経営・組織

披露宴会場の喫煙所は、紙巻き対応の専用室を作るより加熱式専用室か屋外のほうが回収しやすい。仮の試算で、工事費400万円が回るのは年0.57組

披露宴のゲストの中には、タバコを吸う人がいます。式場は、その人たちをどこで吸わせるかを決めなければいけません。決めていない式場はほとんどないと思いますが、「昔からここに灰皿がある」で続けている式場は、改めて見直す価値があります。

この記事は、改正健康増進法が2020年4月1日に全面施行されたあとの前提で、披露宴会場の喫煙所をどう作るかを整理します。法律の解説が目的ではありません。経営者が判断するのは「いくら投資して、何をあきらめるか」なので、投資額の回収ラインまで計算します。工事費や喫煙者の割合は、実在の統計ではなく僕が置いた仮定です。自分の会場の数字に入れ替えて読んでください。

先に結論です

  • 披露宴会場のような多数の人が使う施設は、法律上「第二種施設」にあたるのが基本で、屋内は原則禁煙です。吸わせるなら、屋外か、基準を満たした専用の部屋に限られます
  • 仮の前提で、紙巻きも吸える喫煙専用室(工事費400万円)を5年で回収するには、成約を年0.57組増やす必要があります。加熱式専用室(150万円)なら年0.21組、屋外の喫煙所(20万円)なら年0.03組です
  • 回収ラインは、どれも高くありません。迷うポイントは金額ではなく、「ゲストが席を離れる時間」と「20歳未満を入れない運用」です
  • 最初に決めるのは、紙巻きの部屋を作るかどうかより、「屋外の喫煙所を宴会場から何分の位置に置くか」です

順に見ていきます。

法律が決めているのは3つの型

厚生労働省の資料(たばこの健康影響評価専門委員会に出された「喫煙室の類型について」)を見ると、屋内に喫煙の場所を作る方法は、施設の種類ごとに型が分かれています。披露宴会場に関係するのは、次の2つです。

型 吸えるたばこ 室内でできること
喫煙専用室 紙巻き、加熱式 喫煙だけ。飲食はできない
指定たばこ専用喫煙室 加熱式のみ 喫煙以外の行為もできる(飲食を含む)

東京都の事業者向け資料にも、紙巻きたばこ向けの喫煙専用室は「喫煙しか行うことはできない」、加熱式専用の場合は飲食などが認められる、と書かれています。

このほかに「喫煙目的室」と「喫煙可能室」という型もあります。ただ、これは主にバーやスナックのような、お酒やたばこを目的にした店や、2020年4月1日の時点ですでに営業していた小さな飲食店(客席面積などの条件つき)のための例外です。披露宴会場が使える型ではない、と考えておくのが安全です。自分の会場が例外に入るかどうかは、保健所に確認してください。

喫煙室を作るときの条件

厚生労働省の資料によると、喫煙専用室には技術的基準があります。

  • 壁や天井で区切って、煙が外に漏れない構造にする
  • 出入口で、室外から室内に向かう空気の流れを秒速0.2メートル以上にする
  • たばこの煙を屋外に排気する

厚生労働省の資料では、出入口にのれんやカーテンをつけて開口面を狭めることで、秒速0.2メートルを確保する方法も示されています。

もうひとつ見落としやすいのが、標識と立入りの扱いです。喫煙室の出入口には専用の標識を出すことが決まっていて、その標識には「20歳未満の人は立入禁止」と書く必要があります。施設の主な出入口にも、喫煙室があることを示す標識が要ります。

20歳未満は立入禁止なので、20歳未満のスタッフを喫煙室の清掃や灰皿の交換に入れるのも、設計の時点で避けておく必要があります。高校生のアルバイトを配膳に入れている式場は、担当を分ける運用が要ります。

屋外に喫煙所を置く場合は、屋内の規制とは別の扱いになります。文京区の案内によると、屋外に喫煙場所を設けるなら、受動喫煙が生じないよう配慮する義務があるとされています。つまり、出入口や窓のすぐ横に灰皿を置いて、煙が館内に流れ込む配置は避けるべきです。

仮の前提を置きます

ここから先の数字はすべて仮定です。

  • 披露宴は1組80名
  • 喫煙するゲストは1割で、8名(紙巻きと加熱式の内訳は決めない)
  • 年間の来館組数は600組、成約率は30%(180組)
  • 1組の粗利は140万円
  • 工事費は、屋外喫煙所が20万円(屋根、灰皿、案内表示)、加熱式専用室が150万円、紙巻きも可の喫煙専用室が400万円
  • 償却は5年

工事費や粗利の数字は、式場の規模や立地で大きく変わります。比べやすいように、すべて切りのいい数字にしています。

回収ラインは、成約を年0.57組増やせるか

5年で償却するときの年あたりの費用と、それを粗利140万円で割った組数を計算します。

型 工事費 年あたり 回収に必要な成約 成約率に換算
屋外の喫煙所 20万円 4万円 年0.03組 0.005ポイント
加熱式専用室 150万円 30万円 年0.21組 0.036ポイント
紙巻きも可の喫煙専用室 400万円 80万円 年0.57組 0.095ポイント

成約率への換算は、年600組が来館する前提で、成約率1ポイントを動かすと年6組(粗利840万円)になる計算です。

見てほしいのは、400万円の部屋でも、成約がもう年に0.57組あれば回るという点です。2年に1組強にあたります。工事費だけで見れば、喫煙室を作ること自体は重い投資ではありません。

