挙式のみプランの粗利が8万円なら、フルプランの二人が1組下がるたびに、新規が16.5組要る。出す前に決めるのは値段より「使える枠」
披露宴はしないけれど、挙式だけはしたい。そういう二人に向けて、「挙式のみプラン」を用意する式場が増えています。見学で「披露宴は考えていません」と言われたとき、何も出せずに帰すより、出せるものがあったほうがいいのは確かです。
ただ、このプランには一つ、売る側だけに見える落とし穴があります。フルプランを選ぼうとしていた二人が、価格表で挙式のみの欄を見て、そちらに寄ってしまうことです。会場は粗利140万円の二人を失い、粗利8万円の二人を得ます。差し引き132万円の損です。
結論から書きます。仮の式場で、フルプランの粗利が140万円、挙式のみの粗利が8万円のとき、フルプランの二人が1組下がるごとに、挙式のみの新規が16.5組必要になります。この比は、(140−8)÷8で決まります。値段を少し上げても、比は劇的には変わりません。効くのは、挙式のみを「どの枠で売るか」のほうです。
この記事の数字は、出典のある統計ではありません。粗利も採用率も、会場ごとにまったく違います。僕が置いた前提を先に並べて、自分の会場の数字に替えるだけで答えが出るように書きます。
前提を先に置きます
使う前提は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。
- 年間のフルプラン(挙式と披露宴)は120組、1組あたりの粗利は140万円
- 年間の来館は400組、成約率は30%。つまり成約は120組、失注は280組
- 挙式のみプランの売価は18万円、原価は10万円で、粗利は8万円。原価には、チャペルの準備、進行スタッフ、音響、控室の手配が入っている
- 挙式のみの二人は、披露宴会場を使わない。チャペルだけを使う
- 平日のチャペルは、年間200枠が空いている(挙式のみに回せる枠の上限)
この前提でいちばん大事なのは、粗利の差です。140万円と8万円。比は17.5倍で、挙式のみ1組は、フルプラン1組の17分の1にも届きません。
下振れの損は、掛け算で効いてくる
フルプランから挙式のみに下がる二人を、ここでは「下振れ」と呼びます。下振れ1組あたりの損は、次の式で出ます。
- 下振れ1組の損 = フルプランの粗利(140万円)− 挙式のみの粗利(8万円)= 132万円
120組のうち、何%が下振れするかで、年間の損が決まります。
- 1%(1.2組)なら、損は年158万円
- 2%(2.4組)なら、損は年317万円
- 3%(3.6組)なら、損は年475万円
- 5%(6組)なら、損は年792万円
1%という数字は、小さく見えます。120組のうち、1組か2組が考えを変えるだけです。けれど、その損は年158万円。これを新規の挙式のみで埋めるには、粗利8万円の二人が19.8組、つまり年20組ほど要ります。
ここが、見学の現場で見落とされやすい点です。挙式のみプランを出した月に「問い合わせが来た」「3組決まった」と数えると、成果が出ているように見えます。けれど、フルプランの二人が何組下がったかは、どこにも数字として出てきません。見学のとき、価格表を出さなかった月と出した月で、フルプランの成約単価がどう動いたか。その比較をしないかぎり、132万円の損は見えないまま積み上がります。
新規は、失注のどれだけを拾えば足りるか
下振れを埋めるための新規は、どこから来るのか。ここでは、いま失注している280組のうち、挙式のみなら契約する二人から来ると考えます。
必要な新規の数を、失注280組に対する割合に直すと、次のようになります。挙式のみの粗利が8万円の場合です。
- 下振れが1%なら、必要な新規は19.8組。失注の7.1%
- 2%なら、39.6組。失注の14.1%
- 3%なら、59.4組。失注の21.2%
- 5%なら、99.0組。失注の35.4%
来館の側から見ても同じです。5%の下振れが起きたとき、400組の来館のうち24.8%、つまり4組に1組が、挙式のみで契約してくれないと損が埋まりません。
失注280組の中身は、会場によって違います。他の会場に決めた二人もいれば、結婚式そのものをやめた二人もいます。挙式のみで拾えるのは、「やりたいことはあるけれど、予算の点で披露宴は難しい」と考えていた二人です。この割合が失注の1割なのか、3割なのかは、見学の記録を読み返さないと分かりません。ここは、仮置きではなく、自分の会場の数字を出す必要があります。
値段を上げても、比は思ったほど動かない
挙式のみの粗利を上げれば、下振れの損は小さくなります。仮に、粗利が5万円、8万円、12万円の場合を並べます。下振れ1組を埋めるのに必要な新規の数です。
- 粗利5万円なら、(140−5)÷5=27.0組
- 粗利8万円なら、(140−8)÷8=16.5組
- 粗利12万円なら、(140−12)÷12=10.7組
粗利を5万円から12万円へ、2.4倍にしても、必要な新規は27組から10.7組へ、2.5分の1にしかなりません。しかも、売価を上げると、そのぶん挙式のみを選ぶ二人の数も減ります。粗利12万円に上げて、新規が半分に減ったら、必要数10.7組を満たせなくなる会場も出てくるはずです。
