商品・価格

値上げの前に出した見積もりを何か月有効にするか。検討中の60組が仮の式場なら、1か月の猶予で成約率が1.2ポイント落ちるまでは、猶予をつけたほうが得だ

料金を改定するとき、いちばん揉めるのは新しい価格そのものではありません。改定の前に出した見積もりを、どう扱うかです。

検討中の二人は、すでに旧価格の見積もりを手にしています。改定日を過ぎた途端に「新価格になります」と言われたら、二人は「話が違う」と感じます。逆に、全員を旧価格のまま通すと、値上げの益が出るのは、新しく見学に来た二人からになります。どちらにも、はっきりした損があります。

結論から書きます。仮の式場で、検討中の見積もりが60組、うち最終的に契約するのが18組、値上げ幅が粗利で10万円という前提を置くと、検討中の二人まで全員を新価格に切り替えて得られるのは180万円です。ただし、その60組の成約率が2ポイント落ちる、つまり契約が1.2組減るだけで、この180万円は消えます。猶予を1か月つけると、新価格に切り替える対象が減る分だけ、分かれ目は1.2ポイントまで下がります。猶予が長いほど、切り替えを強行したときの損のほうが大きくなりにくい。猶予は、成約率の落ち幅に対する保険です。

この記事の数字は、出典のある統計ではありません。年間の組数も、検討中の人数も、値上げ幅も、会場によって大きく違います。前提を先に並べるので、自分の会場の数字に替えて読んでください。

前提を先に置きます

使う数字は、すべて仮置きです。実在の会場の実績ではありません。

  • 年間の来館が400組、成約率が30%。年間の成約は120組
  • 月の来館は約33組。来館してから契約か離脱が決まるまでが平均で1.8か月
  • そのため、改定日の時点で「見積もりを持っていて、まだ結論が出ていない二人」は、33組×1.8か月=約60組
  • そのうち最終的に契約する割合は、年間の成約率と同じ30%とする。つまり18組
  • 1組の粗利は、旧価格で140万円。値上げ後は150万円(値上げ幅は粗利で10万円。原価は変わらないとする)

最後の「原価は変わらない」は、わざと置いた単純化です。実際には、原価の上昇を価格に転嫁するための改定であることが多いはずです。ただ、ここで見たいのは原価の話ではなく、検討中の二人をどう扱うかなので、粗利が10万円増える改定だけに絞ります。

3つの選び方

検討中の二人への扱いは、突き詰めると3つに分かれます。

  • 全員を新価格に切り替える。改定日以降の契約は、見積もりの日付に関係なく新価格
  • 見積もりの有効期限を改定後も一定期間残す。猶予のあいだに契約すれば旧価格、過ぎたら新価格
  • 検討中の二人は、契約が決まるまで旧価格を通す。期限を切らない

3つ目は、会場にとっていちばん楽です。ただ、期限がないので、改定の益が出ないまま長く残ります。見積もりを持ったまま何か月も決めない二人もいる。その二人が、改定から半年たって契約しても旧価格になる。値上げをしたつもりが、一部の契約では、していないのと同じになります。

そのため、現実的な選択肢は1つ目と2つ目です。この2つを比べるために、何を失い、何を得るかを書き出します。

全員を切り替えたときの得と失い

全員を新価格に切り替えると、検討中の60組のうち、最終的に契約する18組は、1組あたり10万円ぶん高い価格で契約します。

  • 値上げ益:18組×10万円=180万円

一方で、失うものがあります。見積もりを受け取ったあとに価格が上がると、二人の頭の中では、会場の信頼が一段下がります。「あの時に聞いた金額と違う」という感覚は、他の式場の見積もりと比べているときほど強く出ます。その結果、検討中の二人の成約率が落ちます。

成約率の落ち幅を d とします。60組の成約率が30%から(30%-d)になると、契約は 60組×d だけ減ります。減った1組は、新価格の粗利150万円を持っていた二人です。

  • 全員切り替え:60組×(30%-d)×150万円
  • 旧価格のまま通す:60組×30%×140万円=2,520万円

この2つが等しくなる d を求めます。

  • 60×(0.30-d)×150=2,520
  • 2,700-9,000d=2,520
  • d=0.02

つまり2ポイントです。60組の成約率が、30%から28%に落ちたところで、切り替えの得はゼロになります。契約にして1.2組。見積もりを持った60組のうち、1組強が他の式場に流れた時点で、180万円は消える計算です。

2ポイントという数字が大きいか小さいかは、会場の感覚で変わります。毎月33組が来館する会場で、検討中の二人の成約率が2ポイント動くことは、珍しくありません。月ごとの成約率のぶれ自体が、それくらいあるからです。つまり、切り替えの得は、月ごとのぶれの中に埋もれてしまう大きさです。益が出たのか、損が出たのか、あとから数字を見ても判断できないことが多いはずです。

猶予をつけると、分かれ目は動く

猶予をつけると、旧価格で契約する二人が増えます。その分、値上げ益は減ります。同時に、切り替えを強行したときの「話が違う」の影響も小さくなります。

検討中の18組が、猶予のあいだに契約する割合を s とします。猶予が長いほど s は大きくなります。仮に、次のように置きます。この割合も仮置きです。

  • 猶予なし:s=0%
  • 猶予が2週間:s=30%
  • 猶予が1か月:s=60%
  • 猶予が2か月:s=90%
  • 猶予が3か月:s=100%(検討中の二人は、ほぼ全員が結論を出し終える)

猶予をつけると、値上げ益は 18組×10万円×(1-s)まで減ります。つまり、猶予のぶんだけ、益を先送りします。

これに対して、全員を切り替えたときの成約率の落ち幅は d です。猶予をつけた側は、検討中の二人が「話が違う」と感じないので、d は0とみなします。この場合、切り替えを強行したほうが有利になる条件は、次の式で書けます。