ただし、この計算は工事費だけです。実際には、排気設備の電気代、清掃、灰皿の回収、標識の管理といった運用の費用がかかります。維持費が年に30万円かかるとすると、紙巻き可の部屋の年コストは80万円から110万円に上がり、必要な成約は年0.79組になります。仮定を変えれば数字は動きますが、桁は変わりません。

本当に効くのは、中座の時間

工事費が重くないなら、迷う点は別のところにあります。ゲストが披露宴の途中で席を離れる時間です。

仮に、喫煙する8人が披露宴の間に2回ずつ吸いに行くとします。1回の中座を、移動と喫煙を合わせて8分とすると、全体で16回、延べ128分です。

この128分が、宴会場の外で起きます。問題は合計時間より、いつ起きるかです。

  • 新郎新婦の入場や乾杯の直前に、まとまって席を立つ
  • スピーチや余興の最中に、扉の開け閉めが続く
  • 席を離れた間に料理が運ばれ、戻ったときに冷めている

屋外の喫煙所が宴会場から歩いて5分かかるなら、1回の中座は往復で10分以上になります。喫煙専用室が宴会場の隣にあれば、同じ中座が5分で済むこともあります。

ここで、紙巻きも吸える部屋を作る意味が出ます。部屋が宴会場に近ければ、中座の時間が短くなり、進行に与える影響も小さくなります。反対に、遠い場所に400万円の部屋を作っても、効果は小さいです。

加熱式専用室は、室内で飲食ができる型です。ゲストが料理を持ち込んで、そのまま歓談できる控えの場所にもなります。喫煙者だけでなく、そこに付き合う同席者がいても成り立つ点は、紙巻きの専用室と大きく違います。ただし、加熱式しか吸えません。紙巻きのゲストは屋外に回ってもらうことになるので、案内の手間は二重になります。

距離は、スタッフが歩いて測る

中座の時間は、図面からは読めません。喫煙所の候補地まで、宴会場の扉から実際に歩いて計るのが早いです。靴は、ヒールの高い人を想定した歩幅にして、ドレスの裾を持つ人が通れる幅の通路を選びます。

測るのは次の3点です。

  • 宴会場の扉から喫煙所までの片道の秒数
  • 途中に段差や重い扉があるか
  • 喫煙所から宴会場に戻るとき、受付や控室の前を通らないか

片道90秒なら、往復と喫煙で8分という仮定に近い数字です。片道が3分を超えるなら、置き場所を変えるか、喫煙室を宴会場に近い場所に作る判断に移ります。

3つの型を選ぶ順番

僕なら、次の順で決めます。

  1. 屋外の喫煙所を置く場所を決める。宴会場から歩いて2分以内、入場動線と別、館内に煙が流れない位置が条件です
  2. 披露宴の進行表に、中座が集中する場面を書き込む。入場前、乾杯前、お色直しの中座のタイミングに、案内の声かけを入れる
  3. 屋外の喫煙所で、天候や遠さが理由の不満が出ているかを数える。出ているなら加熱式専用室を検討する
  4. 紙巻きも可の喫煙専用室は、最後に考える。工事費のほかに、運用と立入りの管理が加わるためです

順番にしている理由は、屋外から始めれば工事費が20万円で済み、失敗しても戻しやすいからです。加熱式の専用室も、屋外の不満を数えてからで間に合います。

見学のときに聞かれたら

見学に来た二人が、喫煙の可否を聞くことがあります。そのときに答えが曖昧だと、「ゲストに配慮がない式場」という印象になります。

答えは短くて構いません。「館内は禁煙です。喫煙は、宴会場から歩いて2分の屋外の喫煙所をご案内します」と言えれば十分です。見積書や案内に、喫煙所の場所を書いた地図を一枚つけておくと、当日も案内が迷いません。

ここは、仮の数字では測れません。実際に聞かれた回数を半年数えて、聞かれる頻度が高ければ、公式サイトのよくある質問に載せる価値があります。

当日の運用で決めておくこと

設備を作ったあと、毎回の披露宴で決めておく運用もあります。

  • 喫煙所の場所を、受付の案内か席次表の裏に書く
  • 司会が、乾杯の前に「喫煙される方はこちらです」と一言添える。ただし、進行の流れを止めない短さにする
  • 20歳未満のゲストが喫煙所に近づかないよう、子どもを連れた家族の動線を別にする
  • 灰皿の回収は、20歳以上のスタッフが担当する
  • 雨の日の屋根と、冬の寒さに対する足元の防寒を用意する

ゲストの動線は、会場ごとに違います。図面の上で「煙の向き」「子どもの通り道」「宴会場からの距離」の3つを線で引いてみると、置いてはいけない場所がすぐ見えます。

まとめ

  • 披露宴会場は第二種施設にあたるのが基本で、屋内は原則禁煙。吸える場所は屋外か、基準を満たした専用の部屋に限られる
  • 紙巻きも吸える喫煙専用室は飲食ができず、加熱式専用室は飲食ができる。型によって使い道が違う
  • 仮の前提では、工事費400万円の部屋が回るのは年0.57組、150万円の部屋は年0.21組、20万円の屋外喫煙所は年0.03組
  • 金額より効くのは、中座の時間と、20歳未満を入れない運用
  • 決める順番は、屋外の位置、進行表への書き込み、不満の計測、専用室の検討