同じ日に複数の式場を回る二人には、見学の終了時刻を先に約束する
見学が予定より30分延びたとき、式場の担当者は「しっかり説明できた」と感じることが多いと思います。二人も質問に答えてもらえたのだから、満足しているはずだ、と。
でも、その二人が同じ日にもう1軒予約を入れていたとしたら、どうでしょうか。延びた30分は、次の式場への遅刻に変わります。時計を気にしながら聞く説明は、どれだけ中身が良くても頭に入りません。
僕は、1日に複数の式場を回る二人に対しては、見学の冒頭で終了時刻を約束し、延ばすかどうかは二人に選んでもらう形にしたほうがいいと考えています。この記事では、その理由と、冒頭の聞き方、延びたときの切り方を整理します。
数字の出典は、二人が平均で何軒の式場を見ているかという1点だけです。ゼクシィの記事で紹介されている結婚トレンド調査2024では、ブライダルフェアに参加した二人は平均2.6軒の会場を訪れているとされています。それ以外の数字は、仮の前提を置いたモデル計算です。実際の数字は会場ごとに違うので、自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
平均2.6軒という数字が意味すること
ゼクシィの記事によると、結婚式を検討中でブライダルフェアに参加した二人は、平均で2.6軒の会場を訪れています。別の年の記事では、フェアの訪問数を平均2.7か所とし、1か所しか行かない二人は約28%、と紹介されています。年によって調査の聞き方が違うので、この2つを同じ線で比べることはしませんが、2軒から3軒を見て決める二人が多い、という大づかみの姿は読み取れます。
ここで大事なのは、軒数そのものではありません。2軒以上を見る二人は、それを別々の日に分けるとは限らない、という点です。仕事が平日にあって、休みが土日に限られている二人なら、土日の1日で2軒、3軒と詰めるのが自然な組み方になります。
そうなると、式場側から見える風景が変わってきます。うちの見学枠は、二人の1日の予定のうちの「1コマ」にすぎません。前にも後ろにも別の式場が入っていて、移動時間も含めて、時計の上でぎっしり並んでいる。この前提に立つと、見学の長さは「サービスの量」ではなく、二人の予定を壊すかどうかの問題として見えてきます。
延びた30分は、誰の時間を使っているのか
具体的に時計を動かしてみます。以下は仮の前提です。
- 二人は14時に自分たちの会場、17時に次の式場を予約している
- 自分たちの会場の予約ページには「所要時間の目安は120分」と書いてある
- 実際の見学は、見積もりの説明が長引いて150分かかった
- 次の式場までの移動は、車で40分かかる
14時に始まって150分で終わるのは16時30分です。そこから40分移動すると17時10分に着きます。次の予約は17時なので、10分の遅刻です。
120分で終えていれば、16時に出て16時40分に着きます。20分の余裕で、次の式場の駐車場に車を止めて、トイレに行って、深呼吸ができます。この20分と、10分の遅刻とのあいだには、30分の差があります。
この30分を、僕たちは「サービスで使った」と考えがちです。でも、二人の1日の側から見ると、あの30分は次の式場の最初の10分と、移動の余裕を食べてしまった時間です。次の式場の担当者は、10分遅れてきて、少し焦った二人を迎えることになります。その式場は、二人にとって「焦った状態で会った式場」になる。うちが延ばした30分のしわ寄せを、他社が受けているともいえます。
そして、焦った二人は、うちの見学の最後の30分もほとんど覚えていません。時計が気になって、頭の中は次の予定に移っているからです。長く説明して、覚えてもらえない。これが、延びた見学のいちばん困るところです。
冒頭で聞くことは、「今日はこのあと」の1問でいい
終了時刻を約束するためには、まず二人の予定を知る必要があります。見学の冒頭に、予算や希望日を聞く前に、次のように聞きます。
「今日はこのあと、ほかの式場も回られますか?」
この1問で、二人は3つのうちのどれかに分かれます。
- このあと予定はない:延びても問題ない。見積もりまで落ち着いて出せる
- このあとほかの式場がある:何時までに出るか、次はどのくらい離れているかを聞く
- 今日は1軒目で、この先は未定:今日は見学を軽めにして、後日の2回目に回す
2番目に当たる二人には、続けて次のように聞きます。
「次は何時から、どちらでしょう? そこから逆算して、こちらは◯時にお見送りできるように進めますね」
ここで大事なのは、聞くだけでなく、終了時刻を式場側から口に出して約束することです。「◯時には必ずお送りします」と言われた二人は、時計を気にせず、目の前の説明に集中できます。
予約ページの所要時間(幅と内訳で書く、という話は別の記事でしています)と、この冒頭の一言が組み合わさると、二人の側は「この式場は、こちらの予定を気にしてくれる」と受け取ります。これは、サービスの量とは別の種類の信頼です。
終了時刻に間に合わせるための、見学の削り方
約束した以上、守らなければいけません。守るための段取りを、先に決めておきます。見学で時間が延びる場所は、だいたい決まっています。
- 見積もりの説明(項目の確認、人数の増減、質問のやりとり)
- 試食(待ち時間も含めた1コース)
- 会場ごとの写真撮影
- 二人の質問が重なったとき
このうち削れるものと、削れないものを分けます。
