育児期の柔軟な働き方の措置が2025年10月から義務に。土日が稼ぎ時の式場は5つから2つをどう選ぶか。仮の式場では、土日に効く措置を選ぶと年18万円、休暇を足しても年45万円
式場で働く人の多くは、土日と祝日に出勤します。そして、3歳から小学校就学前の子を育てる人にとって、一番困る日も土日と祝日です。保育園が休みで、夫や妻も仕事があるかもしれない。2025年10月に始まった育児・介護休業法の新しい義務は、この食い違いにどう向き合うかを、式場に決めさせるものです。
先に結論を書きます。
- 事業主は、5つの措置から2つ以上を選んで用意することが義務になった。選ぶのは従業員ではなく、まず式場の側
- 5つのうち、テレワークと時差出勤は、挙式のある土日にはほとんど効かない。土日の穴に直接効くのは、ベビーシッターの手配や費用負担のほうだと僕は考えている
- 仮の式場(従業員40人、対象者3人)で計算すると、ベビーシッター補助と時差出勤の組み合わせは年18万円。ここに養育両立支援休暇を足すと年45万円になる
- 措置の費用は、対象者3人のうち誰かの退職を、数年に1回防げれば元が取れる大きさ。ただし、短時間勤務を選ぶと、金額ではなく人手の穴が先に出る
この記事で確かめられたのは、人事向けの解説記事に書かれた制度の中身です。厚生労働省の「育児・介護休業法のあらまし」やQ&Aの原本は読めていません。細かい要件や、職種によって使えない措置を並べてよいかどうかは、社会保険労務士などの専門家に確認してください。計算に出てくる式場は、僕が置いた仮の前提です。実在の式場の数字ではありません。
義務になったのは何か
解説記事によると、2025年10月1日から、事業主は「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」を用意することが義務になりました。対象は、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員です。
用意する措置は、次の5つのうち2つ以上です。
- 始業・終業時刻の変更(時差出勤またはフレックスタイム制)
- テレワーク等(月10日以上、時間単位で使える)
- 保育施設の設置運営等(費用の負担、ベビーシッターの手配など)
- 養育両立支援休暇(年10日以上、時間単位で取れる)
- 短時間勤務制度(所定労働時間を6時間に短縮)
従業員は、式場が用意した措置の中から1つを選んで使います。式場が全部を用意する義務はなく、2つで足ります。選ぶのは式場、使うのは従業員、という順番です。
もう1つ、式場の側にやることが増えています。子が3歳の誕生日を迎える1か月前までの1年間に、選んだ措置の内容、申し出る窓口、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度を、面談や書面、メールなどで一人ひとりに伝えて、利用の意向を確かめる必要があります。
さらに、本人または配偶者が妊娠・出産を申し出たときと、子が3歳になる前の同じ1年間に、勤務時間帯や勤務地、両立支援制度を使う期間、業務量などの希望を聞くことも求められています。希望のすべてを叶える義務まではなく、可能な範囲で配慮し、難しいときは理由を伝えて代わりの案を考える、という形だと解説されています。
別の解説によると、措置を選ぶときには、過半数労働組合か過半数代表者の意見を聴く機会を設ける必要があるとされています。就業規則の改定とあわせて、段取りを組むことになります。
婚礼の現場で、5つの措置はどう効くか
制度の中身を、式場の働き方に当てはめます。婚礼の現場は、土日祝に挙式と披露宴があり、平日の夕方から夜に打合せがあります。この2つの時間帯が、子育て中の人の一番の壁です。
時差出勤とフレックス
始業・終業時刻を前後にずらす措置です。平日の打合せ担当なら、早番と遅番を組み替える余地があります。たとえば、子を迎えに行く日は17時に上がり、別の日は遅番に入って夜の打合せを受ける、という形です。
ところが、挙式のある土日には使いにくい。挙式当日の担当は、準備から片づけまでの拘束時間がほぼ決まっています。11時の挙式なら、遅くとも9時前には現場に入ります。始業を1時間ずらしてよいと言われても、ずらせる余地がありません。
