離れて暮らす二人の式場見学は、揃う日を待たず片方を先に呼ぶ
「ご見学は、お二人のご都合が合う日で」。別々の街に住む二人から問い合わせが来たとき、式場はたいていそう返します。丁寧で、間違ってもいません。ただ、この返し方は、見学そのものを後ろにずらします。
結論から書きます。離れて暮らす二人には、揃う日を待つより、都合のつくほうが先に来館し、二人目は2回目に揃って来てもらう流れのほうが、成約が増える条件があります。分かれ目は、片方だけが来た見学のうち、何割が2回目に二人で戻ってくるか。僕が置いた前提だと、その線は31%でした。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。離れて暮らす二人の来館率も成約率も、会場の立地や季節で大きく違うからです。先に前提を並べるので、自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。
「二人が揃う日」は、思っているより遠い
二人が同じ街に住んでいれば、土日のどちらかで揃います。離れて暮らす二人は、そうはいきません。片方は新幹線や飛行機で移動する必要があり、仕事の休みも別々です。揃う日は、月に1回あるかないか、ということが普通に起きます。
式場側から見ると、ここに2つの損が隠れています。
1つ目は、日が空くあいだに、他の式場に先に見られることです。問い合わせた時点で、二人は何会場かに同時に連絡しています。見学の日が先になるほど、その間に他の会場の見学が先に入り、こちらは「2番目以降に見る会場」になります。
2つ目は、揃う日を待つあいだに、二人の熱が下がることです。問い合わせた日は、二人とも式場探しに気持ちが向いています。1か月後の見学までのあいだに、仕事の繁忙期や家族の用事が入ると、予約そのものが流れることがあります。
もちろん、これは全部が全部そうなるという話ではありません。「揃う日を待つ」が悪いと言いたいのではなく、待つあいだに失われるものが、数えられないまま見えなくなっている、という点を言っています。
前提を先に置きます
次の前提は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。
- 離れて暮らす二人からの月間問い合わせは30組
- 「二人が揃う日で」と案内すると、25%が来館の予約まで進み、来館します。二人とも揃っているので、来館した組の成約率は35%
- 「どちらか都合のつくほうが先に」と案内すると、45%が来館します。片方が決めやすいので、予約まで進む率が上がる、という想定です
- 片方だけが来た見学のうち、2回目に二人で戻ってくるのが40%。戻ってきた組の成約率は45%。1回目を見た側が説明役になるので、一人目より話が進みやすい、という想定です
- 戻ってこなかった60%は、片方の見学だけで終わります。そのまま成約する率は8%です
- 1組あたりの粗利は仮に120万円
揃う日を待った場合の成約
30組 × 25% で、来館は月に7.5組です。成約率が35%なので、7.5 × 35% = 2.6組が成約します。
片方を先に呼んだ場合の成約
30組 × 45% で、まず13.5組が片方だけで来館します。
このうち40%の5.4組が、2回目に二人で戻ってきます。成約率45%なら、5.4 × 45% = 2.4組です。
戻ってこなかった60%の8.1組のうち、8%の0.6組が、片方の見学だけで成約します。
合わせて、2.4 + 0.6 = 3.1組です。揃う日を待った場合の2.6組より、月に0.45組多い計算になります。粗利120万円なら、月に約54万円の差です。
大きな差ではありません。ただ、この計算で大事なのは差の大きさではなく、差がどの前提から生まれているかです。
分かれ目は「2回目に二人で戻る率」
片方先の成約数が、揃う日を待った場合と同じ2.6組になる、2回目の戻り率を逆算します。
13.5組のうち戻ってくる割合をxとすると、
13.5 × (x × 45% + (1 − x) × 8%) = 2.6組 となるxは、約31%です。
つまり、片方だけで来館した組のうち、3割強が2回目に二人で戻ってくれば、揃う日を待つのと同じ成約数になります。それより多ければ片方先が勝ち、少なければ負けます。
別の見方もできます。僕が置いた40%という戻り率が、実際は20%だったらどうなるか。計算すると、成約は2.1組まで落ち、揃う日を待った場合より少なくなります。片方先に切り替えた結果、成約が減る式場も出る、ということです。
だから「片方先にすべき」とは言い切れません。始めたあとで、戻り率を数えて、31%の線と比べる話です。
片方だけの見学で渡すもの
片方先の成否は、片方だけで終わった見学を、どれだけ「二人の見学」に近づけられるかで決まります。見学の当日に、次の5つを用意します。
1つ目は、来た側に「この見学は誰に報告しますか」と聞くことです。報告する相手の顔が見えると、説明の仕方が変わります。報告しやすい材料を渡せるからです。
