20万円の値引きが元を取るには、成約が25%増える必要がある。迷っている人にだけ効くなら、損益分岐は4.5組から2組に下がる
値引きは、いくらまでなら出してよいのでしょうか。現場では「あと10万円で決まりそうだから」「他社も出しているから」という理由で、その場の判断になりやすいところです。ただ、値引きは売上を減らす操作というより、粗利を削る操作です。削った分を、成約が増えることで取り返せるのか。ここを先に計算しておくと、判断の線が引けます。
この記事の数字は、すべて僕が置いた仮の前提で計算したものです。実在の式場の実績ではありません。仮の前提で動かして、どこが効いているのかを見えるようにするのが目的です。自社の数字に置き換えて使ってください。
先に結論を書きます。
- 値引きは売上ではなく粗利から引かれる。売価350万円・粗利100万円なら、20万円の値引きで粗利は2割減る
- 全員に出す前提だと、20万円の値引きが元を取るには、成約が25%増える必要がある(成約率30%なら37.5%)
- 値引きが「迷っている人」にだけ効くなら、損益分岐は大きく下がる。分かれ目は、値引きなしでも決めていた人にどれだけ漏れるか
- 値引きの代わりに原価の低い特典を出すと、損益分岐はさらに下がる。ただし、特典が同じだけ成約を押し上げる保証はない
値引きは売上ではなく粗利から引かれる
仮の式場を置きます。
- 来館が月60組、成約率が30%で、成約は月18組
- 1組あたりの売価は350万円
- 1組あたりの粗利は100万円(料理・衣裳・人件費など、その組のために動く費用を引いたあとの額)
ここで20万円を値引きすると、売価は330万円になります。割合で見ると売価の5.7%です。小さく見えますが、費用は変わらないので、20万円は丸ごと粗利から引かれます。粗利は100万円から80万円になり、2割減ります。
売価に対する値引き率と、粗利に対する値引き率は別物です。粗利率が3割に届かない式場では、売価の1割の値引きが、粗利の3分の1を消します。値引きの話をするときに「たった数%」と言ってしまうのは、この違いを見ていないからです。
全員に出す前提での損益分岐
最初に、いちばん単純な場合を計算します。値引きを出すと決めたら、契約するすべての組に同じ額を出す、という前提です。
粗利の合計を値引きの前と同じにするには、成約数を何倍にすればよいか。これは、100万円を、値引き後の粗利で割れば出ます。
| 値引き額 | 売価に対する率 | 値引き後の粗利 | 必要な成約数の増加 | 成約率(現在30%) |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 2.9% | 90万円 | +11.1% | 33.3% |
| 20万円 | 5.7% | 80万円 | +25.0% | 37.5% |
| 30万円 | 8.6% | 70万円 | +42.9% | 42.9% |
| 50万円 | 14.3% | 50万円 | +100% | 60.0% |
20万円の値引きなら、成約が月18組から22.5組に増えて、ようやく元の粗利に戻ります。成約率でいうと、30%から37.5%への引き上げです。50万円になると、成約が2倍にならないと元が取れません。
ここで大事なのは、値引き額が2.5倍(20万円→50万円)になると、必要な増え方は4倍(+25%→+100%)になるということです。値引きの額と、必要な成約の増え方は、比例しません。額が大きくなるほど、坂が急になります。
成約率の差は、月次では見えにくい
もうひとつ、現実の側の問題があります。成約率が30%から37.5%に上がったかどうかを、月次の数字で確かめられるか、という点です。
来館が月60組だと、成約率は偶然だけでも月ごとに大きく揺れます。以前の記事(成約率を1ポイント上げると月90万円、という計算)で書いたとおり、月60組の来館から出る成約率は、偶然だけで±11ポイント前後は動きます。+7.5ポイントの変化は、その揺れの内側です。