使えるのは平日、効く場面は夜の打合せ、と整理しておくのが正直なところです。費用はほとんどかかりません。かかるのは、シフトを組む人の手間です。
テレワーク
月10日以上、テレワークで働ける形にする措置です。予約の事務、見積もりの作成、経理のような仕事なら成り立ちます。接客、衣裳、キャプテン、調理、会場設営は、会場にいないと仕事にならない。
式場の対象者が全員現場職なら、この措置は形だけになりがちです。職種によって使えない措置を、2つのうちの1つに数えてよいのかどうかは、僕は確認できていません。専門家に聞いてください。逆に、対象者が事務や予約管理の担当なら、費用がほぼかからない有力な選択肢です。
保育施設の設置運営等(ベビーシッターの手配や費用負担)
保育施設を式場が作る、というのは現実的ではありません。ただ、この措置には、ベビーシッターの手配や費用の負担が含まれると解説されています。
土日の穴に直接効くのは、5つのうちこれだけだと僕は思っています。保育園が休みの土日に、挙式の日の出勤を可能にしてくれるからです。手配を式場が引き受けるか、費用の一部を補助する形になります。費用は、使われた分だけかかります。
養育両立支援休暇
年に10日以上、時間単位でも取れる休暇です。従業員にとっては、子の急な発熱や学校行事のときに使いやすい制度です。
式場にとっては、休まれた日の穴を誰が埋めるかが問題になります。平日なら、打合せの日程を動かせます。土日に休まれると、担当している挙式の当日や、同じ日の打合せを、誰かが代わりに受けなければなりません。
短時間勤務
所定労働時間を6時間に短縮する措置です。1日の勤務を8時間とすると、毎日2時間が短くなります。婚礼の現場でこれをやると、穴が出る時間帯が問題になります。早く上がる2時間が、披露宴の後半から片づけにかかる時間帯と重なると、その時間に人が足りません。
仮の式場で年間の費用を計算する
ここから、前提を置いた計算です。実在の式場の数字ではありません。
- 従業員40人の式場
- 3歳から小学校就学前の子を育てる従業員は3人。3人とも土日に出勤する現場職
- 土日祝の営業日は年120日
- 3人の勤務は、1人あたり年240日、1日8時間とする
短時間勤務を選んだとき
3人が毎日2時間短縮すると、年間では2時間×240日×3人で1,440時間になります。1人の年間労働時間を2,000時間とすると、0.72人分です。
賃金を短縮分は払わない運用にしたとしても、穴の2時間を埋める人は必要です。婚礼のアルバイトは、時間帯が限られます。穴の出る時間帯が挙式の前後なら、埋めるのは簡単ではない。この措置は、費用より先に、人の配置が問題になります。
養育両立支援休暇を選んだとき
年10日×3人で、30人日です。このうち6割が、土日祝に取られると仮定します。子の行事や、保育園が休みの日が集まりやすいからです。すると18人日が、挙式のある日の穴になります。
その穴1日を埋める費用を、仮に1.5万円とします。手当や、他の担当への振り替えの費用です。18人日×1.5万円で、年27万円です。
もう1つ、数字に出ない問題があります。120日のうちの18人日が、無作為に散らばるとすると、同じ日に2人が重なる組み合わせが年に1.3回出ます。計算上は、土日のどこかで、年に1回か2回、2人が同時に休みます。このとき、担当者の代わりが足りるかどうかを、日程表の上で確かめておく必要があります。
ベビーシッターの補助を選んだとき
土日の出勤日に、18回、シッターを使うとします。1回2万円で、式場が半額を補助すると、1回あたり1万円です。18回で、年18万円です。
この費用は、使われた分だけです。使われなければゼロです。休暇のように、使われた日に穴が空くことはありません。
時差出勤を選んだとき
制度の費用はほとんどかかりません。シフトを組み直す手間があるだけです。平日の夜の打合せを、早番と遅番で分ける運用が前提になります。
組み合わせ別の年間費用
2つを選ぶ組み合わせで、土日の穴と年間の費用を並べます。
- ベビーシッター補助と時差出勤: 年18万円。土日にも平日夜にも効く
- ベビーシッター補助と養育両立支援休暇: 年45万円。休暇の穴27万円が加わる
- 養育両立支援休暇と時差出勤: 年27万円。土日には休暇しか効かず、休まれた日が穴になる
- 短時間勤務と養育両立支援休暇: 費用以前に、人手の穴が最も大きくなる
