来館・成約

式場見学にチャペル体験を入れるかは、見学枠の余りで決める

式場見学の最後にチャペルへ案内して、バージンロードを歩いてもらう。二人が入口に立った瞬間に、表情が変わる。現場にいる人なら、一度は見たことがある場面だと思います。

だから「体験は入れたほうが決まる」という話は、よく聞きます。僕もその感覚は間違っていないと思っています。ただ、経営の側から見ると、問いは「効くかどうか」ではありません。体験を足した10分で、その日の見学組数が減るのか、減らないのか。減るなら、成約率がいくつ上がれば元が取れるのか。ここを数字にしないまま、全組に入れるか、誰にも入れないかを決めてしまう会場が多いように見えます。

この記事の結論は、チャペル体験を入れるかどうかは、見学枠の「余り」で決める、ということです。余りが体験の分を吸収できるなら、入れて損はありません。吸収できないなら、成約率の上がり幅で元を取る必要があり、全組には入れず、入れる二人を絞ったほうが筋が通ります。

なお、この記事の組数、時間、成約率は、すべて僕が置いた仮の数字です。業界の平均や実績ではありません。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。

体験の10分は、見学枠に「整数」で響く

最初に、見学枠の仕組みから確認します。見学は、1組あたり何分と決めて、1日に何組入れるかを組みます。この「何組」は、必ず整数です。ここに、体験の追加が効いてきます。

仮に、案内を担当する人が1人で、土日の1日に使える時間が450分(朝9時半から夕方5時まで)だとします。1組の枠が90分なら、450÷90で、ちょうど5組入ります。ここに体験を10分足して100分にすると、450÷100は4.5組。端数の0.5組は使えないので、入るのは4組です。10分足しただけで、1日の見学が1組減ります。

一方、同じ会場でも、1組の枠が80分だったらどうでしょう。450÷80は5.6組で、入るのは5組。体験を10分足して90分にしても、450÷90で、ちょうど5組入ります。足したのに、組数は減りません。80分の枠には、もともと30分ぶんの余りがあったからです。

この二つを並べると、同じ「10分」でも、結果が全く違うことが分かります。

条件 1組の枠 入る組数 体験10分を足した枠 入る組数
余りが小さい会場 90分 5組 100分 4組
余りが大きい会場 80分 5組 90分 5組

体験の是非を議論する前に、まずこの表の自分の会場の行を埋めてみてください。余りが大きい側なら、議論は終わりです。入れればいい。難しいのは、余りが小さい側のほうです。

組数が減るなら、成約率がいくつ必要か

余りが小さい会場で、組数が5組から4組に減る場合を考えます。体験を入れても、その日に決まる組数を減らしたくないなら、1組あたりの成約率を上げて、減った組数を補う必要があります。

必要な成約率は、単純な比例で出せます。5組で成約率が p なら、決まる組数の期待値は 5×p です。4組で同じ期待値を保つには、成約率が 5÷4 倍、つまり1.25倍になる必要があります。仮の数字で計算すると、こうなります。

体験なしの成約率 体験ありで必要な成約率 必要な上がり幅
20% 25.0% 5.0ポイント
25% 31.3% 6.3ポイント
30% 37.5% 7.5ポイント
35% 43.8% 8.8ポイント

成約率が30%の会場なら、体験を入れて7.5ポイント上げないと、その日の成約の期待値は元に戻りません。チャペルを歩いてもらった二人の成約率が、歩いていない二人より7.5ポイント高いかどうか。ここが、体験を全組に入れるかどうかの分かれ目になります。

もう一つ、見落としやすい点があります。1日の見学枠が減ると、その分の二人は、別の日に回るか、他の式場を先に見ることになります。見学が1組減る損失は、その日の成約の期待値だけでは測れません。ただし、この記事では、そこは計算に入れていません。入れるなら、損失はもっと大きく出ます。

「体験した二人は成約率が高い」を、そのまま信じない

では、体験した二人と、しなかった二人の成約率を比べればいいのか。ここには落とし穴があります。

体験を入れている会場で、記録を取ると、おそらく体験した二人のほうが成約率は高く出ます。ただ、それは体験が効いたからとは限りません。チャペルに案内するのは、見学が盛り上がった二人、時間に余裕のある二人、決める気配のある二人であることが多いからです。もともと決まりやすい二人が、体験に進んでいる。順番が逆になっている可能性があります。