2つ目は、見学の最後に、二人で決めるときに迷いそうな点を3つ聞いて、紙に書き出すことです。相手が離れた街にいると、見学で見たものを口頭で伝えきれず、そこで話が止まります。迷う点が紙になっていれば、そのまま二人の会話の材料になります。
3つ目は、会場の写真と動画を、その場で来た側のスマホに送ることです。撮影してよい場所は先に伝えます。撮影のルールについては、止めるより撮ってよい場所を先に伝えるほうが接客として自然です。
4つ目は、見積もりは総額の帯で渡し、細かい金額は二人揃ってから出すことです。片方だけに詳細な見積もりを渡すと、受け取った側が「相手に説明しなければ」と思い込み、判断が重くなります。帯であれば、二人で見たあとに細部を詰めると決めやすくなります。
5つ目は、2回目の予約をその場で仮に入れることです。「次はお二人で」と言うだけでは、日程が決まらないまま帰ります。次の来館日の候補を二人の休みに合わせて3つ出し、どれかを仮押さえします。2回目の戻り率を左右するのは、この一手の有無です。
誰を先に呼ぶか
片方先と言っても、どちらを先に呼んでもよいわけではありません。見学の予約ページに、次の一問を足すと分かります。
「お二人のうち、式場選びの中心になっているのはどちらですか」
この一問は、答えが「二人とも」でも構いません。答えが分かれば、先に来る側に最初の見学で説明する内容が変わります。たとえば、費用の分担に強い関心のある側が来るなら、見積もりの組み立てと支払いの流れを厚くします。日取りや当日の雰囲気に関心のある側が来るなら、会場の雰囲気と進行を見せる時間を増やします。
反対に、決める人が来ていないのに見積もりを深く出すと、持ち帰る側に判断の材料が偏ります。この点は、親だけが見学に来た場合と同じです。決める二人に渡す紙を作る、という考え方は、離れて暮らす二人にもそのまま使えます。
最初の返信に書く一文
案内の出し方で、来館率は変わります。問い合わせへの最初の返信に、次の形の一文を入れておきます。
「お二人が離れてお住まいの場合は、どちらかお1人でのご見学から始めていただけます。2回目にお二人で、という進め方も多いです」
ここで気をつけたいのは、「お1人でも大丈夫です」という許可の言い方にしないことです。許可の言い方は、本来は二人で来るべきところを特別に認めている、という響きになり、来る側が遠慮します。「そういう進め方があります」と、選択肢の一つとして並べるほうが、相手は動きやすくなります。
また、「多いです」と書く場合は、自分の会場で実際にそういう組が多いときだけにします。確かめていない傾向を、案内文の上で事実のように書かないためです。
数え方
この判断を続けるか、止めるかは、次の3つの数字で決めます。予約管理の表に列を3つ足すだけで足ります。
- 離れて暮らす二人からの問い合わせ数
- 片方だけで来館した組の数
- そのうち、2回目に二人で来館した組の数
月に1回、3つ目を2つ目で割ります。31%を超えていれば続け、下回っていれば、揃う日を待つ案内に戻すか、2回目の仮予約の取り方を見直します。ただし、31%はこの記事の前提から出した線です。成約率や来館率を自分の数字に入れ替えて、自分の線を計算し直してください。
もう一つ、数えておきたいのが、片方先を案内したとき、本来は二人で来られた組が混ざっていないかです。二人とも同じ街に住んでいるのに、片方だけが来る流れにしてしまうと、2回目に戻る率が下がるだけでなく、1回目の見学の質も落ちます。予約ページでは、住まいが離れている二人にだけ片方先の案内を出し、同じ街の二人には従来どおり二人で来てもらう案内を出します。出し分けの判断は、予約フォームの「現在のお住まいの都道府県」の欄1つで足ります。
片方先が向かない場面
最後に、片方先をやらないほうがよい場面も書いておきます。
- 挙式の日取りがすでに決まっていて、他の式場との比較をほとんどしない二人。揃う日を待っても、見学が流れる心配が小さいからです
- 遠方から来る側の移動費が大きく、1回しか来られない二人。2回目の戻りが最初から見込めないので、1回で終わる見学の設計(二人が揃う日に、見学と試食と見積もりを1日で終える)を優先します
- 片方がオンラインで同席できる二人。この場合はオンライン見学を前座に使うほうが話が早く、片方先とは別の判断になります
どの場面でも、「離れて暮らす二人」と一括りにせず、予約の時点で一問ずつ聞いて分けるのが、取りこぼしを減らす近道です。
まとめ
- 離れて暮らす二人に「揃う日で」と案内すると、見学が後ろにずれ、その間に他の式場に先に見られる
- 仮置きの前提(月30組、片方先の来館率45%、2回目の戻り率40%)では、片方先のほうが月に約0.45組多く成約する
- 分かれ目は、片方だけで来た組の2回目の戻り率。この前提では31%が線になる
- 片方だけの見学では、報告先を聞く、迷う点を紙にする、写真と動画を送る、見積もりは帯で渡す、2回目を仮に押さえる、の5つを渡す
- 予約ページで「住まいが離れているか」と「中心になっているのはどちらか」を聞き、出し分ける
- 戻り率は毎月数える。31%を下回るなら、揃う日を待つ案内に戻す
