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衣装の持ち込みを断る式場は、年120組なら年1,680万円の衣装粗利を守っている。持ち込みを認める損益分岐は、失注220組のうち3組

衣装の持ち込みを断る式場は、断ることで守っているお金があります。年120組の仮の式場で、衣装の粗利は年1,680万円です。持ち込みを認めるかどうかは、この1,680万円のうちどれだけが動くかと、断ったせいで去っている人が何組いるかの比べ合いになります。この記事では、その比べ方を前提つきの計算で整理します。

先に断っておくと、ここに出てくる金額や割合は、僕が置いた仮の数字です。調査の結果ではありません。実在する数字として使ったのは、ゼクシィの解説記事にある持ち込み料の目安だけです。自分の会場の数字に置き換えて使ってください。

持ち込みの話は、感情で決まりやすい

衣装の持ち込みは、式場の中で意見が割れやすい話題です。営業は「断ると失注する」と言い、衣装部門や経営側は「認めると衣装の売上が落ちる」と言う。どちらも間違っていません。ただ、どちらの主張にも数字がついていないことが多く、声の大きい人の意見で決まりがちです。

数字がつかない理由ははっきりしています。持ち込みを断っている式場では、「持ち込みを理由に去った人」が記録に残りません。見学の席で「ドレスは持ち込めますか」と聞かれ、「提携ショップからお選びいただいています」と答えた。その人が契約しなかったとき、失注の理由欄に書かれるのは「検討中」や「他社で決定」です。

一方、衣装の売上は毎月きちんと数字に出ます。見えるお金だけが重く扱われ、見えない失注は軽く扱われる。この非対称が、持ち込みの議論をいつも「断る」側に傾けます。

だから最初にやることは、どちらが正しいかの議論ではありません。守っているお金と、取りこぼしているかもしれない数を、同じ単位に並べることです。

実在する数字は、持ち込み料の目安だけ

ゼクシィの解説記事(2022年6月時点の情報)には、持ち込み料の目安が載っています。ドレスは1着あたり5万円前後、外部の美容師は3万円程度、フォトグラファーは1名あたり1万円から3万円程度、装花は5万円から10万円。引出物は1個あたり300円から500円、プチギフトは1個あたり50円という会場の例も挙がっています。

この記事は、ゼクシィ花嫁会のアンケート(2022年4月、メンバー85人)と、マクロミルの調査(過去2年以内に結婚式を挙げ、持ち込みを検討して断られた、または断念した経験がある20〜30代の既婚女性110人)をもとにしています。

2つ目の調査は、見落としやすいのですが大事です。調査の対象が、最初から「持ち込みを検討して断られた人」だからです。つまり、持ち込みを断られた経験を持つ人は、調査会社が110人集められる程度には存在します。ただし、この調査から「新郎新婦の何割が持ち込みを望んでいるか」は分かりません。対象を絞った調査なので、割合を読む材料にはならないんです。

僕がこの記事で使うのは、この目安のうち「ドレス1着あたり5万円前後」だけです。以下の計算では、持ち込み料を3万円、5万円、8万円と動かして、5万円の周りの様子を見ます。

仮の式場を置く

計算のために、次のような式場を置きます。すべて仮の数字です。

  • 年間の成約は120組
  • 見学に来る組は年340組。成約率は約35%で、失注は220組
  • 1組あたりの衣装の売上は40万円(新婦のドレスと新郎の衣装を合わせた、提携ショップ経由の平均)
  • 衣装の売上のうち、式場に残る粗利は35%。1組あたり14万円
  • 衣装以外で、1組が式場に残す粗利は140万円

衣装の粗利が1組14万円なので、年120組ですべて提携ショップ経由なら、年1,680万円になります。持ち込みを断るというのは、この1,680万円を守る選択です。

ここで、式場と衣装の関係には2つの型があることを押さえておきます。自社で衣装を持っている型と、外部のショップと提携して紹介料を受け取る型です。どちらも「衣装の粗利」と呼べますが、中身は違います。自社で持つ型は、在庫と管理費という固定費が先にあり、持ち込みが増えても固定費は減りません。提携型は、衣装が出なければ紹介料も出ないだけで、固定費は小さい。ここでは1組14万円という粗利のまま、どちらの型でも同じ計算ができる形にしてあります。自社在庫型の会場は、固定費の分だけ、持ち込みを認めたときの痛みが大きくなります。