金額だけを見れば、休暇と時差出勤の組み合わせが安く見えます。ただ、この組み合わせだと、土日に子の預け先がない人は、休むしかない。休まれる回数が増えるのは、この組み合わせです。
退職を防げるかで元が取れる
措置の費用が高いか安いかは、対象者が辞めたときの損と比べて決まります。ここでも仮の前提を置きます。
- 1人のプランナーの担当は年26組(別の記事で置いた前提です)
- 退職してから補充まで3か月かかる
- その3か月のうち、担当6.5組の2割を取りこぼす
- 1組の粗利を100万円とする
すると、取りこぼしは1.3組、粗利で130万円です。
ベビーシッター補助と時差出勤の年18万円が元を取るには、130万円の損を18万円で防げばよいので、退職を防ぐ回数は年0.14回です。対象者は3人ですから、およそ7年に1回、誰かの退職を防げれば釣り合います。
養育両立支援休暇を足した年45万円なら、年0.35回、およそ3年に1回です。
これは、措置があるから辞めない、という話ではありません。措置がなければ辞める人が出て、あれば残る人が出る場合だけ、この計算が意味を持ちます。対象者に希望を聞かずに、制度だけを置くのは危ない。次の節に書く面談が、その確認になります。
面談で聞くことを決めておく
義務になっている個別の周知と意向確認は、3歳の誕生日の1か月前までの1年間です。誕生日の台帳を作っておかないと、期限を過ぎます。
式場の場合、面談で聞くことは次のように絞れます。
- 土日に出勤できる日数は、月に何日か
- 土日に出勤するとき、子の預け先はあるか
- 平日の夜の打合せは、週に何回までなら受けられるか
- 早番、遅番のどちらが助かるか
この4つは、どの措置を選んだかに関係なく、シフトを組むうえで必要な情報です。聞いた内容は、すべて叶えなくてもよい。叶えられないときは、理由を伝えて、代わりの案を出す。解説記事には、そう書かれています。
聞くだけで終わらせず、土日のうち月に何日が出勤可能かを、シフトの表に書き込んでおきます。希望が分かれば、担当する挙式の割り振りを、半年先まで組めます。
残業の免除にも注意する
2025年4月に始まった改正で、残業を免除してもらえる所定外労働の制限が、小学校就学前の子を養育する従業員まで広がりました。以前は、3歳未満の子までです。
婚礼の現場では、披露宴が延びたり、片づけが長引いたりして、残業が出ます。対象者が制限を請求すれば、その日の残業はできません。披露宴が延びた日に、最後まで残れる人が減ります。
これは措置を選ぶ話ではなく、請求されたら認める制度です。シフトを組むときに、対象者を最後まで残す前提にしないでください。
措置を選ぶ順番
ここまでをまとめて、選ぶ順番を書きます。
- 対象者の職種を確認する。事務職がいれば、テレワークを検討する
- 土日に出勤する現場職がいれば、ベビーシッターの手配や費用負担を1つ目の候補にする
- 2つ目は、平日の夜の打合せに効く時差出勤を検討する
- 養育両立支援休暇と短時間勤務は、穴が空く日の代わりを確保できるときだけ選ぶ
最後に、僕が一番引っかかっている点を書きます。この制度は、式場が選んだ2つの措置を、従業員が使うことで初めて意味を持ちます。式場が選んだ措置を、従業員が使えない、使いにくいなら、義務は果たしていても、辞める人は減りません。選ぶ前に、対象者に聞く。この順番が逆になると、制度だけが残ります。
まとめ
- 2025年10月から、3歳から小学校就学前の子を育てる従業員に、5つの措置から2つ以上を用意することが事業主の義務になった
- 5つは、時差出勤、テレワーク、ベビーシッター等の手配・費用負担、養育両立支援休暇、短時間勤務
- 土日の挙式に直接効くのは、ベビーシッターの手配や費用負担。時差出勤は平日の夜の打合せに効くが、挙式当日には効きにくい
- 仮の式場(従業員40人、対象者3人)では、ベビーシッター補助と時差出勤が年18万円、休暇を足すと年45万円。退職を3〜7年に1回防げれば元が取れる
- 休暇や短時間勤務は、費用より先に、土日の穴を誰が埋めるかが問題になる
- 3歳の誕生日の1か月前までの1年間に、個別の周知と意向確認が要る。誕生日の台帳を作り、土日に出られる日数と預け先を聞いておく
- 小学校就学前の子を育てる従業員は、残業の免除を請求できる。披露宴が延びる日に、最後まで残れる人が減る前提で組む
