式場見学は最初の5分で優先順位を聞いて案内を組み替える
式場見学の案内は、会場の見せ場を順番に回る「型」で組まれていることが多いです。エントランス、チャペル、披露宴会場、控室、最後に打ち合わせスペースで見積もりと説明。どの二人にも同じ順番、同じ話です。
僕は、この型のいちばん手前に「5分の質問」を足すだけで、案内の中身が変わると考えています。聞くのは予算でも日取りでもなく、「式場を選ぶとき、これだけは譲れないと思っていることを3つ教えてください」という1つの質問です。聞いたあとで、回る順番と、時間をかける場所を組み替えます。
この記事では、なぜ最初に優先順位を聞くのか、どう聞くのか、答えが出てこない二人にはどうするのか、聞いたあとに案内をどう変えるのかを整理します。出典のある調査の数字は使いません。数字はすべて、仕組みを見るための想定です。
同じ案内をすると、何が起きるか
型どおりの案内には強みがあります。誰が担当しても品質がそろい、見せ忘れが出ません。新人プランナーでも一定の水準で回せます。
弱みは、二人が決めるときに使う物差しが、二人ごとに違うことです。たとえば次のような二人がいます。
- 料理を一番に考えている二人。披露宴会場の天井の高さより、試食の1皿目が出るタイミングが気になっています
- ゲストの動線を気にしている二人。高齢の祖父母が来るので、駐車場から会場までの段差が先に頭にあります
- 写真を残したい二人。チャペルの光の入り方と、撮影できる場所の多さを見ています
- 総額の上限が先にある二人。何を見ても「これはいくらになるのか」を気にしています
同じ型で案内すると、料理を気にしている二人に、チャペルの歴史を丁寧に説明することになります。二人は礼儀正しく聞きますが、頭の中では「料理はいつ出てくるのだろう」と考えています。説明は終わったのに、二人の一番の疑問には、案内の最後まで触れられないままです。
こうなると、見学の満足度が低いわけではないのに、成約に結びつきません。二人は「悪くなかった。でも決める材料がまだ足りない」と感じて帰り、それが「検討します」という言葉になります。
最初の5分で聞く、1つの質問
聞く内容は1つに絞ります。
式場を選ぶときに、「ここは譲れない」と思っていることを、3つまで教えていただけますか。
予算や人数や日取りは、あとで見積もりを出すときに必ず聞きます。ここで聞くのは、二人が何を見て判断しようとしているかだけです。理由は3つあります。
理由1:二人が自分で言葉にした基準は、あとで効く
二人が口に出した基準は、見学の最後に「今日見た中で、さっきおっしゃっていた料理の点はいかがでしたか」と戻れる、共通の言葉になります。式場の側が「うちの強みは料理です」と言うのと、二人が「料理が一番です」と言ったことを確認するのとでは、重みが違います。
理由2:案内の時間配分を変える根拠になる
見学の時間は無限ではありません。仮に全体で90分とします。型どおりなら、チャペル20分、披露宴会場20分、控室10分、打ち合わせスペースで説明40分のような配分になるかもしれません。ここで料理が最優先の二人なら、チャペルを10分に縮め、試食か料理の説明に20分を回せます。見せる場所を削るのではなく、時間をかける場所を動かします。
理由3:断るべき期待を、早めに知れる
「3つ譲れない」の中に、その式場では実現が難しいものが入っていることがあります。たとえば「全員が座ったまま一つの長いテーブルで食事したい」という希望に対して、会場のレイアウトが丸テーブル前提なら、見学の最初に分かったほうが、お互いの時間を無駄にしません。
最後まで言い出せないまま、見積もりの段で「やはり難しいですね」となると、二人は「早く言ってほしかった」と感じます。最初に出てくれば、できる範囲の代案を案内の中に入れられます。
聞き方の3つの注意
質問は短いのですが、聞き方で答えの質が変わります。
1. 「3つ」と数を決める。 「ご希望はありますか」と聞くと、「特にないです」と返ってきがちです。数を決めると、二人は頭の中で順位をつけ始めます。1つしか出なければそれでかまいません。「もう1つあるとしたら何でしょう」と一度だけ重ねます。
2. 答えを書き留めて見せる。 手元のシートかタブレットに、二人の言葉のまま書きます。要約せず、二人の言い方をそのまま残します。「ごはんがおいしいこと」と言われたら、「料理の品質」と書き直さず、そのまま書きます。見学の最後に見返したときに、二人が自分の言葉だと分かります。
3. 二人に別々に聞く。 新郎と新婦で優先順位が違うことはよくあります。「お二人それぞれに、1つずつ教えてください」と聞くと、片方が譲って合わせる前の本音が出ます。この食い違いは、案内の中で触れていくべき材料です。違う優先順位を並べて書き、「お二人で順番を決めていただく時間を、最後に取りますね」と伝えておきます。
答えが出てこない二人にはどうするか
