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遠方ゲスト向けの挙式ライブ配信は、仮の式場で初期60万円。有料5万円なら申込率4.8%で元が取れる。無料で付けるなら、成約率0.13ポイントの上積みで足りる

遠くに住む祖父母や、体調で式場まで来られない親族のために、挙式をライブ配信する。オプションとして聞く機会が増えた話ですが、式場の側から見ると「やるかやらないか」を気分で決めやすい設備です。

結論から書きます。仮に、初期費用60万円を3年で償却し、1組あたりの運用に1.5万円かかる式場が、配信を5万円で売るなら、年120組のうち5組弱(申込率で約4.8%)が頼めば元が取れます。無料で付ける場合は、費用は年74万円ほどですが、成約が年0.5組増えれば足りる計算です。成約率に直すと、0.13ポイントです。

この記事の数字は、出典のある統計ではありません。配信の機材も運用の手間も、会場ごとにまったく違うからです。僕が置いた前提を先に並べて、そのうえで「どこを自分の数字に替えるか」が分かる形にします。

前提を先に置きます

計算に使う前提は、次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。

  • 年間の挙式は120組、来館(フェアを含む見学)は年400組
  • 1組あたりの粗利は140万円。これまでこのメディアの計算で使ってきた置き方に揃えています
  • 初期費用は60万円。カメラ、音声の機材、会場の通信環境の整備を合わせた額で、3年で償却する(年20万円)
  • 1組ごとの運用費は1.5万円。配信サービスの利用料と、当日の撮影・接続を見るスタッフの人件費を合わせた額
  • 有料で売る場合の価格は5万円(3万円と8万円でも計算します)

粗利140万円は、他の記事と揃えた置き方です。違う会場なら、ここを自社の数字に替えてください。

有料のオプションにすると、分かれ目は申込率4.8%

まず、5万円で売る場合です。1組が頼むと、5万円から運用費1.5万円を引いた3.5万円が残ります。初期費用の償却は年20万円なので、元が取れる件数は次のとおりです。

  • 20万円 ÷ 3.5万円 = 年5.7組
  • 年120組に対する申込率にすると、4.8%

申込率ごとに、年間の損益を並べます。

申込率 年間の申込 年間の損益(償却後)
2% 2.4組 マイナス11.6万円
5% 6.0組 プラス1.0万円
10% 12.0組 プラス22.0万円
15% 18.0組 プラス43.0万円

見てのとおり、10%の申込があっても、利益は年22万円です。有料にして儲けを狙う設備ではありません。初期費用を回収して、赤字にならないところに置く、という位置づけになります。

価格と運用費で、分かれ目は大きく動く

分かれ目の申込率は、価格と運用費の2つでほとんど決まります。初期費用の償却を年20万円に固定して、組み合わせを変えます。

価格 \ 運用費 1万円 1.5万円 2.5万円
3万円 8.3% 11.1% 33.3%
5万円 4.2% 4.8% 6.7%
8万円 2.4% 2.6% 3.0%

3万円で売り、運用費が2.5万円かかると、分かれ目は33.3%です。3組に1組が頼まないと元が取れません。ここまで来ると、事実上、成立しません。

運用費は、機材の使い方で変わります。カメラが固定で、挙式の途中は誰も触らない運用なら、スタッフの手間は開始と終了のときだけです。反対に、カメラを動かし、途中で音声を調整するなら、1人が挙式の間ずっと張りつきます。後者の運用費は、仮置きの1.5万円では収まらない会場が多いはずです。

価格を上げるほうが、運用費を下げるより楽な場合もあります。5万円を8万円にすると、分かれ目は4.8%から2.6%に下がります。ただし、申込率そのものが、価格に引きずられて下がる可能性があります。この計算では、申込率は価格と無関係に置いているので、そこは割り引いて読んでください。

無料で付けるなら、見るのは成約率

配信を無料で付ける式場もあるでしょう。その場合、売上は増えません。費用だけが出ていきます。

費用は、償却の年20万円と、配信を使う組の運用費です。使う組の割合によって、年間の費用はこう変わります。

  • 使う組が10%(12組):運用費18万円 + 償却20万円 = 年38万円
  • 使う組が30%(36組):運用費54万円 + 償却20万円 = 年74万円
  • 使う組が50%(60組):運用費90万円 + 償却20万円 = 年110万円

これを取り返すのに、成約がどれだけ増えればよいか。粗利は1組140万円なので、年74万円なら0.53組です。来館が年400組なら、成約率に直して0.13ポイントになります。

使う組の割合 年間の費用 必要な成約の増加 成約率で
10% 38万円 年0.27組 0.07ポイント
30% 74万円 年0.53組 0.13ポイント
50% 110万円 年0.79組 0.20ポイント