これを避けるには、体験を入れる条件を、担当者の判断ではなく、先に決めたルールにします。たとえば次のような形です。

  • 来館の曜日が偶数週は全組に体験を入れ、奇数週は入れない
  • 体験を入れる時間帯を決めて、その時間帯の組は全員に入れる
  • 同行者の有無や盛り上がりでは選ばず、予約が入った順に交互に割り当てる

こうすると、体験ありとなしの二つのグループが、二人の様子に左右されずに作れます。数か月続ければ、成約率の差を見られます。ただし、1か月の見学組数が少ない会場では、差が出ても偶然の揺れかもしれません。仮に月に40組の見学で、20組ずつに分けたとします。成約率の差が7.5ポイントというのは、20組のうち1.5組ぶんの違いです。1か月では判断できないので、3〜6か月はそのまま続ける前提になります。

入れる二人を絞るなら、何で絞るか

余りが小さく、全組には入れられない場合、体験を入れる二人を絞ることになります。絞る基準として、現場で使われがちなものを三つ挙げて、それぞれ考えます。

1. 二人が希望したとき

最も安全な基準です。「チャペルも見ていかれますか」と聞いて、見たいと言った二人にだけ入れる。無理に押し込まないので、二人の満足は下がりにくい。ただし、この方法では、体験の効果が測れません。見たいと言う二人は、もともと関心が高い二人だからです。

2. 見学の終盤で、決めかねている様子の二人

「あと一押しが欲しい二人に使う」という考え方です。理屈は通っています。ただ、担当者の見立てに頼るので、人によってばらつきます。また、決めかねている二人が、迷っている点はチャペルではなく、金額や人数であることも多い。体験を足しても、迷いの中身には触れていない可能性があります。

3. 挙式の形に関心がある二人

予約フォームや最初の会話で「挙式をどうしたいか」を聞いて、チャペルでの挙式を第一候補に挙げた二人にだけ入れる基準です。三つの中では、いちばん筋が通っていると僕は考えています。二人の関心に沿っているので、体験が刺さる確率が高く、時間も無駄になりにくい。人前式や神前式を考えている二人に、チャペルの体験を勧める必要はありません。

この三つに共通するのは、基準をあらかじめ言葉にしておかないと、担当者ごとの判断になることです。絞るなら、基準を紙に書いて、見学前に誰が見ても同じ答えになる形にします。

同行者によって、体験の意味が変わる

体験の効果は、誰と来ているかでも変わります。ここは数字では出せないので、仕組みの話として整理します。

親が同席している見学では、チャペルの体験は、二人のためだけのものではなくなります。親が、娘や息子の挙式姿を想像する場面になるからです。親の気持ちが動くと、見積もりや日取りの話が進みやすくなることがあります。親が決裁に関わる家庭では、体験の価値は高くなります。

一方、小さな子ども連れの見学では、体験の10分が負担になることもあります。子どもが飽きる時間帯に、さらに10分足すのは得策ではありません。この場合は、体験を短くするか、写真と動画で補い、別の来館時に回す選択肢があります。

友人同士や、片方だけの見学では、そもそも体験しても共有できません。来られなかった側がいるなら、歩く場面を動画で撮って渡すほうが、体験の価値を持ち帰ってもらえます。

つまり、体験を入れるかどうかは、「全組に入れる」「入れない」の二択ではありません。同行者に合わせて、時間と形を変える。そのためには、見学の予約時点で、誰と来るかを聞いておく必要があります。

体験を短くして、枠の中に収める

余りが小さい会場でも、体験の時間そのものを短くできれば、組数は減らせずに済みます。10分が難しくても、5分ならどうか。

先ほどの90分枠で、体験を5分にすると、1組の枠は95分です。450÷95は4.7組で、入るのは4組。5分でも、組数は減ってしまいます。つまり、5分に縮めるだけでは、枠の端数の問題は解決しません。

