他式場を仮押さえ中の二人には、日取りより期限を聞く
見学の席で、二人がこう言うことがあります。「実は、ほかの式場をもう仮押さえしているんです」。
このとき、多くの担当者は日取りを聞きます。「その日は何月何日ですか。うちも同じ日で空いています」と。気持ちは分かります。僕が勧めたいのは、その前に1つだけ別のことを聞く対応です。「その仮押さえは、いつまで有効ですか」。
結論から書きます。ほかの式場を仮押さえ中の二人には、日取りより先に仮押さえの期限を聞きます。理由は、二人がこの席で決めるのは「どの式場にするか」ではなく「期限までに何を確かめるか」だからです。期限が分かれば、こちらは見学のあとに何を、いつまでに渡せばいいかを逆算できます。
先にお断りしておきます。仮押さえ中の二人が見学に来る割合や、期限を聞いたときの成約率を示す調査は、探しましたが見つかっていません。この記事に出てくる数字は、出典のある調査の数字ではなく、見学が月30組の仮の式場を置いて、僕が前提を決めて計算したものです。自分の会場の数字に置き換えて読んでください。
「仮押さえしています」は何を意味しているか
仮押さえとは、式場が一定の期間、希望の日を二人のために空けておく仕組みです。期間と料金の決め方は式場によって違います。無料で数日から数週間という会場もあれば、仮押さえの時点で少額の預かり金を求める会場もあります。ここは各社の運用なので、一般論として言い切れる数字はありません。
見学の席で二人が「仮押さえしている」と言ったとき、実際に起きていることは大きく3つに分かれます。
- 日取りを守るために、とりあえず押さえてある
- 気に入っていて、ほぼ決めるつもりで押さえてある
- 比較のために、複数の会場にまたがって押さえてある
どれなのかを、見た目では判別できません。しかも二人自身が、自分はどれなのかをはっきり分かっていないことがあります。とりあえず押さえたつもりが、期限が近づくにつれて「もうここでいいか」に変わる。逆に、ほぼ決めたつもりが、別の式場を見て揺れる。仮押さえは、二人にとっても迷いの途中の状態です。
だから、仮押さえ中と言われたこの席の目的は、こちらを選んでもらうことではありません。二人が期限までに迷いを片づけるための材料を、こちらが揃える段取りを決めることです。
日取りを先に聞くと、何がまずいのか
同じ日取りが空いているかを先に聞くと、会話が2つの方向に流れやすくなります。
1つ目は、日取りが重なっていた場合です。「うちも同じ日が空いています」と伝えれば、二人はそれを「ではこちらも押さえますか」という誘いとして受け取ります。仮押さえを2つ持つことになり、二人の頭の中では「どちらを手放すか」の比較に変わります。比較の土俵に乗ること自体は悪くないのですが、期限を知らないまま乗ると、相手の期限に合わせて動くことになります。
2つ目は、日取りが違っていた場合です。「それなら関係ないですね」と、話が止まってしまいます。実際は、日取りが違っても二人は同じ時期に複数の会場を比べています。日取りが違うから別の話、ということはほとんどありません。
どちらの場合も、聞くべき情報は同じ場所にあります。相手の期限です。期限が分かれば、日取りが重なっていてもいなくても、こちらが動く日が決まります。
期限の聞き方
聞き方は難しくありません。見学の中盤か終わり、二人の気持ちが落ち着いたところで、こう聞きます。
「その会場の仮押さえは、いつまでか教えていただけますか」。
続けて、聞いた理由を一言添えます。「期限の前に、ご不明な点をこちらからお返ししたいので」。理由を添えるのは、期限を聞くことが「いつ決めるの」と詰めているように聞こえないようにするためです。
聞く内容は期限だけに絞ります。次のことは聞きません。
- 相手の会場名や見積もりの金額
- どちらに気持ちが傾いているか
- 日取りの変更はできるか
会場名や金額は、聞くと二人は「比較されている」と感じます。傾きを聞くと、答えを迫られているように聞こえます。期限だけなら、二人にとっては事務的な確認なので、抵抗なく答えてもらえます。
期限が分かったら、こちらがやること
期限が聞けたら、その日付を予定に入れます。ここから先は、期限までの日数で動きが変わります。
期限まで1週間以上あるとき
見学のあとに、二人が確かめたいことをこちらから先に出します。ほかの式場と比べるとき、二人が迷いやすいのは総額の中身、日取りごとの違い、当日の流れの3点です。見学で聞き足りなかった部分があれば、期限の前に紙かメールで返します。
連絡の日は、期限の3日前あたりに置きます。早すぎると相手の会場の説明を聞く前に連絡が来ることになり、遅すぎると二人が決めたあとになります。3日前という日数に根拠のある数字はありません。二人が最後に家族と相談する時間を残す、という考えで置いた目安です。
期限まで2〜3日しかないとき
この場合は、見学のあとすぐに連絡を入れます。当日のうちに、聞かれた質問への答えと、こちらの仮押さえの案内を送ります。期限が近い二人は、すでに「ほぼ決めた」か「決められないまま期限が来る」かのどちらかです。前者なら、こちらが何を送っても結果は変わりません。後者の二人には、迷っている点を1つ返せるかどうかが分かれ目になります。
