来館・成約

遠方の二人には、式場の見学と試食を1日で終える日程を出す

結婚式場の見学は、一度で終わらないものだと思われています。まず見学、気に入ったら別の日に試食、その次に見積もりの相談。式場側の都合で組まれたこの順番は、近所に住む二人なら問題になりません。問題になるのは、片方か両方が遠方に住んでいる二人です。

結論から書きます。遠方の二人には、見学・試食・見積もりの説明を1日に収めた日程を、予約の段階で見せたほうがいいです。2回目の来館は、遠方の二人にとっては「行けたら行く」になりやすく、実際には起きないことが多いと僕は見ています。見学だけで帰した二人は、試食も見積もりも見ないまま、別の式場の資料を並べて決めます。

この記事に出典のある統計は出てきません。遠方在住の二人の成約率を式場別に比べた公開の数字を、僕は見つけていないからです。かわりに、仕組みとして何が起きるかの整理と、仮の数字を置いたモデル計算で書きます。数字は全部、想定だと分かる形で書きます。

遠方の二人にとって、来館は旅行の予定です

近くに住む二人にとって、式場見学は土曜の午後の予定です。ひとつ空振りでも、翌週また行けます。遠方の二人は違います。交通費がかかり、宿泊が付くこともあり、休みを合わせるために職場へ話を通す必要もあります。1回の来館が、旅行1回分の重さを持っています。

この重さが、式場の側にはなかなか見えません。予約フォームに「希望日」と「人数」を入れてもらい、確認メールで「当日は見学のご案内です。試食は別日にご予約いただけます」と返す。式場の運用としては普通です。ただ、この一文を読んだ遠方の二人が頭の中で何を計算するかというと、「試食のためにもう一回来るのか」です。そして答えは「それは難しい」になりやすいです。

難しいと思った二人は、式場に断りを入れません。ただ、予約の優先順位が下がります。試食を見られない式場と、試食まで一度に見られる式場が並んだとき、遠方の二人は後者を先に回ります。式場側から見ると、どこで落ちたのか分からないまま、見学のあとの連絡が静かになった組が増えるだけです。

1日で済ませる日程は、時刻まで決めて見せる

「ご希望に応じて、1日で見学から試食までご案内できます」と書くだけでは足りません。遠方の二人が知りたいのは、「何時に着いて、何時に出られるか」です。帰りの新幹線や飛行機の時刻から逆算して予定を組むので、終わりの時刻が分からないと、予約ボタンを押す前に迷います。

たとえば、こういう流れです。時刻は仮の一例で、会場の事情に合わせて変えてください。

  • 10:30 到着、担当者の名乗りと当日の流れの説明
  • 10:45 会場の見学(挙式会場、披露宴会場、控室)
  • 11:45 試食(フェアの試食と同じ内容で、1時間以内)
  • 12:45 休憩をはさんで、見積もりの見方の説明
  • 13:45 質問の時間
  • 14:15 終了、駅までの案内

この日程を予約ページに載せるとき、気をつけるのは3点です。

1つめは、着く時刻と出る時刻を両方書くことです。所要時間だけ書くと「約3時間半」と読まれます。到着が遅れたらどうなるのか、帰りの便に間に合うのか、という不安が残ります。「10:30到着、14:15終了」と書くほうが、帰りの便を先に取れます。

2つめは、試食の枠を、見学の枠とセットで押さえることです。見学の予約は取れたのに、その時間帯の試食が別の組で埋まっていた、では日程表が成り立ちません。遠方向けの枠は、最初から見学と試食をひとつの予約として管理します。

3つめは、駅や空港からの移動時間を一緒に書くことです。式場の最寄り駅から会場までの徒歩やバスは、近隣の人には当たり前でも、遠方の二人は初見です。

見積もりの説明を昼食のあとに置く理由

日程の中で、僕がいちばん意図を持って位置を決めているのは、見積もりの説明です。試食の直後に置くか、休憩をはさむか。これは判断が分かれます。

試食の直後は、二人の気持ちが上がっています。ここで金額の話に入ると、決断が早く進む可能性があります。一方で、上がった気分のまま見積もりを見せられた、という感覚が残ると、後日の検討で「あの場の勢いだった」と振り返られやすくなります。遠方の二人は、帰りの電車の中で二人だけで振り返る時間がたっぷりあります。勢いで契約してもらうより、帰りの車内で金額と向き合ってもらったほうが、数日後の返事が前向きになります。

なので、僕なら休憩を15分から30分はさみます。その間に二人が話せるようにします。スタッフは席を外して、飲み物だけ置いて、声をかけない。遠方の二人は、帰ってしまえば式場と顔を合わせて話す機会がもう来ないかもしれないので、この「二人だけの時間」が一日の中で貴重になります。

前提を置いて、元が取れるか計算する

1日完結の日程を足すと、式場には追加の負担が出ます。見学の枠と試食の枠をつなげる調整、料理長への連絡、担当者の拘束時間が長くなること。これが割に合うかどうかを、仮の数字で計算します。