効くのは、体験を足すぶん、他の時間を削ることです。たとえば次のような選択肢があります。

  • 最初の案内で、館内の移動時間を減らす。見学の順路を、二人の関心に近い順に組む
  • 見積もりの説明を、見学の最後ではなく、チャペルの余韻が残るうちにつなげる
  • 試食の待ち時間に、チャペルの写真ではなく、実際のチャペルを案内する

最後の案が特に有効なのは、待ち時間は、もともと見学枠の中にある時間だからです。新しい10分を作るのではなく、既にある待ち時間を体験に置き換える。そうすれば、枠の長さは変わりません。

ただし、この方法にも限界があります。待ち時間が長いのは、料理の準備に時間がかかる会場に限られます。また、チャペルが他の挙式で使われている時間帯は、そもそも入れません。体験の可否は、その日のチャペルの予定にも左右されます。

チャペルが使えない時間帯の扱い

挙式が入っている日は、チャペルは本番の準備に使われています。入れる時間帯が限られる会場では、体験は「いつでも入れる」ものではなく、「特定の枠だけ入れる」ものになります。

仮に、土曜に挙式が午前11時と午後3時の2回あり、前後の準備と片づけで、それぞれ前後1時間ずつチャペルが使えないとします。そうすると、使える時間は、朝9時半から10時まで、午後0時から午後2時まで、午後4時以降。見学を始められる時刻のうち、チャペルに入れるのは限られた数の枠だけです。

こういう会場では、見学の予約枠に、「チャペル体験あり」「チャペル体験なし(外から見学)」の別を最初から持たせておくのが現実的です。予約のときに、二人に選んでもらえます。選ばなかった二人には、写真や動画で補う。体験ありの枠は、チャペルが空いている時間に限る。こうすれば、現場で「今日は入れません」と断る場面を減らせます。

断られた二人は、期待していたぶん、印象が下がります。入れない日があること自体は仕方ない。ただ、それが当日の入口で分かるのは、最悪の順番です。

判断の順番をまとめる

ここまでの話を、会場で決めるときの順番に直します。

  1. 自分の会場の、1組の見学枠と、1日に使える時間を出す
  2. 体験を足した枠で割って、組数が減るか、減らないかを確かめる
  3. 減らないなら、全組に入れる。ここで終わり
  4. 減るなら、必要な成約率の上がり幅を計算する
  5. 全組には入れず、入れる二人を、先に決めたルールで絞る
  6. ルールを3〜6か月続けて、体験の有無で成約率がどれだけ違うかを見る
  7. 差が必要な上がり幅に届かなければ、体験は撮影動画などの別の形に替える

この順番の良いところは、体験を入れるかどうかを、感覚ではなく枠の数字から始められることです。「入れたほうが決まる気がする」という印象は、現場の人ほど強く持っています。その印象を否定する必要はありません。ただ、1日の見学が1組減るという事実と、同じ天秤に載せて、はじめて判断になります。

まとめ

  • 体験の10分は、見学枠に「整数」で響く。90分枠は100分になると5組から4組に減り、80分枠は90分になっても5組のまま
  • 自分の会場の枠の余りを出すのが先。余りが体験を吸収できるなら、全組に入れてよい
  • 組数が1組減る場合、成約率が1.25倍にならないと、その日の成約の期待値は戻らない。30%の会場なら7.5ポイント
  • 体験した二人の成約率が高いのは、体験の効果とは限らない。もともと決まりやすい二人が進んでいる可能性がある
  • 絞るなら、担当者の判断ではなく、先に決めたルールで。挙式の形に関心がある二人に入れる基準は筋が通っている
  • 同行者で意味が変わる。親が同席するなら価値が高く、小さな子ども連れなら短く、来られなかった側には動画で渡す
  • 5分に縮めても、端数の問題は解決しない。待ち時間を体験に置き換えるほうが、枠の長さを変えずに済む
  • チャペルが使えない時間帯は、予約の時点で「体験あり・なし」を分けておく。当日の入口で断るのが、いちばん印象を落とす
  • 体験の是非は、印象ではなく、枠の数字から始めると決められる