数字だけ見ると、無料でも十分に取り返せそうです。年に1組、成約が増えれば足りますから。

ただし、この計算には落とし穴があります。「配信があるから成約した」組を、あとから数えるのは難しいことです。見学のときに「遠方の祖父母が来られるか不安で」と話す二人は確かにいます。でも、配信がなくても成約した可能性が高いですし、配信があっても、別の会場に決めた二人もいるはずです。0.13ポイントは、年に0.5組の話で、日々の成約率のゆれ(1ポイント動くのは普通です)に完全に埋もれます。

つまり、無料で付けるなら、効果を測ろうとしないほうがよいです。測れないものを「効果があった」と言い始めると、設備の判断が気分に流れます。測れない代わりに、費用の上限を先に決めておきます。「年74万円まで」と決めて、使う組が増えて超えそうになったら、有料に切り替える。この順番なら、判断を気分に任せずに済みます。

売る相手は、新郎新婦本人ではない

もうひとつ、仮置きの外にある論点があります。配信の申込を決めるのは、新郎新婦ですが、価値を感じるのはゲストです。

遠方の祖父母が見られる、という価値は、二人にとって「親孝行の一部」です。だから、5万円という価格が高いか安いかを、二人は「見られなかった場合の気まずさ」と比べて決めます。ここに、売り方のヒントがあります。

  • 見積もりの段階では、配信を一覧に出しておく。契約後に聞かれて初めて出すと、「あとから足された費用」に見える
  • 招待状の返信が揃った時点で、欠席の理由を見て声をかける。ここなら「欠席が2人いる」「うち1人は体調」と、具体的な必要が見えている
  • 申込の締め切りは、打ち合わせの最終回のあたりに置く。機材の準備と、ゲストへの案内の時間が要る

この3つを入れると、申込率が上がるかどうかは、僕には分かりません。確かめた数字がありません。ただ、「必要が見えてから声をかける」ほうが、「全員に最初から勧める」より、断られたときの気まずさが小さいのは、仕組みとして言えます。

配信にかかる、数字に出ない手間

運用費の1.5万円は、数字に出る分です。数字に出ない手間もあります。

  • 通信が切れたときの責任。 挙式の最中に映像が止まったら、遠方で見ていた祖父母は、そこを見られません。有料で売ったなら、返金の条件を決めておく必要があります。契約書や約款に、通信の不具合を理由とした返金の扱いを書いておく会場もあるでしょう。決めていないなら、有料で売る前に決めるべき点です
  • 映る人の同意。 配信には、ゲストの顔が映ります。招待状や受付で、配信があることを伝える工夫が要ります。写真の扱いと同じ種類の話で、別の記事で、写真の同意と素材利用の損益を扱っています
  • 当日のスタッフの動き。 配信の担当を置くと、その1人は、挙式の進行の手伝いができません。少人数のチームで回している会場では、これが運用費の数字以上に効きます

運用費にこの3つを織り込むと、1.5万円では足りない会場も出てきます。そこで、先ほどの表のとおり、運用費2.5万円では分かれ目の申込率が6.7%(5万円の場合)に上がります。それでも、5万円で売れば成立する範囲です。3万円で売ると成立しません。ここが、価格の下限の目安です。

判断の順番

ここまでの計算から、決める順番はこうなります。

  1. 無料か有料かを決める。 有料なら、運用費の3倍の価格を目安にする(1.5万円なら、3万円ではなく5万円前後)。無料なら、費用の上限(年何万円まで)を先に決める
  2. 運用費を、挙式の進行を止めない範囲で見積もる。 カメラ固定、接続を見る人は1人、という運用で、手間がいくらになるか
  3. 初期費用の償却年数を決める。 機材は、3年でなく5年もつかもしれません。償却を5年にすると、年20万円が12万円になり、分かれ目の申込率は4.8%から2.9%に下がります
  4. 返金と同意の扱いを決める。 売る前に決める

償却年数を5年にした場合は、年12万円 ÷ 3.5万円 = 3.4組、申込率は2.9%です。機材の持ちをどう見るかで、同じ設備でも分かれ目が1.9ポイント変わります。価格を5万円から8万円に上げたときの差(4.8%から2.6%)に近い動きです。

まとめ

  • 仮に初期60万円、3年償却、運用費1.5万円、価格5万円なら、分かれ目は年5.7組(申込率4.8%)
  • 申込率10%でも利益は年22万円。有料の配信は、儲ける設備ではなく、赤字にしない設備
  • 価格3万円・運用費2.5万円の組み合わせは、分かれ目が33.3%で成立しない。価格は運用費の3倍前後が目安
  • 無料で付けるなら、年74万円(使う組30%)を成約率0.13ポイントで取り返す計算。ただし効果は測れない。測る代わりに、費用の上限を先に決める
  • 償却を5年に延ばすと、分かれ目は4.8%から2.9%に下がる。機材の持ちの見立てが、価格並みに効く
  • 売る前に、通信不具合時の返金と、映る人への同意の扱いを決めておく