つまり、値引きを始めて1〜2か月、成約が増えたように見えても、それが値引きの効果なのか偶然なのかは判断できません。だから、値引きは「やってみて数字を見る」ではなく、「始める前に損益分岐を決めておく」ほうが安全です。この表の右端が、その線になります。
値引きが迷っている人にだけ効くなら
全員に出す前提は、悲観的すぎます。実際には、値引きがなくても決める人がいて、値引きで決まる人は一部です。値引きで成約が増えるのは、「あと一押しで決まる層」にだけです。
そこで、前提をひとつ足します。
- 値引きなしでも契約していた組は、月18組
- そのうち、値引きを受け取る割合を「漏れ率」とする
- 値引きで新しく契約する組は、粗利が(100万円−値引き額)になる
増えた成約を x 組とすると、損益分岐の式は次のとおりです。
x × (100万円 − 値引き額)= 18組 × 漏れ率 × 値引き額
右辺は、もともと決まっていた人に渡してしまう値引きの総額です。左辺は、新しく契約した人から入る粗利です。これが釣り合う x が、必要な増加の組数になります。
値引き額が20万円のときの結果です。
| 漏れ率 | 必要な追加成約 | 来館60組に対する成約率の上乗せ |
|---|---|---|
| 20% | 0.9組 | +1.5ポイント |
| 50% | 2.25組 | +3.8ポイント |
| 100% | 4.5組 | +7.5ポイント |
漏れ率100%は、先ほどの全員に出す場合と同じで、必要な追加成約は4.5組(18組の25%)です。漏れ率が50%に下がるだけで、必要な追加成約は半分の2.25組になります。20%まで下がれば、1組弱です。
値引き額が30万円だと、漏れ率100%で7.7組、50%で3.9組、20%で1.5組になります。同じ漏れ率でも、額が大きいほど必要な数は急に増えます。
ここから言えることは、値引きの損益を決めているのは、値引き額と同じくらい「誰に出すか」だということです。同じ20万円でも、全員に出すなら成約率を7.5ポイント上げる必要があり、迷っている人にだけ出せるなら1.5〜3.8ポイントで済みます。
漏れ率を決めるのは、出し方の仕組み
では、漏れ率は何で決まるのでしょうか。これは交渉の腕前ではなく、出し方の仕組みで決まります。
漏れ率が高くなる出し方は、次のようなものです。
- 値引きを、案内の最初に提示する(決める気だった人にも届く)
- 値引きの条件が曖昧で、聞かれたら誰にでも出す
- 担当者ごとに裁量が違い、言い出した人が得をする
- 「他社の見積もりがあるなら」と聞くだけで出てしまう
漏れ率が低くなる出し方は、次のようなものです。
- 値引きは、見積もりを提示したあと、決めかねている理由が価格だと確認できたときだけ出す
- 条件を決めておく(日取り、人数、決定の時期など、式場側にも理由がある条件)
- 上限額を決めておき、段階を踏む
- 値引きを出した件数と、出さずに決まった件数を、担当者ごとではなく全体で数える
最後の項目は大事です。値引きを出した件数と、出さずに決まった件数を数えていないと、漏れ率は分かりません。分からないまま「値引きは効く」と思い込むのが、いちばん高くつきます。
特典に置き換えると、損益分岐が下がる
値引きの代わりに、特典を付ける方法もあります。ここでも計算の考え方は同じで、見かけの価値ではなく、式場に実際にかかる費用で考えます。
仮に、お客様から見て20万円分の価値がある特典を付けるとします。その特典の原価率が40%なら、式場の費用は8万円です。原価率が30%なら6万円、60%なら12万円です。
このとき、粗利は100万円から92万円(原価率40%の場合)になります。損益分岐は、100÷92で+8.7%の成約増です。20万円の値引きの+25%と比べると、3分の1の水準です。
| 見かけ20万円の特典の原価率 | 式場の費用 | 必要な成約数の増加(全員に出す場合) |
|---|---|---|
| 30% | 6万円 | +6.4% |
