海外挙式の二人の帰国後パーティを式場が受ける損益
海外やリゾートで挙式を済ませた二人から、「帰国してから、来られなかった親族や友人を招いてパーティをしたい」という相談が入ることがあります。式場から見ると、挙式のない披露宴だけの依頼です。チャペルも神前も使わないので、普通の婚礼より売上は小さく見えます。しかも土日の夜に頼まれると、通常の婚礼と枠を取り合います。受けるべきか、断るべきか。
結論を先に書きます。受けるかどうかは、パーティそのものの粗利ではほぼ決まりません。40人で粗利は40万円ほど出るので、どんな日でも黒字に見えます。分かれ目は、その日の枠が通常の婚礼で埋まる確率です。僕が置いた仮の前提では、人気日の夜枠が埋まる確率が4割を超えるなら、帰国後パーティは受けないほうが得です。逆に、平日や閑散期なら、ほぼ迷わず受けてよい仕事になります。
出典つきの数字は、海外挙式の規模を示す1つだけです。式場側の料金や原価率は、会場ごとに違うはずなので、僕が置いた仮の数字で計算します。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
海外挙式は、少人数で終わっている
まず、二人がなぜ国内でパーティを開きたがるのかを整理します。
リクルートの海外ウエディング調査(2016年、トラベルボイス掲載)では、海外挙式の費用総額は平均204.6万円、挙式の列席者は平均9.7名でした。10年近く前の調査なので、今の数字とは違うかもしれません。ただ、海外挙式が家族や、ごく親しい友人だけで行われる少人数の形だという点は、仕組みとして変わらないと考えています。渡航費も宿泊費もかかるので、呼べる人数に限りがあるからです。
つまり、海外で式を挙げた二人の周りには、呼べなかった人が必ず残ります。祖父母、職場の上司や同僚、地元の友人。その人たちに報告と感謝を伝える場として、帰国後のパーティが生まれます。
この需要は、二人の側から見ると、次の3つの条件がそろったときに出てきます。
- 海外挙式の費用で予算をかなり使っている
- 呼べなかった人に会う機会が欲しい
- 堅い披露宴ではなく、食事を囲む軽い会にしたい
3つ目が大事です。二人は、通常の披露宴をもう一度やりたいわけではありません。挙式も、お色直しも、ケーキ入刀も、海外で済ませています。欲しいのは、料理と飲み物と、写真や動画を見せる時間と、人数分の席です。
式場から見える仕事の中身
式場側で必要になるものを並べます。
- 会場(宴会場の使用)
- 料理と飲み物
- 配膳スタッフ
- 司会と音響(外部に頼む場合は外注費)
- 打合せの工数(簡単な会なので、3回ほどで足りるはず)
- 海外挙式の写真や映像を流す設備
挙式の設備、衣装、フラワー、ヘアメイクは要りません。通常の婚礼で粗利を厚くしている項目が、まるごと抜けます。そのかわり、手間も小さくなります。この「抜けた分だけ小さい仕事」をどの日に入れるかが、損益の中心です。
40人のパーティを計算する
仮の前提を置きます。
- 人数は40人
- 1人あたりの料理と飲み物は16,000円(売上)
- 会場使用料は10万円
- 料理と飲み物の原価率は38%
- 配膳スタッフは6人で4時間、時給1,300円
- 司会と音響の外注は4万円
- 打合せはプランナーが3回、1回1.5時間、時給換算で2,000円
- そのほか、備品や消耗品の費用が1.5万円
売上は、16,000円×40人=64万円に、会場使用料の10万円を足して、74万円です。
費用は、原価が64万円×38%=24.3万円、配膳が6人×4時間×1,300円=3.1万円、外注が4万円、打合せが9,000円、その他が1.5万円。合計33.8万円になります。
粗利は74万円-33.8万円=40.2万円です。
人数を変えてみると、次のようになります。
| 人数 | 売上 | 費用 | 粗利 |
|---|---|---|---|
| 20人 | 42万円 | 21.7万円 | 20.3万円 |
| 30人 | 58万円 | 27.8万円 | 30.2万円 |
| 40人 | 74万円 | 33.8万円 | 40.2万円 |
| 50人 | 90万円 | 39.9万円 | 50.1万円 |
配膳の人数や時間は、人数に合わせて増減させていません。実際は50人なら配膳も1人増えるでしょうから、右の列は少し甘い数字です。それでも、人数の幅がかなり広くても、黒字で終わる形になっています。
ここまでだけ見ると、「受けない理由がない」と結論したくなります。実はここに落とし穴があります。この計算には、その日にその枠で通常の婚礼を受けられたかもしれない、という機会の損が入っていません。
機会の損を足す
通常の婚礼を受けられたかもしれない日に、帰国後パーティを入れると、その枠は使われます。通常の婚礼が入るかどうかは、事前には分かりません。そこで、「その枠が通常の婚礼で埋まる確率」を仮に置いて、期待値で考えます。
通常の婚礼1組の粗利を、仮に100万円とします。夜枠が埋まる確率ごとに、帰国後パーティの粗利40.2万円から、100万円×確率を引きます。
| 夜枠が通常婚礼で埋まる確率 | 機会の損 | 差し引き |
|---|---|---|
| 10% | 10万円 | 30.2万円の得 |
| 30% | 30万円 | 10.2万円の得 |
| 40% | 40万円 | ほぼゼロ |
