挙式の装花を披露宴に使い回すと、仮の式場では年62万円。決めるのは花の値段より、挙式が終わって披露宴の入場までに45分あるかどうかだ
挙式のために飾った花は、挙式が終わった瞬間に役目を終えます。そのまま次の組のために片付けるのが普通ですが、披露宴会場の高砂の脇や入口にその花を移して、もう一度見せる式場もあります。花の仕入れを減らす手として、昔からある考え方です。
ただ、使い回せば得になる、という話ではありません。移す手間、傷んだ花の補充、二人が写真で同じ花を二度見たときの印象。この三つを引くと、得になる組とならない組がはっきり分かれます。僕が仮に置いた式場で計算すると、使い回せる組が年79組ほどあって、年62万円が残りました。分かれ目は花の値段よりも、挙式が終わってから披露宴の入場までの時間でした。
この記事の数字は、仕入れ値も組数も作業時間も、すべて僕が置いた前提による計算です。実在の式場の実績ではありません。出典のある統計も使っていません。ご自身の会場の数字に置き換えて読んでください。
仮の式場の前提
まず、計算の土台を置きます。
- 年間の挙式は150組。挙式と披露宴は同じ日に、同じ館内で行います
- 挙式の装花は、祭壇の左右、バージンロード脇、入口のアレンジの合計4点。仕入れ原価の合計は1組3万円です
- 披露宴会場には、高砂の脇に2点、入口に2点のアレンジを別に仕入れていて、原価の合計は1組1.2万円です
- 使い回すのは、この披露宴側の4点を、挙式の花で置き換える部分です。披露宴の卓上装花(各テーブルの花)は、数が多く、花材も違うので、ここでは対象にしません
- 移す作業は2人で1回25分。時給は1,300円です
つまり、使い回しが成り立つと、披露宴側の4点の仕入れ1.2万円が丸ごと浮きます。ただし丸ごとではありません。挙式の間に傷む花があるので、一部は補充が要ります。ここを3,000円と置きます。花が元気な状態のものを選んで移すとして、2割から3割ほどを足す想定です。
作業の費用は、2人 × 25分 × 時給1,300円で、1組あたり約1,083円です。
浮く額は、1.2万円 − 補充3,000円 − 作業1,083円で、1組あたり約7,917円。この数字が、一番基本の1組あたりの得です。
使い回せる組は、150組のうち何組か
1組7,917円は、全部の組で使えるわけではありません。実際に移せる組を絞る条件が二つあります。
挙式から入場までの時間
挙式が終わると、ゲストは移動します。控室で休憩したり、写真撮影の時間があったり、披露宴会場に入ります。このあいだに花を移すので、移す作業の25分と、移したあとの水替えや向きの調整が入ります。
仮の式場では、挙式が終わってから披露宴の入場まで、余裕が45分以上ある組を移せると置きます。25分の作業に、安全のぶんの20分を足した数字です。これを下回る日は、作業が披露宴の準備と重なって、会場セッティングの人手を取り合います。
そして、その45分以上の余裕がある組が、150組のうち7割と置きます。残りの3割は、集合写真や家族撮影が長引く日、挙式後すぐに入場する日などです。7割という数字は僕の想定です。自分の会場の進行表を数組分並べると、この割合はすぐ出ます。
季節
もう一つは、夏の高温期です。7月から9月は、花が傷みやすく、挙式の1時間のあいだにぐったりして、披露宴の席で見栄えが落ちることがあります。仮の式場では、この3か月は使い回さないことにします。年間で月ごとに均等に挙式があるとすれば、使い回せるのは12か月のうち9か月、つまり75%です。実際は6月や10月に挙式が集まる式場が多いので、この比率は会場ごとに直してください。
二つを掛けると、150組 × 0.7 × 0.75 = 約79組です。
年間の得は、79組 × 7,917円 = 約62万円。これが冒頭の数字の根拠です。
感度を見る
前提を動かしたとき、62万円がどこまで動くかを見ておきます。
| 動かす前提 | 値 | 年の得 |
|---|---|---|
| 入場まで45分以上ある組の割合 | 5割 | 約45万円 |
| 同上 | 7割(基本) | 約62万円 |
| 同上 | 9割 | 約80万円 |
| 披露宴側の仕入れで浮く額 | 6,000円 | 約15万円 |
| 同上 | 9,000円 | 約39万円 |
| 同上 | 1.2万円(基本) | 約62万円 |
| 同上 | 1.5万円 | 約86万円 |
| 移す作業の時間 | 15分 | 約66万円 |
| 同上 | 40分 | 約57万円 |
| 同上 | 60分 | 約50万円 |
見て分かるのは、作業時間はほとんど効かないことです。60分かかっても、得は50万円残ります。効くのは、浮く仕入れの額と、使い回せる組の割合です。
特に、浮く仕入れが6,000円まで下がると、年15万円まで縮みます。披露宴側の花が安い式場、つまり高砂の脇に置く花を最初から小さくしている式場は、使い回しの旨みが薄くなります。逆に、披露宴の高砂まわりに大きなアレンジを置く式場ほど、得が大きくなります。
