来館・成約

築年数の古い式場は、見学で聞かれる前に手入れの履歴を見せる

築年数の古い式場には、見学のたびに起きる場面があります。案内の途中で、二人のどちらかが壁の角や廊下の床を見て、少し黙る場面です。何も聞かれないまま見学が終わり、お礼の連絡にも返事が来ない。理由は「古そう」だったのに、式場の側は最後まで知らないままになります。

僕の提案は、聞かれる前に手入れの履歴を見せることです。いつ何を直したか、毎日どこを誰が見ているか。それを一枚の紙か、見学中の一言にして先に渡します。この記事では、なぜ先に出すほうがいいのか、何を書くのか、向かない条件はどこかを整理します。数字は出典のあるものではなく、説明のために僕が置いた仮の前提です。

古さは、聞かれない不安として残る

式場を見に来る二人にとって、会場の古さは「聞きづらいこと」の筆頭だと僕は見ています。自分たちの結婚式の会場に対して「古いですね」とは言いにくいからです。言わないまま、心の中で点数を引きます。

聞かれない不安は、式場側から見えません。見学のアンケートに「古さが気になった」と書く二人は、ほとんどいないはずです。書かれるのは「検討します」「他も見て決めます」といった、理由の無い保留です。

ここで式場がやりがちなのは、築年数に触れないことです。触れなければ、二人も触れないだろうという期待があります。でも二人の目は、触れなくても壁や床を見ます。見て、黙って、保留にします。

この構図だと、古さそのものより、古さについて何も説明されなかったことが残ります。「気づいていないのか、隠しているのか」と、二人は受け取るからです。

先に見せる3つの情報

見せるものは、3つに絞ります。

直した日付と中身

いつ、どこを、何のために直したか。たとえば「チャペルの床材を2年前に張り替え」「廊下の壁紙を年1回、傷みの出た面から貼り替え」のように、日付と場所を具体的に書きます。ここは自社の工事記録から拾えます。記録が無いなら、書かずに、次の「毎日の手入れ」に寄せます。

大事なのは、直したものを「全部」書こうとしないことです。二人が見て気にしそうな場所、つまりチャペル、廊下、お手洗い、披露宴会場の4か所だけで足ります。

毎日の手入れ

誰が、いつ、何を見ているか。開場前に床と壁をスタッフが点検している、お手洗いは1日何回見回る、というような運用です。古い建物ほど、新しい建物と違って「毎日の手入れ」が差になります。

これは二人にとって、見た目の古さを「放置の古さ」ではなく「手入れされた古さ」に読み替える材料です。ここでも数字は、自社の運用の実態そのままを書きます。実際より丁寧に書くと、見学のあとに二人が自分の目で確かめたとき、逆の印象を残します。

直さないと決めている部分

一番効くのは、実はこれです。「ここは古さを残します」と、理由とあわせて言い切ります。たとえば、創業当時の階段の手すりや、チャペルの扉を、そのまま使っている式場があるとします。それを「古いのではなく、残している」と言葉にして先に出します。

直さないものまで書くと、二人は「何を直して、何を残すか、考えている式場だ」と受け取ります。考えているかどうかが、古さへの不安をいちばん下げます。

仮の数字で、取り戻せる組数を見積もる

どれくらいの意味があるのか、仮の前提で計算します。以下は実在の式場の数字ではなく、桁の感覚をつかむための置き方です。

  • 月の見学が20組、成約率が30%の式場を考えます。成約は月6組です
  • 見学した20組のうち、古さが気になって保留にした二人が、仮に2組いるとします(これは僕の仮定で、実際の数は式場ごとに違います)
  • 手入れの履歴を先に見せて、その2組のうち半分、つまり1組を保留から成約に戻せたとします
  • 客単価を仮に250万円とすると、月1組で250万円です

成約が月6組から7組に増えると、成約率は30%から35%に上がります。計算すると、7 ÷ 20 = 0.35 です。年間では、250万円 × 12か月 = 3,000万円の差になります。

もちろん、これは「戻せたら」の仮定の話です。2組という数字も、半分戻せるという数字も、僕が置いたものです。確かめ方は後ろで書きますが、ここで言いたいのは「古さが理由の保留を月1組取り戻すだけで、紙1枚の手間とは釣り合わない大きさになりうる」ということです。

見せる順番と場所

紙を作っても、出す順番を間違えると効果が薄れます。

  1. 見学の冒頭の案内では、築年数に触れず、会場の良いところから案内する
  2. 二人が壁や床を見たと感じた場面で、「ここは2年前に直したところです」と、その場で一言添える
  3. 見学の最後に、一枚の紙を渡す。表に直した日付、裏に毎日の手入れと直さないと決めている部分

ポイントは、冒頭で身構えさせないことです。「築〇年ですが」と最初に言うと、二人は古さを意識しはじめます。見学の途中で、二人の目が止まった場面に合わせて一言添える。紙はその確認として最後に渡す。この順番のほうが、自然に届きます。

