経営・組織

配膳アルバイトの時給を100円上げて引き留めるか、毎年入れ替えるか。仮の式場なら離職率が50%から26%に下がれば元が取れる。勤続1年以上だけに上げるなら34%でよい

披露宴の配膳アルバイトは、毎年入れ替わるものだと思われています。時給を上げても辞める人は辞めるし、辞めたらまた募集すればいい、という考え方です。一方で、時給を少し上げて長く続けてもらうほうが安上がりだ、という考え方もあります。

どちらが得かは、時給の上げ幅よりも、新人1人を現場に出すまでに何円かかっているかで決まります。ここを数えていない式場は多いのではないかと思っています。この記事では、仮の式場を置いて、時給を上げるべきかどうかの分かれ目を計算します。

先にお断りします。ここから出てくる数字はすべて仮置きで、出典はありません。実在の式場の実績でも、業界の平均でもありません。自分の会場の数字に置き換えて読んでもらうための、計算の型として書いています。

仮の式場の前提

置く前提は次のとおりです。

  • 年間の披露宴は120組
  • 1組の披露宴に配膳アルバイトを8人入れる
  • 1人の拘束は6時間
  • アルバイト1人が年に入るシフトは24回(月2回)
  • 配膳アルバイトの時給は1,200円で、先輩にあたる経験者は1,300円

年間に必要なシフトは、120組×8人で960シフトです。1人が年24回入るなら、登録しておくべき人数は40人になります。実際には繁忙期に偏るので、もっと多く登録しているはずですが、ここでは単純にします。

そして、いまの離職率を年50%と置きます。40人の半分、20人が1年のうちに辞めて、20人を新しく入れる計算です。

新人1人に、いくらかかっているか

時給の話に入る前に、新人を1人入れるのにかかる金額を出します。これが出ないと、時給を上げる損得の比較ができません。

項目 前提 金額
募集と面談 求人の掲載費と、面談にかける社員の時間 3万円
座学の研修 8時間×時給1,200円 9,600円
先輩の同行 先輩が8時間ついて、時給1,300円 10,400円
社員の立ち会い 2時間×社員の時給2,000円 4,000円
最初の3回のフォロー 1回あたり社員が1時間余計に見る。3時間×2,000円 6,000円
合計 6万円

募集と面談の3万円は、媒体や紹介の形で大きく変わります。ほかの項目も、会場によって研修の長さがまるで違うはずです。ここでは合計を6万円として話を進めますが、後で4万円と8万円でも見ます。

見落とされやすいのは、金額の大半が現金の支出ではなく、人の時間だという点です。先輩の同行や社員の立ち会いは、給与明細に「新人教育費」として出てきません。時給計算の人件費に溶けています。だから「辞めたらまた募集すればいい」と思えてしまう。僕はここが、定着の損得が議論になりにくい理由だと思っています。

離職率50%のままだと、年に20人の新人を入れるので、新人コストは20人×6万円で120万円です。年間の配膳の人件費はおよそ960シフト×6時間×1,200円で691万円ですから、その17%ほどが新人を迎えるコストとして別にかかっている計算になります。

全員に時給を100円上げる場合

最初の案は、全員の時給を100円上げることです。

増える人件費は、960シフト×6時間×100円で、年57.6万円です。

この57.6万円を取り返すには、新人を何人減らせればいいか。新人1人が6万円ですから、57.6万円÷6万円で、9.6人です。年20人入れていたのを、10.4人まで減らせれば、時給アップの分は新人コストの削減で相殺されます。

人数ではなく離職率で言うと、9.6人÷40人で24ポイント。離職率が50%から26%まで下がれば、損得はゼロです。

これが簡単かどうか。時給を100円、約8%上げたことで、辞める人がほぼ半分になるかというと、僕は厳しいと思います。辞める理由が時給だけなら効きますが、現実の理由は、土日の拘束、学業や本業との両立、人間関係、現場での扱いなど、時給とは別のところにあることも多いはずです。

では、上げ幅を半分にして50円にするとどうか。年の増加が28.8万円で、4.8人分。離職率の下げ幅は12ポイント、つまり50%から38%でよい。上げ幅を半分にすると、必要な効果も半分になります。

ここまでで言えるのは、全員に一律で上げる案は、離職率が4分の1から半分近く動いて、はじめて元が取れるという重さです。

勤続1年以上にだけ上げる場合

2つ目の案は、時給を上げる対象を絞ることです。入って1年未満の人は据え置き、勤続1年以上の人にだけ100円足します。

この場合の増加額は、対象が誰かで変わります。仮に、勤続1年以上の人の数を、年間の登録40人×(1−離職率)で近似します。いまの離職率50%なら20人が対象で、1人あたりの年間の増加額は24シフト×6時間×100円の1万4,400円。20人で28.8万円です。

全員に上げる案の57.6万円の、ちょうど半分です。

そして、離職率が下がると、対象になる人が増えるので、増加額も増えます。ここが全員案との違いです。損得がゼロになる離職率は、次の式で出ます。

  • 新人コストの削減額:40人×(50%−離職率)×6万円
  • 時給の増加額:40人×(1−離職率)×1万4,400円

この2つが等しくなる離職率は、34.2%です。50%から15.8ポイント下がれば、元が取れます。全員に上げる案の24ポイントより、10ポイント近く軽い。

理由は単純で、新人の時給は上げないので、新人を多く抱えている間はコストが増えないからです。辞めない人が増えるほど、上げる対象が増えて、そこで初めて金額が膨らむ。効果が出てから払う形になっています。

