来館・成約

食事制限のあるゲストがいる二人には、見学前に対応の線を返す

見学の問い合わせフォームの自由記入欄に、こんな一文が入っていることがあります。「ゲストに甲殻類アレルギーの人がいるのですが、大丈夫でしょうか」。担当者は反射的に「はい、対応しております」と返す。間違いではありません。ただ、この返信は二人の不安をほとんど減らしていません。

結論から書きます。食事に制限のあるゲストがいる二人には、見学の前に「対応の線」を一枚で返したほうがいいと僕は考えています。線というのは、いつまでに申告すれば、どこまで代えられて、何は代えられないか、の3点です。「対応できます」という言葉だけでは、二人は線の位置が分からないまま、見学に来るか、他の式場の返信を待つかを決めることになります。

この記事の数字は、ほとんどが僕の置いた前提です。結婚式の招待客のうち食事制限のある人の割合を示す調査は、僕は見つけられていません。出典があるのは、食物アレルギーの推定有病割合と、一部のホテルが公開している対応方針だけです。自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。

食事制限のあるゲストがいない披露宴のほうが少ないかもしれない

まず、どれくらいの確率で当たるのかを考えます。

食品安全委員会の機関誌(vol.61)には、2020年の全国実態調査にもとづく推定有病割合として、0〜6歳で0.2〜2.1%、小中高生で0.16〜1.3%という数字が載っています。自己判断で除去している人も含めた推定です。僕は成人の数字をこの資料で確認できていません。成人の有病率は、厚生労働科学研究班が過去にネット調査で出していますが、自己申告ベースで、今回は原文を読めていないので使いません。

食物アレルギーだけが食事制限ではありません。妊娠中の人、宗教上の理由で口にしない食材がある人、ベジタリアン、持病で塩分や糖質を控えている人、生ものを避けている人。披露宴の招待客には、こうした人がふつうに混ざります。

そこで、割合を仮に置いて計算します。招待客1人あたり、何らかの食事制限がある確率を1%、2%、3%のどれかとします。これは根拠のある数字ではなく、計算のための仮置きです。招待客が互いに独立と仮定して、「1人以上いる」確率をPythonで出しました。

招待客数 1%の場合 2%の場合 3%の場合
40人 33% 55% 70%
60人 45% 70% 84%
80人 55% 80% 91%

2%、60人で、7割です。割合が1%まで低くても、60人なら半分近くの披露宴に1人はいる計算になります。実際には家族や親族は食べ物の好みや体質が似るので、独立ではありません。それでも、「たまにある特殊な相談」という扱いでは足りないことは、この表から読み取れます。

二人が知りたいのは「できるか」ではなく「どこまでか」

問い合わせてきた二人の頭の中には、たいてい次の疑問が並んでいます。

  • 申告はいつまでにすればいいのか
  • 代わりの料理は、コースの内容が変わるのか、同じ流れで別の皿が出るのか
  • アレルゲンを完全に除いた皿を出せるのか、それとも混入の可能性は残るのか
  • ブッフェやケーキカットのデザートはどうなるのか
  • 当日、その席のゲストに誰がどう確認するのか

「対応しております」の一言は、どれにも答えていません。

参考までに、ホテルが公開している方針を2つ読みました。中島屋ホテルズは、コース料理の代替メニューを3日前までの事前申告に限って受け付け、ブッフェでは個別対応をしていないと書いています。ホテル日航アリビラは、アレルゲンを完全に除去した料理は提供できないと明記し、アレルギー対応メニューを希望する場合は利用日の3週間前までに提出するよう求めています。どちらも宿泊・宴会全般の方針で、結婚式に限った話ではありません。ただ、ここから分かることがあります。線を引いて公開している施設は実際にあるし、線の位置は施設ごとに3日から3週間まで開く、ということです。

線の位置が違うのは当然です。厨房の設備も、仕入れの締め日も違うからです。二人にとっては、他の式場と比べるときの材料にもなります。線を書いている式場は、書いていない式場より、誠実に見えます。

返信に書くのは3つの線

一枚で返すなら、僕は次の3つに絞ります。多く書くほど、読まれなくなります。

1つ目は、申告の期限です。 挙式の何日前までなら代替を用意できるのか。仕入れの都合で動かせない日があるなら、その日を書きます。「できるだけ早く」は線になりません。期限を過ぎた申告をどう扱うか(出せる範囲で対応する、など)も1行足します。

2つ目は、代替の範囲です。 特定の食材を除いた皿に差し替えられるのか、コース全体を組み直すのか。ベジタリアンのような食べ方そのものの制限と、アレルギーのような個別の食材の制限とで、返せる答えが違う会場もあります。違うなら分けて書きます。

3つ目は、できないことです。 完全除去は保証できない、ブッフェは個別対応ではなく取り分けの注意書きになる、デザートのケーキは共通など。式場にとっては言いにくい部分ですが、ここを後から言うと、契約後のトラブルになります。契約前に言っておけば、二人は納得して選べます。