持ち込みを認めると、何が動くか

持ち込みを認めて、持ち込み料を取る。動くのは次の2つです。

1つ目は、持ち込む組が出ること。持ち込む組の衣装の粗利は、14万円から持ち込み料に置き換わります。持ち込み料が5万円なら、1組あたり9万円の減収です。

2つ目は、これまで失注していた組のうち、持ち込みが理由で去っていた組が契約すること。この組は、衣装以外の粗利140万円に加えて、持ち込み料を払います。

持ち込む組の割合を s、持ち込み料を F、追加で契約する組を n とすると、元が取れる条件は次の式です。

120 ×s×(14 − F)= n ×(140 + F)

左が減る粗利、右が増える粗利です。単位は万円です。ここで s は「持ち込みを認めたら持ち込む組の割合」で、いまの契約者のうち、提携ショップから借りていたけれど、認められれば外から持ってくる組の割合を指します。

計算結果:1組から5組の追加成約で元が取れる

Python で計算した結果を表にします。縦が持ち込む組の割合 s、横が持ち込み料 F。表の中身は、元を取るのに必要な追加成約の組数です。

持ち込む割合 料金0円 3万円 5万円 8万円
10% 1.2組 0.9組 0.7組 0.5組
20% 2.4組 1.9組 1.5組 1.0組
30% 3.6組 2.8組 2.2組 1.5組
40% 4.8組 3.7組 3.0組 2.0組

持ち込む組が2割で、持ち込み料が5万円なら、年1.5組。年120組に対して1.2%です。持ち込む組が3割に増えて、持ち込み料を取らないなら、年3.6組。それでも3%です。

最悪に近い、持ち込む組が4割で持ち込み料もゼロでも、年4.8組で元が取れます。

この表の見方で大事なのは、横の動きより縦の動きが大きいことです。持ち込み料を3万円から8万円まで動かしても、必要な追加成約は1.9組から1.0組に変わる程度です。対して、持ち込む割合が10%から40%に動くと、必要な組数は4倍になります。持ち込みの議論で、持ち込み料の額で盛り上がる会場が多いのですが、動かしているのは小さい方のレバーです。

失注220組のうち、何組が持ち込みで去っているか

元を取るのに必要な追加成約が1.5組から3組だとします。この数は、失注220組と比べると見え方が変わります。

  • 1.5組 ÷ 220組 = 0.7%
  • 3組 ÷ 220組 = 1.4%

つまり、失注した220組のうち、1.4%(3組)が持ち込みを理由に去っていれば、持ち込み料5万円で認めた方が得になります。逆に言えば、失注の理由に「持ち込み」が1%も出てこない会場は、断ったままで正解の可能性が高い。

これは、持ち込みを認める議論を軽くしてしまう数字ではありません。重くする数字です。0.7%から1.4%という小さな割合は、いまの記録の取り方では見えません。見学の記録に「持ち込みの質問があった」という欄がなければ、3組は永遠に見つからない。だから、議論の前に数え始める必要があります。

数え方:持ち込みを聞かれた組に印をつける

数える項目は2つで足ります。

  1. 見学・打合せで、持ち込みについて質問した組(質問した、で足りる。希望の強さまで聞かなくてよい)
  2. その組が契約したか、しなかったか

半年たてば、「質問した組の成約率」と「質問しなかった組の成約率」が並びます。仮の式場で、質問した組が年20組、うち契約が4組なら成約率は20%、全体の35%より15ポイント低い。差を人数に直すと、20組 ×15% = 3組です。この3組が、先の「年3組」と同じ大きさだと分かります。

もちろん、質問した組は、もともと価格に敏感な組かもしれません。成約率が低いのは持ち込みを断ったせいではなく、予算が合わなかったせいという可能性もあります。この数え方で出るのは「上限」です。ここで出た3組が全部持ち込みのせいだとしても、元が取れるかどうかのぎりぎりの水準。上限が損益分岐に届かないなら、認める理由は薄い。届くなら、次の段階に進みます。

