きょうだいが先に挙げた式場と比べられたら、良かった点を先に聞く
見学の冒頭で、二人のどちらかがこう言うことがあります。「兄の結婚式がすごく良かったので、それが基準なんです」「友達が挙げた式場と比べたくて来ました」。
このとき、会場の担当者がやりがちなのは二つです。ひとつは、自分の会場の強みを急いで並べること。もうひとつは、相手の式場の話に乗らず、聞かなかったことにして予定どおり案内を始めること。どちらも、僕はもったいないと思っています。
結論は、反論も比較もしないで、その式場の良かった点を最初に1つ聞く、です。そのうえで、人数と総額の帯を揃えて話します。この記事に出典の数字はありません。数字は僕が置いた仮のもので、業界の平均ではありません。判断の条件と段取りの話として読んでください。
二人が基準にしているのは式場そのものではありません
きょうだいや友人の結婚式は、二人がゲストとして体験した、いちばん新しい「結婚式」です。つまり二人にとっての基準は、会場の設備や価格表ではなく、その日に自分が感じたことです。
料理がおいしかった。新郎新婦が楽しそうだった。待ち時間が少なかった。親が泣いていた。その一つ一つが、「式場の良さ」として記憶に残っています。ところが二人はそれを「兄の式場」という一語でまとめて話します。会場側がその一語を聞いたとき、何を指しているのかは分かりません。
だから、最初の一手は、中身をほどくことです。ほどかないまま自分の会場の説明に入ると、二人の基準と、こちらの説明がかみ合いません。二人は「それは分かったけど、兄のところはもっと」と、頭の中で比べ続けます。
もうひとつ、基準が実際の式場の水準を超えていることもあります。ゲストとして見た式は、新郎新婦がどれだけ費用をかけたかが見えません。人数が少なかったのか、特典があったのか、親の援助が大きかったのか。二人は、見えない条件ごと基準にしています。ここも、聞かなければ分かりません。
最初の質問は「どこが良かったか」を1つだけです
僕なら、冒頭でこう聞きます。
お兄さまの式、素敵だったんですね。差し支えなければ、いちばん良かったと感じたところを1つだけ教えてもらえますか。
ポイントは3つあります。
1つ目は、先に認めることです。「素敵だったんですね」と受けるのは、相手の式場を持ち上げるためではありません。二人の体験を否定しない、という合図です。ここで少しでも反論の気配があると、二人は身構えます。
2つ目は、「1つだけ」と限ることです。良かった点を全部聞くと、会場側が全部に応えなければならなくなります。1つなら、二人がいちばん大事にしていることが出ます。
3つ目は、「差し支えなければ」を添えることです。答えにくければ流してよい、と伝えます。基準にしている式場の話は、二人にとって身内の話でもあります。
返ってくる答えは、たいてい式場の設備ではなく、体験の話です。「ゲストが帰り際まで笑っていた」「料理の説明がうれしかった」「新郎新婦が前の日までどんな準備をしたか、挨拶で分かった」。ここまで聞ければ、見学のあいだ、どこを見せればよいかが決まります。
聞いた答えは、見学のメモに二人の言葉のまま残します
聞いた答えは、そのまま見学の記録に残します。「ゲストの笑顔」と書いてあれば、その日の案内のどこかで、ゲストの席から見た会場の景色や、料理が出るときの流れを見せる時間をとります。
注意したいのは、答えを会場の言葉に直さないことです。「演出に満足した」とまとめてしまうと、あとで見返したときに、二人が何を見ていたのか分かりません。二人が言った言葉を、そのまま残すほうが、次の連絡で使えます。
たとえば、見学の翌日に送るお礼のメールで、「ゲストの笑顔がいちばんだとおっしゃっていたので」と一行入れるだけで、二人は「ちゃんと聞いてくれた」と受け取ります。これは、聞いた答えを持ち帰る人にしかできないことです。
条件を揃えてから、同じ土俵で話します
良かった点を聞いたら、次は条件を揃えます。ここで聞くのは二つです。
- そのときの招待人数は、どれくらいだったか
- 総額は、聞いているか
もちろん、きょうだいの結婚式の費用は、本人から聞かないと分かりません。聞いていないなら、それでよいのです。ただ、人数だけは、ゲストとして出席していれば、おおよそ分かります。
人数が違うと、同じ式場でも、体験は変わります。仮に、兄の式が80人、二人が考えている式が40人だとします。同じ料理でも、1人あたりにかけられる手間は違いますし、会場の見え方も変わります。逆に、兄の式が30人だったのに、二人は70人を考えているなら、「あの距離感」は同じ会場でも再現しにくくなります。
ここで、会場側がやることは、「人数が違うので条件が違います」と説明することではありません。二人に、人数を聞きます。そして、二人が考えている人数でこの会場を使ったときの様子を、見せます。