つまり、「いくらにするか」を詰めても、損益の形はほとんど変わりません。粗利が8万円でも12万円でも、挙式のみ1組はフルプラン1組の10〜17分の1です。この差が縮まらない以上、見るべきは下振れの数のほうです。
披露宴の追加購入で、粗利は少し伸びる
挙式のみで契約した二人が、あとから会食やパーティーを追加する場合もあります。この追加の粗利が6万円だとして、挙式のみの二人の20%、40%が追加するとします。
- 追加なし:1組あたり8.0万円
- 20%が追加:9.2万円
- 40%が追加:10.4万円
下振れが5%のとき、必要な新規は、追加なしなら99.0組です。20%が追加するなら86.1組、40%なら76.2組になります。減るには減りますが、失注の35.4%が27.2%になる程度です。追加購入は、損益の形を変えるほど大きくはありません。
僕がここで言いたいのは、追加購入を当てにして挙式のみを広げる計画は、数字の上では支えにならない、ということです。追加が起きたら、それは少し得をした話として扱うほうが、判断を誤りません。
いちばん効くのは、使える枠を絞ること
ここまでの計算は、挙式のみをすべての日程で選べる前提でした。けれど、下振れの数は、枠の置き方で大きく変わります。
フルプランの二人は、土日の人気の時間帯を狙っています。挙式のみを「平日の午前」や「土日の空き枠」に限定すれば、フルプランを考えていた二人が下がる理由は薄くなります。土曜の昼に挙式をしたい二人が、平日の午前に挙式のみで妥協するかというと、そう簡単には動きません。
仮に、枠を絞ったことで、下振れが絞らない場合の半分、4分の1になったとします。下振れ5%の想定が前提のとき、必要な新規の数はこうなります。
- 絞らない:下振れ6.0組、必要な新規99.0組、失注の35.4%
- 半分に減る:下振れ3.0組、必要な新規49.5組、失注の17.7%
- 4分の1に減る:下振れ1.5組、必要な新規24.8組、失注の8.8%
失注の35.4%を拾うのは、現実的ではありません。17.7%でも厳しいです。8.8%まで下がれば、見学記録の中に該当する二人が見つかる水準になります。
もう一つ、枠を絞ることは、チャペルの稼働にも効きます。仮置きの平日の空き枠200枠のうち、新規20組が使うのは10%です。空いていた枠が埋まるだけで、土日の人気枠を挙式のみに取られる心配はありません。
出す前に決めておく3つのこと
ここまでの計算から、挙式のみプランを出す前に決めておくことが見えてきます。
-
使える枠 平日、または空き枠だけにするのか。土日の昼も売るのか。ここで下振れの数が決まります。見学の最初に価格表を渡す場合と、二人が「披露宴は難しい」と言ってから出す場合でも、結果は大きく違います。
-
下振れを数える方法 見学のあと、フルプランを検討していた二人が、挙式のみに変えた件数を、記録に残します。契約の欄に「挙式のみ」とだけ書くと、元がフルプランの見積もりだったのか、最初から挙式のみの相談だったのかが分かりません。見積書の最初の版と、契約時の版を並べて、下がった件数を数えます。
-
やめる基準 半年たって、挙式のみの新規が何組なら続けるのか。先ほどの式で、下振れの件数に16.5を掛けた数が、新規の下限です。この数を先に決めておかないと、「出しているのだから続ける」という判断になります。
数字の読み方にまつわる注意
この記事の数字には、読むときに気をつけてほしい点が3つあります。
1つめは、140万円という粗利です。これは平均値で、会場の価格帯が高ければ上がり、低ければ下がります。粗利が100万円の会場なら、(100−8)÷8=11.5組になり、必要数は3割ほど減ります。逆に200万円の会場なら、24組です。高価格帯の会場ほど、挙式のみの影響は大きくなります。
2つめは、下振れの割合です。1%から5%まで並べましたが、実際にいくつなのかは、僕には分かりません。価格表の置き方、見学の進め方、挙式のみの見せ方で大きく変わります。だから、割合を決めてかかるのではなく、半年の記録から実測するしかありません。
3つめは、失注280組のうち、挙式のみで拾える二人の割合です。ここは、見学の記録を読み返す作業が要ります。「予算で断られた」「披露宴はいらない」と書かれた件を数えれば、おおよその上限が出ます。上限が失注の5%しかなければ、下振れ1%でも新規の目標に届きません。
まとめ
- 挙式のみ1組の粗利は、フルプラン1組の10〜17分の1。下振れ1組を埋めるには、新規が10〜27組要る
- 仮の式場(フルプランの粗利140万円、挙式のみの粗利8万円)では、下振れが1%(年1.2組)でも、損は年158万円。埋めるには新規が年20組、失注の7%を拾う必要がある
- 売価を上げても、必要な新規は粗利に反比例する程度しか減らない。値段を詰めるより、枠の置き方で下振れの数を減らすほうが効く
- 挙式のみから会食を追加購入する二人がいても、必要な新規の数はあまり変わらない。当てにして計画を組まない
- 出す前に、使える枠、下振れの数え方、続ける基準の3つを決めておく
- 計算に使った数字は、すべて仮置き。自分の会場の粗利と、失注の中身に替えて読む