3つ目を書くことには、式場側のリスクもあります。「できない」が先に目に入って、他の式場に流れる二人もいるでしょう。それでも僕は書くほうに寄せます。制限のあるゲストを招く二人は、そのゲストに安全な席を用意することを、会場の見た目よりも優先する場合があるからです。ごまかされるくらいなら、できないとはっきり言う式場を選ぶ二人は、少なくないはずです。ここは僕の見立てで、データはありません。

見学で確かめてもらえること、確かめてもらえないこと

見学や試食の場でも、この話は使えます。ただ、試食でできることには限界があります。

試食で二人が確かめられるのは、代替の皿の味と見た目です。普通の皿と並んだとき、その皿だけ寂しく見えないか。コースの流れの中で、同じ順番で出てくるか。これは見て食べれば分かります。

試食で確かめられないのは、安全のほうです。調理場の洗い物の分け方や、厨房内での混入を避ける手順は、二人には見えません。ここは、手順を文章にして渡すしかありません。「当日は、この席の担当が配膳前に調理から皿を受け取り、名前を確認します」というような一文です。

もう一つ、試食に来るのは二人で、制限のあるゲストは来ません。二人は代替の皿を食べても、「あの人が食べられるか」を判断できません。判断できるのは、材料表と調理の手順を読んだ、本人か、そのご家族です。だから見学の予約フォームには、「ゲストの食事制限について、先に聞いておきたいことがあれば」という任意欄を1行置いておくと使えます。前日までに厨房に確認して、当日に答えを持っておけるからです。見学で「確認して後日」と言うより、「昨日確認しました」と言うほうが、二人の持ち帰る安心はずっと大きくなります。

申告が増える時期と、線の外に出る申告

線を引いても、線の外の申告は来ます。結婚式では、招待状の返信が戻ってくるのは挙式の1〜2か月前ですが、食事の制限が分かるのは、返信に書き込まれたときか、当日の受付の場です。二人が気づかないまま当日を迎える申告もあります。

ここで式場が決めておくことは1つです。線の外の申告が来たとき、誰が何をするか。たとえば次のように分けておくと、現場が迷いません。

  • 期限内の申告:通常の対応。厨房に回して、配席表に書き込む
  • 期限を過ぎたが前日まで:厨房に確認して、できる範囲を二人に返す。できない部分は、そのままできないと伝える
  • 当日の申告:代替の皿は約束しない。ある食材から選べるもの(付け合わせの野菜、パン、デザートのフルーツなど)で、何を出せるかを現場の責任者が決める

当日の申告で最もまずいのは、「大丈夫です」と答えてしまうことです。大丈夫かどうかを確かめる時間がないからです。二人にも、あらかじめ「当日の申告は約束できない場合があります」という一文を渡しておけば、期限を守ってもらう理由になります。期限は、式場が自分を守るためだけでなく、ゲストを守るためにもあります。

担当者の手間は、一枚の紙で減らす

線を決めて書くことは、式場の担当者のためでもあります。

食事制限の相談は、個別に答えるたびに、厨房に聞いて、戻ってきて、回答を作るという往復が起きます。1件あたり15分かかると仮置きして、月に10件なら150分です。たいした時間ではありません。ただ、聞かれる相手が営業の担当者だったり、プランナーだったり、日によって違うと、答えの中身がずれます。「3日前までです」と言う人と「1週間前までです」と言う人が同じ会場にいると、二人は不信感を持ちます。

厨房と一度だけ話して3つの線を決め、一枚にまとめておけば、答えは全員同じになります。公式サイトの料理ページや、問い合わせへの返信の定型文に、そのまま貼れます。

決めるときの順番

実際に動くなら、僕は次の順で進めます。

  1. 厨房の責任者と、申告の締め日と、できない対応を、先に決める(営業が決めない)
  2. 3つの線を、二人が読める言葉で一枚にする
  3. 問い合わせへの返信は、この一枚を添えて返す
  4. 見学の予約フォームに、食事制限の任意欄を足す
  5. 3か月たったら、実際に来た申告の種類と、線の外だった申告の数を数えて、線を見直す

5番目は、線の位置を会場の実態に合わせるためです。最初に置いた線は、たいてい外れます。

まとめ

  • 招待客が60人なら、食事制限のあるゲストが1人以上いる披露宴は、仮に2%で計算すると7割になる。特殊な相談として扱うほうが無理がある
  • 二人が知りたいのは「できるか」より「どこまでか」。期限、代替の範囲、できないことの3つを一枚で返す
  • ホテルの公開方針を見ると、期限は3日から3週間まで開く。線を公開している施設はすでにある
  • 試食で確かめてもらえるのは代替の皿の味と見た目まで。安全の手順は、文章で渡す
  • 線は厨房と一度だけ決めて全員で使う。3か月後に実際の申告で見直す