たとえば、二人が40人を考えているなら、40人分のテーブルを配置した写真を見せる。近い人数の実例があれば、その実例の席次と動線を見せる。体験を、二人の人数に合わせて見せ直す作業です。
触れない線を決めておきます
きょうだいや友人の式場の話を受けるときは、触れない線を決めておきます。決めておかないと、担当者が親切のつもりで、地雷を踏みます。
- 相手の式場の価格・サービス・評判を、会場側から評価しない
- 「あそこは○○ですよね」と、知っているふうに話さない
- 良かった点に、「うちも同じです」と、すぐ重ねない
- 二人の家族や友人の判断を、間接的に否定しない
特に3つ目は、気をつけたいところです。二人が「ゲストの笑顔」と答えたときに、「うちも笑顔の多い式です」と返すと、軽く聞こえます。二人は、笑顔が多かった理由を知りたくて話しています。その理由が、会場の何から来ているのかを、自分たちの会場の言葉で答えられるときだけ、答えます。答えられないなら、「そこは、見学の途中でお見せします」と、持ち越します。
この線は、他社との比較を避けるためでもあります。会場同士の優劣を二人に語るのは、聞かれたとしても、避けたほうがよい話です。二人が見たいのは、会場の優劣ではなく、自分たちの式をどうしたいかです。
どれくらいの組が当てはまるのか、仮に計算します
この場面が、会場にとってどれくらいの頻度で起きるのか。数字を置いて見積もります。以下はすべて仮の前提で、調査の数字ではありません。
この前提だと、月40組のうち、きょうだいや友人の式場を基準に挙げる二人は6組。通常の成約率30%なら、そのうち契約するのは約1.8組です。
仮に、冒頭の1問と条件の揃え直しで、この6組の成約率が30%から35%に動いたとすると、増えるのは月0.3組、年に3.6組です。決して大きくありません。
だから、僕は、この対応を、見学のたびの特別な作業にしないほうがよいと考えています。冒頭に1問聞いて、メモに残すだけの運用なら、手間はほとんど増えません。大きな準備が要る施策なら、年に数組では割に合いませんが、1問なら、続けやすい範囲です。
実際の割合は、会場によって違うはずです。見学の記録に、基準にしている式場の有無を1行つけて、3か月数えてから、自分の会場の割合を決めます。
二人の「基準」が、会場の条件と大きく離れているとき
聞いた結果、二人の基準が、会場の条件と大きく離れていることもあります。たとえば、兄の式が150人の大規模な披露宴で、二人が見学に来た会場は、最大60人までの会場だった、という場合です。
このとき、無理に基準に寄せようとしないほうがよいと思います。二人が見ているのは、150人の宴の盛り上がりかもしれませんし、そのなかの一場面かもしれません。人数が違う以上、同じ体験は再現しません。
正直に伝えるのが、いちばんです。「お兄さまの式の規模感は、うちの会場では出せません。そのかわり、60人だと、全員の顔が見える距離で乾杯できます」。再現できないことを先に言うと、二人の期待が整理されます。その場で決まらなくても、あとで他の会場を見たときに、「あそこは正直に言ってくれた」という記憶が残ります。
この判断の分かれ目は、人数の差です。目安として、二人の考えている人数が、基準にしている式の半分以下か、倍以上のときは、再現できない部分を先に伝える。それ以外なら、条件を揃えて、同じ土俵で話します。この目安は僕の置いた線で、検証した数字ではありません。会場の広さや演出の自由度によって、動かしてください。
担当者全員で揃えるための、1枚のメモ
この対応は、担当者の経験に頼ると、人によって差が出ます。だから、1枚のメモにしておきます。
- 冒頭の1問:いちばん良かったと感じたところを1つ教えてください
- 条件の確認:そのときの人数と、二人が考えている人数
- 記録:二人の言葉のまま、見学メモに1行
- 案内:その言葉に合う場面を、見学のなかに1つ入れる
- 翌日の連絡:その言葉を、お礼のメールに1行入れる
- 触れない線:相手の式場を評価しない、「うちも同じ」と重ねない
このくらいの量なら、新人の担当者でも、見学の前に読み返せます。長くすると、読まれなくなります。
まとめ
- きょうだいや友人の式を基準にしている二人は、設備や価格ではなく、その日に自分が感じた体験を基準にしている
- 反論も比較もせず、冒頭で「いちばん良かった点を1つだけ」聞く
- 聞いた答えは、会場の言葉に直さず、二人の言葉のまま見学メモに残し、翌日のお礼で使う
- 人数を聞いて条件を揃え、二人の人数でこの会場を使った様子を見せる
- 相手の式場の評価、「うちも同じです」と重ねる返しは、触れない線として決めておく
- 仮の計算では、月40組のうち6組が当てはまり、成約率が5ポイント動いても年に3.6組。特別な施策にせず、冒頭の1問と記録で続ける
- 基準が人数で半分以下か倍以上に離れているときは、再現できない部分を先に伝える