持ち込みを認めるときに決める3つのこと

数字が合ったとして、認め方で結果は変わります。決めておくのは3つです。

範囲

ドレスだけか、新郎の衣装も含むか。ゼクシィの目安では、装花は5万円から10万円、フォトグラファーは1名あたり1万円から3万円と、持ち込みの対象で料金はかなり違います。衣装だけを認めるなら、守る粗利は衣装の分だけです。装花や写真まで広げると、式場の他の粗利が減るので、先の式にもう1行足す必要があります。

持ち込み料の置き方

持ち込み料は、安全のための料金と、減収を埋める料金の2つの顔を持ちます。安全のための料金は、外部のドレスを式場のスタッフが預かり、保管し、当日着付けに関わる手間と責任の対価です。減収を埋める料金は、先の式の14万円との差額です。

表を見ると、持ち込み料が8万円なら、持ち込む割合が4割でも必要な追加成約は2組で済みます。ただ、持ち込み料が高すぎると、持ち込みを望んでいた人が結局断念する。その場合は、持ち込みを認めた効果もなくなります。8万円が高いか安いかは、先の数え方で出た「質問した組」の様子で判断するしかありません。

提携ショップとの約束

提携型の会場は、提携ショップとの取り決めを先に確かめます。紹介の最低数を約束している場合、持ち込みが増えてそれを下回ると、ショップ側との関係が変わります。ここは数字というより契約書の話なので、計算の前に確認します。

認めない、という選択が正しい会場

ここまでの話は、持ち込みを認めた方が得という結論ではありません。計算の結果、持ち込みを断り続けるのが正しい会場は、はっきりあります。

  • 失注の記録を半年とって、持ち込みを理由に去った組が1%に届かない会場
  • 自社で衣装を持ち、固定費の比率が高い会場。持ち込みが増えても固定費は減らないので、必要な追加成約は先の表より大きくなる
  • 衣装の粗利率が高く、1組14万円が20万円を超える会場。左の式が大きくなるので、必要な追加成約も比例して増える

最後の項目は、実は単純です。衣装の粗利が14万円から20万円に増えると、持ち込む割合2割・持ち込み料5万円の必要組数は、1.5組から2.5組に増えます。

断ること自体は、悪い判断ではありません。悪いのは、断ることで何が起きているか分からないまま断ることです。

見学の場での答え方も、数字に効く

もうひとつ、数字に直しにくいけれど効くところがあります。「持ち込めますか」と聞かれたときの答え方です。

「できません」と答えると、会話はそこで止まります。「提携ショップの衣装からお選びいただきます。ご希望のイメージはありますか」と答えれば、会話は続く。聞いた側の本当の気がかりは、持ち込めるかどうかではなく、「予算内でイメージに合う衣装があるか」であることが多いからです。

ここまでは仕組みの話として言えることです。実際にどちらの答え方が成約に効くかは、先の数え方で「質問した組の成約率」を見れば、自分の会場の数字で確かめられます。

まとめ

  • 衣装の持ち込みを断る式場は、提携ショップ経由の衣装粗利を守っている。年120組・1組14万円の仮の式場で、年1,680万円
  • 持ち込みを認めて持ち込み料5万円を取ると、持ち込む組が2割なら年1.5組、4割でも年3組の追加成約で元が取れる
  • 動かす力が大きいのは持ち込み料の額より、持ち込む組の割合。10%から40%で必要な組数は4倍になる
  • 失注220組のうち、持ち込みを理由に去った組が0.7%から1.4%(1.5組から3組)あれば、認めた方が得になる
  • 持ち込みについて質問した組に印をつけ、半年分の成約率を並べると、取りこぼしの上限が出る
  • 自社に衣装の在庫を持つ会場や、衣装の粗利が大きい会場は、必要な追加成約が増える。断り続けるのが正しい場合もある
  • 実在の数字として使ったのは、ゼクシィの解説記事にある持ち込み料の目安(ドレス1着5万円前後など)だけで、残りは仮の前提