期限を教えてもらえなかったとき
言いたくない二人もいます。その場合は無理に聞き出しません。「分かりました。仮押さえの期限が決まったら、教えていただけると、こちらもお返事のタイミングを合わせやすいです」と伝えて、見学のあとの連絡を、通常の追客のペースで続けます。聞けなかったこと自体も、記録に残します。
仮のモデルで、期限を聞く効果を計算する
見学が月30組の式場を置きます。以下は僕が置いた前提で、実在の会場の数字ではありません。
- 見学のうち、仮押さえ中と申告する二人の割合は2割と仮定(月6組)
- 期限を聞かず、通常の追客だけだと、その6組の成約率は10%と仮定
- 期限を聞いて、期限の前に答えを返す動きをすると、成約率が15%から20%になると仮定
この前提で計算すると、次のようになります。
| 場合 | 月6組からの成約 |
|---|---|
| 期限を聞かない(10%) | 0.6組 |
| 期限を聞く(15%) | 0.9組 |
| 期限を聞く(20%) | 1.2組 |
差は月に0.3組から0.6組です。年にすると3.6組から7.2組。1組の売上が数百万円の商品なので、仮にこの前提が当たっていれば、無視できる数字ではありません。
ただし、この計算は前提次第で簡単に変わります。申告する割合が1割なら差は月0.15組から0.3組、3割なら0.45組から0.9組です。成約率が5ポイント上がるという前提も、僕の想定です。実際に確かめるには、自分の会場で「仮押さえ中の申告があった組」と「期限を聞けた組」を数えるしかありません。
期限を聞かないほうがいい場面
期限を聞くことが、いつでも正解とは限りません。聞かないほうがいい場面が2つあります。
1つ目は、二人がすでにこちらを気に入っているのが明らかな場面です。見学の途中で「ここがいい」と言っていて、仮押さえの話が出たのは念のためという空気のときは、期限を聞くより、そのまま契約の話に進むほうが自然です。期限を聞くと、二人は「まだ比較の途中だと思われている」と受け取ることがあります。
2つ目は、仮押さえの話が親の話として出た場面です。「親が先にほかを押さえてしまっていて」という場合、期限を持っているのは親です。二人に聞いても答えられないことがあります。この場合は、二人から親に聞いてもらう形にして、親が見学に来るなら親にも同じことを聞きます。
避けたい対応
仮押さえ中の二人に対して、避けたい対応が3つあります。
1つ目は、期限の前に値引きを出して即決を迫ることです。期限が近い二人は、決められない状態にいます。値引きは迷いの理由を解決しません。しかも、そこで決めた二人は、あとで「値引きに押されて決めた」という記憶を持ちます。キャンセルの理由になりやすい部分です。
2つ目は、相手の会場を下げる話をすることです。比較は二人がやります。こちらが他社の欠点を指摘すると、聞かされた二人は、こちらも同じように自分たちの欠点を他所で言うのだろうと感じます。
3つ目は、期限の当日や前日に何度も連絡することです。期限は二人にとって一番ストレスのかかる日です。そこに連絡が重なると、決める材料ではなく圧力として届きます。連絡は期限の前に1回、必要なら1回追加する程度にとどめます。
記録の取り方
期限を聞いたら、予約表か顧客メモに3つだけ残します。
- 仮押さえ中と申告があったか
- 期限の日付(聞けなかった場合は「不明」)
- 見学後に連絡した日と内容
3か月ためると、仮押さえ中の申告があった組の成約率と、なかった組の成約率を比べられます。期限を聞けた組と、聞けなかった組も比べられます。ここまで数えて初めて、上のモデルの前提を自分の会場の数字に置き換えられます。
判断の分かれ目
この対応を取り入れるかどうかは、次の問いで決められます。
- 見学の席で「仮押さえ中」という申告を聞く機会があるか。ほとんどないなら、記事の中身はあまり関係しません
- 期限を聞く役が決まっているか。担当者によって聞く人と聞かない人がいると、記録が揃わず、比べられません
- 期限を聞いたあとに連絡を入れる余裕があるか。期限が分かっても、連絡できなければ意味がありません
3つとも「はい」なら、まず1か月、期限を聞くだけやってみて、記録を取ります。結果が出なければやめればよく、費用はほとんどかかりません。
まとめ
- 見学で「ほかの式場を仮押さえ中」と言われたら、日取りより先に仮押さえの期限を聞く
- 聞くのは期限だけ。相手の会場名、金額、傾きは聞かない
- 期限が分かったら、期限の3日前あたりに、二人が迷っている点への答えを返す。目安は二人が最後に相談する時間を残すこと
- 期限が2〜3日しかなければ、見学当日のうちに答えを返す。期限を教えてもらえなくても、追い詰めない
- 値引きでの即決、他社を下げる話、期限前後の連絡の連打は避ける
- 月30組・申告2割・成約率10%から15〜20%という仮の計算では、差は月0.3〜0.6組。前提は自分の会場の数字に置き換えて確かめる
- 記録は、申告の有無、期限、連絡日の3つだけ。3か月で自分の会場の数字になる
仮押さえ中の二人に必要なのは、こちらを選ぶ理由よりも、期限までに迷いを片づける材料です。期限を聞くのは、その材料を渡す日を決めるためです。