前提は次のとおりです。すべて仮置きで、実在の会場の実績ではありません。

  • 遠方(日帰りでは難しい距離)から来る見学は、年に60組
  • 1組あたりの追加コストは8,000円。試食の食材原価と、担当者の追加の拘束時間を合わせた想定
  • 1組あたりの粗利は120万円
  • 現状の遠方の成約率は15%(年9組)

追加コストは、60組×8,000円で年に48万円です。粗利が120万円なので、成約が年に0.4組増えれば元が取れます。成約率でいうと、約0.67ポイントです。

n = 60
extra_cost = 8000
gross = 1_200_000
print(n * extra_cost)            # 年間の追加コスト
print(n * extra_cost / gross)    # 元を取るのに必要な成約の増加数
print(n * extra_cost / gross / n * 100)  # 成約率に直したポイント

この計算の結果は、年間48万円、必要な成約の増加は0.4組、成約率で0.67ポイントです。

成約率の上がり方を変えると、損益はこう動きます。

成約率の上昇 増える成約 増える粗利 追加コスト 差し引き
0.67ポイント 0.4組 48万円 48万円 0円
1ポイント 0.6組 72万円 48万円 24万円
2ポイント 1.2組 144万円 48万円 96万円
3ポイント 1.8組 216万円 48万円 168万円

遠方の見学が年に60組だと、成約率が1ポイント動くのは、成約が9組から約9.6組になるという、1組にも満たない変化です。この変化が日程のおかげかどうかは、1年やっても見分けにくいです。ただ、元を取る条件が「成約が年に半組増える」という低さなので、1日完結の日程を足すことの下振れは小さく、上振れのほうが大きい。僕はこの形を「やってみて損をしにくい施策」と見ています。

数字で測るなら、見るのは2つだけ

効果を確かめるなら、成約率よりも先に、2つの数字を見ます。

1つは、**遠方の二人の「見学のあと、見積もりまで進んだ割合」**です。1日で見積もりの説明まで終えるので、この割合は日程を変えるとはっきり上がるはずです。上がらなければ、日程の見せ方が伝わっていないか、見学の枠が分かれたままになっています。

もう1つは、遠方の二人の予約が、どの経路から入ったかです。予約ページに1日完結の日程を載せたあと、その枠の予約が増えたのか、元からあった予約が日程を選び直しただけなのかで、意味が変わります。前者なら来館数そのものが増えていて、後者なら成約までの進み方が変わっただけです。

どちらも、予約フォームに「遠方からの来館ですか」と1問足すだけで数え始められます。遠方かどうかの線引きは、「日帰りが難しいか」「宿泊を考えているか」の自己申告で十分です。

1日が長すぎるときの逃げ道

3時間半の日程を、全員が歓迎するわけではありません。長い日程を苦にする二人もいるので、選択肢を2つ持っておきます。

  • 標準の日程:見学と試食をつなげた3時間半
  • 短縮の日程:見学と見積もりの説明だけで2時間。試食は別に動画か、持ち帰りの料理サンプルで代える

短縮の日程を用意する理由は、遠方の二人のなかに、すでに別の式場で試食を済ませている組がいるからです。2つの日程を並べて、二人に選んでもらうほうが、一方を押しつけるより予約が止まりにくいです。

もうひとつの逃げ道は、1日で決められないと分かっている二人に、無理に決めさせないことです。1日完結の日程は、見学から試食と見積もりまで見終えた二人に、持ち帰って検討できる材料を渡すためのものです。その場での契約を迫る日程ではありません。決めさせようとすると、遠方の二人は帰り道に違和感を残します。契約を急がせる式場は、日取りの相談でも急がせるだろうと想像されます。

予約ページに書くことを、最小限に決める

最後に、予約ページの書き方です。長い説明は要らないので、次の4つを短く置きます。

  • 遠方の二人向けに、見学と試食を1日で終える日程があること
  • 到着時刻と終了時刻(帰りの便が組める形で)
  • 最寄り駅や空港からの所要時間
  • 短縮版の日程があること

この4つが、1画面で読めるところに置かれていれば、遠方の二人は予約ボタンを押す前の迷いをひとつ減らせます。逆に、予約フォームの奥の確認メールで初めて日程が分かる作りだと、予約そのものが入りません。

まとめ

遠方の二人にとっての来館は、旅行1回分の重さがあります。日程の組み方を、近所の二人と同じにしておく理由はありません。

  • 遠方の二人は、試食のための2回目の来館が起きにくい。見学だけで帰すと、試食も見積もりも見られないまま、ほかの式場と並べられる
  • 1日完結の日程は、到着と終了の時刻まで決めて、予約ページに書く
  • 見積もりの説明の前に休憩を入れ、二人だけで話す時間をつくる
  • 年60組、追加コスト1組8,000円、粗利120万円と置くと、成約が年に0.4組増えれば元が取れる(数字はすべて仮置き)
  • 見るのは、見積もりまで進んだ割合と、予約の経路の2つ。遠方かどうかは予約フォームの1問で数え始められる