ただ、この案には弱点があります。1年たたずに辞める人に対しては、何の引き留めにもなりません。離職の多くが入社後の半年に集中している会場なら、勤続1年以上にだけ上げても、減らしたい離職は減りません。自分の会場の辞めた人が、何か月で辞めているかを、先に見る必要があります。

上げ幅と新人コストで、分かれ目はどう動くか

新人コストの6万円も、上げ幅の100円も、仮置きです。別の値にしたとき、元を取るのに必要な離職率の下がり方を、表にします。

全員に上げる案(年960シフト×6時間、登録40人)です。

新人コスト 時給+50円 時給+100円
4万円 18ポイント 36ポイント
6万円 12ポイント 24ポイント
8万円 9ポイント 18ポイント

勤続1年以上にだけ上げる案です。

新人コスト 時給+100円 時給+200円
4万円 28ポイント 元が取れない
6万円 16ポイント 46ポイント
8万円 11ポイント 28ポイント

表を見て思うことが2つあります。

1つ目は、新人コストが大きく効くことです。同じ時給100円でも、新人コストが4万円なら離職率を36ポイント下げないと元が取れず、8万円なら18ポイントで足ります。新人コストが倍になると、必要な効果は半分になる。時給を上げる判断の中身は、実は新人コストの見積もりです。

2つ目は、勤続1年以上にだけ上げる案で+200円まで上げると、新人コストが4万円のときは元が取れなくなることです。上げすぎれば、辞める人を減らしても、残る人への支払いが増えて足りません。引き留めのための上乗せには、元が取れる上限があります。

数えていないものが、表の外にある

ここまでの計算は、お金に置き換えられるものだけを入れました。実際の判断では、入れていないものが結論を動かします。

当日の品質

経験者が現場に多いほど、料理の提供の間合いや、ゲストの席への声かけは安定するはずです。反対に、新人が多い日は社員が補助に回る時間が増えて、本来の仕事に手が回らなくなります。

ただ、これがクレームや口コミにどれだけ響くかは、仮置きでも書けません。数字にできないから無いことにするのではなく、「表の外にある」と分かったうえで、表の結論を読み替えてください。元が取れるぎりぎりの案なら、品質の分が加算されて背中を押す、というくらいの扱いが現実的だと思います。

繁忙期の欠員

土日の人気日にアルバイトの人数が足りなくなると、社員が配膳に入ります。この日に断った見学や、遅れた提供の損は、新人コストには入っていません。登録人数が少ないほど、1人の離職が欠員に直結します。

離職率が同じ50%でも、登録人数が60人の会場と30人の会場では、1人の欠けた重さがちがいます。

時給を上げたことが周りに伝わる

同じ店舗内で時給に差がつくと、不満が出ることがあります。勤続で差をつけるなら、基準を明示しておかないと、上げたはずの定着が逆に落ちるかもしれません。ここは数字にならない部分ですが、勤続1年以上の案を選ぶなら先に決めておくことです。

判断の順番

時給を上げるかどうかは、次の順で決めていくのが現実的だと思います。

  1. 辞めた人が何人いて、何か月で辞めたかを数える。まず直近1年の一覧を作ります
  2. 新人1人にかかる時間と金額を出す。募集・研修・同行・立ち会いを分けて
  3. 「元が取れる離職率」を、全員案と勤続案の両方で計算する
  4. 辞めた理由を聞く。時給が理由の人が、辞めた人のどれだけいるかを見る
  5. 小さく試す。1つの職種や1つの曜日だけで、半年見る

4番が特に大事です。辞めた理由の半分が時給なら、上げて下げられる離職率の上限は、およそ半分です。必要な効果が離職の総数を超えていないかを、この段階で見ておくと、見込みのない案を早めに外せます。

たとえば全員に+100円の案が24ポイント必要で、辞める理由の半分(25ポイント分)が時給だとすると、時給を上げた効果が最大でも、ようやく損得ゼロです。余裕が無い。そういう結論になることもあります。そのときは、時給ではなくシフトの組み方や、入社直後のフォローを変えるほうが、同じお金で効く可能性があります。

まとめ

  • 配膳アルバイトの定着は、時給の上げ幅ではなく、新人1人にいくらかかっているかで損得が決まる
  • 仮の式場では、新人1人に6万円かかる。離職率50%なら、年に120万円が新人コストとして出ている
  • 全員に時給100円を足すと年57.6万円。離職率が50%から26%まで下がれば元が取れる。下げ幅は24ポイント
  • 勤続1年以上にだけ足す案は、離職率が34%まで下がれば足りる。下げ幅は16ポイント
  • 新人コストが4万円なら必要な効果は倍、8万円なら半分になる。まず新人コストを出す
  • 上げすぎには上限がある。+200円は、新人コストが小さい会場では元が取れない
  • 品質や欠員の損は表の外にある。数えられないが、結論を読み替える材料にはなる
  • 辞めた人の理由と時期を見てから決める。時給が理由でなければ、効果の上限は小さい