「まだ何も決まっていなくて」「他の式場も見ていないので分からないです」と言う二人はいます。無理に言わせると、見学が尋問のようになります。
そのときは、質問を選択式に変えます。
先輩のお客様が最初に気にされることが多いのは、料理、写真、ゲストの過ごしやすさ、総額の4つです。今の気持ちに近いのは、どれでしょう。
この4つは、一般に式場選びの場面で話題になりやすい項目として挙げているだけで、どれが多いという統計を示すものではありません。選択肢を渡すのは、二人の考えを誘導するためではなく、言葉にする入り口を作るためです。選んでもらえたら、「もし1つだけ今日分かればいいとしたら、どれですか」と、さらに絞ります。
それでも出てこなければ、型どおりに案内して構いません。ただし、会場を回りながら、二人が足を止めた場所、質問した場所、スマホを出して撮影した場所を、心の中で数えます。足の止まった場所が、その二人の優先順位の手がかりです。見学の最後に、「さっきチャペルで長く立ち止まっていましたね。写真のことが気になりましたか」と戻れば、聞くのが後になっただけで、同じ働きをします。
聞いたあとに、案内をどう組み替えるか
優先順位が分かったら、次の3つを変えます。全部を変える必要はありません。
順番を変える
二人の1番目の優先順位に関わる場所を、早めに見せます。料理なら、会場を回る前に試食か料理の説明を入れます。ゲストの動線なら、最初に駐車場から会場までを一緒に歩きます。最初に二人の本命を見せると、その後の説明を落ち着いて聞いてもらえます。気になることが頭に残ったまま歩く案内は、説明が耳に入りません。
話す量を変える
優先順位の高い場所は、数字や事実を添えて具体的に話します。低い場所は、見てもらうだけにします。たとえば料理が1番の二人に、チャペルの設計の経緯を長く話す必要はありません。逆に、写真を残したい二人には、撮影できる場所と、貸出できるレンズや小物の有無を、手順まで含めて説明します。
見積もりの見せ方を変える
見積もりは、二人の優先順位に使うお金を先に見せます。料理が1番の二人には、料理の項目の内訳を最初に開き、グレードを上げたときの差額を並べます。総額の上限が1番の二人には、総額と、減らせる項目の順番を先に示します。どの二人にも、同じ順番で全項目を並べた表を見せると、肝心な項目が他の項目に埋もれます。
仮の数字で、効き方を確かめる
仮にこんな想定を置いて、仕組みを確かめます。数字はすべて、説明のための想定です。
- 見学した二人が月に40組いる
- 現在の成約が10組(成約率25%)
- 優先順位を聞いて案内を組み替えた場合に、見学後の「迷って保留」になる二人のうち、2組が決められるようになる
この場合、成約は12組、成約率は30%です。これは「質問が効く」という証拠ではなく、「月に2組動くだけで、成約率が5ポイント動く」という計算です。成約率1ポイントが何組に当たるかは、見学数で決まります。40組なら1ポイントは0.4組です。つまり、月に2組増やすという目標は、見学した二人の5%に、今より1つだけ多く材料を渡す、という大きさです。
この5%が実際に動くかどうかは、式場ごとに違います。やってみないと分かりません。分かるのは、動かしたい大きさが小さいので、試すコストに見合うか判断しやすい、ということです。
試す方法は簡単です。1か月間、見学の最初に質問をし、優先順位を書き留めておきます。月末に、成約した二人と保留で終わった二人で、「1番目の優先順位が、案内の最初に出ていたか」を見比べます。出ていた二人のほうが成約しているなら、質問の効果を見る入り口になります。
やりすぎないための線引き
優先順位を聞くことには、副作用もあります。
- 聞くだけで終わらせない。質問して、案内が型どおりのままだと、二人は「聞かれたのに何も変わらなかった」と感じます。聞いた以上は、最低でも1か所は案内を変えます
- 二人が言った優先順位に、あとで条件を付けて反論しない。「料理が大事」と言われて「でも総額も考えると」と返すのは、せっかく出た本音を押し返す動きです
- 全員に必ず聞くルールにしない。すでに具体的な質問を持って来た二人(「この日の空きはありますか」など)には、その質問に先に答えます。質問の順番を守ることより、二人の関心に付き合うことが先です
まとめ
- 型どおりの案内は品質をそろえる一方で、二人の物差しが違うことには対応できません
- 見学の最初の5分で「譲れないことを3つ」と聞き、数を決めて、二人の言葉のまま書き留めます
- 新郎と新婦に別々に聞くと、食い違いが早めに出ます
- 答えが出ない二人には選択式で入り口を作り、それでも出なければ、足の止まった場所を手がかりにします
- 聞いたあとは、順番、話す量、見積もりの見せ方のうち、最低1か所を変えます
- 成約率への効果は式場ごとに違います。1か月、成約と保留で優先順位が案内の最初に出ていたかを見比べると、効き方が分かります