  • 強行の得:猶予をつけたときより、10万円×18組×s だけ多く取れる
  • 強行の損:60組×d×150万円

両者が等しくなる d は、s×2ポイントです。

  • 猶予2週間(s=30%):分かれ目は0.6ポイント
  • 猶予1か月(s=60%):1.2ポイント
  • 猶予2か月(s=90%):1.8ポイント
  • 猶予3か月(s=100%):2.0ポイント

読み方は、こうなります。猶予が短いほど、強行した場合の「得」が小さいので、わずかな成約率の落ちで、損が上回ります。猶予2週間なら、60組のうち0.36組が離れるだけで、強行の益は消える。猶予をほとんどつけないなら、強行して得られる額が小さいので、保険をかけたほうが安いのです。

猶予が長いほど、先送りする値上げ益が増えます。3か月の猶予は、検討中の18組に対する益をすべて手放す、という意味です。180万円の益を捨てる代わりに、成約率の落ち幅を気にしなくてよくなります。

猶予を決める3つの材料

数字だけで猶予は決まりません。3つの材料を、会場ごとに確かめます。

  • 見積もりから契約までの日数の分布
  • 他の式場の見積もりと並べている二人の割合
  • 値上げの理由を説明できるか

見積もりから契約までの日数

先ほどの割合 s は、検討中の二人が、見積もりを受け取ってから何日で契約するかで決まります。契約した二人の「見積もりから契約まで」の日数は、契約管理の記録から出せます。

平均だけを見ないでください。多くの会場では、見学の当日か、その翌週までに決める二人と、2か月以上かけて決める二人に、はっきり分かれます。後者は、猶予を3か月つけても取りこぼします。猶予の日数を決める前に、契約までの日数が、30日以内、31〜60日、61日以上にそれぞれ何割いるかを数えます。

他の式場と並べている二人の割合

全員を切り替えたとき、d が大きくなるのは、他の式場の見積もりと並べている二人です。見積もりの金額が動くと、比較の順位が入れ替わるからです。

見学の時点で「他にも見ている」と話した二人が何割いるかを、プランナーが聞き取っているなら、その割合が高いほど、猶予を長くしたほうがよい。比較していない二人は、会場に決める理由が別にあるので、値上げの影響が小さくなります。

値上げの理由を説明できるか

d は、説明できるかどうかでも変わります。原価や人件費の上昇のように、二人が納得しやすい理由があるなら、d は小さくなりやすい。理由が「利益を上げたい」だけなら、d は大きくなります。

説明を準備しておく費用は、猶予のように数字に出ません。ただ、改定日に説明の紙を1枚用意するだけで、プランナーごとの言い方のばらつきは減ります。

猶予の見せ方

猶予をつけると決めたら、見積もりの書き方を変えます。

  • 見積もりに「この金額の有効期限は〇月〇日まで」と日付を書く
  • 期限を過ぎたら新価格になることを、改定の前から明記しておく
  • 期限は見積もりの発行日から数えるのではなく、改定日から数える。そうすると、改定日に近い日に出した見積もりが、短い猶予しか持たない、という不公平がなくなる

3つ目は、細かく見えて大事です。発行日から30日と決めると、改定の1週間前に見積もりを受け取った二人は、改定後の23日間しか旧価格で決められません。改定の3か月前に受け取った二人は、すでに期限が切れています。日付で区切るほうが、プランナーも説明しやすくなります。

期限をつけると、決めきれていない二人の背中を押す効果も出ます。ただ、これは「煽り」にならないように気をつけます。「今月中ならこの価格」という言い方は、期限で追うCTAに近づきます。期限は、値上げの前提として、あらかじめ書いておくだけです。

数字を動かすとどうなるか

最初の前提のうち、動かしたときに結論が変わりやすいのは、2つです。

  • 値上げ幅
  • 検討中の成約率

値上げ幅が5万円なら、全員切り替えの益は90万円。分かれ目の d は半分の1ポイントになります。値上げ幅が20万円なら、益は360万円で、分かれ目は4ポイントです。値上げ幅が大きいほど、強行しても、成約率が少し落ちる程度なら耐えられます。ただ、値上げ幅が大きいほど、d そのものも大きくなりやすい。二人が実感する「差」が大きくなるからです。この2つは同じ方向に動きます。

検討中の成約率が30%でなく40%の会場なら、同じ60組でも契約は24組になり、強行の益は240万円。分かれ目は、組数あたりの粗利を同じにすると2.7ポイントです。成約率が高い会場は、強行しても耐えやすい。逆に、成約率が低く、他社と並べて決められている会場ほど、猶予が効きます。

まとめ

  • 料金改定でいちばん揉めるのは、価格そのものより、改定前に出した見積もりの扱い
  • 仮の式場(検討中60組、契約見込み18組、値上げ幅10万円)では、全員を新価格に切り替える益は180万円。成約率が2ポイント、契約にして1.2組落ちると消える
  • 猶予をつけると、強行の得が小さくなる。猶予1か月なら分かれ目は1.2ポイント、2週間なら0.6ポイント
  • 猶予が長いほど、先送りする値上げ益が増える。3か月の猶予は、検討中の益をすべて手放すこと
  • 猶予を決める前に、見積もりから契約までの日数の分布、他の式場と並べている二人の割合、値上げの理由の説明を確かめる
  • 期限は改定日から数えて、見積もりに日付で書いておく。期限で追う言い方にはしない
  • 数字はすべて仮置き。自分の会場の組数と成約率で、同じ式を計算し直す