損益が0になる境目も出しておきます。補充3,000円と作業1,083円を足した約4,083円が、浮く仕入れの下限です。披露宴側の4点の仕入れが約4,100円を下回るなら、使い回す意味は消えます。
二人の写真に、同じ花が二度映る
数字に出ない部分が、二人の見え方です。
挙式のアレンジが、そのまま披露宴の高砂の脇に置かれていると、アルバムを見たときに、同じ花が前半と後半に映ります。二人が気にするかどうかは、組によります。気づく人は、そもそも花の色や種類を細かく選んでいた人です。装花の打合せで時間をかけた二人ほど、写真で見比べやすいはずです。
ここは、式場が先回りして決められます。
- 契約後の装花の打合せで、一言伝えておく。挙式の花の一部を披露宴会場に移してお使いします、と最初に言っておけば、後で驚かれることはありません
- 色や種類にこだわりが強い二人には、使い回さない。打合せのメモに「こだわり強」と一行残せば、当日の担当が判断できます
- 最初から、挙式と披露宴で花材を揃えた設計にする。同じ色の花が二つの会場にあるのは、むしろ統一感として見せられます
仮の式場では、使い回しを断られる組や、避けたほうがいい組が、使い回せる79組のうち1割ほど出ると見ます。約8組です。この分は得が消えるので、年62万円から8組 × 7,917円 = 約6万円を引いて、約56万円です。
苦情が出たときの損
もう一つは、使い回した結果に苦情が出るケースです。傷んだ花が高砂の脇にあった、花の種類が打合せと違った、などです。
仮に、苦情が出たら装花の代金から3万円を値引きすると置きます。年56万円の得を消すには、56万円 ÷ 3万円で、年に約19件の苦情が必要です。使い回しをする79組のうち、4組に1組近くです。ここまで多く出るなら、そもそも使い回しの運用に問題があります。
つまり、数字のうえでは、苦情の件数よりも、日々の運用が崩れないかのほうが問題です。年に2件か3件の苦情なら、数字は崩れません。ただ、苦情が1件出るたびに、その二人の口コミも変わる可能性があります。その損は、この計算に入っていません。
運用の段取り
使い回しを始めるなら、現場に決めておくことは少なくて済みます。
- 使う花を前もって選ぶ。 挙式装花のうち、移すアレンジを2点か4点に決めておく。バージンロード脇のように入口の通り道にあるものは、ゲストの導線と重なるので避ける
- 移す担当を一人に決める。 挙式の司会やキャプテンではなく、会場セッティングの担当を割り当てる。挙式の終了を合図に動き始める
- 傷んだ花を抜く基準を置く。 一番は、花びらが落ちかけているもの、茎が折れているものです。基準を文字にして、補充用の花を数本ストックしておく
- 夏は休止する。 7月から9月は最初から使い回さない、とカレンダーに書く。日ごとの判断に任せると、忙しい日に無理が出ます
- 当日の判断を一行で残す。 使い回した、断った、傷みで中止した。月に一度、割合を数えると、前提の7割が合っていたかどうかが分かります
特に5が効きます。この記事の前提の多くは僕の想定なので、自分の会場の数字に早く置き換えるほど、判断が確かになります。
仕入れ側の見直し
使い回しを前提にすると、仕入れの数え方も変わります。披露宴側の4点を別に発注していた式場は、使い回す日の分だけ発注を減らせます。ただ、発注を減らすのは、使い回すと決めた日の前々日までです。当日の朝に「やっぱり傷んでいた」となっても、追加で届けてもらう時間がありません。
仮の式場では、補充用の花を日ごとに少量だけ多めに発注しておく形にします。補充3,000円は、この余分な発注の費用です。余った花は、控室や受付の小さな飾りに回せば、捨てずに済みます。この回収分は、計算に入れていません。
向かない式場
使い回しが割に合わない式場も、はっきりあります。
挙式と披露宴の会場が、別の建物にある式場です。移すのに10分以上かかるうえ、屋外を通る場合は風や日差しで花が傷みます。この式場では、作業時間が25分では済みません。
挙式が神社や教会など、外部の会場で行われる式場も向きません。花の持ち出し自体ができません。
披露宴の高砂が、花をほとんど使わないデザインの式場も、浮く額が小さいので割に合いません。先ほどの下限の約4,100円を、披露宴側の仕入れが超えているかどうか、見てください。
まとめ
- 挙式の装花を披露宴会場の高砂脇や入口に移して使い回すと、仮の式場では年62万円が残る。前提は、年150組、披露宴側の仕入れ1.2万円、補充3,000円、作業25分
- 使い回せるのは、挙式から入場まで45分以上ある組(7割と仮定)と、夏を除く9か月。結果は150組のうち約79組
- 感度を見ると、作業時間はほとんど効かない。効くのは披露宴側の仕入れ額と、使い回せる組の割合。披露宴側の仕入れが約4,100円を下回る式場では、使い回しの意味が消える
- 二人が同じ花を二度見る問題は、打合せで一言伝える、こだわりの強い二人は外す、で先に防げる。仮の式場では断る組が1割、得は年56万円に下がる
- 苦情の値引きが3万円なら、得が消えるのは年19件。運用が崩れない限り、数字は持つ。夏の休止と、傷んだ花を抜く基準を、先に決めておく
