チャペルの生演奏を全組に付けると、仮の式場では年540万円。成約率が0.6ポイント上がれば元は取れるが、その上がり幅は測れない
挙式の生演奏は、費用の割に写真や動画に残りにくく、削りやすい項目です。一方で、チャペルの見学で「ここで弾きます」と言える会場は、言えない会場より印象に残る気もします。どちらの感覚も、もっともだと思います。
この記事は出典のある統計を使わず、僕が置いた仮の式場で計算します。結論を先に書きます。生演奏を全組の標準に入れると、仮の式場では年540万円のコストです。これを回収するのに必要な成約率の上がり幅は、約0.6ポイントです。小さく見えますが、生演奏が成約率を0.6ポイント上げるかどうかは、会場側からほぼ測れません。
つまり、標準に入れるかどうかは、効果を信じるかどうかの賭けになりがちです。賭けにしないために、有料オプションにする、奏者と固定契約にする、見学で聴ける場を作る、という選び方があります。順に見ていきます。
仮の式場を置く
ここから先の数字は、すべて僕が置いた仮のものです。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
- 年間の挙式は180組。見学に来る二人は年600組で、成約率は30%です
- 1組あたりの粗利は148万円。式の売上全体から、原価と人件費を引いた額です
- 生演奏の奏者は外注で、1挙式あたり3万円。ヴァイオリンやオルガンなど、1人で入る編成を想定しています
- 今は録音の音源を流していて、追加のコストはほぼありません
- 生演奏を有料オプションにする場合の二人への価格は、1挙式5万円とします
奏者の費用は、地域や編成で大きく変わります。3万円が高すぎる会場も、安すぎる会場もあるはずなので、後の計算は自分の金額で割り直せるように、式を見える形で書きます。
標準に入れると、年540万円。回収に必要なのは3.6組
全組の挙式に生演奏を付け、売価は据え置く。いちばん分かりやすい形です。
コストは、180組に3万円で、年540万円です。これを粗利で取り戻すには、生演奏がなければ契約しなかった二人が何組要るか。540万円を148万円で割ると、約3.6組です。
見学600組に対する3.6組は、0.6ポイントです。成約率が30%から30.6%に上がれば、元が取れます。
この数字の読み方は2つあります。
1つ目は、必要な上がり幅は小さい、ということです。1ポイントにも届かないので、生演奏に魅力を感じて決める二人が年に4組いれば、計算は合います。
2つ目は、その4組を数える方法がない、ということです。成約した二人に「生演奏が決め手でしたか」と聞くことはできます。ただ、答えは記憶と気遣いに左右されます。生演奏が決め手の4組と、他の理由で決めたついでに生演奏を喜んだ176組の区別は、つきません。
標準化が危ういのは、損益が悪いからではありません。損益が合ったのか外れたのかを、1年後にも言えないことです。
外れたときの戻し方も考えておく
標準に入れた項目は、やめるときの説明が難しくなります。契約済みの二人には、約束した内容として残ります。新しく契約する二人には、「今年から録音になりました」と言うことになります。
だから、標準化は、入れるときよりも外すときのほうが重い判断です。入れる前に、いつ、何を見て外すかを決めておかないと、合っているのか分からないまま、毎年540万円を払い続けることになります。
有料オプションにすると、粗利は選択率で決まる
次に、生演奏を1挙式5万円の有料オプションにする形です。奏者への支払いは3万円なので、1件あたりの粗利は2万円です。
選択率ごとの年間の粗利は、次のとおりです。
| 選択率 | 件数(年180組) | 年間の粗利 |
|---|---|---|
| 20% | 36件 | 72万円 |
| 40% | 72件 | 144万円 |
| 60% | 108件 | 216万円 |
標準化の年540万円のコストと比べると、金額は小さい。ただし、ここにはコストがありません。損をする側がないのが、この形の利点です。
気をつけたいのは、奏者への支払いの条件です。奏者によっては、年間の最低保証を求めます。仮に最低保証が年60万円だとすると、粗利が2万円のオプションでは、年30件、つまり選択率で約17%が損益の線です。選択率がこの線を下回る年は、赤字になります。
また、オプションにすると、見積もりの総額が上がります。見積もりの比べやすさを大事にする二人は、オプションを外した総額で他の会場と比べます。生演奏を外して比べられた会場は、標準に入れた会場より、総額が安く見えます。標準化は、原価を上げる代わりに、見積もりの上で見劣りしない形でもあります。
奏者と固定契約にする。年204万円で、標準化の4割弱
三つ目は、奏者と年間の固定契約を結ぶ形です。たとえば、固定の出演料として年24万円、それに1挙式あたり1万円という形を仮に置きます。180組すべてに付けても、24万円と180万円で、年204万円です。標準化を外注の単価3万円で組んだときの540万円に比べて、4割弱になります。
固定契約には、見合うだけの条件があります。
- 奏者が、会場の挙式の時間に、ほぼ必ず入れること。土日に挙式が3〜4組あるなら、奏者の拘束時間は長くなります
- 奏者が休んだときの代わりを、決めておくこと。録音を流すのが一番簡単な代わりです
- 契約の期間と、やめるときの条件を決めておくこと
ここで効いてくるのは、挙式の組数と日程の偏りです。仮の式場の180組を52週で割ると、1週間あたり約3.5組です。実際には土日に集中するので、1日に2〜3組を連続でこなせる奏者でないと、固定契約は組みにくい。逆に、月に数組しか挙式のない会場では、固定契約の意味がなく、1件ごとの外注か、オプションのほうが向きます。