| 40% | 8万円 | +8.7% |
| 60% | 12万円 | +13.6% |
| (20万円の値引き) | 20万円 | +25.0% |
ここで注意したいのは、特典と値引きが、同じだけ成約を押し上げる保証はないという点です。値引きは、価格が決め手の人には確実に効きます。特典は、その特典に価値を感じる人にしか効きません。同じ見かけ20万円でも、効く人の数が違う可能性があります。
特典に置き換えるときに見るのは、次の2つです。
- 原価が低く、見かけの価値が分かりやすいものか
- 迷っている理由が価格ではなく、別のところにある人に効くものか
迷っている理由が価格以外のとき、値引きをしても決まりません。そのときは、値引きの額を積むより、迷っている理由に答えるほうが早いです。たとえば、遠方の親族の移動、日程、料理の内容といった理由がそうです。理由を聞く前に値引きを出すと、決まらないまま粗利だけが減ります。
判断の分かれ目
ここまでの計算を、判断の流れにまとめます。
- 自社の粗利を出す。 売価ではなく、その組のために動く費用を引いた額です。ここが曖昧だと、すべての計算がずれます
- 値引きの額ごとに、必要な成約の増え方を出す。 100÷(100−値引き額)で出ます(粗利を100としたとき)
- 漏れ率を見積もる。 過去の契約で、値引きなしで決まった組の割合を数えます。分からなければ、いったん100%で計算して、いちばん厳しい線を見ます
- その増え方が、来館数と成約率の揺れの内側に収まるかを見る。 収まるなら、効果は月次では見えません。その場合は、値引きを出す条件を絞って漏れ率を下げるほうが、確実な改善になります
- 特典に置き換えられないかを考える。 原価の低いもので、迷っている理由に答えるものがあれば、損益分岐は下がります
値引きを出すか出さないかの二択ではありません。いくらを、誰に、どの順番で出すかで、同じ20万円の意味が変わります。
仮の計算が当てはまらないところ
最後に、この計算が当てはまらない場面を整理します。
- 粗利が違う。 粗利が200万円の式場なら、20万円の値引きは粗利の1割です。必要な増え方は+11.1%まで下がります。逆に、粗利が60万円なら、20万円で粗利の3分の1が消えて、+50%が必要になります
- 値引きが、キャンセルや追加の注文に影響する。 値引きで決めた組の、その後の追加のオプション、キャンセル率が違うかもしれません。この記事の計算には入れていません。自社の記録で確かめる項目です
- 値引きが、次の見学者の期待を変える。 口コミや紹介で値引きの話が広がると、漏れ率が上がります。これも計算に入れていませんが、方向としては損益分岐を厳しくします
- 成約率の改善は、値引き以外でも起きる。 値引きを出している間に、案内の改善や季節の要因で成約が増えると、値引きの効果と混ざります
どれも、自社の数字で確かめられます。まず粗利と漏れ率を出して、そこから始めるのがいちばん早いです。
まとめ
- 値引きは売上ではなく粗利から引かれる。売価350万円・粗利100万円の仮の式場で、20万円の値引きは粗利の2割にあたる
- 全員に出す前提なら、20万円の値引きが元を取るには成約が25%増える必要がある。額が2.5倍(50万円)になると、必要な増え方は4倍(+100%)になる
- 月60組の来館だと、成約率は偶然だけでも±11ポイント前後揺れる。+7.5ポイントの効果は月次では見えないので、損益分岐は始める前に決める
- 値引きが迷っている人にだけ効くなら、20万円の損益分岐は漏れ率100%の4.5組から、50%で2.25組、20%で0.9組に下がる
- 漏れ率は、出し方の仕組みで決まる。値引きを出した件数と、出さずに決まった件数を数えていないと、漏れ率は分からない
- 原価40%の特典なら、見かけ20万円でも式場の費用は8万円で、損益分岐は+8.7%。ただし、特典が値引きと同じだけ成約を押し上げる保証はない
- 値引きの判断は、額だけでなく、誰に、どの順番で出すかで決まる