削れないものは、二人が決める条件に直結している部分です。たとえば、冒頭で「譲れない1つ」を聞いているなら(これも別の記事で書きました)、それに当たる場所の案内と、見積もりの総額は削れません。
削れるものは、二人が「後日でもいい」と判断できる部分です。装花のカタログ、ドレスショップの紹介、細かいオプションの一覧は、メールや資料で後から渡せます。
約束した終了時刻の10〜15分前に、担当者が「このあと、お時間を考えると、見積もりの総額をお出しして今日は終わりにしますね。細かいところは、メールでお送りします」と切り出します。これを入れておくだけで、時間切れでバタバタ終わる見学が、予定どおりに閉じる見学に変わります。
延ばしたいと二人が言ったときの扱い
終了時刻を約束していても、見学が盛り上がって、二人のほうから「もう少し聞きたい」と言い出すことがあります。このときこそ、時刻を約束した価値が出ます。
「次のご予定は17時でしたね。移動に40分とのことなので、16時15分までなら、まだ余裕があります。それ以降は、次のご予約に響くので、続きは後日にしましょうか」
延ばすかどうかを、担当者が決めるのではなく、二人が選ぶ形にします。二人が「じゃあ、ここまでにして、続きは別の日に来ます」と言ったなら、それは2回目の来館の約束です。1回目の見学で全部を詰め込むより、2回目の来館につなげたほうが、成約までの距離は縮まります。
延ばすなら、二人に次の式場へ連絡してもらう形もあります。「次の式場に、30分遅れると連絡を入れてもらえますか。必要ならお電話をお貸しします」。こう言える式場は、二人の予定を軽く見ていません。ただし、これを勧めるのは、二人自身が「もう少し聞きたい」と言ったときだけにします。式場側が「もう少しどうですか」と引っ張るのは、避けたほうがいいと思います。
仮に効果が出るなら、どのくらいの規模か
効果を数字にしてみます。以下は、すべて仮の前提です。実際の会場の数字に置き換えて計算してください。
- 月の来館が40組
- そのうち3割の二人が、同じ日に他の式場も回っている(12組)
- 現在の成約率は、そのグループで25%
終了時刻の約束をしても、成約率が変わらなければ、効果はゼロです。でも、次のような違いが出るとしたら、どうなるでしょうか。
- 成約率が2ポイント上がる(25%から27%):12組 × 2% = 0.24組。月に0.24組、年に約2.9組
- 成約率が5ポイント上がる(25%から30%):12組 × 5% = 0.6組。月に0.6組、年に約7.2組
年に3組から7組の差です。1組あたりの粗利を仮に150万円とすれば、450万円から1,080万円の差になります。これは、はしごの二人が、月に12組いるという前提です。はしごの二人が月に3組しかいない会場なら、この4分の1になります。
逆に、費用はほとんどかかりません。冒頭の1問と、終了の10〜15分前の一言を、スタッフ全員が言えるようにするだけです。広告費や特典のように、お金で買う施策ではなく、段取りで作る施策です。
とはいえ、成約率が2ポイント動くかどうかは、やってみないと分かりません。動かなかったら、冒頭の1問を残して、あとはやめればいい。それくらいの軽さで始められます。
実際に測るなら、どこを見るか
約束した終了時刻が守られたかどうかは、記録に残さないと分かりません。次の2つだけ、見学の記録に足します。
- はしごの有無:冒頭の1問への答え(あり/なし/未定)
- 終了時刻のずれ:約束した時刻と、実際に見送った時刻の差(分)
1か月ためたら、はしごありの二人の成約率と、なしの二人の成約率を並べます。同時に、約束した時刻より延びた回数も数えます。延びた回数が多い担当者は、見積もりの説明の順番か、案内の寄り道が原因のことが多いです。担当者を責めるのではなく、削れるものの線引きを見直す材料として使います。
成約率の比較は、母数が少ないとぶれます。月12組では、1組の違いで10ポイント近く動きます。3か月分をまとめて見るくらいで、ちょうどいいと思います。
気をつけること
最後に、この段取りがうまくいかない場面を3つ書いておきます。
終了時刻を理由に、重要な説明を飛ばさない。 見積もりの総額と、変わる項目の説明を省くのは、時間を守ることとは別の問題です。削るのは、後日でも伝わるものだけにします。
「次の式場はどこですか」と、店名を聞き出さない。 聞きたいのは時刻と移動時間だけです。店名を聞くと、二人は詮索されたと感じて、答えにくくなります。「何時から」「どのくらい離れているか」の2点で十分です。
はしごをしない二人にも、同じ段取りを押しつけない。 このあと予定がない二人には、時間をたっぷり使って、見積もりまで進めます。分けるのは冒頭の1問で、二人の側が答えやすいように聞きます。
まとめ
- ゼクシィの記事で紹介されている結婚トレンド調査2024では、ブライダルフェアに参加した二人は平均2.6軒の会場を訪れている。2軒以上を同じ日に詰める二人は少なくないと考えられる
- はしごの二人にとって、延びた見学は次の予約への遅刻になる。時計が気になる説明は、中身が良くても覚えてもらえない
- 見学の冒頭で「今日はこのあと、ほかの式場も回られますか」と聞き、終了時刻を式場側から口に出して約束する
- 約束した時刻の10〜15分前に、削れるもの(オプション一覧、カタログ)を後日に回し、決める条件に直結する見積もりの総額だけは今日出す
- 延ばすかどうかは二人に選んでもらう。続きを後日に回せば、2回目の来館につながる
- 効果はモデル計算で年に3〜7組分の幅。実際は、はしごの有無と終了時刻のずれを記録して、3か月分で見る