成約率への効果は、見学で聴けるかで決まる
ここまでの計算は、生演奏の効果を、成約率の上がり幅という1つの数字に押し込んでいました。もう少し分けて考えると、効果が出る経路は主に2つです。
1つは、見学のときに二人が生演奏を知る経路です。もう1つは、挙式当日にゲストが聴いて、評価や紹介に繋がる経路です。後者は契約の後なので、成約率には効きません。口コミや紹介を通じて、時間をおいて見学に効いてくる話です。
見学の経路に絞ると、問題は単純です。見学に来た二人が、生演奏を聴ける状況にあるか。聴けないなら、「生演奏が付きます」は、パンフレットの一行にとどまります。その一行は、他の会場も同じように書いているかもしれません。
聴ける状況を作る方法は、いくつかあります。
- フェアの日に、月に1回など、チャペルで15分の演奏を入れる
- 見学の時間帯に、奏者が練習で入っている日を重ねる
- 奏者の短い演奏の動画を、公式サイトの挙式ページに置く。ただし、これは会場で聴く体験の代わりにはなりにくい
フェアの演奏は、1回あたり奏者への支払いが3万円だとして、月1回で年36万円です。標準化の540万円と比べると、15分の1ほどです。生演奏を聴ける機会を、見学の側に寄せて作るという考え方です。
奏者の単価が動くと、必要な上がり幅も動く
3万円という単価は仮置きなので、動かしたときの数字も見ておきます。年180組、粗利148万円、見学600組は同じままです。
| 奏者の単価 | 標準化の年間コスト | 回収に要る追加成約 | 成約率の上がり幅 |
|---|---|---|---|
| 2万円 | 360万円 | 約2.4組 | 約0.4ポイント |
| 3万円 | 540万円 | 約3.6組 | 約0.6ポイント |
| 4万円 | 720万円 | 約4.9組 | 約0.8ポイント |
| 5万円 | 900万円 | 約6.1組 | 約1.0ポイント |
単価が5万円でも、必要な上がり幅は1ポイントです。数字だけ見れば、どの単価でも小さな賭けに見えます。ただ、ここで見落としやすいのは、生演奏がなくても契約した二人の分です。180組の大半は、録音でも契約していたはずの二人で、その人たちの分のコストは、全額が持ち出しになります。年540万円のうち、回収できる見込みがあるのは、せいぜい数組分だけという構造です。
また、見学600組という分母は、会場によって大きく違います。見学が年300組の会場なら、同じ3.6組の追加成約でも、必要な上がり幅は1.2ポイントに倍増します。小さな会場ほど、標準化の賭けは重くなります。
標準にするなら、中身も決めておく
標準にする場合は、金額だけでなく、中身の線も先に決めておくほうが、後で揉めません。
- 曲数と時間:入場、退場、聖歌や賛美歌の伴奏まで含めるのか。含めると奏者の拘束時間が延び、単価が上がります
- 曲目の選択:二人が持ち込む曲を弾けるのか。弾けない曲があるなら、事前に一覧で出します
- リハーサル:当日の直前に音合わせをする時間を、奏者と式場のどちらが確保するのか
- 雨や暑さで屋外から屋内に変えたとき:楽器の置き場所と音響の条件が変わるので、同じ奏者で対応できるか
これらを決めないまま標準にすると、現場の判断が毎回ばらつきます。ばらつきは二人からは「担当者によって言うことが違う」と見えます。標準にするとは、約束の中身を揃えることでもあります。
録音のままにする判断も、立派な選択肢
ここまで読むと、生演奏を入れる前提のように見えるかもしれません。録音のままにする判断も、成り立ちます。
挙式の時間は、全体でも20〜30分ほどです。その間の音楽が録音でも、二人とゲストが不満を持たない会場は多いはずです。録音の品質が高く、音響の設備が良ければ、差は小さくなります。
生演奏に払う年204万円や540万円を、別の項目に回すという選択もあります。たとえば、見学の時間帯の空調や、予約フォームの改善、口コミへの返信の人手です。これらは、生演奏に比べて、成約率への効き方を数えやすい。同じ金額を、効果が数えられる側に置くという考え方は、説得力があります。
要は、生演奏が良いか悪いかではありません。同じ金額を使う先の候補が、ほかにもあるということです。
決める順番
迷ったときは、次の順で決めるのが現実的です。
- 年間の挙式組数と、奏者の1挙式あたりの費用を書き出す。標準化のコストは、この2つの掛け算で出ます
- そのコストを、1組の粗利で割る。その組数が、成約で取り戻す必要のある数です
- 取り戻す必要のある組数が、見学の600組に対してどのくらいの割合かを見る。1ポイント以内なら、賭ける価値はあります
- 賭けるにしても、まずは有料オプションか、フェアでの演奏から始める。標準化は、数字が見えてからにする
この順番だと、標準化は最後の選択肢です。コストがもっとも大きく、外すのも難しいからです。
まとめ
- 生演奏の標準化は、仮の式場(年180組、奏者は1挙式3万円)で年540万円です
- 回収に必要な成約率の上がり幅は約0.6ポイントですが、生演奏がその分を上げたかは、会場側で測れません
- 有料オプションは、1件の粗利が2万円で、選択率20%なら年72万円です。奏者の最低保証があると、選択率の線が出ます
- 奏者と固定契約にすると、仮の条件で年204万円。ただし、挙式の組数と日程が合う会場に限ります
- 見学で聴ける機会を作るなら、フェアで月1回の演奏が年36万円で、標準化の15分の1です
- 標準化は、外すときのほうが重い判断なので、最後の選択肢にします