公式サイトにも、同じ内容を載せられます。ページの置き場所は、会場紹介の下です。トップに近い位置に置くと、まだ見ていない二人にまで古さを意識させます。サイトで探してきた二人の多くは、見学の前に写真で古さを感じ取っています。写真の古さに答えが無いまま見学に来るより、答えが載っているページを一度読んでから来てもらうほうがいい、という考え方です。

場所ごとに、二人の目が止まるところは違う

古さが目に入る場所は、四つに分けて考えると準備しやすくなります。

チャペルでは、床と扉の傷みです。ここは写真でも見られているので、実物とのずれが出やすい場所です。直したなら「張り替えた日」、直していないなら「磨いている頻度」を言えるようにします。

廊下では、壁紙の角と、手すりの手垢です。二人が歩くたびに視界に入ります。傷みが目立つ面があるなら、「ここは来月貼り替えます」のような近い予定を一言添えます。予定を言うなら、実際に工事が決まっているものだけにします。

お手洗いは、古さが清潔感の話に直結する場所です。古い建物でも、見回りの回数と時刻が決まっていれば、不安は小さくなります。紙には「開場前と、披露宴の開始前と、お見送りの前に点検」のように、実際の時間割を書きます。

披露宴会場は、天井、照明、カーペットです。ここは二人が一番長く見る場所なので、写真と実物の差が小さいことが大事です。差があるなら、見学の冒頭で「写真より少し落ち着いた色に見えます」と先に言うほうが、後から言われるより傷が浅くなります。

一言の例

紙だけでなく、口頭の一言も用意しておくと、担当者によるぶれが減ります。例を挙げます。

  • 「このあたりの壁は、実は去年の春に貼り替えたところなんです」
  • 「床は創業のころのまま使っています。毎朝スタッフが磨いているので、少し艶が出ています」
  • 「古さが気になる場所があれば、遠慮なく聞いてください。直した日と、これから直す予定を、全部お伝えします」

3つめは、二人に質問の許可を渡す一言です。聞きづらいことを聞いていい、と式場から言われると、二人はほっとします。その一言のあとに実際に質問が出れば、保留の理由が見えるようになります。出なくても、聞いていいと言われた事実は残ります。

担当者に覚えてもらうときは、例文をそのまま読ませるのではなく、「直した日付を1つ、手入れの運用を1つ、残している部分を1つ」の3点を言えるようにしておくだけで足ります。台本にすると、棒読みになって逆効果です。

向かない条件

この方法が合わない式場もあります。

1つは、手入れの記録も、運用の実態も、実際には整っていない式場です。紙に書く内容が無いのに紙を作ると、二人が見たときに差が出ます。このときは、先に直すか、運用を作るほうが先です。

もう1つは、築年数が浅く、古さの不安がそもそも出ない式場です。浅い式場が同じ紙を出すと、聞かれていない不安を持ち込むことになります。

3つめは、改装が決まっていて、数か月後に見た目が大きく変わる式場です。この場合は、古さの説明より、改装の計画を見せるほうが効きます。ただし改装前の写真と完成後の予定図は、二人にとっては別物なので、約束できる範囲だけを書きます。

効いたかどうかの見方

見るものは3つです。

  • 見学後に「検討します」と保留になった組のうち、後日の連絡で「古さ」が理由だと分かった組数
  • 紙を渡した見学と、渡さなかった見学での、1か月後の成約率
  • 紙を渡した二人から出る質問の内容が、古さについて減ったかどうか

2つめの比較は、運用を変える前後で同じ条件の月どうしを比べます。ただ、見学の組数が少ないうちは揺れが大きいので、数か月分を合わせて見るのが前提です。揺れの中で一喜一憂しない、と決めておくほうが続きます。

先に見せることは、隠さないこと

築年数が古いことは、変えられません。変えられるのは、古さの説明を二人が自分で探すか、式場が先に出すかです。

自分で探した二人は、見つからなければ想像で補います。想像は、たいてい実際より厳しい側に寄ります。先に出された二人は、書いてあることを自分の目で確かめに行きます。確かめて、書いてあるとおりだと分かれば、その式場の説明を信じやすくなります。

古さは弱みに見えますが、説明のある古さは、説明の無い新しさより信頼を得ることがあります。紙1枚で、その入口を作れます。

まとめ

  • 築年数の古い式場では、古さが「聞かれない不安」として、理由の無い保留になって残る
  • 先に見せるのは、直した日付と中身、毎日の手入れ、直さないと決めている部分の3つ
  • 直さない部分を理由つきで言い切ると、古さへの不安がいちばん下がる
  • 仮の計算では、古さが理由の保留を月1組戻すだけで、年3,000万円の差になりうる(数字はすべて仮の前提)
  • 見学の冒頭では触れず、二人の目が止まった場面で一言添え、最後に紙を渡す
  • 手入れの実態が整っていない式場、築年数が浅い式場、改装が決まっている式場には向かない
  • 効果は、保留の理由と、紙を渡した見学の成約率を、数か月分合わせて見る