| 50% | 50万円 | 9.8万円の損 |
確率が約40%を超えたあたりで、損に転じます。通常婚礼の粗利を80万円に置けば、境目は約50%に動きます。
ここから分かるのは、帰国後パーティの判断が、「受ける・断る」の二択ではなく、「どの日なら受けるか」の問題だという点です。
日を選ぶと、断らずに済む
具体的には、枠の種類で分けます。
平日の夜や昼。 通常の婚礼がほぼ入らない時間帯です。埋まる確率が1割を切るなら、機会の損はほとんどありません。40人のパーティなら、粗利40万円がそのまま乗ります。
閑散期の土日。 真夏や真冬の寒い時期は、土日でも婚礼が入りにくい日があります。直近1〜2年の稼働を見て、「この日付帯の夜枠は何割埋まったか」を数えておけば、確率の仮置きではなく実績で判断できます。
人気日の夜。 大安の土曜などは、埋まる確率が高いので、基本的に受けません。ただし、満枠の日でも、その日の昼の枠が空いていて、昼のパーティで済むなら話は別です。昼の枠が夜より埋まりにくいかどうかは、会場ごとの実績で確かめてください。
断るときは、日を指定して断るのではなく、「この日付帯なら受けられます」と、受けられる日を並べて返すと、二人も話を前に進めやすくなります。海外挙式の二人は、日程の自由度が高いことが多いからです。仕事の休みさえ合えば、帰国後に集まる日は動かせます。
料金は、通常の婚礼と違う形にする
もう1つ決めておきたいのは、料金の見せ方です。通常の婚礼と同じ見積書の形にすると、挙式や衣装が無い分、二人には「ずいぶん安い」と映ります。逆に、通常の婚礼の値引きとして出すと、二人が「帰国後パーティなら、いつもこの額で受けてもらえる」と受け取ってしまい、あとで人気日を希望されても断りにくくなります。
一つの方法は、「1人あたりの料理飲み物の料金」と「会場使用料」を最初から分け、会場使用料の欄に、日付帯ごとの差を載せておくことです。たとえば、平日は10万円、土日は25万円といった形です。ここで一定の差をつけておくと、二人が自分で平日を選びやすくなります。この差の幅を何円にするかは、前に計算した「機会の損」を、確率ごとに眺めて決められます。
海外挙式の二人を受けるもう一つの意味
粗利以外にも、受ける理由があります。
呼ばれた人は、式場にとって新しい接点です。祖父母や職場の人たちは、帰国後のパーティで初めてその式場に入ります。その場で、近い将来に結婚を控えた親族や同僚が、会場を見ることになります。通常の婚礼でも同じ効果はありますが、帰国後パーティは、会の雰囲気が軽く、出席者が会場を見回す余裕があるはずです。
ただし、これは効果の大きさを僕が数字で確かめたわけではありません。紹介による成約への寄与は、会場ごとに数えないと分からない話です。粗利の計算に入れず、「あれば得」くらいの位置づけに留めるのが安全です。
仮の数字が外れたとき、どちらに動くか
ここまでの計算は、仮の前提の上に立っています。外れたときにどちらへ動くかを知っておくと、自分の数字に置き換えるときに迷いません。
- 原価率が38%から45%に上がると、40人の粗利は約4.5万円減ります。境目の確率は、約4割から約3.6割に下がります
- 配膳スタッフが6人から8人に増えると、費用が約1万円増えます。影響は小さく、判断はほぼ変わりません
- 通常の婚礼の粗利が100万円より小さい式場(少人数の婚礼が中心の式場など)は、境目の確率が上がります。受けてよい日の幅が広がります
- 打合せが3回で済まず、写真や映像の相談で6回に増えると、費用が約1万円増えます。これも判断には響きません
動くのは、結局、機会の損の側です。通常の婚礼の粗利と、その枠が埋まる確率。この2つだけは、仮の数字で済ませず、自分の会場の実績から出してください。
受ける前に確認しておくこと
受けると決めたとき、後から揉めないよう、次の点を確認しておきます。
- 海外挙式の写真・映像を流す場合、データの形式と上映の時間
- 挙式がないので、「ウェディングケーキ」「入場」などの演出をどこまで行うか
- 最低保証人数の扱い(通常の婚礼と同じにするか、軽くするか)
- 当日の持ち込み(ドレスやタキシードを着るのか、普段着なのか)
- キャンセルの規定(通常の婚礼の規定をそのまま当てはめない)
とくにキャンセルの規定は、通常の婚礼より軽くしたくなりますが、会場の枠を押さえている点は同じです。軽くするなら、軽くする代わりに日付帯を平日や閑散期に限る、という組み合わせにしておくと、損益の筋が通ります。
まとめ
- 海外挙式は少人数で行われる形なので、呼べなかった親族・友人を招く帰国後パーティの需要が残る(海外挙式の列席者は平均9.7名。リクルート調べ、2016年)
- 挙式なしの披露宴だけなので、仮の40人・料理1人16,000円で粗利は約40万円。人数が20〜50人でも黒字になる
- 判断を決めるのは粗利ではなく、その日の枠が通常の婚礼で埋まる確率。通常婚礼の粗利を100万円と置くと、確率が約4割を超えたら受けないほうが得
- 平日と閑散期の枠なら受け、人気日の夜は断る。断るときは「この日付帯なら受けられる」と日を並べて返す
- 会場使用料に日付帯ごとの差をつけておくと、二人が自分で平日を選びやすい
- 紹介による新しい接点は期待できるが、効果は数えないと分からないので、粗利の計算には入れない
