないと、区切りごとの p が安定しません。1区切りに3〜5件しかないなら、12か月以上と6か月以内の2区分にまとめるだけでも、形は見えます。区切りを細かくするより、数が集まる区切りにするほうが、判断には使えます。
人気日と閑散日を分けるのは、件数があるときだけにします。分けたことで1区分が2件になるようなら、分けずに全体で見たほうが、数字がぶれません。
損失の形を知ったあとに、動かせる場所
損失の式のうち、運営で動かせる場所は3つです。
1つ目は、キャンセルが分かってから再び売るまでの速さです。早い時期のキャンセルは、日が戻りやすい代わりに、気づかれないまま時間が過ぎることがあります。キャンセルが分かった日に、公式サイトや見学の案内へ反映する担当と手順を決めておくと、p が上がる余地があります。
2つ目は、再び売るときの値引きの上限です。値引きの深さで損失が動くのは、早い時期のキャンセルでした。上限を決めずに現場判断にすると、早い時期の損失が表より大きくなります。
3つ目は、準備費用の発生する順番です。契約直後に先に動かす手配を、挙式日が近づいてからに回せるものがあれば、準備費用が減ります。直前の損失の準備費用20万円のうち、動かせる部分がないかを見ていきます。
キャンセル率そのものを下げる取り組みと、損失の形を知ったうえで運営を直す取り組みは、別の話です。前者は新郎新婦との関係に効き、後者は式場の側の仕組みに効きます。どちらの数字も、見える形にしておくことが先です。
仮の計算が当てはまらない場面
この計算には、当てはまらない場面があります。
- 挙式の日が人気日に集中している式場では、p が人気日の表に近づく。閑散日が多い式場では、閑散日の表のほうが現実に近い
- 年間の契約が数十組以下の式場では、キャンセルが1組出るだけで年間の数字が大きく動く。594万円のような平均は、あくまで均した形でしか使えない
- 衣装や装花などを外部の事業者に先払いしている式場では、準備費用が大きくなり、早い時期の損失も表より重い
- 同じ日の2会場以上で売る式場は、1日の空きの意味が変わる
計算の形は変わらないので、式は同じように使えます。置く数字が変わるだけです。
まとめ
- キャンセルの損失は、「日が再び売れなかった分」「値引きで減る分」「準備に使った費用」の合計で決まる
- 粗利100万円の仮の式場では、人気日のキャンセルの損失は12か月前で34万円、1か月前で116万円。3倍以上の開きがある
- 閑散日は再び売れにくく、早い時期でも人気日より重い(12か月前で54万円)
- 一律10万円の申込金だけだと、年間の損失約594万円のうち約514万円が式場の持ち出しになる(仮の前提)
- 再び売れる確率が20ポイント違うと、年間の損失は約240万円動く。キャンセル率より、再び売る仕組みの側に効く余地がある
- 規定づくりは、消費者契約法9条1号の「平均的な損害」の考え方が関わるので、専門家の確認を前提にする
- 自社の過去のキャンセルを、挙式までの月数ごとに「再び契約されたか」で数えると、自社の損失の形が出る
